オペラ解説:「運命の力」 “La Forza del Destino” ヴェルディ作曲

Alexandre Charles Lecocq - Giuseppe Verdi - La forza del destino.png

 

Alexandre Charles Lecocq (1832-1918) [So credits the library]

Restored by Adam Cuerden


 

このオペラはロシア、マリンスキー劇場の依頼によって作曲され、1962年同劇場で初演された。そのストーリーはラストで主人公3人(ドン・アルバロ、ドン・カルロ、レオノーラ)全てが死んでしまうかなり陰惨なストーリーであった。

 

しかし1969年改訂版がミラノ・スカラ座で初演され、これは好評であった。現在では改訂版での上演が殆ど。

 

ドン・アルバロは深く陰影の濃い声を持ったスピントまたはドラマチックテノールが歌う難役である。

 

第3幕目の “La vita è inferno all’infelice ~ Oh, tu che in seno agli angeli,” (「人生は不幸な者にとって地獄だ」からレオノーレを想って歌う「天使の胸に抱かれる君は」) に至る長く難しいアリアやいくつものドラマティックな重唱をこなさねばならない。

 

スペイン貴族の娘レオノーラもドラマチックな声が要求される役で、特に有名なアリアは第4幕の ”Pace, pace, mio Dio!“「神よ平和を与えたまえ」。

 

彼女の兄ドン・カルロ(バリトン)は自らのアリアに加えドン・アルバロとのいくつもの重唱を歌う。ヴェルディ・バリトンの声と演技が輝く役。要するにこれも難役。

 

ドン・アルバロとレオノーラは深く愛し合っているが、二人が愛に酔って甘く歌うデュエットはない。二人が同時に舞台に出るのは第1幕および第4幕の最後だけ。 


序曲:

非常に有名で単独でも演奏される。冒頭、管楽器によって演奏される主音Eの3回の繰り返しが印象的である。過酷な運命を象徴するように鳴り響くこのモチーフはレオノーラに伴って現れる。

 

第1幕:セヴィリア、カラトラーヴァ侯爵家の城の部屋

 

カラトラーヴァ侯爵の娘レオノーラの恋人はドン・アルバロ。彼はスペイン貴族とインカ王族の間に生まれた子であるが、両親は処刑されている。

 

レオノーラは彼との結婚を望むがカラトラーヴァ侯爵は自分達の高貴な血統が汚れるとして許さない。

 

彼と彼女は駆け落ちを計画するが、彼女が迷ってぐずぐずしている間に侯爵に見つかる。

 

アルバロは無抵抗の印としてピストルを投げ捨てるが、そのピストルが暴発して侯爵にあたる。侯爵は娘を呪いながら死ぬ。二人は城から逃げ出す。

レオノーレ(アンニャ・ハルテロス)、ドン・アルバロ(ヨナス・カウフマン)。この演出では、厳格な侯爵家の雰囲気、レオノーラの不安と迷い、ドン・アルバロの愛情が表現されている。

 


 

第2幕:オルナチュエロス村近郊の宿屋、およびデッリ・アンジェリ修道院、第一幕から一年後くらい。

 

レオノーレは逃げ出す途中でアルバロと生き別れ、とある村の宿屋に立ち寄る。偶然彼女の兄も居てアルバロに復讐を誓っているのをもれ聞く。

 

彼女は神に仕えることによって罪の意識、苦しみ、呪いから逃れようと険しい山間にある修道院に行く。そして修道院の持つ山の洞窟で誰にも知られず密かに隠遁生活を送ることを望み、受け入れられる。

 

第3幕:イタリアのヴェッレトリの野戦場とその宿営地。

 

アルバロとカルロは共に名を隠してスペインの軍隊に参加する。

 

アルバロは第3幕冒頭で “La vita è inferno all’infelice ~ Oh, tu che in seno agli angeli,” (「人生は不幸な者にとって地獄だ」からレオノーレを想って歌う「天使の胸に抱かれる君は」)を歌い、高貴な生まれにもかかわらず疎んじられる境遇を嘆き、(死んだと思っている)レオノーラに対する想い、自らの苦しみを歌う。歌はカウフマン

La vita è inferno all'infelice. 

人生は地獄だ、不幸な者にとって。

 

Invano morte desio! 

空しく死を求めるのだ!

 

Siviglia!  Leonora! 

セヴィリヤ! レオノーラ!

 

Oh, rimembranza! 

おお、思い出す!

 

Oh, notte ch'ogni ben mi rapisti! 

おお、あの夜は私から全てを奪ったのだ!

 

Sarò infelice eternanmente, è scritto. 

私は永遠に不幸だ、そう記されているのだ。

 

 

Della natal sua terra il padre volle spezzar l'estranio giogo, 

父は異邦人の支配から祖国を解放せんと欲し、

 

E coll'unirsi all'ultima dell'Incas 

インカ王族の最後の女性と結婚したのだ。

 

la corona cingere confidò.

その王冠をよりどころとして。

 

Fu vana impresa. 

しかしその試みは空しく終わった。

 

In un carcere nacqui; 

牢獄で私は生まれ;

 

M'educava il deserto; 

孤独に育った;

 

Sol vivo perchè ignota 

私がただ一人生き残っているのは

 

È mia regale stirpe! 

私の王家の血筋が知られていないからだ

 

I miei parenti sognaro un trono, e li destò la scure! 

私の両親は王冠を夢み、そして斧で (処刑され)目覚めたのだ!

 

Oh, quando fine avran le mie sventure! 

おお、いつ終わるのだ 私の不幸は!

 

 

O tu che in seno agli angeli 

おお、天使達の胸に抱かれた君よ

 

Eternamente pura, 

永遠に清らか、

 

Salisti bella, incolume 

美しく無垢のまま天に召されたのだ

 

Dalla mortal jattura, 

不幸な人生を越えて、

 

oh tu che in seno agli angeli 

おお、天使達の胸に抱かれた君よ

 

salisti bella e pura

美しく清らかに召されたのだ

 

Non iscordar di volgere lo sguardo a me tapino, 

忘れずにあなたの目を不幸な私に向けておくれ、

 

Che senza nome ed esule, In odio del destino, 

Che senza nome ed esule, In odio del destino, 

名も無く流浪し、運命を憎む私に

 

Chiedo anelando, Ahi misero, 

Chiedo anelando, Ahi misero, 

ああこの惨めさの中で私は願う

 

La morte d'incontrar. 

死と出会うことを。

 

Leonora mia, soccorrimi, 

Leonora mia, soccorrimi, 

レオノーラ、助けておくれ、

 

Pietà pietà, pieta del mio penar! 

哀れんでおくれ、私の苦しみを!

 

Leonora, soccorrimi, pietà del mio penar! 

レオノーラ、助けておくれ、哀れんでおくれ私の苦しみを!

 

Leonora mia, pietà , pietà del mio penar! 

レオノーラ、哀れんでおくれ私の苦しみを

 

soccorrimi,

助けておくれ、

 

pietà di me! 

哀れんでおくれ!

 


 

そこで偶然アルバロはカルロの命を助け二人は友情を誓う。しかしアルバロは戦いで瀕死の重傷を負う。アルバロはカルロに秘密の包みを託し自分が死んだらこの包みを自分と一緒に焼いてくれるよう頼む。

 

カルロは始め友への信義を全うするか迷う(アリア前半)がとうとう気になる包みを開け、レオノーレの肖像画を見つける。そして先ほど友情を誓った友が復讐相手のアルバロと知り復讐に萌える思いを歌う(アリア後半)のが「我が運命を決める箱)。 ドン・カルロを歌うのはリュドヴィック・テジエ

CARLO 

 

Urna fatale del mio destino, 

我が運命を決める箱、

 

Va, t'allontana, mi tenti invano; 

行ってしまえ、追い払ってしまえ、俺を誘っても無駄だ;

 

L'onor a tergere qui venni, e insano 

名誉を消し去る為にここに来たか、きちがいじみている

 

D'un onta nuova nol macchierò. 

新たな恥辱に染まるのか。

 

Un giuro è sacro per l'uom d'onore; 

名誉ある男にとって誓いは神聖だ;

 

Que' fogli serbino il lor mistero. 

この書類は秘密のままにしておこう。

 

Disperso vada il mal pensiero 

Disperso vada il mal pensiero il mal pensiero

悪しき考えよ消えされ

 

Che all'atto indegno mi concitò. 

俺に無益な行いをさせようとした(考えよ)。

 

Disperso vada il mal pensiero 

Disperso vada il mal pensiero il mal pensiero

悪しき考えよ消えされ

 

Che all'atto indegno mi concitò. 

俺に無益な行いをさせようとした(考えよ)。

 

Disperso vada il mal pensiero 

悪しき考えよ消えされ

Che all'atto indegno mi concitò. 

Che all'atto indegno mi concitò. ! mi concitò.

俺に無益な行いをさせようとした(考えよ)。

 

 


 

九死に一生を得たアルバロはカルロに許しを請う。しかしカルロは復讐に燃えてアルバロに襲いかかるも警備隊に引き離される。アルバロはもうこの世に安息の地はないと修道院に入る決心をする。

 

最後はジプシー女のプレツイオジッラが戦いの酒場に現れラタプラン、ラタプランと陽気に歌い踊る。

プレツイオジッラ(ナディア・クラステヴァ)、ドン・カルロ(カルロス・アルバレス)

 

第4幕:オルナチュエロス近郊 天使の聖母修道院と洞窟。第3幕から数年後。

 

アルバロは修道院で修道生活を送っている。一方レオノーラは同じ修道院の山の洞窟で隠遁生活を送っているのだが、お互いそのことを知らない。

 

執念深いカルロはとうとうアルバロの居る修道院を突き止め、やってきて、アルバロに決闘をせまる。

 

アルバロは許しを請うがかたくななドンカルロは彼を許さずムラートと彼を侮辱する。アルバロはかっときて刃を交える。

 

注:ムラートとは白人と非白人との混血した子供の事をさし、侮蔑的な意味を含む。 アンドレア・シェニエに出てくる召使いベルシもムラートである。

 

 "Le minacce, i fieri accenti"「その脅かしと無慈悲な言葉使いは」 ドン・アルバロ(ホセ・クーラ)、ドン・カルロ(レオ・ヌッチ)

ALVARO 

Le minaccie, i fieri accenti, 

あなたの脅し言葉と高飛車な物言いは

 

Portin seco in preda i venti; 

風に乗って飛んで行け;

 

Perdonatemi, pietà, 

私を許して欲しい、哀れんで欲しい、

 

O fratel, pietà, pietà! 

おお、兄弟よ、哀れみを、哀れみを!

 

A che offendere cotanto 

こんなにも傷付けるのか、

 

Chi fu solo sventurato? 

単に運が悪かった男を?

 

Deh, chiniam la fronte al fato, 

おお、運命の前に頭を垂れましょう、

 

O fratel, pietà, pietà!

おお、兄弟よ、哀れみを、哀れみを!

 

CARLO e ALVALO

Tu contamini tal nome. 

お前は我が名を汚した。

O fratel, pietà, pietà!

おお、兄弟よ、哀れみを、哀れみを!

 

Tu contamini tal nome. 

お前は我が名を汚した。

O fratel, pietà, pietà!

おお、兄弟よ、哀れみを,哀れみを!

 

Ah! Una suora mi lasciasti 

ああ、お前は俺に妹を残した

 

Che tradita abbandonasti

Che tradita abbandonasti  

お前に裏切られ捨てられた妹を

 

All'infamia, al disonor.

汚名と不名誉にまみれた妹を。

 

ALVARO 

No, non fu disonorata, 

いや、不名誉ではない、

 

Ve lo giura un sacerdote! 

聖職者としての私はあなたに誓おう!

 

Sulla terra l'ho adorata 

私は現世で彼女を愛した

 

Come in cielo amar si puote. 

天国に居るがごとく、愛し得たのだ。

 

L'amo ancora, e s'ella m'ama 

まだ彼女を愛している、もし彼女が私を愛しているなら

 

Più non brama questo cor.

我が心はなにも望まない。

 

CARLO e ALVALO

Non si placa il mio furore 

俺の怒りは収まらない。

L'amo ancor

私は彼女を愛している

 

Per mendace e vile accento; 

そんな嘘と下劣な言葉では; 

L'amo ancor

私は彼女を愛している

 

L'arme impugna ed al cimento ed al cimento

武器をとり、決闘だ,決闘だ、

e s'ella m'ama

もし彼女が私を愛しているなら

 

Scendi meco, o traditor traditor. 

俺と一緒に行け、裏切り者、裏切り者。

più non brama  questo cor.

我が心はなにも望まない。

 

Non si place il mio furore permendace e vile accento.

俺の怒りは収まらない、そんな嘘と下劣な言葉では

L'amo ancor…L'amo ancor

私は彼女を愛している・・・私は彼女を愛している

 

L'arme impugna ed al cimento ed al cimento,

武器をとり、決闘だ,決闘だ、

e s'ella m'ama 

もし彼女が私を愛しているなら

 

ed al cimento scendi meco, o traditor, traditor.

決闘だ俺と一緒に行け、裏切り者、裏切り者。

più non brama  questo cor.

我が心はなにも望まない。

 

ALVARO 

Se i rimorsi, il pianto omai 

この自責の年とこの涙がいま

 

Non vi parlano per me, 

私の為に君に語りかけることがないなら、

 

Qual nessun mi vide mai, 

誰も見たことが無いことをしよう、

 

Io mi prostro al vostro pié! 

私はあなたの足下にひざまずこう。

 

CARLO 

Ah la macchia del tuo stemma 

ああ、汚らわしいお前の本性を

 

Or provasti con quest'atto!

そのやり方で示したな!

 

ALVARO 

Desso splende più che gemma.

(私の本性は)宝石よりもかがやかしいのだぞ。

 

CARLO 

Sangue il tinge di mulatto.

ムラートの血だがな。

 

ALVARO 

Per la gola voi mentite! 

嘘をつくな!

 

A me un brando! 

私に剣をよこせ!

 

A me un brando!, un brando!

私に剣をよこせ!、剣だ!

 

Uscite. un brando, un brando, un brando, Uscite.

外に出るぞ。剣だ、剣だ、剣だ、外に出るぞ。

 

CARLO 

Finalmente!

やっとだな!

 

ALVARO

No… no… l'inferno non trionfi…

いや・・・いや・・・地獄に勝利はない・・・

 

Va, riparti. 

行ってくれ、去ってくれ、

 

CARLO 

Ti fai dunque di me scherno?

俺を馬鹿にするのか?

 

ALVARO 

Va.

行ってくれ。

 

CARLO 

S'ora meco misurarti, 

俺と戦うか、

 

O vigliacco, non hai core, 

臆病者か,お前は

 

Ti consacro al disonore. 

お前をさげずんでやる。

 

CARLO e ALVARO 

Ah, segnasti la tua sorte! 

ああ、お前の運命は決まった!

 

Morte!  Morte!

死だ!死だ!

 

A entrambi morte!

共に死を!

Ah, segnasti la tua sorte! 

ああ、お前の運命は決まった!

 

Morte!  Morte!

死だ!死だ!

 

A entrambi morte!

共に死を!

 

CARLO e ALVARO  (同時に同じ歌詞を歌う場所は黒文字)

Morte

死だ!

 

Ah! morte, morte, vieni  morte,

ああ、死だ,死だ、死よ来い、

 

(Si, morte a entrambi, morte! )

(そうだ、共に死を、死を!)

 

Ah! vieni, vieni a morte, andiam,  

ああ、来い、来い、死よ来い、、

 

A morte andiam! A morte andiam!

ああ、死よ来い!ああ、死よ来い!

 

(   )の中はこの公演で恐らく抜かされている箇所

 


 

一方レオノーラは隠遁生活を送りながらも悲惨な運命を嘆き、神に「平安を与えたまえ」と祈る。

 

“Pace, pace, mio Dio” 「神よ我に平安を与えたまえ」 アンニャ・ハルテロス

Pace, pace, pace, pace mio Dio! pace, mio Dio!

平安を、神よ! 我に平安を与えたまえ!

 

Cruda sventura 

残酷な運命が

 

M'astringe, ahimé, a languir; 

私をさいなみます、ああ;

 

Come il dì primo 

最初のあの日から

 

Da tant'anni dura 

こんなにも長い年月

 

Profondo il mio soffrir.

私の深い苦しみは続くのです。

 

Pace, pace, pace, mio Dio! ,pace mio Dio!

平安を、神よ! 我に平安を与えたまえ!

 

L'amai, gli è ver! 

彼を愛しました、本当に!

 

Ma di beltà e valore 

美しく,勇ましく、

 

Cotanto Iddio l'ornò. 

神は彼をそのように創られた。

 

Che l'amo ancor. 

私はまだ彼を愛しています。

 

Né togliermi dal core L'immagin sua saprò. 

私の心から彼の面影を消し去ることはできません。

 

Fatalità! Fatalità! Fatalità! 

宿命なのです!

 

Un delitto disgiunti n'ha quaggiù! 

たった一つの罪が私達を引き裂きました!

 

Alvaro, io t'amo. 

アルバロ、あなたを愛しています。

 

E su nel cielo è scritto: Non ti vedrò mai più! 

しかし天は再びあなたと会うことは無いと書き記しています!

 

Oh Dio, Dio, fa ch'io muoia; 

おお、神よ、私を死なせて下さい;

 

Che la calma può darmi morte sol. 

死のみが私に平安をあたえてくれるのです。

 

Invan la pace qui sperò quest'alma 

空しくもここに魂の平安を求めたのだが

 

In preda a tanto a tanto duol. 

深い嘆きに捕らわれています。

 

in mezzo a tanto, a tanto duol.

深い深い嘆きの中に。

 

Invan la pace quest’alma,

invan la pace quest’alma,

invan la pace quest’alma, invan sperò.

空しくもここに魂の平安を求めたのだが。

 

Misero pane, a prolungarmi vieni La sconsolata vita … 

惨めなパンよ、我が命を長らえさせるだけなのです、この悩める命を・・・・

 

Ma chi giunge? 

誰か来た?

 

Chi profanare ardisce il sacro loco? 

この聖なる場所を犯すのは誰?

 

Maledizione! Maledizione! Maledizione! Maledizione!

呪われよ!

 


 

そこへアルバロとカルロがやってくる。カルロは瀕死の重傷を負っている。レオノーラは洞窟を出て兄と再会するが、カルロは彼女を刺し死ぬ。レオノーラはアルバロに天国であなたを待つと言い残して息絶える。(2019.03.10.wrote)

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