「プラチド・ドミンゴ (Plácido Domingo)」


既に伝説となっている御方。スペイン生まれのテノール歌手・・・ですが現在バリトン役を歌っています。サルスエラ劇場を経営していた両親の下に生まれ、若い頃から歌っていました。

 

1968年、フランコ・コレルリの代役として急遽出演したMETの「アドリアーナ・ルクブルール」で彼は世界的スターとしての足がかりを得ます。元々バリトンとしてスタートしているだけに、深く美しい中声域、張りのある力強い高音域は素晴らしかった。しかも若い頃からのずば抜けた演技力、そして端正な容姿をも備えています。

 

彼はルチアーノ・パヴァロッティ、ホセ・カレラスとともに3大テノールとして世界中でコンサートをしてまわり、当時(1990年代)オペラになじみにない人々にオペラの素晴らしさを知らしめたという偉大な功績があります。

彼のもう一つの特徴はそのレパートリーの広さで、ドイツ物、イタリア物、フランス物、ロシア物、オペレッタ、ロッシーニからワーグナーまで合計140以上 (プラチド・ドミンゴのサイトに出ているレパートリーをざっと数えただけ。実際はもっと多いはず)。 これはもう常人のなせる技ではありません。それに加え現在も着々とレパートリーを増やしています・・・。彼のレパートリー数を超えられるテノールは将来も出ないのではないかと思います。

 

彼のシグニチャーロールはありすぎてどれというのは難しいが、強いていえば「オテロ」でしょうか?若い頃はデル・モナコと比べ軟弱などと悪口を言う人もいましたが、オテロの内面的な弱さ繊細さを歌と演技で見事に表現し、現在では高い評価を受けています。

彼は1941年生まれ。2021年1月で80才になります。オペラはやはり声が一番ですから、どんなに人気のあるテノール歌手であっても声が出なくなれば引退せざるをえません。しかし彼はあの広いMETで未だにその声を響かせることが可能な希有な御仁です。

 

彼がバリトン役を歌うのに抵抗がある方もいらっしゃいます。しかし人の声は多種多様で、テノールとバリトンの間にはっきりとした境目はなく、例えばラモン・ヴィナイはテノール、バリトン、ついにはバスの役を歌っています。バリトンの響きがある無い云々と言っても、所詮声質の好き嫌い(良い悪いではない!)は個人の好みにすぎません。

 

ただiltrovatoreには、彼はいまだにテノールで、テノールがバリトン役を歌っているように感じられます。

 

テノールの時、ドミンゴは神様でした。バリトンとしての彼は神様とは言わないけれど、現在でも十分一流です。歌は上手く、演技も上手く、舞台を盛り上げてくれるのです。それで何が不足、何が悪い!?私はドミンゴ様が少しでも長く現役で歌っていて欲しいと願っています。

 

ただ残念なのはセクハラ疑惑で輝かしい歌手人生の最後が汚れてしまったことでしょう。彼は謝罪しましたけれどね。

 

最後につけたしですが、彼は若い時から指揮もしていますし、彼の主宰で若い歌手のためのコンクール「オペラリア」も主催しており、このコンクールからアーウイン・シュロットなど有名な歌手も出ています。

(2019.01.12. wrote, 2021.3.16 revised)  番外地に戻る