ファウスト 英国ロイヤルオペラ来日公演 東京文化会館 2019.9.18. 公演

いや〜、面白かったです。

 

来日公演は一流から中堅までレベル様々。その上一流歌劇場でも恐ろしく手を抜いて「観客を馬鹿にしている」と思う公演もたまにあります。今回はトップレベルの歌劇場による全く手を抜いていない公演で、なんとも嬉しい。

 

この人気演出は2004年くらいから続いていて、プレミアはアラーニャ、ゲオルギュー、ターフェル、キーンリサイド、コッシュ、パッパーノ指揮、という豪華メンバー。DVDにもなっていますので日本でも買うことが出来ます。

 

「ファウスト」は私が好きな演目でいくつかの演出で観ていますが、今回の演出がダントツに素晴らしい。なんと言ってもあのバレエです。ファウストの悪行を「これでもか」とばかりに見せつけあざ笑うという、メフィストフェレスらしい趣向を凝らしています。

 

猥雑、下劣、汚い、と普通では全く考えられないバレエシーンですが、オペラで表現したい内容を突き詰め深掘りする素晴らしい演出で、マクヴィカーの才能に脱帽です。常人の考えもつかないこのような演出をどうやって考え出すのでしょうか。

 

今回の歌手陣も良かったです。主な出演者、グリゴーロ、ダルカンジェロ、ソレンセン、デグー、ボーリアン全員、会場(座席数2300程)の隅々までしっかり届く響きの付いた声でした。日本でこの様に豊かな響きオンパレードの公演を聴く機会は少ないです。

 

で、まずはグリゴーロ。この方は安定した高音と張りのある明るい大声を持っています。歌唱表現と演技にかなり癖のある歌手で、欧米の評論家達からは “He is a singer inclined to excess”「彼はやり過ぎる傾向がある」等としばしば批判・酷評されるのですが、今回はとてもよかったと思います。

 

年よりのファウストとして歌う時は年とった声で歌い、よぼよぼの演技も上手い。青年になってからの明るい声と青年らしいはつらつとした演技も鮮やかでした。彼は先のことを考えず恋に盲進する青年そのもので、「この清らかな住まい」の最後のハイC(これは低くするわけにはいかない)も情熱的なフォルテで決めました。

 

ダルカンジェロの声は美しく、よく響く低音がなんともいえない。声を聴いているだけで惚れ惚れします。衣装も取っ替え引っ替えで、彫像になったり美女になったり忙しい。マクヴィカー演出のもう一つの楽しみはこの女装メフィストフェレスです。

 

ダルカンジェロはもともと美男子で伊達男。かっこよすぎて何故かこのティアラ・黒ドレスが違和感なく馴染んでしまい感動が薄い。と申しましょうか・・・むしろ昔この演出を最初に観たときの、ぎょろ目クマゴロー・ターフェルの女装があまりにも衝撃的で、その後何人かのメフィスト女装を見たけれど、現在に至るまでターフェルに勝る「ど迫力」女装メフィストフェレスはいないのです。

 

大したことではないですが、文化会館にはセリがないのでしょうか。オリジナルの演出では確かメフィストフェレスや美女達が舞台底からせり上がってきたという記憶があるのです。その方が格好いいのだけれど、今回は舞台脇から出てきましたね。

 

マルグリートはもともとダムラウが歌う予定でした。それがヨンチェバに替わり、そしてソレンセンに代わりました。この方は昨年ゼンパー・オーパーのジルベスターコンサート「こうもり」でカウフマン、シャガー、クールマン等と共演してロザリンデを歌ったソプラノです。

 

彼女はどちらかと言うと成熟した大人の女性を表現するのに適当かと思われる幅広で深めの声を持っています。ですから世間知らずで若いマルグリートには声質的に余り合っていない様に思いました。しかし上手いし実力のあるソプラノです。他の役で聴きたい人です。

 

ジーベル役のメゾソプラノ、ボーリアンですが、素晴らしくよく響く声でとても印象的でした。

 

最後に、このオペラはフランスオペラらしく、バレエもてんこ盛りで合唱も素晴らしく、聞き慣れたメロディーもたくさん入っていて愉しめました。「マエストロ・パッパーノ、素晴らしい音楽をどうも有り難う」と言いたい気分です。(2019.9.19. wrote)

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