オペラ解説:「ラ・ボエーム」“La Bohème” ジャコモ・プッチーニ作曲

1896年初演時のポスター(Adolfo Hohenstein)

"La Bohème (1896)" by Susanlenox 

オペラ全曲、日本語字幕付き


 

このオペラの作曲は曰く付きです。「道化師」の作曲者レオンカヴァッロは自ら「ボエーム」の台本を書き、一緒にオペラを作曲しようとプッチーニに持ちかけたのですが、プッチーニが断わったので自分でオペラを作曲しました。

 

しかしプッチーニは優秀な台本作家ジャコーザとイッリカが書いた台本で「ボエーム」を作曲し、レオンカヴァッロの「ボエーム」より先に上演してしまいました。レオンカヴァッロは大いに怒り、二人の中はひどく悪くなったそうです。

 

しかし現在、レオンカヴァッロの「ボエーム」はほとんど演奏されることなく、一方プッチーニの「ボエーム」は世界中の歌劇場で頻繁に上演され、世界で最も人気があるオペラの一つとなりました。

 

*** *** *** *** 

 

「ラ・ボエーム」の舞台は1830年代パリ。自由奔放な生き方をする芸術家気質の人々をボヘミアンと呼びますが、貧乏暮らしのボヘミアン男子4人と彼らの恋人達が織りなす甘くて苦い青春群像物語です。

 

ボヘミアン男子達は少なくとも芸術家を自称できる程の教養を身に付けられる家庭に育ったのでしょう。彼らの才能がどの程度のものか極めて怪しいけれど、若さだけが取り柄で元気いっぱい。その言動は夢想的で子供っぽく、仰々しく、しかも無責任で、現実的な生活感はありません。第4幕の悲劇的な場面でさえ哲学者コッリーネの言葉は大仰で、悲劇の中にあっても誇大な物言いをせずにはいられない気負った若さを感じさせます(「外套の歌」)。

 

対してミミやムゼッタは自分しか頼れない厳しい現実世界に生きています。19世紀の初頭、貧しく若い娘にまともな職はありませんでした。下層階級出身で無教養な若い女の子の職業といえばお針子と売春婦くらい。パトロンを持つ売春婦まがいのお針子も多かった。実際ミミにもムゼッタにも一時金持ちのパトロンがいましたし…。

 

ただ彼女らは当時の中・上層階級に属する娘のように家や道徳に縛り付けられていません。生きるのにカツカツの貧しい暮らしではあるけれど気楽に男性と付き合う自由があり、素敵な男性と恋愛したい、と願う娘も多かったでしょう (第2幕 「私が街を歩けば」)。

 

通称ミミ(キャバレーで働く女達のような雰囲気のするあだ名です)と呼ばれるルチアもそのような女性達の一人で、もちろん歌手のムゼッタも似たようなもの。

 

このような状況でミミとルドルフォが恋に落ちるのは当然の成り行きかもしれません(第1幕 「冷たい手を」「私の名はミミ」「二重唱 愛らしい乙女よ」)。しかしミミは肺病を病んでいて、貧乏暮らしの中でどんどん病状が悪化してゆきます。生活能力のないルドルフォは何もできない自分を直視することに耐えられず、むしろ彼女から逃げてしまいます。

 

ミミはルドルフォよりも遥かに現実を直視しているし、夢想家で無力なルドルフォの心理もよく理解しています。後ろ髪を引かれる想いを歌って自ら身を引きます(「第3幕「あなたの愛の声に呼ばれて」) 。しかしミミの病状は重くなり、瀕死状態になっているところをムゼッタに助けられ、再びルドルフォ達の住む屋根裏部屋に戻ります。そして愛するルドルフォと暖かく善良な友人たちに見守られながら息絶えます。

 

オペラ「ボエーム」が描くのは我々と等身大の若者達の青春時代の一コマ。彼らの喜びと悲しみは時代を超えて人々の心に素直に染み込みます。それがこのオペラの人気の秘密かもしれません。


第1幕: 1830年くらい。パリの屋根裏部屋、クリスマスイブ

 

詩人ロドルフォと画家マルチェッロ、哲学者コッリーネ、音楽家ショナールはパリの屋根裏部屋でいつものように騒いでいる。家賃を取り立てに来た家主もうまく言いくるめて追い出してしまう。今日はクリスマスイブ。彼らはカフェ・モミュスに出かけようと計画するが、ルドルフォは書きかけの原稿を仕上げるために一人残る。

 

そこへお針子のミミが火を借りにくるが、気分が悪くなって倒れてしまう。ルドルフォに介抱され気分が良くなったミミは部屋を去ろうとするが鍵をなくしたことに気づく。しかし二人の持つ火が両方とも消えてしまい、二人は暗闇の中で鍵を探す。

 

ルドルフォは鍵を見つけるがそれを隠し、ミミの手をとって自己紹介する(「冷たい手を」)。それに答えてミミも自己紹介する(「私の名はミミ」)。会ったばかりだが恋に落ちた二人は(愛の二重唱「愛らしい乙女よ」)手に手を取って友達の待つカフェ・モミュスに出かけて行く。

 

ルドルフォとミミ役で最も愛されたカップルといえば、ルチアーノ・パヴァロッティとミルレラ・フレーニでしょう。彼ら二人は同い年でイタリアのモデナ出身。幼なじみで、同じ乳母にお乳をもらって育ったと言うのは有名な逸話です。下の動画、「愛の二重唱」を歌ったとき彼らは61歳でこの歌いぶり!フレーニさんも2020年2月にお亡くなりになりましたねえ。

第1幕「冷たい手を」 Pavarotti サンフランシスコオペラ  1987

RODOLFO

Che gelida manina!

あなたの手はなんて冷たいのでしょう!

 

Se la lasci riscaldar.

温めさせてください。

 

Cercar che giova? Al buio non si trova.

探してもしょうがないでしょ?こんな暗いところでは。

 

Ma per fortuna è una notte di luna,

だけどありがたいことに今夜は月夜です

 

e qui la luna l'abbiamo vicina.

そして月は僕たちの近くにいるのです。

 

Aspetti, signorina,

ちょっと待ってください、お嬢さん。

 

le dirò con due parole

言いたいことがあります。

 

chi son, chi son, e che faccio, come vivo. 

僕が誰か、僕が誰か、そして僕が何をしていてどう暮らしているか。

 

Vuole? 聞きたいですか?

 

Chi son? Chi son?  Sono un poeta.

僕は誰か?僕は誰? 僕は詩人です。

 

Che cosa faccio? Scrivo.

何をしているかって? 書いているんですよ。

 

E come vivo? Vivo.

で、どう生きているかって? 生きているんです。

 

In povertà mia lieta

貧しいけど幸せです

 

scialo da gran signore

王子様みたいに御大層に浪費しているのですよ

 

rime ed inni d'amore.

愛の詩と歌を。

 

Per sogni, per chimere e per castelli in aria

夢と空想と空中のお城の中で

 

l'anima ho milionaria.

僕の心は百万長者です。

 

Talor dal mio forziere

だけれど時々私の大切な箱の中から

 

ruban tutti i gioielli

宝を全部盗んでしまうのです

 

due ladri: gli occhi belli.

二人の泥棒:二つの可愛い目が。

 

V'entrar con voi pur ora

今あなたと一緒に入ってきて

 

ed i miei sogni usati

僕の夢の全てを

 

e i bei sogni miei

そして僕の昔の夢を

 

tosto si dileguar !

盗んでしまいました。

 

Ma il furto non m'accora,

だけど僕は残念には思いません。

 

poiché poiché v’ha preso stanza la speranza!

だって空になった場所には希望が入ってきたからです!

 

Or che mi conoscete,

さて 僕のことは分かったでしょう、

 

parlate voi, deh! parlate! Chi siete?

あなたの番ですよ、あなたが話すのですよ!あなたは誰か。

 

Vi piaccia dir?

話してくださいますか?


第1幕「私の名はミミ」Freni & Gianni Raimondi  スカラ座 1965

MIMÌ

Sì. Mi chiamano Mimì,

ええ、私はミミと呼ばれています。

 

ma il mio nome è Lucia.

私の(本当の)名前はルチアなのですけれど。

 

La storia mia è breve.

私の話は短いの。

 

A tela o a seta ricamo in casa e fuori...

家や外で麻や絹の刺繍をしています。

 

Son tranquilla e lieta,

穏やかに幸せに暮らしています、

 

ed è mio svago far gigli e rose.

そして私の楽しみはゆりやバラを作ること。

 

Mi piaccion quelle cose

私はこんなものが好きなのよ

 

che han sì dolce malìa,

甘い魅力を持ち、

 

che parlano d'amor, di primavere,

愛や春を語り、

 

che parlano di sogni e di chimere,

夢や魅惑的なものを語る、

 

quelle cose che han nome poesia...

詩と呼ばれるものが…

 

Lei m'intende?

お分かり頂けて?

 

RODOLFO  

Si. ええ、わかりますよ。

 

MIMÌ

Mi chiamano Mimì,

私はミミと呼ばれています、

 

il perché non so.

どうしてかしらね。

 

Sola, mi fo il pranzo da me stessa.

一人だけで昼食をとります。

 

Non vado sempre a messa,

頻繁に教会へ行くわけではないけれど、

 

ma prego assai il Signore.

神様にはいつもお祈りしています。

 

Vivo sola, soletta

一人で、たった一人で生きているの。

 

là in una bianca cameretta:

あそこの白い部屋で:

 

guardo sui tetti e in cielo;

屋根や空を眺めているのよ。

 

ma quando vien lo sgelo

だけど雪の溶ける頃

 

il primo sole è mio,

最初のお日様は私のもの、

 

il primo bacio dell'aprile è mio!

4月のファーストキスは私のものよ!

 

il primo sole è mio !

最初のお日様は私のもの!

 

Germoglia in un vaso una rosa...

鉢の薔薇の芽が出て

 

Foglia a foglia la spio!

葉が開いてきます!

 

Cosi gentile il profumo d'un fiore!

なんて優しい花の香りでしょう!

 

Ma i fior ch'io faccio, ahimè! 

だけど、私が作る花は、ああ!

 

i fior ch’io faccio, ahimè, non hanno odore!

私が作る花は、ああ、匂いがないのです!

 

Altro di me non le saprei narrare :

他に私の話はないわ:

 

Sono la sua vicina che la vien fuori d'ora a importunare.

私は迷惑な時間におじゃまするあなたのお隣さんよ。

 


第1幕、愛の二重唱 Pavarotti & Freni トリノ 1996

RODOLFO

O soave fanciulla, o dolce viso

おお 愛らしい乙女よ、その甘美な顔

 

di mite circonfuso alba lunar in te, 

柔らかい月の光を浴びて、

 

ravviso il sogno ch'io vorrei sempre sognar!

いつも僕が夢見た夢が君にあるのだ!

 

RODOLFO& MIMÌ 

Fremon già nell'anima

僕の心はすでに震えている

Ah! tu sol comandi, amor!...

ああ!愛が全て!

 

RODOLFO

le dolcezze estreme,

優しさの極みに、

 

MIMÌ

tu sol comandi, amor!

愛が全て!

 

RODOLFO

fremon nell'anima

僕の心は震え

 

RODOLFOMIMÌ 

dolcezze estreme, fremon dolcezze estreme,

優しさの極み、甘美な思いに震え、

Oh! come dolci scendono le sue lusinghe al core...

おお!彼の言葉はなんて甘く心に染み入るのでしょう…

 

nel bacio freme amor!

僕らのキスで愛に震える!

tu sol comandi, amore!...

愛が全て!

 

MIMÌ

No, per pietà!

あら、いけませんわ!

 

RODOLFO

Sei mia!

君は僕のものだ!

 

MIMÌ

V'aspettan gli amici...

お友達が待っているわ…

 

RODOLFO

Già mi mandi via?

もう僕を追っ払うの?

 

MIMÌ

Vorrei dir... ma non oso... あの、私は…

 

RODOLFO

Di’ 言ってみて

 

MIMÌ

Se venissi con voi?

ご一緒していいかしら?

 

RODOLFO

Che?... Mimì? え?ミミ?

 

Sarebbe così dolce restar qui.

ここにいた方が良くないかい。

 

C'è freddo fuori.

外は寒いよ。

 

MIMÌ

Vi starò vicina!...

あなたがいらっしゃるもの!

 

RODOLFO

E al ritorno? で、戻ったら?

 

MIMÌ

Curioso!  知りたがるのね!

 

RODOLFO

Dammi il braccio, mia piccina.

お嬢様、お手をどうぞ。

 

MIMÌ

Obbedisco, signor!

よしなに、旦那様!

 

RODOLFO

Che m'ami di'...

僕に愛していると言ってよ!

 

MIMÌ

Io t'amo!

愛してるわ!

 

RODOLFOMIMÌ 

Amor! Amor! Amor! 愛!愛!愛!


 

第2幕:クリスマスイブ、カルチェラタンの通り

 

今夜はクリスマスイブ。カルチェラタンの通りは芸人や物売りなどで大混雑している。ルドルフォはミミに薔薇色のボンネット(クフィエット)を買ってやり、マルチェッロらとカフェ・モミュスで合流する。

 

そこにパトロン、アルチンドロをお供に連れたマルチェッロの元恋人、ムゼッタがやってくる。マルチェッロに未練のある彼女は「私が街を歩けば」を歌って彼を挑発し、結局マルチェッロとムゼッタはよりを戻す。

 

第2幕、「私が街を歩くと」Aida Garifullina ウイーン歌劇場 2014

灰色で書いたセリフはムゼッタの背後で歌われている部分。

 

MUSETTA

Quando me'n vo'… 

私が歩くと… 

 

quando me'n vo' soletta per la via,

私が一人で街を歩くと

 

la gente sosta e mira,

人々は立ち止まるの、

 

e la bellezza mia…

私の美しさに見惚れて…

 

tutta ricerca in me,

私をじっと見るの、

 

ricerca in me da capo a piè.

頭から足の先まで。

 

MARCELLO

Legatemi alla seggiola!

僕を椅子に縛り付けてくれ!

 

ALCINDORO

Quella gente che dirà?

みんなはなんていうだろう?

 

MUSETTA

Ed assaporo allor 

そして味わうのよ

 

la bramosia sottil che dagli occhi traspira

(人々の)視線から溢れ出る熱い欲望を

 

e dai palesi vezzi intender sa…

そして私の外見の素晴らしさから…

 

alle occulte beltà.

私の秘められた美しさを想像するのよ。

 

Cosi l'effluvio del desio tutta m'aggira.

欲望が私を囲みほとばしるの。

 

Felice mi fa, felice mi fa

楽しいわ、楽しいわ。

 

ALCINDRO

Quel canto scurrile Mi muove la bile ! Mi muove la bile !

この下卑た歌は俺を猛烈に怒らせる!

 

MUSETTA

E tu che sai, che memori e ti struggi,

そしてあなたは分かっている、私を思い出して苦しんでいることを、

 

MIMI

Io vedo ben…Che quella poveretta

よくわかるわ…可哀想な人

 

MUSETTA

da me tanto rifuggi?

どうやったら私から逃げられる?

 

MIMÌ

tutta invaghita ell'è!

彼女は首ったけよ!

 

MUSETTA

So ben: le angoscie tue

私はよく知っているわ:あなたの苦しみを

 

non le vuoi dir,

あなたは言いたくないんでしょ、

 

MIMÌ

tutta invaghita di Marcello, tutta invaghita ell'è!

彼女はマルチェロに首ったけよ!彼女は首ったけよ!

 

MUSETTA

Non le vuoi dir, so ben... 

あなたは言いたくないんでしょ、私はよく知っているわ...

 

ma ti senti morir.

死にそうなほど思っているんでしょ。


ムゼッタはアルチンドロを体良く追い払い、彼らの勘定書をアルチンドロに押し付けてその場から逃げ出す。

 

 

第3幕:翌年2月の明け方 アンフォアールの関所

 

関所の近くの居酒屋でマルチェッロは看板を描き、ムゼッタは歌を教えている。寒さの中、近隣から来た清掃者達や牛乳売りの女達、農婦らが関所を通って行く。

 

そこにミミがマルチェッロを訪ねてくる。彼女はルドルフォが不機嫌で「もう終わりだ」と怒鳴り部屋を出ていった、と彼に語り助けを求める。マルチェッロは明け方に居酒屋に飛び込んできたルドルフォに事情を聞く、と言いミミは物陰に隠れる。

 

ルドルフォはミミの病が重いこと、しかし自分にはどうにもできない苦しみをマルチェッロに語る。物陰に隠れ彼の話を聞いていたミミは自分の命が長くないことを悟る。そしてルドルフォを煩わせないよう、自ら別れを申し出る。

 

「さようなら、恨みっこなし。部屋の中のものは後から門番に取りに行ってもらいます。でも(あなたが買ってくれた)あの薔薇色のボンネットは私たちの愛の記念に取っておいてね」と、切々たる思いを込めて「あなたの愛の声に呼ばれて」を歌う。

 

第3幕、「あなたの愛の声に呼ばれて」Sonya Yoncheva, Charles Castronovo ROH 

MIMÌ

Addio… さようなら…

 

RUDOLFO

Che! vai ?  なんだって!行くって?

 

MIMÌ

D'onde lieta usci al tuo grido d'amore 

あなたの愛の呼び声が嬉しくて出てきたけれど

 

torna sola Mimì.

ミミは一人で帰ります。

 

Al solitario nido

孤独なあの場所へ

 

ritorna un'altra volta

もう一度帰ります

 

a intesser finti fior.

偽の花々を織るために。

 

Addio senza rancor.

さようなら 恨みっこなしね。

 

- Ascolta, ascolta.

―ねえ聞いて頂戴。

 

Le poche robe aduna che lasciai sparse.

私が置きっぱなしにしたものが少しあるのよ。

 

Nel mio cassetto

私の戸棚の中に

 

stan chiusi quel cerchietto d'or

金の腕輪と

 

e il libro di preghiere.

お祈りの本があるの。

 

Involgi tutto quanto in un grembiale

全部エプロンに包んで頂戴。

 

e manderò il portiere...

あとで門番を遣しますから…

 

Bada, sotto il guanciale

そうだわ、枕の下に

 

c'è la cuffietta rosa.

薔薇色のボンネットがあるの。

 

Se vuoi...se vuoi... se vuoi

もしよければ…、もしよければ…  もしよければ

 

serbarla a ricordo d'amor...

私たちの愛の記念にとっておいてください…

 

Addio, senza rancor.

さようなら、恨みっこなしね。


ミミとルドルフォが話している間にムゼットとマルチェッロは些細なことから大喧嘩をして別れることになる。この二人のののしり合い・・・・・をバックにミミとルドルフォは「花の咲く時期に別れましょう」と叙情的に歌い、対照的な2組の男女の4重唱となって第3幕が終わる。

 

 

第4幕:何ヶ月か後、屋根裏部屋

 

再び以前の屋根裏部屋。ルドルフォとマルチェッロはそれぞれの仕事をしているが、両方とも昔の恋人を思い仕事に身が入らない。そこへコッリーネやショナールがやってきていつもの大騒ぎをしているところにムゼッタがやってくる。

 

ムゼッタは今にも死にそうなミミを道で見つけ屋根裏部屋まで連れてきたのだ。仲間達は彼らにできる限りのことをする。ムゼッタは医者をよび、寒がるミミのために暖かいマフを取りにゆく。コッリーネは金を作るため自分の古い外套を質に出しに行く(「外套の歌」)。そして仲間はミミとルドルフォを二人きりにしてやる。

 

第4幕、外套の歌、Jongmin Park ウイーン歌劇場 2014

COLLINE

Vecchia zimarra, senti,

我が尊き古コートよ、

 

Io resto al pian,

私はここに残るが、

 

tu ascendere il sacro monte or devi.

お前は高みへ登るのだ。

 

Le mie grazie ricevi.

私の感謝を受けておくれ。

 

Mai non curvasti il logoro

お前は決して屈することはなかった

 

dorso ai ricchi ed ai potenti.

金持ちや権力者に。

 

Passar nelle tue tasche come in antri tranquilli

穏やかな洞窟のようなお前のポケットを通り過ぎて行ったのは

 

filosofi e poeti.

哲学者や詩人達だった。

 

Ora che i giorni lieti fuggir,

今や幸せな日々は過ぎ去り、

 

ti dico addio,

私はお前に別れを告げる、

 

fedele amico mio. Addio. Addio.

忠実なる友よ。さらば。さらば。

 


 

ルドルフォとミミは昔の愛の日々を思い出し、ミミは彼への深い愛を語る。ルドルフォは薔薇色のボンネットを取り出し、ミミは「初めてあったときあなたがすぐに鍵を見つけたのを知っていたわ」と喋り、深い眠りにつく…しばしの沈黙の後ミミの死を暗示するようにオーケストラが一瞬鳴る。

 

ミミの死を知ったルドルフォが悲痛な叫びを上げ、マルチェッロは彼を抱いて「しっかりしろ!」と叫んだところで幕が下りる。

 

(2020.10.19 wrote) オペラ解説に戻る