映画とオペラ4:「カストラート」(Farinelli il Castrato) 1994年〜 「リナルド」(ヘンデル作曲)〜 (レンタルDVDあり)

 

この映画は歴代のカストラートの中で最も有名なファリネッリ(実名Carlo Broschi) の半生を描いています。フィクションです。大人向け映画と思われる。

 

「いびつな」と言う意味を含む「バロック」の時代を映す廃退的で絢爛豪華な映像と、カストラートの人工的な声が有る意味調和しています。第52回ゴールデングローブ賞受賞作品。

 

カストラートとは変声期になる前に去勢した男性歌手のことです。昔イタリアの教会は女性が教会内で歌うのを禁じていたため、女性歌手の代わりとしてカストラートが用いられました。 

 

彼らは女性歌手の高音領域と並みの男性(以上)の肺活量を持ち合わせており、強く美しい高音を出したと言われています。

 

その頃、高音をファルセットでしか出せなかったテノールに人気はなく、カストラートが圧倒的な人気を誇っており、教会のみならずオペラの主役は彼らカストラートでした。ファリネッリが活躍した18世紀はカストラートの全盛時代と重なります。

 

しかしカトリックは本来去勢を認めていませんし、カストラートは正式に結婚もできません。去勢された男子は才能がなければ社会的に蔑まれた存在に成り下がり、運が悪ければ男娼に堕ちてしまいます。又去勢手術の失敗で死んで行く男の子も大勢いたと考えられています。

 

この様な非人道的な処置に対する批判が盛り上がりカストラートは次第に消えてゆきます。

 

蛇足ながら、カストラートは睾丸を除去するだけなので、女性と関係を持つことができます。当然ながら子供はできません。

 

映画でアリア ”Lascia ch’io pianga“(私を泣かせて下さい)が流れるのは、カストラートとして非常に有名になったファリネッリは彼の美声を利用しようとする兄の芸術的凡庸さに気づきヘンデルの才能に惹かれ、ヘンデル作曲のオペラ「リナルド」を歌う場面です。

 

この映画では、現存しないカストラートの声を創る為ソプラノの高音とカウンターテノールの声を合成したそうです(「カストラート」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』2019年7月7日 (日) 11:40‎ )。

 

全盛期のカストラートはこんな美しい声を持っていたのでしょうか?

 

彼らはまた超絶技巧を持っていました。今はほとんど忘れ去られたカストラートのための曲は恐ろしく難しいものが多いです。一例としてオペラの中に出てくる兄 Riccard Broschi 作曲のアリア "Son qual nave ch'agitata" 「私は揺れる舟の如く」を聞いてください。全曲はこちら(ユリア・レージネヴァの完璧な歌いぶりがすごい)。

 

ところで記録上最後のカストラート、Alessandro Moreschi が残した録音があります。彼は美しい声を持ち、彼の活躍当時は「ローマの天使」と称賛されていたそうです。(1904年録音、当時46才)

 

面白い事にiltrovatoreは彼の性別不明な声に抵抗感は全くありません。ですがその歌い方になんとも違和感があり受け入れられません (申し訳ないが気持ち悪い歌い方にしか思えないです)。時代が変わると歌い方に対する聞き手の好みも違ってくるのかな。

 (2020.01.18.wrote) おたく記事に戻る