オペラ解説:「ドン・カルロ」イタリア語5幕版 ”Don Carlo”  ジュゼッペ・ヴェルディ作曲

Giuseppe Barberis - Carlo Cornaglia - Giuseppe Verdi's Don Carlo at La Scala.png

Act IV (V in the original version), Scene 3 of Giuseppe Verdi's Don Carlo, as performed at La Scala in the 1884 (that is, the première of the Milan version of the opera).

 

Carlo Cornaglia (artist, flourished 1854 to 1899)

Giuseppe Barberis (engraver, 1840?-1917)

Restored by Adam Cuerden


元々はグランドオペラ形式で書かれたフランス語5幕のオペラ。しかしイタリア語5幕版、4幕版など複数のバージョン、多くのカットや入れ替えがあり決定版はない。私見だが、原典5幕版は冗長な場面があり、4幕版はカルロが義理の母親を盲目的に恋する理由がわかりにくいという演劇的な欠点がある。よってiltrovatoreは上演時間いくらか短めの5幕版を好む。ただしまだまだ長い・・・。

 

このオペラは16世紀スペインの史実に基づいて描かれている。フィリッポ2世は神聖ローマ皇帝カール5世の息子で「日の沈まぬ帝国」と呼ばれた強大なスペイン帝国の王だった。彼はカトリックを信奉し異端を迫害したため被支配地域のネーデルランド(フランドル地方含む)に住むプロテスタントは反乱を起こし始める。ヴェルディはこの時代をオペラの背景としている。

 

フィリッポ2世は2番目の妻であるイングランド女王(エリザベス1世の母親違いの姉、血まみれメアリーと呼ばれる)の死後、1559年にフランス王の娘エリザベート・ド・ヴァロワと結婚する。

 

エリザベートが息子ドン・カルロ(フィリポ2世の最初の結婚でできた子供)の許婚だったのは歴史的な事実だが、カルロは体の発達が貧弱、病気がちで精神的にも問題があったと考えられている ("Carlos of Austria (Prince of Asturias)" Wikipedia

 21:58 26 May 2020)。彼女とカルロが恋愛関係にあったという記録はない。

 

***  ***  *** ***

 

このオペラは大きく2つのテーマを扱っている。

 

一つは「政治・宗教」で、プロテスタントを弾圧するカトリック、王と宗教裁判長の権力争い、プロテスタントの地フランドルを解放しようと画策するロドリーゴの政治的な思惑などである。

 

もう一つは「個人の感情や葛藤」で、カルロとエリザベッタの許されざる愛、カルロとロドリーゴの友情、妻の愛を得られない王の悲哀、父と子の確執、エボリのカルロに対する愛と嫉妬などである。

 

ヴェルディはそれら様々な事柄を荘重な音楽で多面的、重層的に描いており、歌手はキャラクターの複雑な内面を歌唱と芝居で深く表現することが求められる。

 

***  ***  *** ***

 

ドン・カルロ:スペインの王子。情熱的だが軽はずみで視野が狭い。義理の母となったエリザベッタへの愛を抑えきれず彼女に言い寄るばかりでなく、エボリ公女をエリザベッタと間違えて愛の告白をし、自分とエリザベッタを危機に落とし入れる。

 

またフランドルを任せろと要求し拒否されると父たる帝王に剣で歯向かうなど、感情に流された未熟な行動が多い。しかし最後はロドリーゴの思いを実現するためエリザベッタへの愛を封印しフランドルへ向かおうと決心する。

 

エリザベッタ:フランスの王女でカルロの許婚だったが政略結婚でカルロの父フィリポ2世と結婚する。自分の公的な立場をわきまえており、カルロを愛しつつも王妃として彼の愛を拒絶する。

 

ロドリーゴ(ポーザ卿):カルロの親友だが、彼の最優先課題は被支配地フランドルに自由をもたらすこと。そのためにカルロを助けつつ彼を利用する。最後はフランドルの将来をカルロに託しカルロの身代わりになって死んでゆく。

 

エボリ公女:美しくわがままいっぱい。感情的でカルロに愛されず嫉妬と復讐に燃える。しかし最後は自分の高慢がエリザベッタとカルロに危機をもたらしたことを後悔し、カルロを助けようとする。

 

フィリポ2世:世界最強帝国の支配者であるが妻には愛されず子供には反抗される。しかも宗教裁判長の権力には逆えず、密かに心の友と思うロドリーゴを教会に引き渡さざるを得ない。非常に孤独。

 

宗教裁判長:限りなく冷酷な宗教界の権力者。切れ者で権力側にとって真に危険な人物はロドリーゴであることを見抜き、王を脅して彼を宗教裁判にかけ殺そうとする。


第1幕:フォンテンブローの森

 

スペイン王子カルロは自分の婚約者エリザベッタを一目見ようとこっそりとフランスへ渡り、フォンテンブローの森で彼女と出会う。彼は彼女に自らの肖像画を渡し自分が王子カルロであることを告げ、二人はあっという間に恋に落ちる。しかしその幸せも束の間、彼女の結婚相手が王子ではなく王のフィリッポ2世と告げられる。

 

彼女は平和を望む民衆の望みを受け入れ心ならずもフィリポ2世との政略結婚を承諾する。彼女とカルロの心は引き裂かれる。

 

第2幕第1場:サン・ジュスト修道院の回廊

 

カルロはエリザベッタを忘れることができず、親友のロドリーゴに禁じられた愛を告白する。ロドリーゴは驚くが、カルロの心を他に向けると共にフランドルを解放するという自らの願いを達成するため、フランドル(フィランドラ)へ向かうよう彼に勧める。王と王妃が回廊を通り過ぎてゆく中、ロドリーゴはカルロを励まし二人は友情を誓い合う。(友情の二重唱、下の動画)。しかしカルロはエリザベッタへの愛に溺れたままである。(下の動画でのアラーニャはその時のカルロの心情をよく表現している)

MET2010 Roberto AlagnaとSimon Keenlyside

二重唱のみ、修道僧達の合唱などは省く

 

CARLO

Ti seguirò, fratello.

君の忠告に従うよ、我が兄弟。

 

RODRIGO

Ascolta!

お聞きください!

 

Le porte dell’asil s’apron già;

修道院の扉が開かれています;

 

qui verranno Filippo e la Regina.

フィリッポ王と王妃がおいでになる。

 

CARLO

Elisabetta!

エリザベッタ!

 

RODRIGO

Rinfranca accanto a me lo spirto che vacilla,

私を頼りに、元気を取り戻してください、

 

serena ancora la stella tua nei cieli brilla!

あなたの星は再び空で輝くでありましょう!

 

Domanda al ciel dei forti la virtù!

天に強き者の勇気をお求めください!

 

RODRIGO e CARLO

Dio, che nell’alma infondere amor volesti e speme,

主よ、心に愛と希望を注いでくださる方、

 

desio nel core accendere tu dêi di libertà.

心に自由への憧れの炎をともされる。

 

desio accendere, 

憧れの炎をともされる、

 

accender nel cor tu dêi di libertà.

心に自由への憧れを。

 

Giuriamo insiem di vivere e di morire insieme.

我らは共に生き共に死ぬことを誓う。

 

RODRIGO

In terra, in ciel...

地にあっても、天にあっても・・・

 

RODRIGO e CARLO

congiungere ci può, ci può la tua bontà. Ah !

我らが一つに結ばれんことを、ああ!

 

Dio, che nell’alma infondere amor volesti e speme,

主よ、心に愛と希望を注いでくださる方、

 

desio nel core accendere tu dêi di libertà.

心に自由への憧れの炎をともされる。

 

desio accendere, 

憧れの炎をともされる、

 

accender nel cor tu dêi di libertà.

心に自由への憧れを。

 

RODRIGO

Vengon già.

王と王妃がいらっしゃいます。

 

CARLO

O terror!

ああ、恐ろしい。

 

Al sol vederla io tremo!

彼女を見ると震える!

 

RODRIGO

Coraggio!

しっかりしてください!

 

CARLO

Ei la fe’ sua!

彼女は彼の妻!

 

Io l’ho perduta! Io l’ho perduta! Io l’ho perduta!

僕は彼女を失った!僕は彼女を失った!僕は彼女を失った!

 

Ei sua la fe’! Ah ! Gran Dio!

彼女は彼の妻!ああ、神よ!

 

RODRIGO e CARLO

Vien presso a me, presso a me, il tuo cor più forte, più forte avrai!

私のところへおいでください、私と一緒におれば、心強くおられましょう、もっと強くなられます!

Ei sua la fe’, io l’ho perduta,ei sua la fe’ !

彼女は彼の妻、僕は彼女を失った、彼女は彼の妻!

 

RODRIGO

Vivremo insiem

共に生きましょう

 

CARLO

Vivremo insiem

共に生きよう

 

RODRIGO

e morremo insiem!

そして共に死にましょう!

 

CARLO

e morremo insiem!

そして共に死のう!

 

RODRIGOCARLO

Sarà l’estremo anelito, sarà,

最後の切なる願いは、

 

un grido, un grido: Libertà!

叫び、叫びだ:自由、と!:

 

RODRIGO

Vivremo insiem

共に生きましょう

 

CARLO

Vivremo insiem

共に生きよう

 

RODRIGO

e morremo insiem!

そして共に死にましょう!

 

CARLO

e morremo insiem!

そして共に死のう!

 

RODRIGOCARLO

grido estremo sarà:Libertà!

最後の叫びは:自由!

 

 


第2幕第2場:修道院の前庭

 

エボリ公女が楽しげに「ヴェールの歌」を歌っているとロドリーゴが現れエリザベッタに密かにカルロからの手紙を手渡す。ロドリーゴがエボリをさりげなく立ち去らせると、カルロが現れる。彼は自分を抑えきれず、エリザベッタに再び愛を訴えるが彼女は義母たる王妃として拒絶する。

 

カルロが去った後王が現れロドリーゴと会話する。ロドリーゴは王にフランドルの窮状を訴え解放を願うが聞き入れられない。しかし王は率直な彼をむしろ信頼する。そして王妃と王子の中を探るよう命令し、ロドリーゴは引き受ける。

 

第3幕第1場:噴水のある王宮の庭園

 

夜の祝宴。カルロは差出人不明の恋文をエリザベッタからきたものと思い込み庭園噴水の木の下へ行く。盲目的な愛に燃える彼はエボリをエリザベットと間違え、愛の告白をしてしまう。自分が間違えられていることに気づいたエボリは怒りに震え「カルロの命を握っているのは私だ」とロドリーゴを脅かす。

 

危険を察知したロドリーゴはカルロの持つ覚書や密書など重要な書類を自分に預けるよう促す。カルロはロドリーゴを信用し書類を渡す。

 

第3幕第2場:バリャドリッドの大聖堂の前にある大きな広場

 

異端とされた人々を火刑にするための準備は整い、民衆は広場に集まって王を称えている。そこへカルロ率いるブラバントとフランドルの代表が現れフランドルへの慈悲を王に願うが王は聞き入れず、反対に「ブラバントとフランドルを任せてくれ」と請うカルロを叱責する。

 

カルロは感情を制御しきれず、剣を抜き王に歯向かう。ロドリーゴが進み出てその剣を取り上げ、カルロは反逆者として投獄される。一方ロドリーゴは侯爵から公爵へ格上げされる。

 

火刑台の火は燃え上がり修道士たちは喜びの声をあげる。しかし天からの声は殉教する哀れな魂を慰める。

 

MET 1980 Auto-da-fé (異端判決宣告式)  Moldoveanu, Scotto, Milnes, Plishka


第4幕第1場:マドリード王宮の王の書斎

 

王は眠れずに一人書斎にいる。王は孤独感に苛まれ、「妻には愛されず、安らかな眠りは永久に得られない、眠れるのは人生を終え墓に葬られる時だろう(「ひとり寂しく眠ろう」下の動画)」と歌う。バスの有名なアリア。

MET 2010 Ferruccio Furlanetto

Ella giammai m’amò!

彼女は私を愛したことがない!

 

No, quel cor chiuso a m‘è,

そうだ、心は閉ざされている、

 

amor per me non ha, perme non ha !

私を愛したことはない、ないのだ!

 

Io la rivedo ancor

今でも思い浮かぶ

 

contemplar triste in volto

彼女の顔に浮かぶ悲しげな表情

 

il mio crin bianco il dì che qui di Francia venne.

フランスから来たりし日、我が白髪を眺めた時の顔を。

 

No, amor per me non ha!

そうだ、彼女は私を愛していない、

 

Amor per me non ha!

私を愛していない!

 

Ove son?

私はどこにいる?

 

Quei doppier presso a finir!

蝋燭の火は今にも燃え尽きそうだ!

 

L’aurora imbianca il mio veron,

暁の光がヴェランダを白く染めている、

 

già spunta il dì!

1日はすでに始まっている!

 

Passar veggo i miei giorni lenti!

我が日々はゆっくりと過ぎ去る!

 

Il sonno, o Dio,

我が眠りは、ああ主よ、

 

sparì da’ miei occhi languenti.

我が衰えた目より消え去った。

 

Dormirò sol nel manto mio regal,

王のマントにくるまり一人眠ろう、

 

quando la mia giornata è giunta a sera,

我が人生が終わる時に、

 

dormirò sol sotto la vôlta nera,

暗き天蓋の下で一人眠ろう、

 

dormirò sotto la vôlta nera,

暗き天蓋の下で眠ろう

 

là nell’avello dell’Escurial.

かのエスクリアル霊廟の中で。

 

Se il serto regal a me desse il poter di leggere nei cor

もしこの王冠が心の中を読み取る力を与えてくれたら

 

che Dio può sol, può sol veder.

神のみがなしえ、見ることのできる力を。

 

Ah! se il serto regal, a me desse il poter di leggere nei cor, 

ああ!もしこの王冠が心の中を読み取る力を与えてくれたら

 

che Dio sol può veder !

神のみがなしえ、見ることのできる力を!

 

Se dorme il prence, veglia il traditore;

王子が眠っても、裏切り者は見張っている;

 

il serto perde il re, il consorte l’onore!

王冠は王を、夫を、名誉を失うのだ!

 

Dormirò sol nel manto mio regal,

王のマントにくるまり一人眠ろう、

 

quando la mia giornata è giunta a sera,

我が人生が終わる時に、

 

dormirò sol sotto la vôlta nera,

暗き天蓋の下で一人眠ろう、

 

dormirò sotto la vôlta nera,

暗き天蓋の下で眠ろう

 

là nell’avello dell’Escurial.

かのエスクリアル霊廟の中で。

 

Ah! se il serto regal a me desse il poter di leggere nei cor

もしこの王冠が心の中を読み取る力を与えてくれたら

 

Ella giammai m’amò!

彼女は私を愛したことがない!

 

No, quel cor chiuso a m‘è,

そうだ、心は閉ざされている、

 

amor per me non ha!

私を愛したことはない!

 

amor per me non ha!

私を愛したことはない!

 

 

 

 


そこへ盲目の宗教裁判長が現れる。冷酷傲慢な彼は王子を死刑にすることを認めるばかりでなく、「カルロなど子供の遊びに過ぎない」「真に危険なのは異端で反逆者のロドリーゴである」という。王はロドリーゴを庇うが宗教をバックにした宗教裁判長には従わざるを得ない。

 

フィリッポは屈辱感にまみれ、「王座は常に祭壇に額ずくのか」と呟く。王(バス)と宗教裁判長(バス)の対決場面は迫力満点聞き応えあり。

スカラ座 2017 Ferruccio Furlanetto と Eric Halvarson 

CONTE DI LERMA (レルマ伯爵)

Il Grand’Inquisitor! 

宗教裁判長がおいでになりました!

 

L’INQUISITORE(宗教裁判長)

Son io dinanzi al Re?

わしは王の前におるか?

 

FILIPPO

Sì; vi feci chiamar, mio padre!

はい、私がお呼び致したのでございます、神父様!

 

In dubbio son.

私は迷っておりますので。

 

Carlo mi colma il cor d’una tristezza amara;

カルロは我が心を苦い悲しみで満たしております;

 

l’Infante è a me ribelle armossi contro il padre.

我が子は私に逆らい、父に剣で刃向かいました。

 

L’INQUISITORE

Qual mezzo per punir scegli tu?

どの様な罰を与えると?

 

FILIPPO

Mezzo estrem.

極刑かと。

 

L’INQUISITORE

Noto mi sia!

それは知っておる!

 

FILIPPO

Che fugga o che la scure...

追放か斬首・・・

 

L’INQUISITORE

Ebben? それで?

 

FILIPPO

Se il figlio a morte invio, m’assolve la tua mano?

もし我が子を殺した場合、私を糾弾なさるか?

 

L’INQUISITORE

La pace dell’impero i dì val d’un ribelle.

帝国の平和は反逆者の命に値する。

 

FILIPPO

Posso il figlio immolar al mondo, io cristian?

世のために我が子を犠牲にできようか、クリスチャンとして?

 

L’INQUISITORE

Per riscattarci Iddio il suo sacrificò.

我らが贖罪のために、神は我が子を犠牲にされた。

 

FILIPPO

Ma tu puoi dar vigor a legge sì severa?

しかしこの様に厳しい法を強いることができるのか?

 

L’INQUISITORE

Ovunque avrà vigor, se sul Calvario l’ebbe.

どこででもできる、カルヴァリオの丘(キリストが磔になった場所)でなされたのだから。

 

FILIPPO

La natura, l’amor tacer potranno in me?

自然の愛情が私を黙らせられるであろうか?

 

L’INQUISITORE

Tutto tacer dovrà per esaltar la fé.

信仰を強めるためには全てを黙しておらねばならぬ。

 

FILIPPO

Sta ben! よろしい!

 

L’INQUISITORE

Non vuol il Re su d’altro interrogarmi?

そのほかに王がわしに問いたいことはあるか?

 

FILIPPO

No. いいえ。

 

L’INQUISITORE

Allor son io ch’a voi parlerò, Sire.

では、わしが尋ねよう、陛下

 

Nell’ispano suol mai l’eresia dominò,

スペインの地は未だ異端が支配したことはない、

 

ma v’ha chi vuol minar l’edifizio divin.

しかし、この神殿を密かに傷つけんとする輩がおる。

 

L’amico egli è del Re,

王の友人じゃ、

 

il suo fedel compagno,

彼の忠実なる相談相手じゃ、

 

il demon tentator che lo spinge a rovina.

王を滅ぼそうとする悪魔の手先なのじゃ。

 

Di Carlo il tradimento che giunse a t’irritar,

カルロの裏切りに怒っているようだが、

 

in paragon del suo futile gioco appar.

彼に比べたらカルロなどとるに足らない遊びじゃ。

 

Ed io, l’Inquisitor, io che levai sovente

そして、吾、宗教裁判長は、しばしば

 

sopra orde vil’ di rei la mano mia possente,

人々に対し我が強権をふるってきたが、

 

pei grandi di quaggiù, scordando la mia fé

ここにおられる偉大な方は、我が信仰を忘れておる

 

tranquilli lascio andar un gran ribelle...e il Re!

わしは大反逆者・・・そして王、を勝手にさせておった!

 

FILIPPO

Per traversar i dìdolenti in cui viviamo nella mia Corte invan cercat’ho quel che bramo.

私は我が宮廷での苦しい時を乗り越えるため、私を助けうる者を虚しく望んでいました。

 

Un uomo! Un cor leal! Io lo trovai!

そして一人の男を! 誠実な心を持つ男を! 私は見つけたのです!

 

L’INQUISITORE

Perché un uomo? 男とな?

 

Perché allor il nome hai tu di Re,

それならばなぜあなたは王を名乗っておられる、

 

Sire, se alcun v’ha pari a te?

陛下、あなたと同等の者がおられると?

 

FILIPPO

Non più, frate! もう良い、神父どの!

 

L’INQUISITORE

Le idee dei novator in te son penetrate!

改革者の考えがあなたに染み込んでおりますぞ!

 

Infrangere tu vuoicon la tua debol man

あなたの弱き手で破壊しようとしておるのですぞ

 

il santo giogo estesosovra l’orbe roman!

ローマ世界に広がった聖なるくびきを!

 

Ritorna al tuo dover;

あなたの義務に立ち戻ったらいかがか;

 

la Chiesa all’uom che spera,

教会は望む者に、

 

a chi si pente, puote offrir la venia intera:

悔い改めた者に、全き赦しを与えるのですぞ:

 

A te chiedo il Signor di Posa.

ポーザ卿を引き渡していただきたい。

 

FILIPPO

No, giammai! それはならぬ!

 

L’INQUISITORE

O Re, se non foss’io con te nel regio ostel oggi stesso, io giuro a Dio,

王よ、もし今日わしがこの宮殿におらねば、神にかけて、

 

doman saresti presso il Grande Inquisitore al tribunal supremo.

あなたは明日にも宗教裁判所にて大審問官の前におったのかもしれんのですぞ。

 

FILIPPO

Frate, troppo soffrii il tuo parlar crudel!

神父様、御身の冷酷な言葉に耐えねばならぬとは!

 

L’INQUISITORE

Perché evocar allor l’ombra di Samuel?

何故サミュエルの影を呼び出す如くわしを呼び出されたのか?

 

Dato ho finor due regial regno tuo possente!

わしは強力な王国を二人の王に与えたのだ!

 

L’opra di tanti dì tu vuoi strugger, demente!

あなたはわしの長年の仕事を邪魔する!

 

Perché mi trovo io qui?

わしは何故ここにいるのじゃ?

 

Che vuol il Re da me?

王はわしに何をお望みじゃな?

 

FILIPPO

Mio padre, che tra noi la pace alberghi ancor.

神父様、我々の間には平和がございます。

 

L’INQUISITORE

La pace? 平和とな?

 

FILIPPO

Obbliar tu dêi quel ch’è passato.

過ぎ去ったことは流し去りましょう。

 

L’INQUISITORE 

Forse! まあな!

 

FILIPPO

Dunque il trono piegar dovrà sempre all’altare!

王座はいつも祭壇の前に額ずくか!

 

 

 


そこへエリザベッタが宝石箱を盗まれた、と駆け込んでくる。王は彼女の宝石箱を手にし、その中にあったカルロの肖像画を見せて彼女の不貞を糾すが、彼女は潔白を主張し気を失う。その後王と、そして何事か決心したロドリーゴは部屋を出てゆく。

 

一方エリザベッタの様子を見たエボリは良心に耐えかね、彼女が宝石箱を盗んで王に渡したこと、そして王と不倫していたことをエリザベッタに告白する。

 

最後一人になったエボリは自らの傲慢さを深く後悔しメゾの有名なアリア「呪しき我が美貌」を歌う。そして明日死刑になるはずのカルロを助けるべく部屋を飛び出してゆく。

Salzburger Ostfestspiele in 1986  Agnes Baltsa

Ah! più non vedrò,

ああ、もはや

 

ah, più mai non vedrò la Regina!

ああ、お妃様とお会いすることはない!

 

O don fatale, o don crudel,

何という宿命、残酷な贈り物、

 

che in suo furor mi fece il cielo!

天が怒りとともに私につかわしたのだ!

 

Tu che ci fai sì vane, altere,

お前は私たちを虚栄と傲慢で満たす

 

ti maledico, ti maledico, o mia beltà.

お前を呪う、お前を呪う、おお、我が美貌よ。

 

Versar, versar sol posso il pianto,

涙を流す、涙を流す、私にできるのはそれだけ、

 

speme non ho, soffrir dovrò!

望みはない、私は忍ばねばならぬ!

 

Il mio delitto è orribil tanto

我が罪は恐ろしいほど重く、

 

che cancellar mai nol potrò!

消し去ることはできない!

 

Ti maledico, ti maledico, o mia beltà!

お前を呪う、お前を呪う、おお、我が美貌よ

 

Ah! Timaledido, o mia beltà!

ああ、お前を呪う、おお、我が美貌よ

 

O mia Regina, io t’immolai

おお、王妃様、私はあなたを犠牲にした

 

al folle error di questo cor.

我が心の愚かな過ちの故に

 

Solo in un chiostro al mondo ormai 

この世に修道院のみが

 

dovrò celar il mio dolor!

我が痛みを隠せる!

 

Ohimè! Ohimè! o mia Regina,

ああ!ああ!王妃様、

 

solo in un chiostro, al mondo o mai

修道院のみが、世界で

 

dovrò celar il mio dolor!

我が痛みを隠せる!

 

Ah ! solo in un chiostro, al mondo o mai

ああ!修道院のみが、世界で

 

dovrò celar il mio dolor !

我が痛みを隠せる!

 

Oh ciel!  E Carlo?  a morte domani,

ああ、何と! カルロが? 明日死刑と、

 

gran Dio! a morte andar vedrò ! 

おお、神よ! 彼の死を見るとは!

 

Ah! un dì mi resta, la speme m’arride,

ああ!まだ1日残っている、希望がある、

 

Sia benedetto il ciel! benedetto il ciel!

天に恵みあれ!天に恵みあれ!

 

Lo salverò ! Un dì mi resta, un dì mi resta,

彼を救いだそう!1日残っている、1日残っている、

 

ah! sia benedetto il ciel!  lo salverò!

ああ!天に恵みあれ!彼を救い出そう!

 

 

 


第4幕第2場:牢獄

 

投獄されたカルロの元へロドリーゴが訪ねてくる。ロドリーゴはカルロから預かった書類を自分のものと見せかけ、自らを反逆者に仕立てたのだ。死を覚悟したロドリーゴがカルロに「フランドルの民のために生きてくれ」と頼んだところで暗殺者が彼に発砲する。ロドリーゴは今際の際に「お母上がサンジュストで待っている」と伝え息絶える。(「ロドリーゴの死」下の動画)

 

この場面はバリトン最大の見せ場で、特に撃たれた後ロドリーゴが ”Io morrò, ma lieto in core, ché potei così (serbar)”をノンブレスで一息に滑らかに歌うことができれば称賛の的となる。Dmitri Hvrostovskyがよくノンブレスで歌っていた。バリトンの息の長さを見せつけるショー的な要素もあるが、それもまた魅力の一つでカッコ良く痺れる。

トリノ 2013 Ludovic TezierとRamon Vargas

RODRIGO

Son io, mio Carlo.

私です、カルロ様

 

CARLO

O Rodrigo!

おお、ロゴリーゴ!

 

io ti son ben grato di venir di Carlo alla prigion.

牢獄にいる僕を訪ねてくれるなんてありがたい。

 

RODRIGO

Mio Carlo!

カルロ様!

 

CARLO

Ben tu il sai!

わかっているだろう!

 

m’abbandonò il vigore!

僕の力は失われた!

 

D’Isabella l’amor mi tortura e m’uccide.

イザベラへの愛は僕を苛み殺そうとしている。

 

No, più valor non ho pei viventi!

もう僕が生きる価値はない。

 

Ma tu puoi salvarli ancor;

しかし君は彼らを救える;

 

oppressi no, non fian più.

もう、彼らを抑圧してはならない、

 

RODRIGO

Ah! noto appien ti sia l’affetto mio!

ああ!あなたさまに私の思いをお知らせしたいのです!

 

Uscir tu dêi da quest’orrendo avel.

あなた様はこの恐るべき墓場からお出になることでしょう。

 

Felice ancor io son

私は幸せです

 

se abbracciarti poss’io.

あなたと抱擁できれば。

 

Io ti salvai!

あなた様をお救い申し上げました!

 

CARLO

Che di’?

何を言っている?

 

RODRIGO

Convien qui dirci,

ここで言った方がよろしいでしょう。

 

Convien qui dirci addio.

ここでお別れを言った方がよろしいでしょう。

 

O mio Carlo!

おお、カルロ様!

 

Per me giunto è il dì supremo,

私にとって最後の日がやってきました。

 

no, mai più ci rivedrem;

もう二度とお会いすることはないでしょう。

 

ci congiunga Iddio nel ciel,

神が天国で我らを再び結び付けてくれるでしょう、

 

Ei che premia i suoi fedel’.

主は忠実な者に報いてくれます。

 

Sul tuo ciglio il pianto io miro;

あなたの睫毛に涙が見えます;

 

lagrimar lagrimar così perché?

何故、泣いておられるのでしょう?

 

No, fa cor, no, fa cor,

さあ、気を取り直してください、

 

l’estremo spiro, l’estremo spiro lieto è

a chi a chi morrà per te.

あなたのために死ねるのは幸せです。

 

No, fa cor, no, fa cor,

さあ、気を取り直してください、

 

l’estremo spiro lieto è a chi morrà per te. lieto è a chi morrà per te.

あなたのために死ねるのは幸せです。

 

CARLO

Che parli tu di morte?

なぜ死ぬというのだ?

 

RODRIGO

Ascolta, il tempo stringe.

お聞きください、あまり時間がありません。

 

Rivolta ho già su me la folgore tremenda!

私は私に怒りの稲妻が落ちてくる様にいたしました!

 

Tu più non sei oggi il rival del Re:

あなた様はもはや王の敵ではございません:

 

il fiero agitator delle Fiandre... son io!

フランドルの凶暴な扇動者は・・・私です!

 

CARLO

Chi potrà prestar fé?

誰が信用するか?

 

RODRIGO

Le prove son tremende!

とてつもない証拠です!

 

I fogli tuoi trovati in mio poter

あなたの書類が私のところで見つかったのです

 

della ribellion testimoni son chiari,

反乱の証拠は明白です、

 

e questo capo al certo a prezzo è messo già.

そしてこの首にはすでに懸賞金がかけられています。

 

CARLO

Svelar vo’ tutto al Re.

王に全てを明らかにしたい。

 

RODRIGO

No, ti serba alla Fiandra,

いいえ、フランドルのために御自制を、

 

ti serba alla grand’opra,

大いなる仕事のために御自制を、

 

tu la dovrai compire;

あなた様が成し遂げねばならぬのです;

 

un nuovo secol d’ôr rinascer tu farai;

あなた様が新たに光り輝く時代を導くのです;

 

regnare tu dovevi, ed io morir per te.

あなた様が統治し、私はあなた様のために死ぬのです。

 

(ロドリーゴが撃たれる)

 

CARLO

Ciel, la morte! per chi mai?

なんと、死んでしまった! 誰を狙ったのか?

 

RODRIGO

Per me! la vendetta del Re

私です!王の復讐です

 

tardare non potea!

素早い!

 

CARLO

Gran Dio!

なんと言うこと!

 

RODRIGO

O Carlo, ascolta, la madre

お聞きください、カルロ様、お母上が

 

t’aspetta a San Giusto doman;

明日サンジュストであなた様をお待ちしています;

 

tutto ella sa.

母上は全てご存知です。

 

Ah! la terra mi manca!

ああ!私はこの地から去るのだ!

 

Carlo mio, a me porgi la man!

カルロ様、お手を!

 

Io morrò, ma lieto in core,

私は死にますが幸せです、

 

ché potei così serbar alla Spagna un salvatore!

スペインの救世主をお助けすることができたのですから!

 

Ah! di me non ti scordar!

ああ!私をお忘れくださるな!

 

Di me non ti scordar!

私をお忘れくださるな!

 

Regnare tu dovevi, ed io morir per te.

あなたが支配なさらねば、そして私はあなた様のために死ぬのです。

 

Ah! io morrò, ma lieto in core,

ああ!私は死にますが幸せです、

 

ché potei così serbar alla Spagna un salvatore!

スペインの救世主をお助けすることができたのですから!

 

Ah! di me non ti scordar!

ああ!私をお忘れくださるな!

 

Ah! la terra mi manca...

ああ!私はこの地から去るのだ!

 

la mano a me, a me...

私に、私にお手を・・・

 

Ah! salva la Fiandra...

ああ!フランドルをお救いください・・・

 

Carlo, addio,...ah! ah!

カルロ様、さらば・・・ああ!ああ!

 

 

 


カルロは詫びる王に「あなたに息子はもういない」と王を拒否する。そこに民衆が激怒して押しかけてくるが宗教裁判長の威光でその場はおさまる。騒動に乗じてエボリはカルロを逃す。

 

第5幕:サン・ジュストの修道院

 

エリザベッタはカール5世の霊廟を前に自らの苦しみ、カルロとの別れを語り、フォンテンブローでのたった1日だけの幸福を懐かしく思い起こし、その愛への決別を歌う「世の虚しさを知る神」。これも有名なソプラノのアリアである。

バイエルン歌劇場 2012 Anja Harteros

Tu che le vanità conoscesti del mondo

世の虚しさを知るあなたは

 

e godi nell’avel il riposo profondo,

廟の中で深い眠りについておられる

 

s’ancor si piange in cielo,

もし天国で涙を流されるのなら

 

piangi sul mio dolore,

私の苦しみのためにお泣きください

 

e porta il pianto mio al trono del Signor,

そして私の涙を主の元へとお運びください、

 

il pianto mio porta al trono del Signor.

我が涙を主の元へお運びください。

 

Carlo qui verrà! Sì!

カルロがここへきます!そう!

 

Che parta e scordi omai.

彼を去らせ今私を忘れさせねば。

 

A Posa di vegliar

ポーザに

 

sui giorni suoi giurai.

誓ったのです。

 

Ei segua il suo destin,

彼の行末を見守ると、

 

la gloria il traccerà.

彼は輝かしい栄光に包まれるでしょう。

 

Per me, la mia giornata

我が人生は

 

a sera è giunta già!

すでに黄昏を迎えている!

 

Francia, nobile suol,

フランスよ、崇高な地よ、

 

sì caro a’ miei verd’anni!

そう、愛しき我が若かりし日々よ!

 

Fontainebleau!

フォンテンブロー!

 

vêr voi schiude il pensier i vanni.

我が想いはお前へと飛んでゆく。

 

Eterno giuro d’amore

永遠の愛を誓い

 

là Dio da me ascoltò,

主は私の言葉をお聞きになった、

 

e quest’eternità un giorno sol durò.

その永遠はたった1日で終わってしまったけれど。

 

Tra voi, vaghi giardin di questa terra ibéra,

イベリアのこの地にある庭、お前たちのところへ、

 

se Carlo ancor dovrà

カルロがもし

 

fermar i passi a sera,

夕暮れにこの地に歩みを止めるなら、

 

che le zolle, i ruscelli, i fonti, i boschi,

土、小川、泉、森、

 

i fior con le lor armonie

そして花々も声を合わせて

 

cantino il nostro amor.

我らが愛を歌っておくれ。

 

Addio! Addio, bei sogni d’ôr,

さらば!さらば、黄金の夢よ、

 

illusione perduta!

失われた幻影よ!

 

Il nodo si spezzò,

絆は断ち切られ、

 

la luce, la luce è fatta muta!

光は、光は失われた!

 

Addio! addio verd’anni ancor!

さらば! さらば若かりし日々よ!

 

Cedendo al duol crudel,

無慈悲な苦しみに屈服し、

 

il cor ha un sol desir:

我が心にはただ一つの願いしかない:

 

la pace dell’avel!

墓の中での平和!

 

Tu che le vanità conoscesti del mondo

世の虚しさを知るあなたは

 

e godi nell’avel il riposo profondo,

廟の中で深い眠りについておられる

 

s’ancor si piange in cielo,

もし天国で涙を流されるのなら

 

piangi sul mio dolore,

私の苦しみのためにお泣きください

 

e porta il pianto mio

そして私の涙を

 

al trono del Signor,

主の元へとお運びください、

 

il pianto mio

我が涙を

 

porta al trono del Signor.

主の元へお運びください。

 

il pianto mio

我が涙を

 

porta al trono del Signor.

主の元へお運びください。

 

se ancor si piange, 

もし涙を流されるのなら

 

si piange in cielo, 

天国で涙を流されるのなら

 

Ah il pianto mio

我が涙を

 

reca a’piè del Signor.

主の足元へお運びください。

 

 

 


そこにカルロが現れる。彼女は彼にロドリーゴの思いを受け継いでフランドルへ出立するよう勧める。精神的に成長したカルロはそれを受け入れ、エリザベッタを初めて(自分の恋人としてではなく)「母上」と呼ぶ。エリザベッタもカルロを「我が息子」と呼んでお互い永遠の別れを惜しむ。

 

そこへフィリッポと宗教裁判長が現れカルロを逮捕しようとするが、霊廟からカール5世の亡霊が現れカルロを霊廟に引き込んだところで幕が下りる。下の動画はファイナル場面。

バイエルン歌劇場 2012 Harteros, Kaufmann, Pape

CARLO

È dessa! あの人だ!

 

ELISABETTA

Un detto, un sol; 一言だけ;

 

al ciel io raccomando il pellegrin che parte;

去りゆく巡礼者を天に委ねます;

 

e poi sol vi domando e l’obblio e la vita.

そして一つだけお願いです、私を忘れて生きてください。

 

CARLO

Sì, forte esser vogl’io;

そう、私も強くなりたい;

 

ma quando è infranto amore

しかし愛が砕け散ると、

 

pria della morte uccide.

それは死より確実に私を死に至らしめます。

 

ELISABETTA

No, pensate a Rodrigo.

いいえ、ロドリーゴのことをお考えなさい。

 

Non è per folli idee ch’ei si sacrificò!

彼はそのような愚かしい考えのために我が身を犠牲にしたのではないのです!

 

CARLO

Sulla terra fiamminga, io vo’ che a lui s’innalzi sublime, eccelso avel

フランドルの地に行き、彼のために崇高な墓を建てましょう

 

qual mai ne ottenne un re, tanto nobil e bel.

どんな王も持ったことのない壮大で美しい墓を。

 

ELISABETTA

I fior del paradiso a lui sorrideranno!

天国の花々が彼に微笑みかけることでしょう!

 

CARLO

Vago sogno m’arrise! ei sparve!

私は夢を見ていました!しかしその夢は消えました!

 

e nell’affanno un rogo appar a me che spinge vampe al ciel.

そして苦悶する私には、燃え立つ炎と火刑柱が見えます。

 

Di sangue tinto un rio, resi i campi un avel,

血に染まった川、墓場の如き野、

 

un popolo che muor e a me la man protende,

死にゆく人々は私に手を差し出します、

 

siccome a Redentor, nei dì della sventura!

苦しい日々の中、私を救い主として!

 

A lui n’andrò beato, se spento o vincitor,

私は喜んで彼らの所へ参りましょう、死のうが勝とうが、

 

plauso o pianto m’avrò dal tuo memore cor!

あなたが私を称賛し、または涙を流してくださるならば!

 

ELISABETTA

Sì, l’eroismo è questo e la sua sacra fiamma!

そう、それでこそ英雄です、尊い情熱です!

 

L’amor degno di noi, l’amor che i forti infiamma!

私たちの愛にふさわしい、その情熱の炎は英雄が灯したのです!

 

Ei fa dell’uomo un Dio!

それでこそ男です!

 

Va, di più non tardar! Va,

行ってください、急いで!行って、

 

va, va! Sali il Calvario e salva un popolo che muor!

行って、行って!その地に行き死に瀕した人々を救ってください!

 

CARLO

Sì, con la voce tua quella gente m’appella...

ああ、あなたの声を通して人々が私に呼びかけている・・・

 

ELISABETTA

Il popol salva!

人々を助けて!

 

CARLO

...e se morrò per lei, la mia morte fia bella.

・・・そして彼らのために死ぬのなら、私の死は美しいものとなるでしょう。

 

ELISABETTA

Va, va di più non tardar!

行って、急いで行ってください!

 

CARLO

Sì, mia morte fia bella!

はい、私の死は美しいものとなるでしょう!

 

ELISABETTA

Va, di più non tardar...

行って、急いで・・・

 

ELISABETTA CARLO

e salva un popol che muore.

死にかけている人々を救ってください!

La mia morte fia bella! 

私の死は美しいものとなるでしょう!

 

CARLO

Ma pria di questo dì, alcun poter uman

しかしその日まで、人間の力で

 

disgiunta non avria la mia dalla tua man!

我が手とあなたの手を引き離すことはできない!

 

Ma vinto in sì gran dì l’onor ha in me l’amore;

しかしこの素晴らしい日に、私が心は愛を克服することができました。

 

impresa a questa par rinnova e mente e core!

このような大胆な企ては私の心を新たにします!

 

Non vedi, Elisabetta!

お分かりになりますね、エリザベッタ!

 

Io ti stringo al mio sen,

あなたを我が胸に抱いても、

 

né mia virtù vacilla, né ad essa mancherò!

我が心は揺らぎません、強いままです!

 

Or che tutto finì e la man io ritiro dalla tua man...

今全てが終わりました、私の手からあなたの手を離しましょう・・・

 

tu piangi?

泣いておられますか?

 

ELISABETTA

Sì piango, ma t’ammiro.

はい、泣いております、しかし私はあなた様を賞賛いたします。

 

Il pianto gli è dell’alma, e veder tu lo puoi

この涙は我が心からのもの、そしてあなたにはお分かりになりますね

 

qual san pianto versar le donne per gli eroi!

この涙は女が英雄に流す涙なのです!

 

Ma lassù ci vedremo in un mondo migliore,

私たちは天上のより良い世界で再びお会い致しましょう、

 

dell’avvenir eterno suonan per noi già l’ore;

そこでは終わりのない未来が始まるのです;

 

e là noi troverem nel grembo del Signor

そして主の懐に抱かれて、私たちは見出すのです

 

il sospirato ben, il sospirato ben che fugge in terra ognor!

私たちが憧れる、憧れるこの地では得られない幸せを!

 

CARLO ELISABETTA 

Ma lassù ci vedremo 

Ma lassù ci vedremo 

天上で再びお会い致しましょう、

 

in un mondo migliore, 

in un mondo migliore,

より良い世界で、

 

dell’avvenir eterno 

dell eterno avvenir 

suonan per noi già l’ore; 

suonan già per noi l’ore

そこでは終わりのない未来が始まるのです;

 

e là noi troverem 

e là noi troverem 

stretti insiem nel Signor 

stretti insiem 

e noi là troverem 

nel Signor 

stretti insiem nel Signor

そして主の懐に抱かれて、私たちは見出すのです

 

il sospirato ben, il sosospirato ben che fugge in terra ognor!

il sosospirato ben che fugge in terra ognor!

私たちが憧れる、私たちが憧れるこの地では得られない幸せを!

 

ELISABETTA

In tal dì che per noi non avrà più domani...

もう明日という日はありません・・・

 

CARLO e ELISABETTA

...tutti i nomi scordiam degli affetti profani, 

この世の愛を忘れましょう

 

ogni nome scordiam

tutti i nomi scordiam  

全て忘れましょう 

 

degli affetti profani  

degli affetti profani

この世の愛を  

 

CARLO

Addio, mia madre! さようなら、母上様!

 

ELISABETTA

Mio figlio, addio! 我が息子よ、さようなら!

 

CARLO e ELISABETTA

Eterno addio! 

 

Eterno addio! 

 

addio! 

addio! 

さようなら!

 

CARLO

Per sempre addio!

永遠にさようなら!

 

CARLO e ELISABETTA

Per sempre addio! Per sempre!

永遠にさようなら!永遠に!

 

FILIPPO

Sì, per sempre!  そうだ、永遠に、だ!

 

Io voglio un doppio sacrifizio!

二重の犠牲を払ってもらいたい!

 

Il dover mio farò. 

わしは我が勤めを果たすぞ。

 

Ma voi?  

して、あなたは?

 

宗教裁判長

Il Santo Uffizio il suo farà.

宗教裁判所も勤めを果たしますぞ。

 

ELISABETTA

Ciel!  主よ!

 

宗教裁判長

Guardie!  護衛!

 

CARLO

Dio mi vendicherà!  

神が私の仇を取ってくれるだろう!

 

il tribunal di sangue sua mano spezzerà!

血塗られた裁判所は神によって打ち砕かれよう!

 

修道士(カール5世)

Il duolo della terra nel chiostro ancor ci segue,

この世の悲しみは我々にさえ付き纏う。

 

solo del cor la guerra in ciel si calmerà.

この戦いは天国でしか鎮められない。

 

宗教裁判長

È la voce di Carlo! カルロ皇帝の声だ!

 

宗教裁判所の人々

È Carlo Quinto!  カルロ五世だ!

 

FILIPPO

Mio padre!  我が父だと!

 

ELISABETTA

Oh ciel!  ああ主よ!

 


(2020.07.26 wrote) オペラ解説に戻る