フランチェスコ・メーリ リサイタル 東京、東京文化会館小ホール 2021.2.13公演

1月にあった新国立劇場の「トスカ」に続き、フランチェスコ・メーリのリサイタルに行ってきました。上野に行くのも久しぶりで、駅の改札を出ると文化会館前がきれいに改修されていました。改札と会館を隔てる道路がなくなりスッキリしています。いつ変わったのだろう?

 

今回は小ホール(定員649名)での公演でしたが、ほぼ満員で空席は見当たらず。政府からの客席50%制限要請がある前にチケットは完売していたと思われます。これからしばらく外国人歌手の来日は望めないでしょうから貴重な公演になりました。

 

コンサートはイタリア人作曲家、ロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニの歌曲から始まりました。とは言え、リート歌手が緻密に綿密に歌うのと違い、メーリの歌はオペラ歌手が歌う歌曲という感じがしました。要するに少し大味な歌いぶりだと思えたのです。ただドニゼッティやベッリーニは歌曲そのものがオペラアリア的なのが多いですけど。

 

次のルイージ・マイオ作曲のアルケミケランジョレスカは世界初演だそうです。歌詞全くわからず曲に対する個人的な印象だけですが、割と気に入りました。

 

次のトスティは私のよく知っている有名な歌曲が続き楽しかったです。この辺に来るとメーリもかなり気楽で気分良く歌っている感じに見えました。例えば「君なんかもう愛していない」では、最後の歌詞 "non t'amo più" のpiùをピアノで、ムラなく、いつ終わるのかなあ、と思えるほど長く美しく伸ばし大きな拍手をもらっていました。

 

休憩の後後半はオペラアリア集。オペラになると聴衆もよく知っている曲が続きます。メーリは元々声の響きが半端なく美しい人ですが、さらに調子が上がって輝かしい。

 

「マノン」の「目を閉じれば」(夢の歌)はものすごく柔らかく優しく歌われました。iltrovatore的には今回のアリアの中で一番良かったです。しかし次の「ルイザ・ミラー」「フェドーラ」もエモーショナルにフォルテで歌う部分が素晴らしく、メーリ絶好調、と思えました。

 

コンサート最後の「トスカ」「星は光りぬ」は何日か前にオペラで聞いたのとほぼ同じ感じ。最初はピアノから柔らかく始め後半盛り上げてゆく歌い方、印象的で美しい。ところで一流テノールであってもこのアリアの最初の部分をメゾフォルテまたはフォルテで歌う方が多いです。ピアノで前半歌えるテノールは数少ない。彼はその貴重なテノールの一人です。いや〜、良かったです。

 

(ただし彼のピアノで歌う部分は少々伸びに欠け、わずかにギクシャクするのですよね。でも以前ザルツブルクでの「清きアイーダ」最後をピアノで終えた時よりもピアノ唱法は上手くなっているかも。)

 

以上でコンサートは終わり、アンコールが始まりました。なんと合計10曲!!! 初めのアンコール デ・クルティス「勿忘草」、ドニゼッティの「人知れぬ涙」くらいまではまあこんなもんかなあ、と思っていました。

 

彼がピアノで弾き語りをしたトスティの「可愛い口元」(だったと思う)までゆくと、まあ5曲もサービスしてくれるなんて、嬉しいわ!絶好調の彼氏を聞くことができ大満足!と帰りかけたのですが、、、、、スタンディングオベーションする観客は増え続け、拍手なりやまず、むしろ盛り上がり続けていました。

 

メーリも内心喜んでいたのではないでしょうか。それからさらに5曲大サービス。それも最後の2曲は「トスカ」の「妙なる調和」、「椿姫」の「燃える心を」というテノールの有名アリアです。正式のコンサートが前半でアンコールが後半のような感じになってしまいました。しかも後半大盛り上がり。

 

よくこれだけ歌えるもんだ、すごいわ。メーリは疲れたでしょうねえ。ご苦労様です。歌ってくれて本当に感謝感謝です。日頃のコロナストレスも吹き飛んでしまいました。

 

ところでメーリにしても、大喜びで拍手喝采を送ってくれる満席状態の観客の前で歌ったのは何ヶ月ぶりでしょう。ヨーロッパの歌劇場は壊滅状態でオペラやコンサートはたとえ上演できたとしても無観客なのです。精神状態ギリギリのところまで追い詰められている歌手達も多いはず。有名テノールのメーリにしてもやはり辛い状態が続いているでしょう。今回のように満員のお客さんを前に歌うのはなんとも充実感があるのではないでしょうか。彼が楽しそうに調子良く歌う様子を見ながらふとそんなことを考えてしまいました。

 

今回の演奏会のチケット代はS席でも5500円。なんとも "お得感" のある素晴らしいコンサートでした。日本に滞在している間にもっと歌ってください、メーリさん! (2021.2.13 wrote) 鑑賞記に戻る