「オテロ」”Otello” ヴェルディ作曲


「アイーダ」を作曲した後、ヴェルディは十分裕福になっていました。全くやる気はありませんでしたが上院議員にもなっており、国民からは尊敬・敬愛されていました。自らを農民と考える彼は彼が所有するサンターガタの農場で熱心に働きその経営は順調でした。彼は既に60半ばを越え音楽活動からは遠ざかっていました。

 

そのようなヴェルディに作曲させようと、リコルディ社のジューリオ・リコルディはアッリーゴ・ボーイトと慎重に計画を進めます。この計画は「チョコレート」計画と呼ばれていました。アッリーゴ・ボーイトは若い頃ワーグナーに心酔しヴェルディを激しく非難していましたが、後にワーグナーから離れヴェルディのために「オテロ」の台本を書き上げます。

 

「アイーダ」から15年後の1886年ヴェルディは「オテロ」を完成させます。(初演は1887年ミラノスカラ座)。彼は70をゆうに越えていましたが、その作品は深みのある美しさとともに高い演劇性も備え、様々に揺れ動く複雑な人間心理をはっきりと浮かび上がらせます。

 

ヴェルディはこの作品に思い入れが深く、「オテロ」プレミアのリハーサルでは歌手に直接演技指導をしていたほどです。ヴェルディが演出を考えながら作曲していたのは確かで、それ故「オテロ」の演出家は楽譜や台本に込められたヴェルディの想いを十分に尊重して欲しいと願っています。

 

オテロはテノールにとって最大の難役とされています。オテロを歌う歌手には深くいぶし銀の様な輝きを放つ強靱な声、しかも中低音域を豊かに歌える声が必要とされます。また高度な歌唱力と演技力、更にオテロにふさわしい容姿を兼ね備えていなければなりません。

 

オテロ歌いとしてすぐに思い浮かぶのはマリオ・デル=モナコとプラチド・ドミンゴでしょうか。モナコはその圧倒的なパワーで英雄オテロを演じ、ドミンゴはデリケートな人間オテロを描き出しました。ドミンゴ以降これぞオテロ歌いという定評のあるテノールはまだ出現していません。

 

一方イヤーゴもオテロと同様重要な役です。性格俳優のような歌唱力と演技力が必要とされます。ヴェルディはこのオペラのタイトルを「イヤーゴ」にしようかと考えていた時もあります。

 

ヴェルディはパリでの初演の為第3幕にバレエシーンを入れています。パリではオペラにバレエを入れるのが普通だったからということです。なかなか魅力的な音楽で、カラヤン指揮が有名です。


第1幕:15世紀終わりのキプロス島。城の外。

 

雷鳴轟く大嵐の場で幕が開く。ヴェネツィア艦隊の司令官にしてキプロス島総督、ムーア人オテロはキプロスに帰還すると群衆を前にし、声高らかに ”Esultate!” 「喜べ!」 「ムスリムは打ち破られた」と叫ぶ。この ”Esultate!” をいかに英雄的に堂々と歌えるかでオテロ役の力量が計られる。

 

一方イヤーゴは自分を差し置いてカッシオを副官に任命したことでオテロを恨んでいる。イヤーゴはオテロの破滅を狙い、まずは酒に弱いカッシオを陥れカッシオは罷免される。

イヤーゴに陥れられ、酔っ払うカッシオ(カウフマン)。これだけうまいカッシオは滅多にみられない。字幕がなくても状況は十分理解できる。(2004、パリオペラ座)


 

その夜更け、デズデモナとオテロはお互いに愛を語り合う (愛の二重唱) “Giànella notte densa” 「既に夜も更けた」。下はドミンゴとプライス

OTELLO 

Giànella notte densa 

既に夜も更けた

 

s'estingue ogni clamor. 

喧噪も全て収まり

 

Giàil mio cor fremebondo 

我が心の怒りも

 

s'ammansa in quest'amplesso e si rinsensa. 

この抱擁で収まり、穏やかになった。

 

Tuoni la guerra e s'inabissi il mondo 

砲を轟かせよ、世界よ沈んでしまえ

 

se dopo l'ira immensa 

もし激烈なる怒りの後

 

vien quest'immenso amor!

この限りなき愛が来たるものならば!

 

DESDEMONA 

Mio superbo guerrier! Quanti tormenti, 

私の素晴らしい戦士さま!なんと多くの苦しみ、

 

quanti mesti sospiri e quanta speme 

悲嘆のため息,希望を乗り越えて

 

ci condusse ai soavi abbracciamenti! 

私達のこの甘い抱擁がもたらされたことでしょう!

 

Oh! com'èdolce il mormorare insieme: 

ああ!この様にお互いささやき合うのは何と甘美なことでしょう。

 

te ne rammenti! 

覚えておられますか!

 

Quando narravi l'esule tua vita 

あなた様はお話し下さったものでした。あなた様の逃亡生活や

 

e i fieri eventi e i lunghi tuoi dolor, 

激烈な事々、長々と耐えた苦しみを、

 

ed io t'udia coll'anima rapita 

そして私は魂を奪われその話に聞き入りました。

 

in quei spaventi e coll'estasi in cor.

恐れつつも魅了されて。

 

OTELLO 

Pingea dell'armi il fremito, la pugna 

私は話したな。武器のぶつかり合い、戦い

 

e il vol gagliardo alla breccia mortal,

そして死の突破口へ向かう果敢な攻撃

 

l'assalto, orribil edera, coll'ugna al baluardo e il sibilante stral.

矢がうなりを上げる中、城壁にとりつき急襲をかける。

 

DESDEMONA 

Poi mi guidavi ai fulgidi deserti, 

それから教えて頂きました、輝く砂漠、

 

all'arse arene, al tuo materno suol; 

焼け付く砂地、あなた様の生まれ故郷;

 

narravi allor gli spasimi sofferti 

そしてまた語られました、激しい苦しみを

 

e le catene e dello schiavo il duol.

鎖につながれた奴隷の苦痛を

 

OTELLO 

Ingentilia di lagrime la storia 

私の話も和らげられる。そなたの涙、

 

il tuo bel viso e il labbro di sospir; 

お前の美しい顔、唇から漏れるため息によって、

 

scendean sulle mie tenebre la gloria, 

暗き闇の中にいる私に栄光が

 

il paradiso e gli astri a benedir. 

祝福に満ちた天と星々がもたらされる!

 

DESDEMONA 

Ed io vedea fra le tue tempie oscure 

そしてあなたの浅黒いこめかみに

 

splender del genio l'eterea beltà.

類い希なる天上の美しさが光り輝いていたのです。

 

OTELLO 

E tu m'amavi per le mie sventure 

そなたは私が過去にくぐり抜けた数々の危険故に私を愛し

 

ed io t'amavo per la tua pietà.

そしてそなたがそれらに示す憐れみ故に私はそなたを愛した。

 

DESDEMONA 

Ed io t'amavo per le tue sventure 

私はあなたがくぐり抜けた危険故にあなたを愛し

 

e tu m'amavi per la mia pietà.

そしてあなたは私の憐れみ故に私を愛した。

 

OTELLO 

E tu m'amavi…

そしてそなたは私を愛し・・・・

 

DESDEMONA 

E tu m'amavi…

あなたは私を愛した・・・・

 

OTELLO 

Ed io t'amavo…

そして私はそなたを愛し

 

OTELLO, DESDEMONA 

… per la tua, (mia) pietà.

・・・あなたは私の(そなたの)憐れみ故に愛した。

 

OTELLO 

Venga la morte! e mi colga nell'estasi 

死よ来たれ!この恍惚とした

 

di quest'amplesso il momento supremo! 

抱擁のこの時に!

 

Tale èil gaudio dell'anima che temo, 

歓びに心奪われ、私は恐れる、

 

temo che piu non mi sara concesso 

恐れるのだ、この様な歓びが二度と再び与えられないことを

 

quest'attimo divino 

この神々しき瞬間を

 

nell'ignoto avvenir del mio destino.

先の見えぬ我が未来の運命の中にあって。

 

DESDEMONA 

Disperda il ciel gli affanni 

天が憂いを払ってくれますように。

 

e amor non muti col mutar degli anni.

そして長い歳月が過ぎ去っても愛が変わりませんように。

 

OTELLO 

A questa tua preghiera 

そなたの祈りに

 

"Amen" risponda la celeste schiera.

天に居ます方々が「アーメン」と答えてくれますように。

 

DESDEMONA 

"Amen" risponda.

「アーメン」と答えてくれますわ!

 

OTELLO 

Ah! la gioia m'innonda si fieramente…

ああ!胸に歓びがあふれる 誇らかに・・・・

 

che ansante mi giacio… 

横になり,あえぐのだ・・・

 

Un bacio…

キスを・・・

 

DESDEMONA 

Otello!

オテロ!

 

OTELLO 

Un bacio… ancora un bacio, 

キスを・・・今ひとたびのキスを!

 

Gia la pleiade ardente al mar discende.

燃えるプレアデス(スバル)は海に沈んだ。

 

DESDEMONA 

Tarda e la notte.

夜も更けましたわ。

 

OTELLO 

Vien… Venere splende.

おいで、金星が輝いている。

 

DESDEMONA 

Otello! 

オテロ!

 

 


 

第2幕:庭園のある城の広間

 

イヤーゴはオテロを破滅させる為カッシオに更なる罠を仕掛ける。カッシオが立ち去った後、イヤーゴは人間を嘲笑し己の醜い欲望を正当化する。これが有名なイヤーゴのアリア ”Credo” 「イヤーゴの信条」である。下の歌はカルロス・アルバレス

JAGO 

Non ti crucciar. Se credi a me, tra poco 

心配されることはない。私を信ずればじきにあなた様は

 

farai ritorno ai folleggianti amori di Monna Bianca, 

ビアンカ様の熱い愛を取り戻せましょうぞ、

 

altiero capitano, coll'elsa d'oro e col balteo fregiato. 

黄金の(刀の) 柄と飾り帯をお持ちの副官殿。

 

CASSIO 

Non lusingarmi. . . 

お世辞は無用だ・・・

 

JAGO 

Attendi a ciò ch'io dico. 

私奴の忠告をお聞き下さい。

 

Tu dêi saper che Desdemona è il Duce del nostro Duce, 

あなた様もご存じの様に、我らが指揮官の指揮官はデズデモナ様で、

 

sol per essa ei vive. 

我らが指揮官はあの方の為に生きておられます。

 

Pregala tu, quell'anima cortese 

あの方に嘆願なさいませ、あの方はお優しく

 

per te interceda e il tuo perdono è certo. 

あなた様の為にお取りなしくださり、間違いなく、あなた様は許して頂けるでしょう。

 

CASSIO 

Ma come favellarle? 

しかしどうやったらお目にかかれるだろう?

 

JAGO 

è suo costume girsene a meriggiar fra quelle fronde colla consorte mia.

あの方は我が妻と共に常日頃あそこの木陰でお休みになられる。

 

Quivi l'aspetta. Or t'è aperta la via di salvazione. Vanne. 

ここでお待ち下さい。あなた様が救われる道が開かれますぞ。 行かれよ。

 

JAGO 

Vanne; la tua meta già vedo. 

ゆけ、俺にはお前の行く末がみえる。

 

Ti spinge il tuo dimone, e il tuo dimon son io. 

お前の悪魔がお前を駆り立てる、お前の悪魔は俺だ。

 

E me trascina il mio, nel quale io credo, inesorato Iddio. 

そして俺を駆り立てるのは、俺が信ずる無慈悲な神だ。

 

Credo in un Dio crudel che m'ha creato simile a sè e che nell'ira io nomo. 

俺は無慈悲な神を信じる。その神は自らに似せて俺を創った。

 

Dalla viltà d'un germe o d'un atòmo vile son nato. 

俺は卑怯者の種、卑劣な原子から生まれたのだ。

 

Son scellerato perchè son uomo; e sento il fango originario in me. 

俺は悪者だ、なぜなら人間だからだ;俺は自分の内に原始の汚泥を感じる。

 

Sì! questa è la mia fe'! 

そうだ!これが俺の信条だ!

 

Credo con fermo cuor, siccome crede la vedovella al tempio, 

俺は固く信じる、後家が教会で信ずるように、

 

che il mal ch'io penso e che da me procede, per il mio destino adempio. 

俺が考え進める悪事は俺の運命を成就させる為だ。

 

Credo che il guisto è un istrion beffardo, 

俺は信じる、正直者はおろかしい役者さ、

 

e nel viso e nel cuor, che tutto è in lui bugiardo: 

顔も心もみんなうそだ:

 

lagrima, bacio, sguardo, sacrificio ed onor. 

涙も、キスも、見栄えも,犠牲も、名誉もみんなうそだ。

 

E credo l'uom gioco d'iniqua sorte 

俺は信じる、人は運命にもてあそばれるのさ

 

dal germe della culla al verme dell'avel. 

ゆりかごからウジ虫の湧く墓場まで

 

Vien dopo tanta irrision la Morte. 

馬鹿な奴らはみな死ぬのさ。

 

E poi? E poi? 

それで? それで?

 

La Morte è il Nulla.

死は虚無だ。

 

è vecchia fola il Ciel. 

天国など古くさい話さ!

 

 


 

彼はオテロの心の弱さを巧妙に刺激しながらデズデモナに対する不信感を植え付けて行く。その時利用したのはオテロがデズデモナに与えたハンカチである。イヤーゴはデズデモナがカッシオにハンカチを与えたと思わせ彼女とカッシオの不倫を匂わせる。

 

とうとうオテロは妻の不倫を信じ、デズデモナとカッシオに対する復讐を誓う(オテロとイヤーゴの「復讐の二重唱」"Si, pel ciel marmoreo giuro" 「天にかけて誓う」下はカウフマンとヴィラトーニャの二重唱。

 

OTELLO

Ah! Sangue, sangue, sangue! 

ああ、血だ、血だ、血だ!

 

Si, pel ciel marmoreo giuro! 

そうだ、大理石の如き天にかけて誓う!

 

Per le attorte folgori! 

鋭き稲妻にかけて!

 

Per la Morte e per l’oscuro mar sterminator! 

死に、そして皆殺しの暗き海にかけて(誓う)!

 

D’ira e d’impeto tremendo 

怒りと恐ろしき衝動により

 

presto fia che sfolgori 

雷がすぐにも降り注ぐだろう

 

Questa man ch’io levo e stendo!

差し伸ばした我が手より!

 

JAGO 

Non v'alzate ancor! 

まだ立たれるな!

 

Testimon èil Sol ch'io miro, 

証人は私が見つめる太陽、

 

che m'irradia e inanima 

それは私を照らし、活力を与えているのです

 

l'ampia terra e il vasto spiro del Creato inter,

全世界の広々とした大地と広漠とした霊的存在に

 

che ad Otello io sacro ardenti, 

これらをオテロ様に捧げましょうぞ、

 

core, braccio ed anima 

我が心、両手、そして魂を

 

s'anco ad opere cruenti 

血塗られた務めであっても

 

s'armi il suo voler!

私は従いますぞ。

 

JAGO e OTELLO  

Sì, pel ciel marmoreo giuro! 

そうだ、大理石の如き天にかけて!

 

Per le attorte folgori! 

鋭き稲妻にかけて!

 

Per la Morte e per l'oscuro mar sterminator! 

死に、そして皆殺しの暗き海にかけて(誓う)!

 

D'ira e d'impeto tremendo 

怒りと恐ろしき衝動により

 

presto fia che sfolgori 

稲妻がすぐにも降り注ぐだろう

 

questa man ch'io levo e stendo! 

差し伸ばした我が手より!

 

presto fia che sfolgori 

雷がすぐにも降り注ぐだろう

 

questa man ch'io levo e stendo!

差し伸ばした我が手より!

 

Dio vendicator!

復讐の神よ!

 

 


 

第3幕:城の大広間

 

ヴェネツィア本国からの使者がキプロス到着との知らせを受けたオテロはデズデモナに裏切られた苦しみ、悲しみ、絶望を神に訴える "Dio! Mi potevi scagliar tutti mali" 「神よ我に悪しきものを浴びせ」 下の歌はカウフマン

OTELLO

Dio! mi potevi scagliar tutti i mali

神よ!あなたは我に邪悪の全て、

 

della miseria, della vergogna,

苦悩と不名誉を投げつけられた、

 

far de’ miei baldi trofei trionfali

我が大いなる勝利の栄誉を

 

una maceria, una menzogna...

破壊し嘘偽りに変えてしまわれた...

 

e avrei portato la croce crudel

そして我は残酷なる

 

d’angoscie e d’onte

苦悩と恥辱の十字架を背負う

 

con calma fronte

穏やかな顔をしつつ

 

e rassegnato al volere del ciel.

神の御意志を甘受するのだ。

 

Ma, – o pianto, o duol! –

しかしーおお、この嘆き、おお、この怒り! ー

 

m’han rapito il miraggio

我が心が得し歓びの幻影を

 

dov’io, giulivo, l’anima acqueto.

奪い去ったのだ!

 

Spento è quel sol,

太陽は失われた、

 

quel sorriso, quel raggio che mi fa vivo, che mi fa lieto!

我に命と歓びを与えた微笑みと光が(失われたのだ)!

 

Spento è quel sol,

太陽は失われた、

 

quell sorriso, quel raggio che mi fa vivo, che mi fa lieto!

我に命と歓びを与えた微笑みと光が(失われたのだ)!

 

Tu alfin, Clemenza,

慈悲深く、不死なる

 

pio genio immortaldal roseo riso,

バラ色の唇をした天使達よ、

 

copri il tuo viso santo

汝らの聖なる顔を

 

coll’orrida larva infernal!

地獄の忌まわしき仮面で覆うがよい!

 

Ah! Dannazione!

ああ!地獄へ堕ちよ!

 

Pria confessi il delitto

あの女の罪をまず告白させよ

 

e poscia muoia!

そして死ぬのだ!

 

Confession! Confession!

告白せよ! 告白せよ!

 

La prova!...

証拠を!...

 

JAGO 

Cassio è là!

カッシオがこちらへ来ます!

 

OTELLO

Là? Cielo! O gioia!

ここへ? ああ! うれしい!

 

 


 

しかしまたもイヤーゴの策略により、カッシオがデズデモナのハンカチを持っている場面を見せつけられる。オテロは妻の不倫を確信しヴェネツィアの大使や公衆の面前でデズデモナを辱める。彼は完全に狂っている。

 

第4幕:デズデモナの寝室

 

デズデモナはオテロの心の闇を理解し得ない。しかし夫のただならぬ様子に不吉さを感じる。彼女は侍女のエミリアに自分の婚礼衣装を持ってこさせ、自分が死んだら自分と一緒に墓に葬ってくれるように頼む。そして母の小間使いだった薄幸な少女バルバラの思い出話をするのが “la canzon del Salice”「柳の歌」。そのあと「アヴェマリア」を歌い、ベッドに横になる。下の歌は “la canzon del Saliceハルテロス

 

EMILIA 

Era più calmo? 

(オテロ様は) 落ち着かれましたか?

 

DESDEMONA 

Mi parea. M'ingiunse di coricarmi e d'attenderlo.

そのようね。私に寝て待っているようにとお命じになったわ。

 

Emilia, te ne prego, distendi sul mio letto 

エミリア、御願いがあるの。私のベッドに広げておいて下さいな

 

la mia candida veste nuziale. 

私の白い婚礼衣装を。

 

Senti. Se pria di te morir dovessi 

聞いて頂戴。もし私があなたより先に死んだら、

 

mi seppellisci con un di quei veli. 

ベールの一つを私と一緒に埋めてね。

 

EMILIA 

Scacciate queste idee.

そんなお考えはおやめ下さい。 

 

DESDEMONA 

Son mesta, tanto, tanto. 

私はね、とっても、とっても悲しいの。

 

Mia madre aveva una povera ancella, 

私の母にはかわいそうな侍女がいたの。

 

innamorata e bella. 

恋に落ち、美しかった。

 

Era il suo nome Barbara.

名前はバルバラと言ったの。

 

Amava un uom che poi l'abbandonò;

彼女の恋人は彼女を愛し、そして捨てたの。

 

cantava un canzone: „la canzon del Salice“. 

彼女は歌っていたわ:「柳の歌」という歌を。

 

Mi disciogli le chiome… 

髪を解いて頂戴・・・・・

 

Io questa sera ho la memoria piena 

今夜はとてもはっきりと思い出すわ。

 

di quella cantilena… 

その古い歌を。

 

「柳の歌」

„Piangea cantando nell'erma landa, 

「彼女は歌いながら寂しい荒れ野で泣いている

 

piangea la mesta… 

悲しんでないている・・・・

 

O Salce! Salce! Salce! 

おお、柳よ!、柳よ!柳!

 

Sedea chinando sul sen la testa! 

彼女は腰掛け頭をうなだれていた!

 

Salce! Salce! Salce! 

柳よ!柳よ!柳!

 

Cantiamo! Cantiamo!

歌いましょう!歌いましょう!

 

il Salce funebre sarà la mia ghirlanda.“  

悲しげな柳は私の花冠になるわ。」

 

Affrettati; fra poco giunge Otello. 

急いで頂戴;すぐオテロがきます。

 

„Scorreano i rivi fra le zolle in fior, 

「小川は花咲く木立の間を流れ、

 

gemea quel core affranto, 

彼女は傷付き心破れて嘆き、

 

e dalle ciglia le sgorgava il cor 'amara onda del pianto. 

その睫毛には苦い涙があふれている。

 

O Salce! Salce! Salce! 

おお 柳よ!柳よ!柳!

 

Cantiamo! Cantiamo!  

歌いましょう!歌いましょう!

 

Il Salce funebre sarà la mia ghirlanda.

悲しげな柳は私の花冠になるわ。

 

Scendean 'augelli avol dai rami cupi 

暗い枝影から鳥が飛んでこちらに来る

 

verso quel dolce canto. 

この優しい歌の方へ。

 

E gli occhi suoi piangean tanto, tanto, 

彼女の目から涙が流れに流れて、

 

da impietosir le rupi.“ 

岩までが悲しみにくれる」

 

Riponi quest'anello. 

この指輪をもどしてね。

 

Povera Barbara! Solea la storia 

かわいそうなバルバラ!このお話は

 

con questo semplice suono finir: 

簡単に終わるの:

 

„Egli era nato per la sua gloria, io per amar…“  

「彼は栄光の元に生まれ、私は愛する・・・・」

 

Ascolta. Odo un lamento. 

聞いて。嘆きの歌が聞こえるわ。

 

Taci. Chi batte a quella porta? 

静かに。誰かがドアを叩いている?

 

„Io per amarlo e per morir… 

「私は愛するために,そして死ぬ為に・・・・

 

Cantiamo! Cantiamo! 

歌いましょう!歌いましょう!

 

Salce! Salce! Salce!“ 

柳よ!柳よ!柳!」

 

Emilia, addio. Come m'ardon le ciglia! 

エミリア、さようなら。目が熱いわ!

 

èpresagio di pianto.

涙がでてくる印よ。

 

Buona notte. 

おやすみなさい。

 

Ah! Emilia, Emilia, addio, Emilia, addio!

ああ!エミリア、エミリア、さようなら、エミリア、さようなら!

 

 

 


そこへオテロがやってきて、デズデモナの反論も聞かずに彼女を殺す。しかしその後イヤーゴの謀略が明らかになり全てを悟ったオテロは隠し持っていた短剣で自らを突き刺す。

 

オーケストラが第1幕最後の「愛の2重唱」の旋律を奏でる中、瀕死のオテロは ”un bacio・・・, un bacio ancora・・・, ah! un altro bacio” 「キスを、もう一度、ああ、もう一度」とデズデモナににじり寄るが、最後の bacio の -cio は歌声にならず(楽譜に音符はなく休符のみが書かれている)、息絶える。

 

(2018.11.23.wrote)  iltrovatoreのオペラ解説に戻る