以前すこし書きましたように、METはチケットの売れ行きが悪く問題になっています。(今回だけではなくこのところずっと売れ行きは悪い)。最近指揮者の深刻なトラブルもあり、客足がますます遠ざからないか心配です。
ヨーロッパと比べ、米国でオペラはさほど人気がありません。人口もあり圧倒的な経済力を持つ大国アメリカでありながらMETのように独自の運営組織を持ち、専属の歌劇場、専属のオーケストラ、専属の合唱団を備えた歌劇場は少ないのです。
一方ヨーロッパ大陸、特にドイツ語圏ではこの様なシステムをきちんと持つ歌劇場が各地方都市にあります。しかしこれら多くの歌劇場は収入の多くを国や州からの補助金に頼っています。
以前バイエルン歌劇場のバックステージツアーに参加したとき、案内役が「わが歌劇場は収入の3−4割をチケット収入その他などでまかなえている。」と誇らしげに言っていましたが、
私は反対に「ヨーロッパで一番経済状況がよいドイツの、しかもドイツで一番のお金持ちが集まるミュンヘンの歌劇場でさえ収入の6−7割は補助なのだ!」と思った記憶があります。
言ってみれば、オペラはその生まれからして王侯貴族の趣味、本来採算が取れる芸術形態ではないのでしょう。
補助金頼みの故、ばかりではないでしょうが、ドイツ語圏にある多くの (歌)劇場はオペラのみならずバレエ、オペレッタ、ミュージカル、演劇、子供向けに作られた(または子供向けに改変された)数多くのオペラ、人形劇・影絵などを上演しています。
世界トップクラスのバイエルン歌劇場でも子供向けのプログラムが沢山ありますし、チケットの価格面で子供や若者に配慮をしていることがわかります。また ”Oper für alle” (みんなのオペラ) のように人気オペラを広場に設置した大画面で無料で観る機会を作っています。さらに毎シーズン、オペラ数公演をネット等で無料公開しています。
これら歌劇場は多様な芸術を皆に提供して納税者に報いるのみならず、将来の演奏家や将来の観客の育成を目指し努力しているように思えます。
それに対しMETはドイツ語圏の歌劇場程多彩な活動をしているようには思えません。その代わり公的な補助は殆ど受けていません。収入はチケットの売り上げとパトロンなどからの寄付に依存しています。
世界で最もお金持ちが集まるニューヨークの歌劇場だからできる芸当かもしれませんが、それでも現在の財政状況はかなり厳しい。もちろんMETも彼らなりの様々な努力はしていますが・・・(NYメトロポリタン歌劇場 オペラの生き残りかけ闘う、日経電子版 2017/11/19)。