iltrovatoreが見る欧米オペラ事情 4.
前編
ヨーロッパ (特にドイツ) は、文化活動に対して税金を使うのをよしとする国民的なコンセンサスがあります。反対に言えば、税金を使って文化活動を行う歌劇場は、国民 (州民)全てに文化を提供する義務を負います。
そこで歌劇場も、 ① 如何に「オペラファンを増やすか」「どうやったら沢山の人々にオペラを楽しんでもらえるか」、に知恵を絞りますし、② 「青少年の音楽教育」にも積極的に関わる努力をしています。
① 如何にしてオペラファンを増やし、沢山の人々にオペラを楽しんでもらえるか
対策その1
はオペラ公演の配信事業でしょう。オペラファン獲得に向けた欧米歌劇場の試みとしてすっかり定着したのが、オペラ公演のシネマ化、ネット配信です。
そもそもシネマを始めたのはM E Tのゲルブ総裁です。彼の始めた「METオペラビューイング」は今や世界70カ国に広がり、一流の生オペラに接する機会の少ない国々に恩恵を与えています。ついでROHもシネマ路線を取りました。ROHの場合上演するのは半分がオペラ半分がバレエです。この二つの歌劇場による試みは刺激的でした。
一方ネット配信をしている歌劇場もあります。ストリーミングされる作品の多さと質の高さで知られるのがウイーン歌劇場とバイエルン歌劇場。いずれも無料でストリーミングされており、日本の自宅にいながらにして一流オペラ公演を楽しめる様になりました。
その他多くの歌劇場もmedici、mevioなどの共通プラットフォームを介してストリーミングを流す様になりました。 この様な配信事業によって、劇場には行けない人々も安い料金で手軽にオペラ公演を見られる様になりました。
対策その2
は無料オーケストラ演奏や大画面を使っての無料オペラ中継等。
バイエルン歌劇場は7月のオペラフェスティバルの一環として、歌劇場前広場その他で大画面を使ってのオペラ同時中継やオーケストラコンサートを行います (Oper für alle) 。勿論無料。すごい人数が集まります。(このページの一番上にある写真参照)
オペラ同時中継の場合、歌劇場前広場に沢山の係員がでて、交通整理や観衆の配置を整然と行います。臨時公衆トイレの数もばっちり。準備万端さすがドイツ。
観衆には若い人が目立ちます。子供連れも多く、半分ピクニック状態。私だったら絶対に座りたくないぼこぼこの石畳の上にマットを敷き、飲み食いしながら気楽に観劇。
色とりどりの風船がふわふわとお祭り気分を盛り上げます。公演が終わると、劇場内で歌っていたスター歌手達がぞろぞろ出てきて観衆の歓声に答えます。
なんともリラックスして楽しそうだし、堅苦しいオペラ、という印象も薄まります。子供達もオペラに抵抗感がなくなるのではないでしょうか。
この様な試みは欧州の様々な歌劇場で始終行われています。
対策その3
バイエルン歌劇場では、普通のオペラチケットも青少年、子供向けにとても安く(10ユーロ) 販売しています。また車いすを使う方々、視覚障害者、戦争で障害を負った方々も5割引料金でオペラを楽しむことが出来ます。
まさにOper für alle(全ての人々の為のオペラ)です。
(2019.9.19.wrote)
対策その1. 子供向けのオペラ紹介
バイエルン歌劇場は青少年、子供向けの教育活動を地味に行っています。例えば、スクールプログラムがあり、学校のクラス単位で歌劇場に行きリハーサルを見学したり、芸術家達とお話することが出来ます。
また、「子供の為のオペラ」(子供のために創作されたり、一般的なオペラを短縮したオペラ)公演もあり、実体験も出来るオペラやバレエのワークショップもあります。(こちら)
これ以外の(歌)劇場でも青少年・子供用の教育プログラムは充実しています。
また、バイエルン歌劇場では子供向け解説のみならず大人向けにもオペラ開演直前の解説をやっており・・・一つの演目でも公演ごとに何回もあったりします。この様な解説が公演の直前にあればオペラの理解は深まりますよね、日本でもやってほしいなあ。
ドイツの多くの歌劇場 (なにせ世界一の劇場数を誇る) では多かれ少なかれこの様な事業を行っており、そのこともドイツをオペラ大国としている大きな理由でしょう。
日本での取り組み
青少年に対するオペラ教育・普及目的の取り組み
新国立劇場では「高校生の為のオペラ観賞教室」「こどものためのオペラ劇場」、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールでは学校巡回公演など、いくつかの活動をやっています。
また公益財団日本オペラ協会 (藤原歌劇団と一体化した組織) もスクール公演などを行っています。
日本のオペラ界も努力しているなあ、という気はしますが、日本での教育・普及活動はドイツと比べ質・量ともかなり見劣りします。
しかしオペラは日本の伝統芸術でも無く、特にオペラを普及する必然もないので、ドイツでやっているようなきめ細かい活動を日本全国で行うのはなかなか難しそうです。
オペラの普及に貢献する地道なオペラ活動
多くの日本人(子供だけでなく大人も)にとってオペラは縁遠いものです。オペラに対する興味も思い入れも全く無いのが普通で、興味がある人はごくわずか。新国立劇場のみならず藤原歌劇団や二期会のチケットもそれなりに高いから、オペラに多少の興味がある程度でオペラ公演に行く人は少ないでしょう。
そんな人々が気軽にオペラを観ることができる公演があります。座席数300から1000位までの小劇場でやっているオペラで、ピアノ伴奏のみ、大道具・小道具ほんのちょっとで、歌手さんが役に合う衣装を着て歌うような公演です。チケットも安い。
小規模で運営費も安く上がりそうなので(ただし採算が取れているかは不明)本格的なオペラ公演のできない小さな町でも公演できそうです。
また東京には「区民オペラ」と名前の付いたオペラ公演がいくつかあります。ちょっと調べた所、非営利で区民参加型が多い。(東京以外の都市でもこの様な団体があるのかもしれません。)
杉並、新宿、荒川、文京等いくつかの区にあります。アマチュアオーケストラ・アマチュア合唱団付きで長年公演しているところもあり、オペラをやりたい人達が、プロ・アマ、一緒にオペラを創り上げているようです。
こちらもチケットは安いです。地元に根付いたオペラ活動で公的な助成を受けている団体も多いです。みんなで楽しみながらオペラを創り上げるというところが良いです。
これらの公演一つ一つはとてもマイナーですが、地味にオペラの普及に役立っているように思えます。
(2019.09.29 wrote) おたく記事に戻る