スペードの女王 マリンスキー・オペラ 2019.11.30 東京文化会館

美しい舞台美術、主役には失望

 

ゲルギエフ指揮マリンスキー歌劇場オーケストラ&合唱団による来日公演。余り上演されることのないチャイコフスキーのオペラ「スペードの女王」です(なぜか2018/19シーズンにROHで上演し、METでも現在上演中)。iltrovatoreは楽しみにしていました。

 

今回の上演で特筆すべきは美しい舞台美術及び演出です。舞台が部屋の中とも、また回廊ともみえるように何本もの大きな柱がゆっくりと動き、舞台転換はスムーズでセンスが良い。

 

当節時代読み替えがはやりで、このオペラも精神病院での話とかになったりするそうですが(iltrovatoreはその演出を見ていない)、今回は台本に沿ったエカテリーナ女帝の華やかな時代で、女性の衣装の豪華で華やかなこと、まるで時代絵巻物を見ているようで何とも美しいし、分かり易いです。

 

一幕目は全身銀色、二幕目は全身金色の美しい彫像達が途中で動き出すのも面白く、豪華さに花を添えます。とても印象的でした。

 

第2幕に入る劇中劇は、モーツアルト作曲「魔笛」パパゲーノのアリアの旋律と似た軽く明るい「誠実な女羊飼い」。この歌を歌った女性陣もうまかったし、男性の演技もよかったです。

 

合唱の方々もストップモーションで歌ったり、はたまた一斉に動きだす、など演出も凝っていて大いに満足しました。

 

 

音楽はチャイコフスキー節に溢れ、非常に聞き易いです。歌手で印象に残ったのはポリーナ役のユリア・マチョーチュキナ。幅広で滑らか、良く響く美しい声で悲しげなバラードを歌いました。

 

もう一人はエレツキー公爵役のロマン・ブルデンコで、彼の「あなたを愛しています」もゆったりと滑らかに歌われ、なかなかうまかったです。その他のバリトン・バス達も良かったですね。

 

全体にこの歌劇場で歌う歌手達は、声は大きいという感じです。文化会館に悠々と響き渡ります。

 

ただし問題は主役です。リーザ役のソプラノさんはなかなか強い張りのある声をしているのですが、高音になると音が濁り、がさがさしたつぶれた感じの金切り声になるのですね。私は全く好みません。でもまあ許容範囲内ではありました。

 

最悪はゲルマンです。確かに大きい声なのですが、こわばって固く、高音はフォルテでしか歌えないし表情も付けられません、という感じ。まるで吠えているよう。しかも最高音は最初から最後までピッチが下がっていました。歌に感情を乗せ想いを表現する、などという所から遙かに隔たった、単に音を串刺しにして押し出したような棒歌いで、がっくり。

 

しかも演技が完璧な大根でした。最終幕、ゲルマンが得意の絶頂から絶望に引き落とされるところなど、ストーリーが分かって見ている私でさえ、ありゃ何じゃ、の下手さでした。いや学芸会並み。

 

 

iltrovatoreは以前にもゲルギエフ指揮の来日公演「ドン・カルロ」を鑑賞しています。その時はフルラネットやリーなど一流歌手が歌ったのですが、舞台装置は「やっつけ」に作った感満載。歌手達は棒立ちで歌い、二重唱は二重唱に聞こえず歌手それぞれが勝手に歌っている感じ。歌手達に「あなた達、もしかしてぶっつけ本番で歌っている?」と聞きたいほどでした。この時もチケットの値段は結構高かったです。

 

今回名前のしれた歌手は来日していないので、声にさほど期待はしていませんでしたが、主役のレベルが余りに低く、S席42000円に見合わない、と感じました。この価格はゲルギエフ相場ですか?それとも舞台装置値段?

 

つい先日来日したトリエステ歌劇場の「椿姫」は、舞台装置こそ大したことはなかったけれど、マリナ・レベカなど歌がとてもうまい人を連れてきてくれて大満足しました。それで同じ文化会館でやっても値段はS席29000円でしたよ。

 

とまあ、色々文句を書きましたが、最後に付け加えれば、12月1日の公演ではゲルマン役がガルージンに変わるので、今回の公演よりもレベルが高くなっているかもしれません。

(2019.12.01 wrote)