フランシス・フォード・コッポラによる有名な映画。カンヌ国際映画祭のパルム・ドールやアカデミー賞など数々の賞を受けています。タイトルの直訳は「現代の黙示録」でしょうか。戦争の狂気を描きベトナム戦争を批判した話題作でした。
「ワルキューレの騎行」が流されるのはベトナム戦争の終わり頃、アメリカ軍の第一騎兵師団がサーフィン目的でベトコンの基地を襲撃する場面です。
騎兵とは馬に乗って戦う兵士達のことです。現代の騎兵は馬をヘリコプターに乗り換えて戦います。彼らが敵地を奇襲する時ヘリコプターから大音響で流すのが「ワルキューレの騎行」です。自らを戦場で兵士の死を定める女神、ワルキューレ、になぞらえ、天馬に乗って地に下り敵をやっつけるというイメージなのでしょうか。
この戦闘場面に音楽がはまりすぎていて怖いくらいで、「ワレキューレの騎行」は超有名になりました。クラシックには疎遠でワーグナーやワルキューレを知らなくてもこの音楽だけは知っているという人もいます。
「ワルキューレ」のみならずワーグナーの作品を聞くとき、魔力とも思える強い力を感じます。彼の音楽は人を陶酔させ、人の心の奥底に潜む情念、それは愛情や憧れといった感情ばかりではなく、憎悪、闘争本能のようなどろどろとした暗い情念までも解き放つ力を持っています。
ワーグナーが反ユダヤ感情を持ち反ユダヤ主義の論文を書いていたのは事実(ヒトラー著:Das Judenthum in der Musik)です。しかし彼は作品にあからさまな反ユダヤ主義を持ち込んではいません (ベックメッサー云々を強調する人はいるかもしれないが)。しかもワーグナーはナチスが政権を取る50年も前に死んでいるのです。
しかしナチス(ヒットラー)は彼の音楽を最大限に利用し、ワーグナー一族もナチスに同調します (例えばワーグナーの息子ジークフリード・ワーグナーの妻だったヴィニフレート・ワーグナー)。その結果ワーグナーの音楽とナチスの蛮行は分かちがたく結びつき歴史的事実として音楽史上の汚点となりました。残念ながらこの汚点が忘れ去られることは無いでしょう。
iltrovatoreもワーグナーの音楽に陶酔します。なんと素晴らしい音楽でしょう。しかし陶酔しながらふと思うのです。ナチスの将校達もワーグナーの音楽に陶酔しながらアウシュビッツのガス室のボタンを押したのかな、と。
(2019.05.17.wrote) おたく記事へ戻る