ううむ、残念でした。カウフマンにキャンセルされました。
とはいえ、ハルテロスは歌うのだ!
だけれどハルテロスもキャンセル女王でパリでのキャンセル率はかなり高い・・・・。
カウフマンばかりかハルテロスまでキャンセルしたら踏んだり蹴ったりだ・・・・。
とパリへ出かけたのですが、ハルテロスはちゃんと出てくれました。
今回の「トスカ」はPierre Audi 演出、Dan Ettinger指揮。
トスカ:ハルテロス、カバラドッシ:プエンテ、スカルピア:ルチッチという面子です。
マルセロ・プエンテ:
このテノールは以前NHKホールでやった演奏会方式の「カルメン」で既に聴いています。この時の印象はひどく悪かったです。とにかく声が震える。ビブラートという程度を越えたぶるぶる震える声で聴くに堪えなかったのです。
ところがなんと今回、やはりいくらかビブラートのかかった声ではあるが、気になるほどの「ぶるぶる」はほとんど出ませんでした。これには驚きました。声量は他の出演者と比べて小さめですが、柔らかくきれいなテノール声でした。
始めの「妙なる調和」は緊張気味で歌が平板になりあまり良くなかったものの、最後の「星も光りぬ」はなかなか良かったです。声を張り上げるというよりは柔らかくピアノ気味に歌いました。
また芝居もかなり上手です。トップスターのハルテロス、ルチッチを相手にしても自然で十分満足のゆく演技でした。唯一、ナポレオンを信奉する闘士カバラドッシにしてはおどおどした風に見えるのが頂けませんでした。が、これは演出サイドの指示によるものかもしれません。
ただし・・・2幕の “Vittoria! Vittoria!”。ここはカバラドッシとしての歌手の力量が試される箇所。大声で思いっきり感情を爆発させるところなのですが、ぶるぶる声になってしまいました。あららら、残念、でも代役としては合格、と思えました。
本人も良く出来たと感じたのか、カーテンコールでは小さくガッツポーズをしていました。
ハルテロス:
この方はいつ何を聴いても上手いです。今回の「トスカ」でも役を完全に自分のものとしていました。ゲオルギューのトスカは気が短く嫉妬深いのが正面にでてきますが、ハルテロスのトスカは気品に満ち嫉妬も気の短さもいくらか「まったり」に見えます。しかしそれもまたよしと思えてしまう高度な巧さがあります。
「歌に行き愛に生き」は情緒たっぷり。観客大喜びでブラボーがかかるのも当然です。
ただ、最後3幕目、舞台はサンタンジェロ城の屋上ではなくただの原っぱ。これではトスカが屋上から飛び降りることができないでは、、、と思っていたら、案の定、最後は片手を天に上げ、
“Scarpia! Avanti a Dio!” 「スカルピア、神の御前で!」
と叫ぶだけ。でも彼女死んでいないし・・・・・・。
天に向かって「スカルピアよ、神の御前で一緒に裁いていただこう!」と叫び、屋上から飛び降りるというドラマチックな芝居で迫力のある幕切れになるはずなのですが、この演出ではなんとも締まりがない。
ルチッチ:
昨年10月にMETの「西部の娘」ランス役でお目にかかりました。この時はカウフマンに聞き惚れ(見惚れ)ていて印象が薄かったのですが、今回はちゃんと聴きました。
彼はいい声をしています。良く響き、かなりの声量。1幕から2幕のハルテロスとの絡みもなかなか良くて歌も演技も上手いです。そういえば、ビデオ(シネマ?)でみたROH(だったと思う)の「マクベス」も迫力がありました。
で、バリトンの聴かせどころ、第1幕のテ・デウムです。私の脳内では昔レコードで何回も聴いたティト・ゴッビのスカルピアがこてこてに美化され居座っています。そのような私がルチッチのテ・デウムを悪いとは思わなかったので、実際はかなり良かったのだったのだろうと思われます。変な言い方ですがお許しを。
その他:
アンジェロッティ役 Sava Vemićというバス歌手は声も良く通り、顔良く、背も高く、なかなか見栄え、聞き栄えがありました。現在まだ32才。日本で魔笛のザラストロをやったことがあるらしいです。
というわけで、カウフマンがキャンセルした「トスカ」でしたが、結構楽しめました。
でも、やはりカウフマンの英雄的な “Vittoria! Vittoria!” を聴きたかったなあ・・・。 (2019.5.25. wrote)
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