ウイーン国立歌劇場鑑賞記 「セヴィリアの理髪師」と「アイーダ」

 「セヴィリアの理髪師」鑑賞記はこちらから

 

ウイーン国立歌劇場鑑賞記3 「アイーダ」 2018.5.1.公演

 

アムネリス役がAnita Rachvelishviliと知ったときからこれはオペラ「アムネリス」になるのでは、と予想していましたが、圧倒的な存在感、しかも絶好調、まさに彼女の舞台でした。 

 

まず舞台から始めましょう。 古代エジプトという設定はそのままでした。 舞台にでてくる主役達、群衆、奴隷、バレーダンサーなどの衣装が美しかったです。 ただし、美しいとはいえ時代考証は二の次、エジプトやその他の中東地域のデザインを適当に盛り込んでエキゾチック感を出した衣装や大・小道具でした。

 

丁度一週間ほど前、新国立劇場で「アイーダ」を観ましたが、その重厚さや豪華さはMETにもまけないほどで、日本の演出(ゼッフィレッリ)の方がウイーンよりはるかに勝っていると思いました。

 

Rachvelishviliの声は他の歌手を引き離しひときわ良く響いてきます。 第1幕、アイーダを恋敵と疑う場面。 猜疑心をむき出しアイーダを脅す強い歌声と演技はまさに高慢で気位の高い姫君。 彼女が主役に見えます。 

 

ところが第2幕の始め、エジプトの戦勝祝いの直前。 侍女達に囲まれアムネリスがラダメスへの想いを歌う(心でつぶやく)場面が驚嘆でした。

 

Ah! Vieni, vieni amor mio, m'inebria, Fammi beato il cor!

おお!おいで下さい、おいで下さい、愛しい方、私を驚かせ、私の心を祝福してください!

 

ここは高音(多分G) で始まるパッセージなのですが、まるで初めて恋をした少女のように柔らかくデリケートな弱音(p ~ mp)で歌ったのです。 「そう来たか〜!!」と心の中で叫びましたよ。 このフレーズは普通フォルテで始めるのです。しかしアムネリスの心の表現としては実に納得のゆく歌い方でした。

 

しかもこの “Ah! Vieni, vieni amor mio,・・・”と続くフレーズはあと二回繰り返され、それらも全て美しく優しくなめらかな弱音で歌われました。 その技に感服です。 いやあ、あなたは素晴らしい!

 

第4幕も迫力でした。 自尊心をかなぐり捨てラダメスに自分を愛してくれと必死に懇願し、受け入れられず絶望し、そもそも祭司にラダメスを引き渡したのは自分だという事実を見つめ、さらに冷酷な祭司達に助命を訴え、拒絶されて最後は祭司を呪う、という千々に乱れる心の襞をあますところなく表現していました。

 

その後のカーテンコールは盛大な拍手、では有りませんでした。 歌劇場全体がゴゥ〜とまるで嵐が沸き立つ様な称賛でした。

 

Rachvelishviliに完全に喰われた感のあるラダメス(Jorge de Leon)とアイーダ(Kristin Lewis)ですが、彼らもよかったのです。 二人ともこの役にふさわしく、密度の濃いよい声で歌っていました。

 

ラダメスの「清きアイーダ」の最後も迷いなくフォルテでしたが、しっかりとした声で朗々と歌っていました。(ちなみに、新国立の「アイーダ」ではロドルフォやミミを歌った方が似合いそうな声をした歌手にラダメスとアイーダを歌わせていましたね。)

 

ただ、Jorge de Leonは高音が少々詰まって聞こえ、Kristin Lewisは音程により響きが変わり多少むら感のある歌唱だったのがちょっと気になりました。 また両人とももう少し演技に力をいれてくれたらよいのに、と思います。(2018.5.8. wrote)


 

ウイーン国立歌劇場鑑賞記2 「セヴィリアの理髪師」 2018.4.30.公演

 

上の写真でわかるように舞台は9つに仕切られた小部屋だけ。 舞台転換はありません。 歌手達はこの部屋の中を動いて歌います。 小部屋のシャッターが閉じられると家の外壁の様に見え、その壁の手前で歌手が歌うと家の外で歌っているように見えます。 単純な舞台ですが、歌手達の動きなどよく考えられていて飽きませんでした。

 

今回の公演に有名歌手は出演していませんでしたが、フィガロを演じたMario Cassiというバリトンは上手でした。 ロッシーニの早口アリア「私は町のなんでも屋」をよどみなく軽々と歌い、沢山の拍手を貰っていました。

 

ロジーナ、伯爵はいずれも声が明るく良く響いていました。 ロジーナの「今の歌声」も良かったです。ただ、伯爵は・・・第1幕始めのカヴァティーナはまあまあでしたが、終幕の大アリアは歌いませんでした。 でもこの歌手だと最後の大アリアはちょっと大変かな、と言う感じだったので文句はありません。

 

ロッシーニのコメディーオペラは芝居がうまくないと全然面白くありません。 その点バルトロはじめ主役の皆さんは息の合った芝居をしていて楽しめました。

 

もう一つ発見した事、それはバルトロ家の召使い達の重要性です。 マイナーな役であまり歌いません。 今回は二人とも演技イマイチでなんとなく舞台が締まらないのです。 彼らの演技がこのオペラの重要なスパイスになっていて、彼らが上手いと主役達の歌も引き立つということがわかりました。(2018.5.8. wrote)