To bis or not to bis /カウフマンのウイーン歌劇場「トスカ」上演に思う

 

 さて好評だった「アンドレア・シェニエ」が一旦終了し、カウフマンの次のオペラは5月5日から始まるウイーン歌劇場の「トスカ」です。アンジェラ・ゲオルギューとの共演です。昨年奇しくも同じウイーン歌劇場やはりゲオルギューと共演した「トスカ」を覚えていらっしゃるでしょうか。

 

この上演は超人気。はやばやとチケット完売、、、の舞台でカウフマンが終幕のアリア「星は光ぬ」をbis (アンコール) したのですがその後トスカことゲオルギューの登場が遅れるという事件が起こりました。

 

それを撮した動画やその他の記事、たくさんのSNS情報によれば6分近くも続くものすごい拍手と足踏み。皆さん相当興奮していらっしゃる。カウフマンもとうとう仕方ないかな、という風でbisしました。その後、トスカが登場するはずなのですが出てこない。

 

そこで「やばい!」と感じたか、"Non abbiamo soprano" 「ソプラノさんがいないよ」、と本来の歌の旋律に合わせてイタリア語で歌い、さっと舞台の前に進み出て「皆さんびっくりしちゃいましたよね。指揮者がこのまま続けると言っていますので待っていて下さいね」 と冷静に話して観客を落ち着かせ、遅れて出てきたゲオルギューと再び舞台を続けました。

 

この事件は有名新聞にも掲載され大きな話題になりました。運悪くこの劇場に居合わせた聴衆はびっくりしたし舞台を中断されて怒ったかもしれません。しかし今になってみるとレジェンド化したこの舞台を観たことを感慨深げに人様にお話できるという特典ができたというものです。

 

とはいえ決してゲオルギューを擁護しているわけではありません。上演の最中に自分が登場する場面に出遅れるというのはプロフェッショナルな歌い手として問題があります。

 

ところでそのbisに関して、、、、昔はアンコールが習慣化していました。しかし音楽そしてドラマ進行を妨げると言うことから指揮者演出家に嫌われ特にトスカニーニ以降歌劇場でアンコールが( 事実上) 禁止されるようになったとか。もともとオペラ自体の演奏時間も長くまた歌手の声も守る必要があったのだと言われているそうです。

 

ちなみにbisの短所としては

1.上演の進行を妨げる

2.劇場側に時間延長分のコストが上乗せされる

3.余分に歌うため歌手の声に危険が及ぶ可能性がある、と言うことでしょうか。

 

素晴らしい演奏は観衆を感動させその感動よもう一度!と思うのはオペラ好きの常。聴衆、歌手、オーケストラを含め歌劇場全体が感動で揺れるようなとき、例えば昨年のカウフマンの「トスカ」などですが、そんなときはbis をせざるを得ないしbisによって劇場全体がいたく満足するということはありますね。

 

絵画と違いオペラは観衆の拍手喝采がなければ生き延びられない芸術です。オペラにとってbisは重要な意味があるのかもしれない、と思います。

 

ただし、bisの欠点3.歌手の声に危険が及ぶ、これは恐らく声を予定外に無理に使いすぎて喉を壊す危険性があるということかと思います。カウフマンは昨年声帯障害をおこして4ヶ月も休業したのです。カウフマンの喉のためにも今回のウイーンでbisは無しにしていただきたいと個人的には思います。

 

追記;「トスカ」騒動に関連して、主役(トスカ)を差し置いてのbisは主役 (この場合ゲオルギュー) に対する配慮が足りない、という記事がどこかに載っていました。これは違うかな、と思います。フローレスやカマレナがbisしている「連隊の娘」「チェネレントラ」もそれぞれマリー、チェネレントラが主役でテノールは主役ではありません。(2017.05.01. wrote)

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