ヨナス・カウフマンの2020年を振り返る (コロナ禍の中で)

iltrovatoreによる公演の記録及びコメント

 

今年はコロナ流行により劇場・コンサートホールは軒並み閉鎖で公演はキャンセルだらけ。新たな公演が予定されても、またもやキャンセルという事態も相次ぎました。今年のオペラ上演回数は演奏会方式、ストリーミングを含めて12回。リサイタル・コンサートはストリーミングを含めて28回でした。

 

1月

「Mein Wien」 ヨーロッパ諸都市にて 10回 (1.7〜2.1) 

Rachel Willis-Sörensenと一緒に「メリーウイドウ」のオペレッタや「ウイーン気質」などウイーンの歌を歌いました。カウフマンの古いウイーン訛りの発音が評論家たちに褒められていました。この「Wien」リサイタルはシネマになって日本でも今秋〜冬にかけて各地で上映されます。

 

3月

「ベートーベン、フィデリオ」ROH  3回 (3.1〜3.6) 

出演:Jonas Kaufmann, Lisa Davidsen, Georg Zeppenfeld et al. Antonio Pappano指揮

 

ソプラノLisa Davidsenとともに新演出のフィデリオに出演。公演途中で体調が悪く何回かキャンセル。そして最後の公演もコロナ流行による劇場の閉鎖でキャンセルされた。これ以降ヨーロッパ全土でコロナによる劇場閉鎖が続出し、以後の公演はほぼすべてキャンセルとなる。(おそらくこの公演のリハーサル中にコロナに感染したらしい、とは本人の弁)

 

カウフマンは公開されたシネマには出演していません。しかし彼が出演した別の回をNHKが8Kで録画していたのですよ。しかしNHKは8Kでしか放送しない。8Kはおろか4Kすら持っていないiltrovatoreは非常に不満。放送料を払っているのですぞ。普通のBSでも流してください!!

 

★ Sirアントニオ・パッパーノとともにThe Royal College of Music の名誉博士号を授与される。

 

4月 

★ MET at-Home Gala、MET ストリーミング (4.25) 

コロナの流行で生オペラを見ることもできなくなり、暗いムードだったのでこのガラコンサートはうれしかったです。ヨナス・カウフマンは「ユダヤの女」より “Rachel, quand du Seigneur”を歌いました。カウフマン以外の方でもエリン・モーリー(だったかな?)の素晴らしいピアノの技も見ることができたし、アラーニャ夫婦の能天気な愛の妙薬の二重唱も楽しかったです。

 

「詩人の恋、第4回 Monday Concert」バイエルン歌劇場 ストリーミング (4.27) 

誰もいない観客席を前にヘルムート・ドイチェ氏伴奏で歌う。演奏後、ヨナス・カウフマンは "Without an audience music is not the same for me." と一人寂しくカメラに語りかけました。

 

6月

「さすらう若人の歌、第13回 Monday Concert」バイエルン歌劇場 ストリーミング(6.29)  

 

7月 

「美しき水車小屋の娘」ジュネーブ ストリーミング (7.2) 

コロナ流行がいったんおさまっていた頃、相当数の観客が入っていた様に見えました。

 

★ "MET stars live in concert  ヨナス・カウフマンリサイタル"  ストリーミング (7.18)  

METによる有料ストリーミングシリーズ第1弾。ババリア地方のPollingにて収録。有名なオペラアリアを何曲か歌いました。曲と曲との合間には過去のMETでの記録映像も流されました。ううん、やはりオペラアリアはオーケストラバックで聞きたい。

 

ところでこのストリーミングは44000人が観たそうです。一人20ドルですから合計880,000ドル、1ドル=107円として9400万円くらいの収入。一回あたりの経費を差し引いても相当黒字になる模様です。NYTはnot a bad gross (悪くない総収入) と書いています。

 

「アイーダ」コンサート形式 ナポリ、Teatro di San Carlo (7.28 & 7.31)  

出演: Anna Pirozzi, Jonas Kaufmann, Anita Rachvelishvili, Claudio Sgura, Robert Tagliavin

 

「清きアイーダ」がよかったです。大きく弧を描くレガートが美しい。スケール感があります。超一流歌手にしか感じることのできないゆったりと大きなレガート。最後の一節3回繰り返す “vicino al sol“。1回目のpppp、少し声量をあげて2回目のppp、そして最後3回目Bフラットの滑らかなモレンド、メッサ・ディ・ヴォーチェも印象的に決めました。いや、うまいわ。ヨナス・カウフマン絶好調。ストリーミングしてくれなかったのを恨みます。

第1幕冒頭、愛するラダメスに女の影を感じ探るアムネリスと疑いをそらそうとするラダメスの会話


8月

「美しき水車小屋の娘」オーストリア、Grafenegg (8.16) 

 

「コンサート:オペラアリア集」ブダペスト、Eiffel Art Studios Park (8.19) 

ずいぶんたくさんの観客です。下の動画は1時間くらいのコンサート映像です。

 

★ Liederabend with Helmut Deutsch、ウイーン、Theater im Park (8.24)

R. シュトラウスなどを歌いました。

 

「コンサート:オペラアリア集」スロベニア、リュブリナ フェスティバル (8.26) 

 

9月

★ 「美しき水車小屋の娘」 バイエルン歌劇場 (9.6) 

 

★ リサイタル:Liederabend ウイーン、Theater im Park (9.14)

 

★ 夏の夜のコンサート(野外コンサート)、オーストリア、シェーンブルン宮殿 (9.18) 

今年のテーマは「愛」。ヨナス・カウフマンは「ウェルテル」より「春風よなぜに我を目覚ますのか」、「伯爵令嬢マリツァ」より「夜がきたら」、トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」を歌いました。観客の数が少なくて寂しい。いつもは舞台のずうっとずうっと先にある噴水のところまで観客が溢れていたのに。

 

★ リサイタル: Selige Stunde、ウイーン、ウイーン歌劇場 (9.29)

コロナ規制のためウイーンに行けなくなったアグネス・バルッツァの代役として歌いました。

(2020.12.27 wrote) 


10月

★ ヴェルディ、ドン・カルロス(フランス語版、5幕)、ウイーン国立歌劇場 5回 (9.27〜10.11)ストリーミングあり、

出演: Michele Pertusi、Jonas Kaufmann、Igor Golovatenko、Roberto Scandiuzzi、Malin Byström、Eve-Maud Hubeaux、指揮:Bertrand de Billy、演出:Peter Konwitschny

 

色々と議論のあるPeter Konwitschny演出によるヴェルディ原典版での上演。歌手達の評判はよかったようです。常時カットされるバレエ音楽も演奏されましたが、その内容は「現在にタイムスリップしたエボリの妄想」のような歌手達の演技で、こちらは評判悪かったです。

 

★ OPUS Klassikベルリン、Konzerthaus Berlin 2020.10.18 

以前エコー賞と言われていたドイツのクラッシック音楽の賞です。カウフマンはこの賞の常連ですが今年はKlassik Ohne Grenzen (境界を定めないクラシック)に選ばれました。受賞対象は”Wien”です。

 

★ コンサート (アイーダ、ナブッコ、ボエームからアリアと合唱)、ミラノ、スカラ座 (10.19) 

出演:Anita Hartig, Aida Garifullina, Jonas Kaufmann and Simone Piazzola、Fabio Luisi指揮

 

元々「アイーダ」が予定されておりメーリがラダメスを歌うはずでしたが、メーリがコロナに罹ってキャンセル。カウフマンが演奏会直前に飛び入りで代役に決まりました(なんて珍しい!)。しかしその後「アイーダ」出演者からさらなるコロナ感染者が出たため、ソリストの皆さんは隔離されてしまい「アイーダ」は中止となりました。ただしカウフマンは一緒に練習していなかったのでセーフ。これコンサート当日午前中のこと。

 

しかしスカラ座は土壇場の馬鹿力。Anita Hartig, Aida Garifullina, Jonas Kaufmann and Simone PiazzolaそしてFabio Luisi (指揮)をかき集め、コンサート「アイーダ、ナブッコ、ボエームに出てくるアリアと合唱」に変更しました。(確かその後さらにバリトンが変わっていたような気がする)。

 

あくまでもコンサートを決行するのだと言う執念がすごい。しかも数時間のうちに新たな歌手を集め、コンサートの内容を決め、オーケストラと歌手達が練習して、その日の夕方が本番なんて・・・すごいです。

 

★ Liederabend:Tre importanti concerti di canto straordinari  ミラノ、スカラ座 (10.22)  

 

★ コンサートwith Clémentine Margaine ボローニャ、Madison in Piazza Azzarita (10.25)  

元々はラチヴェリシュヴィリさんが共演するはずだったが、彼女がスカラ座「アイーダ」でのコロナ濃厚接触者として隔離されてしまったため Clémentine Margaineに変わりました。このコンサートを最後として、イタリア全土で再び劇場閉鎖となりました・・・悲しい。 (観客1000人)

 

11月

★ コンサート:デンマーク、オールボー、Musikkenshus (11.29)

 

12月

★ プッチーニ、ラ・ボエーム、バイエルン歌劇場 ストリーミング (11.30)

出演:Rachel Willis-Sørensen, Mirjam Mesak, Jonas Kaufmann, Andrei Zhilikhovsky 

 

「カルメル会修道女の対話」を劇場がキャンセルしたための代わりのオペラだそうです。カウフマンがルドルフォを歌うなどコロナ禍がなければあり得なかった・・・のでカウフマンファンにはラッキーと言えましょう。何せ若きカウフマンのルドルフォ映像はほんの断片的にしか残っていないのですから。

 

彼は50を過ぎているのだけれど、まあなんて若くて魅力的なルドルフォだったことでしょう。歌も演技も絶好調。バイエルン歌劇場がストリーミングしてくれて感謝です。

歌っていない時でも演技が印象的なルドルフォ。


 

★ 「カヴァレリア・ルスティカーナ」コンサート形式 Teatro San Carloによるストリーミング (12.4)  

出演:Elīna Garanča、Jonas Kaufmann、Claudio Sgura、Elena Zilio、Maria Agresta

 

いやもう、ど迫力の「カヴァレリア」でした。エリーナ・ガランチャが凄まじいまでのサントゥツアを歌い演じ、一方のヨナス・カウフマンも負けず劣らずの輝かしいトゥリッド。二人のガチンコ勝負二重唱も呆気に取られるほどの素晴らしさで聞き応え十分。

 

ヨナス・カウフマンはリリカルなボエームを歌ってからまだ1週間も経っていないのに今度はヴェリズモの激しい歌唱です。よくやるよ、と感嘆しました。しかも最後の「母さんあの酒は強いね」はなんとも切なく柔らかく、心をギュッと掴まれるよう。・・・これは是非ともDVDでお願いしたい、CDではないですよ。

 

★ 25th BMW Advents benefit concert 2020 live stream  2020.12.14 

指揮:ウラジミル・ユロフスキー、バイエルン国立歌劇場オーケストラ

 

★ ヨナス・カウフマンのクリスマス・スペシャル (12.24)


今年発売のCD、DVD、そのほか

 

★ CD、Ekkehard 

Jonas Kaufmann (Ekkehard), Nyla van Ingen (Hadwig), Susanne Kelling (Praxedis), Alfred Reiter (Watzmann), Christian Gerhaher (Rudimann), SWR Randfunkorchester Kaiserslautern, Conductor: Peter Falk (Recording 1998)

 

ヨナス・カウフマンが若いときに歌ったCD。若々しい伸びやかな声です。Christian Gerhaher も一緒に歌っていたのですね。

 

★ CD、オテロ 

Jonas Kaufmann (Otello) Federica Lombardi (Desdemona), Carlos Álvarez (Jago), Liparit Avetisyan (Cassio), Virginie Verrez (Emilia), Choir and orchestra of the Accademia di Santa Cecilia, Roma; Conductor: Antonio Pappano (Recording 2019)

 

「オテロ」はROHでのライブ公演を収録したDVDが出ていますが、今回はCD。

 

★ CD、Selige Stunde 

Jonas Kaufmann, Helmut Deutsch (Recording 2020) 

 

Mozart, Beethoven, Mendelssohn, Schubert, Schumann, Brahms, Liszt, Dvorak, Tschaikowsky, Mahler, Strauss, Wolf, Zemlinskyなどの有名歌曲。

 

★ CD/DVD/BL Summer Night's Concert of the Vienna Philharmonic 

Jonas Kaufmann, Vienna Philharmonic, Conductor: Valery Gergiev (Live Recording 2020)

 

Massenet, Puccini, Kálmán and Sieczyńskiのオペラアリアや歌曲。

 

★ CD、It's Christmas! 

Jonas Kaufmann, Till Brönner, Bachchor Salzburg, St. Florianer Sängerknaben, Mozarteumorchester Salzburg, Cologne Studio Big Band, Conductor: Jochen Rieder

 

様々な国の言葉で歌われるクリスマスソング特集。"It’s Christmas" はOfficial German Classical Chartsで1位を取りました。ちなみに "Selige Stunde" と "Wien" は12月の時点でそれぞれ4位と7位。

 

★ Jonas Kaufmann - A Global Star in Private 

Download, 2020 Director: Michael Giehmann, Producers: Alexander Stecher, Tim Werner.

 

ヨナス・カウフマンのプライベートな生活を撮ったフィルム。日本でもAmazonプライムより購入可能(のはず)・・・

(2020.12.30 wrote) おたく記事に戻る