椿姫 トリエステ・ヴェルディ歌劇場 東京文化会館 2019.11.2 公演

 

この歌劇場は16年前にも来日したことがあるそうです。今回は「椿姫」しか持ってきていませんが、なんと日本各地(東京上野、練馬、神奈川、愛知、群馬、新潟、富山、大阪)を歌って廻ります。それ故か、ヴィオレッタ役、アルフレードおよびジェルモンパパ役それぞれ3人の体制です。

 

特に大がかりな仕掛けなどない舞台ですが、古典的で華やか、合唱歌手さん達のドレスも素敵だし、2幕2場ではジプシー女、闘牛士の服装も華やか。そしてバレエダンサー2人が色を添え(バレエがないと悲しい)、見た目も満足出来る舞台でした。

 

 

主な出演者は、マリナ・レベカ、ラモン・ヴァルガス、アルベルト・ガザーレです。

 

「椿姫」は主役ヴィオレッタの良し悪しがオペラのレベルを決めると言って差し支えないのですが、マリナ・レベカは非常に良かったです。

 

最初は声が余り出ていない感じでしたが、第1幕のクライマックス「ああ、そは彼の人か〜花から花へ」は良くコントロールされた弱音と強音をレガートに響かせつつ、主人公の複雑に移り変わる心を表情豊かに描きだしていました。

 

第3幕、切ないバイオリンの愛の調べに乗せてパパジェルモンからの手紙を読むところも良かったし(この場面は毎度涙ぐんでしまう)「さらば、過ぎし日よ」も極上のピアニシモでエモーションたっぷり。いや、上手かった。感動的でした。

 

欲を言えばもう少し歌に伸びがあったほうがよかったかなあ、とも思いましたが、あくまでも欲を言えば、で、実際は世界のトップ歌劇場で歌ってもブラボーを沢山貰えると思われる実に素晴らしい歌唱でした。

 

アルフレードを歌ったのはラモン・ヴァルガスで、もうすぐ60才になろうというテノールなのですが、年齢を感じさせない余裕の歌いぶりでした。演技も含め、浅はかで情熱一筋なアルフレード、というよりは大人風のアルフレードでした。

 

レベカもヴァルガスも、このオペラで慣習的に歌われる「花から花へ」のハイEsとか「燃える心を」後のカバレッタに続く最後のハイCを出しませんでした。でも両方の歌唱とも素晴らしい出来でした。

 

アルフレードの父、ジョルジョ・ジェルモン役のアルベルト・ガザーレは頻繁に来日しています。ルーナ伯爵を歌っても、リゴレットを歌っても、パパジェルモンを歌っても何時も安定したハイレベルの歌唱を聴かせてくれます。ただアルフレードに比べ少々若めのパパにみえました。

 

ヴィオレッタのみならず、アルフレード、パパジェルモン役の3人の歌唱が強力だったので舞台がとても充実し、楽しめました。合唱も良かったのです。

 

それになんと言ってもヴェルディの音楽は始めから終わりまで無駄なく聴かせどころが満載で、何回きいても飽きません。

 

また運の良いことにiltrovatoreが観ていた端っこの席からは指揮者がよくみえました。舞台上の歌唱とオーケストラをすりあわせる指揮ぶりを観ているのも面白かったです。

 

観客席からはプロンプターボックスがない様にみえました。プロンプターがいないと歌手・指揮者ともに負担が大きいと思うのですが、手慣れた「椿姫」なので大丈夫なのかな(単なる憶測です)。(2019.11.03 wrote) 鑑賞記に戻る