ディミトリ・ホヴォロストフスキー氏が亡くなりました。残念です・・・。彼の充実した低音の響きが大好きでした。まだ壮年期に逝った彼を悼んで沢山の方々が弔辞を述べておられます。有名な日本の新聞にも訃報が載っていました。半年ほど前に彼の記事を書こうと思い実際半分書きかけたのですが病状悪化が見て取れ、つらくて書くことができなかったのです。
iltrovatoreがホヴォロストフスキーに惚れ込んだのは2002年ROHで上演された「イル・トロバトーレ」のビデオを見たときです。若いのに銀髪で美形のルーナ伯爵が印象的。
下の動画は第1幕、マンリーコとルーナ伯爵が鉢合わせし、レオノーラをめぐってチャンチャンバラバラをやりながら有名な3重唱をうたうのです。一般的にこの場面は歌優先で演技と言ったら申し訳程度に刀をちょろっと合わせるくらいです。
しかしこの時はダイナミックな戦いで、「この激しい動きでよくこの様に美しく歌えるものだ!」といたく感心したのです。彼の素晴らしい中低音の響きに完全に参りました。
この方は1989年カーディフのコンクールに出演。当時恐らく27-8才。ご当地スターのブリン・ターフェルと争って優勝し有名になりました。この時「ドン・カルロ」から「ロドリーゴの死」を歌ったビデオが残っています。普通は一回息継ぎをして歌う箇所をノンブレスで歌うというフレージングの長さが驚異的で、その滑らかで美しい響きに聞き入りました。
彼は舞台に出るだけで存在感抜群、スター性はオペラ界随一と言っても良いくらいでオーラを振りまいていました。世界中の一流歌劇場で様々な役を歌っています。
特にロシア物を歌ったら天下一品。オネーギンが有名ですが iltrovatoreは「スペードの女王」の「エレツキー公爵のアリア」も好きです。
またロシア歌曲もよく歌っており特にムソルグスキー作曲「死の歌と踊り」(4曲連曲)は絶品です。この動画は最後4曲目、「司令官」。
激戦の描写から始まります。
"そして戦闘後、戦場で夜の静寂が支配する中、
「死」が軍馬に乗って現れ、死んだ兵士に向かい
「私が勝利者、勝った者も負けた者も私の支配の下。
歳月は過ぎゆき人々はおまえ達を忘れる。
しかし私は忘れない。
私はおまえ達に盛大な饗宴を催そう。
おまえ達はここに横たわり私は踊りながらこの大地を踏みつける。
おまえ達が死からよみがえることのないように!"
と勝ち誇って叫ぶ様子が描かれています。
美形で立派な体格、演技も上手かった。演奏会ですが「オテロ」、生粋の悪人イヤーゴの「クレド」です。(こちらの動画)
アリアの最後の部分で、
"E poi? e poi?「それで何だと言うのだ?」
La Morte e il Nulla 「死は虚無だ」
E vecchia fola il Ciel! 「天国など古くさい話さ!」"
の後の哄笑がすごい。カウフマンがオテロでこの方がイヤーゴを演じたらどんな「オテロ」ができあがったのでしょう。(2017.11.23. wrote)