発声の話 :「パッサージョ」「胸声」「頭声」「ファルセット」「ミックスボイス」

 「パッサージョ」はこのすぐ下に出ています。

「胸声」、「頭声」、「ファルセット」こちら

「男性のミックスボイスと女性の声」こちら

 

 

以下の言葉は科学的に厳密な定義もなく、いろいろな専門家の説明を読んでも聞いても漠然として感覚的であり、人により使う言葉の定義も説明も違っていてよくわからんです。そこでiltrovatoreが理解したままに記載しています。

 

「パッサージョ」 "passaggio" (この項を追記しました、2021.3.22)

 

「パッサージョ」は本来イタリア語で「通路」または「通過する」という意味です。ブリッジとかチェンジとか呼ばれることもあります。厳密に言うとわかりにくくなるので、このページでは「パッサージョ」を「声の転換点、すなわち歌い方が大きく変わる転換点」と同義として話を進めます。

 

人の声は声帯で作られます。普通に話すときは何も考えることなどありません。しかし歌を歌うときに大問題が出てきます。というのも低い音から高い音に昇ってゆくと、急に声が出しにくくなる場所(音)があるからです。そのまま上がってゆこうと思っても喉が固まったようになって声が出ません。無理にそのまま出そうとするとひっちゃぶれた声になります。この場所が「パッサージョ」です。

 

このような「パッサージョ」は2箇所あります。楽譜でいうと五線の一番下の音E(ミ)の音近辺が「低い方のパッサージョ」。一方五線の一番上あたりにある音、E(ミ)〜F♯(ファの♯)あたりが「高い方のパッサージョ」です。歌を歌う人たちでよく話題になるのが高い方のパッサージョです。(大体のイメージが下の図)

ちなみにこれは女性の場合で、男性の場合は女性より一オクターブ声が低いので、パッサージョの音も相対的に女性より一オクターブ程度低くなります。 

 

パッサージョが歌いにくい理由は、パッサージョから下の音を歌うために使う筋肉群と上の音を歌うために使う筋肉群が異なっているからです(下の項に書いた「胸声」、「頭声」、「ファルセット」を参照)。低音から高音へ、高音から低音へ、とパッサージョを通過するたびに使う筋肉群を変えなければなりません。

 

しかも素早くうまく変えないと音質が変わって聞こえ、ギクシャクし、その結果聞く人に違和感を与えるのです。

 

歌手の声の種類の決め方

 

歌手が自分の声の種類(ソプラノ、メゾ、テノール、バリトンなど)を決める要素はいくつかありますが、重要視される要素の一つはその人のパッサージョがどの音かであり、声が暗いか明るいか、細いか太いか、高い音を出せるか出せないか、ではありません。

 

ざっくり言ってソプラノ・テノールのパッサージョ(高い方)はF(ファ)かF♯(ファ♯)、メゾとバリトンはE♭(ミ♭)かE(ミ)、アルトとバスはC♯(ド♯)かD (レ)、あたりにあります。

 

ただし、人の一生で声は絶えず変化して行くものなので声種変更もありえます。例えばテノールがバリトンに、メゾソプラノがソプラノに変わる場合もあります。

 

「声帯」

 

声は喉(仏)の中にある一対の膜状の器官です。この声帯の隙間から空気を吸い込んだり吐いたりします。声帯は呼吸時には開いていますが、声を出す時は閉まります。

 

 

「胸声」、「頭声」、「ファルセット」 (改訂 2021.3.22)

 

これらはざっくりいうと、発声機構の違い(声区)で分類された名称です。極めて感覚的で漠然としてよくわかりませんが…。以下の説明は男性の場合です。

 

胸声 (chest voice) :

 

1. 主に「パッサージョより下の声」で実声又は地声の意味。 発声者が感覚的に胸や胴体に響いていると感じられる声、又はそのように聞こえる声。多くの倍音を伴い大声がでます。

 

2. 左右の声帯を厚くしてぴったりと接触させて声を出します。声帯を閉めたまま声帯を引き延ばすほど高音が出ます。引き伸ばしの限界がパッサージョです。

 

頭声 (head voice):

 

1.男声ではパッサージョより高音域をファルセットではなく実声で歌う場合を一般的に「頭声」と呼んでいます。「パッサージョより上の声」という意味も有ります。発声者が感覚的に頭に響いていると感じられる声、又はそのように聞こえる声です。

 

「ファルセット」と異なり声に強弱が付き、息漏れが少ないと言われています。高い声が出しやすい。

 

2. 声帯周辺の筋肉等で声帯を左右に引っ張り伸ばし、声帯の厚みを減らし薄くして声を出します。薄くするほど高音が出ます。

 

 

というように声を出すための筋肉の使い方は大雑把にいって二種類ありますが(ファルセットを入れると三種類かな)、実際のアリアを歌う場合には、胸声的な歌い方と頭声的な歌い方とを時に応じて柔軟にミックスして使います。二つの歌い方を自由自在にコントロールすることで「パッサージョ」を意識させないシームレスで自然な歌い方ができるようになります。

 

ファルセット (falcetto):

 

1. 一般には頭声より更に高音域の声、または高音域を歌う技法で、実声ではない「裏声」「仮声」とも言われます。高音は出ますが音量を上げられず声の強弱は付けられませんし息漏れします。日本語ではパッサージョを越えた声の事を裏声と言いますが、ファルセットと同じ意味で用いられることが多いです。

 

2. この声の場合、左右声帯は接触しない(中央部が開いている)か、又は殆ど接触していないので息漏れがあります。声帯の縁にある粘膜が触れて振動するとも言われています。

 

その他ミドルボイス、ミックスボイス等という言葉もありますが、上の3つの言葉以上に感覚的な記載が多くiltrovatoreはよくわかりません。(2018.8.27. wrote)

 

「よくわかりません」と書きましたが…

 

男性のミックスボイスと女性の声 (追記:2020.12.03)

 

ミックスボイス (mixed voice):

 

ごく最近、ヨーロッパの歌劇場でご活躍なさっておられるプロオペラ歌手、伊藤真矢子 トゥルナードル様から、運よく男性のミックスボイスについて教えていただきました。

教えていただいたことを私自身がきちんと理解したかどうかいまいち不安ですが・・・。

 

特に柔らかい高音を必要とするフランスオペラなどではミックスボイスがよく使われます。どうやるかというと、上の文章に書いたように高音になるに従い声帯をどんどん薄くしてゆきます(頭声)。そして裏声(ファルセット)への転換点の直前で止めます。その状態を維持して歌うことができれば完全なファルセットではなく、しかもある程度の強さを保持した声が出せるそうです。

 

しかしクラシックの場合、その状態で音を美しく長く響かせながら、しかもその声を劇場内に飛ばさなければいけません(マイクを使いませんからね)。歌劇場でも通用するミックスボイスを使いこなせるようになるには相当な訓練が必要らしいです。

 

ミックスボイスはプロのオペラ歌手でも難しく「しばしば失敗して(声がひっくり返って)完全な裏声になり、薄っぺらな声」になるのもよくあることだそうで。いやはや、テノールは大変です。しかし歌がうまいテノール はミックスヴォイスを使っているそうです。

 

ちなみに、 「ファルセット」の声を鍛えて歌うのがカウンターテノールです。

 

女性の声

 

女性の声が男性と全く違う点。それは、女性の声帯はぴったりと密着せず声帯間にいつも隙間があることです。ただし女性の場合でも、胸声、頭声に使う筋肉群の使い方は男性と全く同じだそうです。

 

女性に男性のいわゆるファルセット唱法ができるかどうかですが・・・女性でも男性のファルセット唱法で声を出すことは可能だそうです。

 

Iltrovatoreは実際にプロのソプラノ歌手(日本人)がファルセットで声を出すのを聞かせてもらったことがあります。しかしその歌手御本人がおっしゃるように、女性のファルセットは歌声というよりむしろ機械的な音でちっとも美しくありません。で、女性のファルセットは音楽的に使い物にならないから使わないそうです。

 

というわけで、「声帯の間に隙間がある状態で出す声」を裏声(ファルセット)と考えるならば「女性はほぼ全域を裏声で歌っている」と言えるし、裏声を「ファルセット唱法で出す声」とするならば「女性には裏声がない」と言ってもいいのかな、と思います。

 

注意:以上の説明が一般的に通用するのかどうか私にはわかりません。教えていただいたプロ歌手の方々も「私の個人的な意見」とおっしゃっていました。声帯の使い方、すなわち声帯を動かす筋肉群をどのように動かすかは個人の感覚に依存するので器楽のようにはっきりとしたメソッドを作ることができません。ですから、このようなある意味感覚的な表現で説明せざるを得ないのかもしれません。(追記終わり)(revised 2021.03.22) おたく記事に戻る