「リーゼ・ダヴィッドセン」(Lise Davidsen) :次世代を牽引する若手ソプラノ歌手


私が初めて彼女の声を聞いたのはBSプレミアム?か何かで放送されていたバイロイトの「タンホイザー」だったと記憶しています。録画でROHの「フィデリオ」、MET HDの「ナクソス島のアリアドネ」も聴きました。ノルウェーの若きドラマティックソプラノです。

 

声は巨大、高音も決して金切り声にはならずつややかで圧倒的な輝きを放ち、低音Gまではっきりと出せる音域の広さがすごいです。その圧倒的な存在感に仰天!やはり北欧出身のドラマティックソプラノ、ビルギット・ニルソンは鋼鉄の如く冷たくキツい感じの声でしたが、ダヴィッドセンの声はずっと温かい感じがします。(とはいえ私はニルソンも好きです)

 

彼女の体は桁外れに大きくバリトン歌手よりも大きく見えることが多いです。テノールとして決して低い方ではないカウフマンなど二回り小さく見えます。あまりに大きいのでテノールとの愛の二重唱を歌うときはテノールを一段以上高い段上に上げないと様にならないのではないか、と心配してしまいます。

 

彼女はノルウェーのストッケで1987年に生まれました。15歳のときにギターと歌を始め、初めのうちはメゾ・ソプラノとして歌っていましたが、コペンハーゲンの王立オペラアカデミーで修士課程に入りそこでソプラノに転向しました(1)。

 

2015年、ソニア王妃コンクールで第1位、ロンドンのオペラリアコンクールで第1位と聴衆賞を受賞し国際的な注目を浴びます。

 

それからはトントン拍子。すでにオペラ関係の記事では「桁外れの新人」「100万人に一人の声」「21世紀を牽引するワーグナー歌手」と絶賛状態。彼女が次の世代を代表する破格のソプラノとなるのはほぼ確定しているとさえ思えます。

 

そんな彼女ですが、彼女のインタビューを聴く限り非常に落ち着いていてしかも謙虚な雰囲気を漂わせている方です。

 

ちなみにカウフマンが「フィデリオ」の歌い方の難しさを解説しているOpera Nowの記事(2)があり、その中でレオノーレのアリアの難しい箇所をダヴィッドセンが見事に歌ったことを以下のように記して彼女の素晴らしさをたたえています。

 

「レオノーラの歌う “Die Liebe, sie wird’s erreichen“ ですが、この”erreichen” を書かれたままに(一息で)歌うとするとエンドレスなフレーズになってしまうので(意訳:フレーズが長すぎて一息で歌うのが不可能になってしまうので)、ほとんどのソプラノはこの言葉が出てくるフレーズの途中でerreichen, erreichenと繰り返し、この繰り返しの間で息継ぎをします。

 

この場所を(ベートーベンが)書いた通りに一息で、しかもライブで歌ったのはロンドンでのLise Davidsenで、この歌い方を僕は初めて聞きました。現在このように歌うことは滅多になく、ベートーベンの時代でもやはり滅多になかったことでしょう。」 

 

(1) “Lise Davidsen” From Wikipedia, the free encyclopedia This page was last edited on 19 June 2022, at 19:39 (UTC). https://en.wikipedia.org/wiki/Lise_Davidsen

(2) “The real thing” Opera Now 2020年5-6月号P.18、by Helena Matheopoulos

 

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参考までに、極めてオタク的に説明を加えますと、

 


「フィデリオ」 レオノーラの第1幕のアリア“Komm Hoffnung” (上の動画) のなかの1:06より始まるフレーズがカウフマンの言及しているところです。Davidsenはこのフレーズ、 “Die Liebe, sie wird’s erreichen, ja, ja, sie wird’s errei---chen, sie wird’s errei------chen“ と赤字の部分を楽譜通りに一息で歌っています。しかし一流歌手でさえそんな長いフレーズを一息で歌うのは無理なので、この赤字部分のフレーズを2つに分け ”erreichen, erreichen” と繰り返し、その繰り返しの間でブレスを入れて歌うのが普通です

 

Iltrovatoreはこの部分を2つに分けて歌う他のソプラノ歌手の歌い方と聴き比べてみましたが、、、、いやダヴィッドセンは凄いわ。。。

 

(2023.07.08 wrote) 番外地に戻る