フランス人でインターナショナルな人気のあるオペラ歌手と言ったらテノールではロベルト・アラーニャ、バリトンではこのルドヴィック・テジエではないでしょうか。
マルセーユ生まれで1968年生まれ (現在51才)。すでにフランスの名誉ある芸術文化勲章、Chavalier de L'Ordre des Arts et des Lettres、を授与されています。
レパートリーは広く、モーツアルト (「フィガロの結婚」のアルマヴィーヴァ伯爵、「ドンジョヴァンニ」 同役)、ベルカントオペラ(「ファヴォリート」のアルフォンソ、「ランメルムールのルチア」のエンリーコ)、プッチーニ (「トスカ」のスカルピア)、フランスオペラ(「ファウスト」のヴァレンティン)、またワーグナー (「タンホイザー」ヴォルフラム)などを歌っています。
彼の声はヨナス・カウフマンの声と相性がよく(実際に仲良しのようですが)、二人の二重唱は滑らかに響き合い本当に麗しいです。2019年ROHで上演された「運命の力」に関する沢山の評論の中で一番目立ったのが、彼らの二重唱への賛辞でした。
10年前は野性的で美形、細身で素晴らしい容姿でしたが、現在は体も顔もたっぷり膨らんでしまいました。
彼はなんといってもヴェルディの様々なバリトン役が有名で、彼の深く滑らかな声、魅惑的なレガート、表現力の深さ、芝居の巧さ等、魅力たっぷり。一流歌劇場から引っ張りたこの御方であります。下の「ドン・カルロ」でも一般的にブレスを入れる箇所を一息で歌って素晴らしいレガート感を引き出しています。
「ドン・カルロス」 'O Carlo, Ascolta' 2017
彼はヴェルディの歌い方について、
「実際の所ヴェルディは歌うだけでは十分でない。幾層にも重なった(多面的な)性格を持つヴェルディのキャラクターを表現しなければならない。完璧な声楽的技術を持たなければ歌えないが、たとえ完璧な技術的で歌えてもその点が欠けていてはだめだ。技術を消し去るために技術を使わなければならない」(bachtrack)と語っています。
テジエはフランス人でありながらワーグナーも好みで、いつかは歌ってみたいと考えていたようで、2021年4月ウイーン歌劇場「パルジファル」でアムフォルタス役を初めて演ずる予定です。
彼は「ジーグムント。大好きだよ。木の幹から剣を引き抜きたいね!この役はバリトン的だよ、そんなに違和感は無い。そりゃやりたいよ。僕は明日にでも「冬の嵐は過ぎ去り」を歌えるよ。そんなに大変じゃないよ。」(bachtrack)
と言っています。彼はすでにバリトン版ウェルテルも歌っていますし、将来は本気でジークムントを歌おうとするかもしれません。(ただし、彼が演ずるのならiltrovatoreとしてはむしろヴォータンを歌って欲しいですけど)。
追記:ルドヴィック・テジエは2021年6月25日、「トスカ」公演の最終日にフランス文化省から "Officer of Arts and Letters"「芸術文化勲章 Officier, オフィシエ(将校)」を授与されました。(2021.6.27 wrote)
(2019.04.21.wrote, 2021. 3.16revised) 番外地へ戻る