オペラ解説:「アンドレア・シェニエ」と「トスカ」 (2) キャラクター:テノール編

「アンドレア・シェニエ」にはシェニエ、マッダレーナ、ジェラール。 「トスカ」にはカヴァラドッシ、トスカ、 スカルピアが出てきます。

 

シェニエもカヴァラドッシも自由を重んじる反体制派ですし、それに対するジェラールとスカルピアは権力者で、マッダレーナやトスカをめぐりそれぞれ三角関係をつくっています。 ストーリーの流れはよく似ています。 しかしそれぞれのキャラクターの性格や生き方はかなり違います。

 

シェニエとカヴァラドッシ;詩人と闘士

 

シェニエの場合

 

シェニエは詩人で啓蒙思想を持ち社会的な矛盾に目を向け、聖職者と貴族達の面前で彼らを鋭く批判しています。彼の想いがよく現れているのが第1幕の ある日青空を眺めて 」 "Un di all'azzurro spazio" で、アリアの後半部で彼は次のように歌っています、   

 

教会の敷居をまたぐと;そこには司祭がいて、聖人達や聖母マリア像の置き場に捧げ物をため込んでいました。

しかし彼は老人が震えながらパンを求めるのに耳をかさなかったのです。 老人は空しく手を伸ばしていました!

 

家々を歩くと:男が怒りに満ち大地を呪っていました 国によって収奪される金のことを、神に見放されたことを、そして人間を。 子供達は涙を浮かべているのです。このような悲惨な状況を貴族達はどうなさろうというのです?

 

第1幕 「ある日青空を眺めて」 "Un di all'azzurro spazio" 

歌詞対訳:「ある日青空を眺めて」

(a Maddalena )(マッダレーナに向かって)

 

Un dì all'azzurro spazio guardai profondo,

ある日 私は青空をじっと眺めていました、

 

e ai prati colmi di viole, pioveva loro il sole,

野原にはスミレが咲き乱れ、太陽の光は降り注ぎ、

 

e folgorava d'oro il mondo:

世界は金色に光り輝いていました:

 

parea la terra un immane tesor,

大地は大いなる宝、

 

e a lei serviva di scrigno il firmamento.

そして天空はその宝を入れる宝箱だったのです。

 

Su dalla terra a la mia fronte

この大地から私の額に

 

veniva una carezza viva, un bacio.

愛撫が、キスがあたえられたのです。

 

Gridai vinto d'amor:

愛の勝利です:

 

T'amo tu che mi baci,

キスして下さい、

 

divinamente bella, o patria mia!

神々しくも美しい、わが祖国よ!

 

E volli pien d'amore pregar!

愛にあふれて祈りましょう!

 

Varcai d'una chiesa la soglia;

教会の敷居をまたぐと;

 

là un prete nelle nicchie

そこには司祭がいて、

 

dei santi e della Vergine, accumulava doni –

聖人達や聖母マリア像の置き場に捧げ物をため込んでいましたー

 

e al sordo orecchio

しかし彼は

 

un tremulo vegliardo

老人が震えながらパンを求めるのに

 

invan chiedeva pane

耳をかさなかったのです

 

e invano stendea la mano!

老人は空しく手を伸ばしていました!

 

Varcai degli abituri l'uscio;

家々を歩くと;

 

un uom vi calunniava bestemmiando il suolo

男が怒りに満ち大地を呪っていました

 

che l'erario a pena sazia

国によって収奪される金のことを

 

e contro a Dio scagliava

神に見放されたことを

 

e contro agli uomini

そして人間を(呪い)

 

le lagrime dei figli.

子供達は涙を浮かべているのです。

 

In cotanta miseria

このような悲惨な状況を

 

la patrizia prole che fa?

貴族達はどうなさろうというのです?

 

(a Maddalena )(マッダレーナに向かって)

Sol l'occhio vostro

あなたの目には

 

esprime umanamente qui

人間的な感情

 

un guardo di pietà,

哀れみの情が現れています、

 

ond'io guardato ho a voi

私はあなたをみていたのですよ

 

si come a un angelo.

あなたは天使のようです。

 

E dissi: Ecco la bellezza della vita!

ですから、私はここに生命の美しさがあるといったのです!

 

Ma, poi, a le vostre parole,

しかし、あなたの言葉は、

 

un novello dolor m'ha colto in pieno petto.

私の胸に新たな苦痛をもたらします。

 

O giovinetta bella,

おお美しき少女よ、

 

d'un poeta non disprezzate il detto:

詩人を見くびるような事を言わないでください:

 

Udite! Non conoscete amor,

お聞き下さい!あなたは愛を知らない、

 

amor, divino dono, non lo schernir,

愛は神聖な贈り物、あざ笑ってはなりません、

 

del mondo anima e vita è l'Amor!

魂の世界では命が愛なのです!

 

 

 


 

 

、、、とはいえど、彼の想いは詩的・観念的で、おそらく穏当な革命思想を持っていたのでしょう。 第2幕の恐怖政治の時代になるとジャコバン派からはむしろ危険人物とみなされてしまいます。 当然パリから逃げださねばなりません。  友人のルーシェは彼を心配して彼に偽名通行証を渡してくれたのです。

 

ところが彼はパリから逃げだしたくないのです。 その理由は革命ではなく「愛」。 彼はまだ本当の愛を知らずロマンチックに愛を求め、見知らぬ女性(実はマッダレーナ)から送られた手紙に込められた「愛」にあこがれています。シェニエは友人のルーシェに言います。

 

僕は熱心に呼びかける声を何度も聞いているのだよ、

「愛を信じてください、シェニエ、あなたは愛されているのですよ」、と

 

この呼びかけに答え、彼は身の危険を顧みずパリに居残ろうとしています。 彼は 「愛を夢見る詩人」 なのです。

 

第2幕の後半、彼はマッダレーナと再会し、真の愛に目覚めます。 政治故に追われるシェニエと貴族故に追われるマッダレーナ。 「私は死を恐れない。 死ぬまで一緒に」と歌う二人の 愛の2重唱 」 “Ora Soave” は情熱的で濃厚です。

 

しかしついに彼は捕らわれてしまいます。 シェニエは知的で理想主義的なロマンチスト。 ただし現実と渡り合う能力には欠けています。 彼の性格や価値観は初めから終わりまで変わりません。 一方彼を取り巻く環境は激変し、彼はその変化について行けません。   第3幕、革命裁判所の法廷で彼は

 

そうだ、私は兵士だった。 私は物書きだった。

私のペンは偽善者どもに対する鋭い武器だったのだ。

私は裏切り者ではない

 

と抗弁します(「私は兵士だった」 "Si fui soldato"))が死刑を宣告されます。

 

最終幕、詩人の彼は人生最後の時、詩を作ります(第4幕 五月のある美しい日のように」"Come Un Bel Dì Di Maggio"」)、ファビオ・アルミリアートの歌。

歌詞対訳:「五月のある美しい日のように」 

この詩は綺麗な韻を踏んでいます。

 

Come un bel dì di maggio 

五月のある美しい日

 

che con bacio di vento 

風のキスと

 

e carezza di raggio 

太陽の光の愛撫が

 

si spegne in firmamento, 

天空に消えてゆく日のように、

 

col bacio io d'una rima, 

韻(rhyme) のキスと

 

carezza di poesia, 

詩の愛撫を受け

 

salgo l'estrema cima 

私は人生の頂に

 

dell'esistenza mia. 

上りつめる。

 

La sfera che cammina 

天球

 

per ogni umana sorte 

それぞれの人の運命を司る天球が

 

ecco già mi avvicina 

近づいてくる

 

all'ora della morte, 

死と直面する私に、

 

e forse pria che l'ultima 

恐らく私が詩の

 

mia strofe sia finita, 

最後を書き終える前に、

 

m'annuncerà il carnefice 

死刑執行人は私に

 

la fine della vita. 

命の終わりを宣告するだろう。

 

Sia! Strofe, ultima Dea! 

詩よ、女神よ!

 

ancor dona al tuo poeta 

そなたの詩人に

 

la sfolgorante idea, 

輝かしき着想を与えたまえ、

 

la fiamma consueta; 

平素の如き炎を燃え上がらせたまえ;

 

io, a te, mentre tu vivida 

そなたが活き活きと着想を

 

a me sgorghi dal cuore, 

湧き出でさせれば、

 

darò per rima il gelido 

私は詩(rhyme)を捧げよう

 

spiro d'un uom che muore.

死にゆく者の氷の如き吐息を

 

 

 


 

日本で言えば辞世の句ですね。 そこへマッダレーナが彼と一緒に死のうとやってきます。 彼は感動し「愛」の中で共に死ぬ喜びを二人で高々と歌い上げます (第4幕、「愛の二重唱」”Amor! Amor! Infinito!”)

 

終幕 「愛の二重唱」  カウフマンとハルテロス

歌詞対訳:最後の二重唱

 

CHÉNIER 

Vicino a te s'acqueta 

あなたの側にいると安らぎが訪れる

 

l'irrequieta anima mia; 

私の不安な心に;

 

tu sei la meta d'ogni desio, 

あなたは僕の願いの全て、

 

d'ogni sogno, d'ogni poesia! 

夢と詩の全てのゴールだ!

 

Entro al tuo sguardo 

あなたの眼の中に

 

l'iridescenza scerno 

虹がある

 

de li spazi infiniti. 

無限の大空にかかる虹が。

 

Ti guardo; in questo fiotto verde 

あなたを見る;あなたの碧色の

 

di tua larga pupilla erro coll'anima!

瞳の中で私の魂がたゆたう

 

MADDALENA 

Per non lasciarti son qui; 

あなたの側にいます;

 

non è un addio! 

お別れではありません!

 

Vengo a morire con te! 

あなたと死を分かち合うために来たのです!

 

Finì il soffrire! 

苦しみは終わります!

 

La morte nell'amarti! 

愛するあなたと共に死ぬのです!

 

Ah! Chi la parola estrema dalle labbra 

ああ!私達の唇から出る最後の言葉

 

raccoglie, è Lui, l'Amor!

それは愛です!

 

CHÉNIER 

Tu sei la meta dell'esistenza mia!

君は僕の全てだ!

 

CHÉNIER, 遅れて MADDALENA 

Il nostro è amore d'anime!

私達の心からの愛!

 

MADDALENA 

Salvo una madre.

一人の母親を救うのです。

 

Maddalena all'alba ha nome 

夜明けにはマッダレーナという名ですが

 

per la morte Idia Legray. 

イディア・レグリエーとして死にます。

 

Vedi? La luce incerta del crepuscolo 

見てご覧なさい。夜明けの淡い光が

 

giù pe' squallidi androni già lumeggia.

もうむさ苦しい広間を照らしています。

 

Abbracciami! Baciami! Amante!

抱きしめて!キスして!愛する方!

 

CHÉNIER 

Orgoglio di bellezza! 

誇り高き美よ!

 

Trionfo tu, de l'anima! 

あなたの勝利だ!魂の勝利だ!

 

Il tuo amor, sublime amante, 

あなたの愛は、崇高なる恋人よ、

 

è mare, è ciel, luce di sole e d'astri…

海、天国、太陽そして星々の様だ・・・・

 

(二人一緒に)

(C)  È il mondo! È il mondo! 

そして、世界!世界に広がる愛なのだ! 

(M)  Amante! Amante!  愛しい方!愛しい方!

 

CHÉNIER, 遅れて MADDALENA 

La nostra morte è il trionfo dell'amor!

私達の死は愛の勝利!

 

CHÉNIER 

Ah benedico, benedico la sorte!

ああ、感謝する、我が運命を祝福する!

 

MADDALENA 

Nell'ora che si muore 

死の時にあって

 

eterni diveniamo!

私達は永遠に一緒!

 

CHÉNIER 

Morte!  死!

 

MADDALENA 

Infinito!  永遠なるもの!

 

MADDALENA, CHÉNIER 

Amore! Amore!  愛!愛!

 

(護送車到来の音)

CHÉNIER, 遅れてMADDALENA

È la morte! あれは死!

 

CHÉNIER 

Ella vien col sole!

太陽と共にやってくる!

 

MADDALENA 

Ella vien col mattino!

朝と共にやってくる!

 

CHÉNIER 

Ah, viene come l'aurora!

ああ、夜明けだ!

 

MADDALENA 

Col sole che la indora!

太陽と共に!

 

CHÉNIER 

Ne viene a noi dal cielo, 

天から来るのだ、

 

entro un vel di rose e viole!

バラやスミレのヴェールに飾られて!

 

MADDALENA, CHÉNIER 

Amor! Amor! Infinito! Amor! Amor!

愛!、愛!永遠に!、愛!、愛!

 

SCHMIDT 

Andrea Chénier! アンドレア・シェニエ!

 

CHÉNIER 

Son io! 僕だ!

 

SCHMIDT 

Idia Legray!  イデア・レグリエー

 

MADDALENA 

Son io! 私です!

 

MADDALENA, CHÉNIER 

Viva la morte insiem!

万歳 共に死を!

 


 

彼は国家の反逆者として殺される哀れな元革命家ではなく、詩人として「愛」の中でマッダレーナと共に死ぬことに自らの「生」の意味を見いだしたのです。 彼はマッダレーナの強い愛に助けられ、 彼女への愛に無限の価値を見いだして死んでゆきます。 マッダレーナは彼に誇らかな死を与えたのです。

 

オペラの最終場面、看守が囚人の名前を呼びます。

 

“Andrea Chenier!”   “Son io!”  

“Idia Legray!”   “Son io!”

 

「アンドレア・シェニエ」 「わたしだ」

イディア・レグリエー」 「わたしです」

 

と高らかに答えた二人は愛に満ちあふれギロチン台に向かいます。 

 

シェニエには3つのアリア、2つの二重唱が与えられています。 歌うところが多くて大変。 歌唱力と共に全幕を歌いきる体力を必要とする大役です。 この様なシェニエを歌うテノールには輝かしく劇的な声ばかりでなく、 知性と気品が感じられる演技力、そしてシェニエのイメージにふさわしい容姿も欲しいですね・・・・・そりゃ全部は無理と言う人もいるでしょうが。(2018.1.25.wrote) 


カヴァラドッシの場合

 

カヴァラドッシは画家ですが、シェニエと違うのは筋金入りの闘士(ヴォルテール派、自由を信奉するナポレオン支持者)であることです。 サンタンジェロ城から逃げだしてきた元ローマ共和国統領のアンジェロッティに

 

僕にまかせて!・・・・ 僕の命を賭けて君を救う!・・・・攻撃されたら戦うぞ!

 

と力強く言い、彼を守ろうとします。このオペラの中でカヴァラドッシは自らの政治的な考えにまったく疑念を持たず、その信念に従い自らの命を賭けて行動しています。トスカの思いに引きずられることはありません。 そこがデ・グリューと違うところ。

 

第1幕冒頭に歌われる「妙なる調和」"Recondita armonia" を聞けばよくわかるとおり彼はトスカをとても愛しています。

 

第1幕 「妙なる調和」 マルセロ・アルバレス

歌詞対訳:「妙なる調和」

Recondita armonia 

全く違った美しさの

 

di bellezze diverse!... 

絶妙なハーモニーなのだ!・・・

 

È bruna Floria, l'ardente amante mia...

茶色の髪のフロリア、僕の情熱的な恋人と・・・

 

e te, beltade ignota, cinta di chiome bionde! 

そしてあなた、ブロンドの髪をした見知らぬ美人と!

 

Tu azzurro hai l'occhio, Tosca ha l'occhio nero!

あなたの瞳は青く、トスカの瞳は黒い!

 

L'arte nel suo mistero 

芸術はその神秘の中で

 

le diverse bellezze insiem confonde; 

様々な美しさを溶け合わせる;

 

ma nel ritrar costei il mio solo pensiero,

しかしこの美人を描いても僕の心にいるのは、

 

Ah! il mio sol pensier sei tu!, Tosca, sei tu! 

ああ!僕の心にいるのは君だけ、トスカ、君だけだ!

 

 

  


 

しかし彼は大人、決してその愛に溺れてはいません。トスカの性格的な欠点も冷静に見抜いています。 例えばアンジェロッティに 

 

彼女は嫉妬深い。ちょっとしたら彼女を追い出すから

トスカは善良なのだけれど告解で何も隠せない(神父に全部しゃべってしまう)から彼女には黙っていた方がいい、

 

と語り、トスカには何も語らず密かにアンジェロッティを別荘へ逃がすのです。 しかしこの作戦は更に頭が良く狡猾なスカルピアによっておじゃんになってしまうのですが・・・・というシーンを日本語字幕付きで。

 

第2幕になると、カヴァラドッシはまさに自由を求め圧政と戦う闘士。 スカルピアに拷問されても彼は屈しません。 おろおろするトスカに 「だまっていろ」 と命令し揺らがない。 拷問で息が絶え絶えになりながらも、 アンジェロッティの隠れ場所を教えてしまったトスカを 「裏切ったな!」 と激しくなじります。

 

そしてナポレオンがマレンゴの戦いで勝ったことを聞き、スカルピアの目の前で “Vittoria! Vittoria!” 「勝利だ!勝利だ!」 と叫ぶのです。

 

この場面はまさにカヴァラドッシの聴かせ所!カヴァラドッシの感情の爆発です!ここにオーケストラの伴奏はありません。 テノールは高音A♯(B♭と同じ音)を力強く、輝かしく、あらん限りの力を込めて歌います。 ここでなよなよしてはなりません。 思わせぶりなビブラートも一切無し。 闘争の勝利に酔う叫びなのです。  この叫びを如何に堂々と歌えるかが勝負。

 

 第2幕 "Vittoria! Vittoria!" カウフマン

歌詞対訳:”Vittoria! Vittoria!"

CAVARADOSSI 

Floria! フローリア!

 

TOSCA 

Amore... あなた・・・・

 

CAVARADOSSI 

Sei tu? 君かい?

 

TOSCA 

Quanto hai penalo 

なんて心が痛んだ事でしょう!・・・

 

anima mia!.. Ma il giusto Iddio lo punirà!

だけど正義の神が罰して下さるわ!

 

CAVARADOSSI 

Tosca, hai parlato? トスカ、しゃべったかい?

 

TOSCA 

No, amor... いいえ・・・・

 

CAVARADOSSI 

Davvero?... 本当に?

 

TOSCA

No! 勿論よ!

 

SCARPIA 

Nel pozzo del giardino.- Va, Spoletta! 

庭の井戸の中だ。 -行け、スポレッタ!

 

CAVARADOSSI 

M'hai tradito! 裏切ったな!

 

TOSCA 

Mario! マリオ!

 

CAVARADOSSI 

Maledetta!  畜生!

 

TOSCA 

Mario! マリオ!

 

SCIARRONE 

Eccellenza! quali nuove!...

閣下!悪いニュースです!

 

SCARPIA 

Che vuol dir quell'aria afflitta?

何をそんなに心配しているのだ?

 

SCIARRONE 

Un messaggio di sconfitta...

敗北の知らせです・・・・

 

SCARPIA 

Che sconfitta? Come? Dove?

なに?どこで、いつやられたのだ?

 

SCIARRONE 

A Marengo... マレンゴで・・・・

 

SCARPIA 

Tartaruga! こののろまめ!

 

SCIARRONE 

Bonaparte è vincitor!

ボナパルトが勝ちました!

 

SCARPIA 

Melas... メラスはどうした・・・・

 

SCIARRONE 

No! Melas è in fuga!... 

メラスは敗走しています!

 

CAVARADOSSI 

Vittoria! Vittoria! 

勝利だ!勝利だ!

 

L'alba vindice appar 

復讐が始まるぞ

 

che fa gli empi tremar! 

悪人を震え上がらせるのだ!

 

Libertà sorge, crollan tirannidi!  

自由は蘇り、暴君を罰するのだ

 

TOSCA

Mario, taci, pieta dime!

マリオしゃべらないで、御願い!

 

CAVARADOSSI 

Del sofferto martîr 

僕は歓びで一杯だ

 

me vedrai qui gioir... 

苦痛にさいなまれていても・・・

 

括弧内3人ほぼ同時に歌っている

(TOSCA: pieta! taci! 御願い!だまって!

SCARPIA: Braveggia, urla! うぬぼれ家め、叫べ!)

 

CAVARADOSSI 

Il tuo cor trema, 

今お前はふるえあがっている、

 

o Scarpia, carnefice! 

おお、スカルピア、死刑執行人!

 

carnefice! carnefice!

死刑執行人!死刑執行人!

 

以下の括弧内は一瞬で過ぎる

(TOSCA: non l’ascoltate! Pieta! Pieta! pietà di me!

彼の言葉を聞かないで!、御願い御願い、御願いよ!)  

(SCARPIA: T'affretta a palesarmi il fondo dell'alma ria! 

Va, Moribondo, il capestro t'aspetta! Va, va!

きさまの腐りきった魂から最後の一滴を吐き出すんだな!

行け!死刑囚、死刑執行人はお前を待っている!行け、行け!)

(TOSCA: pietà di me! 御願いよ!)

(SCARPIA: Portatemelo via! 連れて行け!) 

(TOSCA: Mario... con te...  マリオ・・・私も一緒に・・)

(SCARPIA: Va, moribondo!  行け、死刑囚よ!)

(TOSCA: No, no! いや、いやよ!)

(SCARPIA: Va, va!行け、行け!)

 

TOSCA 

Ah! Mario! Mario! con te, con te・・・・ 

ああ!マリオ!マリオ!私も一緒に・・・・・

 

SCARPIA: Voi no! あなたは 残れ!

 

 

 


 

第3幕で死刑を言い渡されたカヴァラドッシはトスカを想い「これほど命が惜しかったことはない」、と有名な「星は光りぬ」を歌います。 

 

第3幕 「星は光りぬ」ロベルト・アラーニャ

E lucevan le stelle... 

星はきらめき・・・

 

ed olezzava la terra... 

地はかぐわしい匂いに満ちていた・・・・

 

stridea l'uscio dell'orto...  

庭の扉がきしみ・・・

 

e un passo sfiorava la rena...

砂を軽く踏む足音がした・・・

 

Entrava ella, fragrante, 

かぐわしい香りとともに、彼女が入ってきて、

 

mi cadea fra le braccia... 

私の腕のなかに身を投げかけた・・・

 

Oh! dolci baci, o languide carezze, 

ああ!甘いキス、ああ、切ない愛撫、

 

mentr'io fremente 

震えながら、

 

le belle forme disciogliea dai veli! 

彼女のヴェールを取ると、美しい姿が現れた!

 

Svanì per sempre il sogno mio d'amore... 

夢の様な愛は永遠に失われた・・・・

 

L'ora è fuggita... 

時は足早に過ぎ去り・・・

 

E muoio disperato! 

E muoio disperato!  

絶望にうちひしがれて私は死ぬのだ!

 

E non ho amato mai tanto la vita!... 

今ほど生を愛おしんだことはない!・・・

 

tanto la vita!... 

生を愛おしんだことはない!・・・・


 

するとトスカが入ってきてスカルピアの書いた「通行許可書」を見せます。 カヴァラドッシは、「あなたのこの手が彼を殺したのか」と驚き喜びに満ちあふれて二重唱を歌います。 「トスカ」の中でカヴァラドッシが一番甘く歌うところでしょうね。 一幕の愛の二重唱の場面ではアンジェロッティの事を気にしながらトスカの相手をしていたはずですから。

第3幕、カウフマンとマギーの歌で死に臨んでつらかったことは・・・・」 "Amaro sol per te m'era morire "から最後まで 日本語字幕付き

 

しかしこの場面でもカヴァラドッシはスカルピアの書いた「通行許可書」を信用していない、と感じさせる演出があります。 彼は無邪気に喜ぶトスカをがっかりさせないために一緒に喜んでいる風に振る舞うのです。 その様な演出の場合、彼は現実を理解し冷静に先が読める男、しかし死の直前でもトスカに思いやりを見せる深い愛に満ちた大人の男、というのがはっきりします。

 

いずれにしてもカヴァラドッシは単に恋する若者の頭に血が上った歌い方だけでは説得力がありません。 彼はロドルフォでもデ・グリューでもない。  トスカへの愛にあふれてはいるが、何よりも自由の為に命を賭けて戦う熱い大人の男なのです。 (2018.1.25.wrote) 

 

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