"Notorious (悪名高き)R.B.G"ことRuth Bader Ginsburg とオペラ

File:Ruth Bader Ginsburg 2016 portrait.jpg

https://en.wikipedia.org/wiki/Ruth_Bader_Ginsburg#/media/File:Ruth_Bader_Ginsburg_2016_portrait.jpg

 


Ruth Bader Ginsburg (1933年3月15日〜2020年9月18日)。元アメリカ連邦最高裁判所判事。1993年にビル・クリントン大統領に指名されてから死去するまで27年間にわたって連邦最高裁判事の座についておられました(1)。日本ではあまり知られていませんが、性差別に関する数多くの法廷闘争に関わり、ついには性差別を違法とする判決を連邦最高裁で勝ち取ったアメリカの偉大な女性です。

 

彼女はオペラ好きでも有名でした。アンゲラ・メルケル元首相のオペラ好きもよく知られていますが、彼女の場合彼女自身がオペラに出演するばかりではなく、彼女に関するオペラが作られた程なのです。

 

彼女はニューヨーク生まれのユダヤ人で、無口で大人しく控えめな性格であったらしい。非常に聡明であり、アメリカでも屈指の名門コーネル大学に入学します。しかし自立した女性なんて嫌がられる時代で、コーネル大学に入学すること自体珍しく彼女は草分け的な存在でした。そして「女にも脳味噌があることを理解していた唯一の男性」マーティン・ギンズバークと出会い結婚します(2)。その後ハーバード、コロンビア大学のロースクールを非常に優秀な成績で卒業したものの「女性を雇うなんてとんでもない!」というのが社会の風潮で彼女を受け入れる法律事務所は無く、下積みで働いていました。

 

しかし法律顧問として数々の法廷闘争に勝利し、「(男性の)同胞方、私たちの首を踏みつけているその足をどけてくださらない」 "All I ask of our brethren is that they take their feet off our necks"(2)と非常にはっきりとした物言い、鋭い弁舌と実力で次第に頭角を現してきます。たかが女ふぜいから対等に「同胞(同業者)」などと呼ばれることに多くの男性はムカついたかもしれません。ま、それ故に"Notorious R.B.G"「悪名高きRBG」というあだ名もついたのでしょう (もともとは有名な巨漢ラッパー、Notorious BIGのもじりで名付けられたそうで、彼女自身はこのあだ名を気に入っていたらしい)。

 

彼女はついに最高裁判所判事にまで上り詰めるのですが、それには夫マーティンの強いサポートがありました。当時としては画期的に平等な共働き夫婦関係を築き上げ、「料理はマーティン、(料理がウルトラ下手だった)Ruthは考えることを分担」していたそうです(2)。また彼はワシントンの政治家に彼女の優秀さをアピールし、彼女が最高裁の判事になれるよう強く働きかけたそうです(1)。なお、彼女は女性としては二人目の連邦最高裁判事です。

 

彼女はきゃしゃで小柄ながら存在感抜群。くそ真面目に見えるけれどウイットもありました。特に若者の間での人気は絶大で、著名コメディアンが扮するギンズバーグ判事が時事問題を取り上げるTV番組まで作られたほどです。

彼女は右傾化してゆく最高裁にあって次第に左派となっていきました。しかし同僚判事中最も保守派で最高裁内で始終激しく対立していた故アントニン・スカリアとは生涯の友情を築き上げていました。彼らを結びつけていたのはオペラです。

 

10代の初めにオペラを初めて見て以来彼女は熱狂的なオペラ愛好家となっていて、スカリアとは長年一緒に仲良くオペラを見ていたそうです。「そりゃ仕事では少々・・対立しているけれど、彼女も僕もオペラ好きだ、それ以上何を望む?」とスカリアは言っていて(2)、信条的には対立する二人の友情はとうとう「スカリア/ギンズバーク」というオペラになりました。

 

彼女は実際のオペラ舞台にも出演しています。複数のオペラに出演したそうですが、目立つところではリゼット・オロペーサやローレンス・ブラウンリーらと共演した「連帯の娘」でしょう。彼女はクラーケンソープ公爵夫人に扮して彼女自身が書いた時事ネタを含め、伝統的な性別や階級の役割を無視した現代の女性の悲しい現状を口にしながら去ってゆく役どころだったそうです(3)。

彼女は2020年9月18日大統領選挙直前に87才で亡くなりました。トランプ大統領は異例の速さで保守派の判事を指名し、その結果連邦最高裁判判事は保守派が6人進歩派3人、保守派が圧倒的になりました。

 

彼女の遺体はアメリカ議会議事堂内に安置されました。これはアメリカ社会に極めて重要な貢献を行ったとみなされる物故者に対する措置で公職に就いた女性としては初、ユダヤ系米国人としても初のケースだそうで、大統領のみならずたくさんの人々が弔問におとずれました(1)。

 

そして何人もの有名なオペラ歌手たちはこぞってギンズバーグ判事と一緒に撮影したバックステージの写真をインスタグラムなどに乗せ、彼女の業績やオペラに対する愛情と貢献をたたえました。(このサイトには沢山の写真が掲載されています)

 

参考にした資料

(1) ルース・ベイダー・ギンズバーグ wiki 最終更新 2021年12月29日 (水) 20:16

(2) ドキュメンタリーフィルム「RBG最強の85才

(3) Ruth Bader Ginsburg a hit in opera debut. Really. The Christian Science Monitor 2016.11.14

 

(2022.03.10 wrote) おたく記事に戻る