ボローニャ歌劇場来日公演鑑賞記2019 「セヴィリアの理髪師」と「リゴレット」

 

iltrovatoreは2017年のパレルモ・マッシモ、18年のバーリの公演を観ています。パレルモではヌッチとゲオルギュー、バーリではメーリ等、とトップスター級歌手を目玉に持ってきましたが、今回そのレベルの歌手はいません。

 

しかし、むしろこの歌劇場の普通レベルの公演を観賞するのも良いかな、と思い2演目とも聴きに行きました。

 

イタリアの歌劇場はミラノスカラ座がダントツトップですが、その他12の大劇場としてバーリ、ボローニャ、フェリーチェ、パレルモ・マッシモ、トリエステ・ヴェルディなどがあります。そして更に伝統歌劇場としてマントヴァ、パルマなど29団体あるそうです。 (ヴェルディ協会の講演会資料より)最近はこの大劇場と分類される歌劇場の来日が相次いでいます。

 

で、今回の公演です。総合的な結論を言えば、豪華な舞台でキラ星の如きスター達が競演する世界トップの歌劇場 (バイエルン、ウイーン、METなど)とは全く太刀打ちできないレベルです。

 

しかし私は基本的に満足し、楽しめました。これからもこのレベルの歌劇場がどんどん来日して欲しいと思います。

 

その理由の第1はチケットの値段です。今回のチケットS席34000円は前回のウイーン歌劇場来日公演「フィガロの結婚」のチケットS 席65000円のほぼ半額です。新国立のチケットS席は大体2万円台、新演出だと27000円位しますから、日本のオペラとの差はさほど無いです。

 

また主役級歌手達のレベルも新国立での平均的な公演よりちょい上くらいで申し分ないです。

 


セヴィリアの理髪師 2019.6.20.公演

 

制作費の殆どかからないシンプルな舞台。フィガロが生け垣をはさみで剪定しています。はさみを使う度に舞い上がる葉っぱを下から放り投げる黒子の手がはっきりと見えるのはご愛敬。

 

しかし以前バーリ歌劇場の「トゥーランドット」上演中、首を切られたはずのペルシアの王子が奥の方から舞台袖へすたすた歩いて行くのを見た時より「まし」でしょうか。

 

今回の公演で一番印象に残ったのはロジーナ役のセレーナ・マルフィ。響きがたっぷり付いた美しい声で素晴らしかったです。難を言えば高音が殆ど割れてしまうこと。「今の歌声」の最後の高音 (多分ハイH) は無理矢理出した感があり、低音で美しく決めてもいいのではないかと思いました。

 

バリトンのフィガロ、バスのバルトロ、バジリオも上手く歌っていました。今回出演された方々は皆、活き活きと躍動するロッシーニのアリアを楽々と歌ってくれて、ベルカント唱法をマスターしているな、と思いました。

 

がっかりしたのがシラクーザで、とにかく声量がない。声が小さいために強弱の変化が乏しく一本調子に聞こえ、スケール感がないのです。ロジーナとの二重唱など声が彼女にかき消されていました。

 

しかし最後の大アリアはとにかく歌ってくれました。当節これを歌ってくれないと「セヴィリアの理髪師」を聴いた気がしないです。でも彼の歌は最初から最後まで「小綺麗にちんまりとまとまって」いると思えました。

 

ただ、以前の彼を知っている知人によると「昔はもっと素晴らしく歌っていた」そうです。

 

演技は、一生懸命努力している風には見えましたけれど全員いまいちで、舞台が簡素な分もうちょっと工夫があれば良いと思いました。


リゴレット 2019.6.23.公演

 

この舞台も基本簡素だが、演出家または舞台装置の作り手は比較的センスがある様に思えます。リゴレットの第1幕での淫靡な雰囲気やジルダを閉じ込める人形の家(すぐ破壊されてしまう)、第3幕の舟宿も自然に見えました。

 

しかしなんと言ってもガザーレのリゴレットが秀逸でした。この方は以前バーリの「イル・トロバトーレ」でルーナ伯爵を歌いましたがその時も非常に良かったです。始めから終わりまで良く響く声で声量も問題無く表現力もあり十分楽しませていただきました。

 

ジルダ役のランカトーレは高音を弱音で出して感情を表すのが上手いです。但し高音弱音から次の下降音に移る時いつも突然声質が変わってしまうためレガート感に欠けるのが問題かと思います。また高音を強く出す際も声が割れぎみでした。

 

マントヴァ公爵役セルソ・アルベロは典型的なテノール声で安定した高音が出ます。ハイCもお任せという感じ。これは層の薄いテノール界にあって貴重です。ただし出さんでも良い高音を不必要に(しかも不自然に)これ見よがしに長〜く引っ張る必要は無いと思います。

 

些細なことですが、頭髪がまばらなアルベロと完璧つるつる頭のシラクーザに言いたい。自分達の姿形がオペラの中の魅惑的な男達のイメージと矛盾しないよう、せめてを付けてください!

 

歌えば頭に大汗をかいて蒸れるでしょうけれど、観衆がオペラに入り込むためにそのくらいの配慮をしてくれても良いのではないかと思います。顔の造作云々は言いませんから。 

 

歌手達の演技力は前述の「セヴィリアの理髪師」と同程度に思えます。 (2019.6.24.wrote)

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