鑑賞記:Wagnerians in Concert (MET Stars Live in Concert) ~2021.5.21まで

ソプラノ クリスティン・ガーキ(Christine Goerke)、ソプラノ エルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー(Elza van den Heever)、テノール アンドレアス・シャガー(Andreas Schager)、バリトン ミカエル・フォッレ(Michael Volle)、ピアニストCraig Terryによる主としてワーグナー作品のコンサートでした。

 

まずはそれぞれの歌手の紹介風に始まりました。

 

“Dich, teure Halle”「タンホイザー」より(Elza van den Heever): 第2幕。「歌の殿堂のアリア」。密度のあるしっかりとした声を持っておられる。初めメゾとして出発されたそうですが、高音が輝かしく潰れず素晴らしい。お顔も美しい。彼女を始めてみたのはMETでの顔を白く塗りたくって男みたいに歩く不細工でヒステリックなエリザベス役だったので、彼女の顔写真をみてびっくりしました。その後もこの輝かしい声でMETに出演されています。

 

“Allerseelen (万霊節)” Op. 10, No. 8 Richard Strauss作曲(Christine Goerke):亡き恋人への想い。ええと、申し上げにくのですけれど、ガーキさんってこんなにふくよかであられましたっけ?彼女がトゥーランドットを歌っていた時は全く感じなかったけれど…

 

“Cäcilie,” Op. 27, No. 2 Richard Strauss作曲(これもChristine Goerke)こちらは打って変わって情熱的に歌います。

 

“Wie Todesahnung … O du, mein holder Abendstern” 「タンホイザー」より(Michael Volle):第3幕。ヴォルフラムの有名な「夕星の歌」。端正で美しく柔らかい。ヴォルフラムって本当にいい人なんですね、と思わせる歌い振り。

 

“Ein Schwert verhiess mir der Vater” 「ワレキューレ」より(Andreas Schager):第1幕。有名な"Wälse! Wälse!"が出てくる場面。いなくなった父へむけた悲痛な叫び。楽譜では "Wälse"の "Wäl"と"se"の間にフェルマータ印がついていて、オーケストラもただ一つの和音を鳴らし続けているだけ。作曲者がテノールに「あなたの思うままに歌っちゃってください」と言っているようなものです。

 

で、Andreas Schagerはここを思いっきり伸ばしていました。いや〜気分がいいでしょうねえ。ここで何秒伸ばした(大体11秒くらいです…)、などと言うとオペラ(楽劇)愛好家からめちゃくちゃ馬鹿にされるのは確実。でもミーハーな私はどのくらい伸ばすか結構楽しみにしています。やっぱりオペラはエンターテイメントでもあるのですから! ただ彼の声はこのフレーズを歌うにしては少々明るめに感じられます。まあ個人的な好みですけどね。

 

ここまで聞いて何か物足りないと感じました。何が足りないかと言うとオーケストラの密度の濃い分厚い響きです。歌手の歌は素晴らしい。しかしワーグナーの楽劇はオーケストラの分厚い土台の上に歌が乗って始めて機能する、音楽の中でオーケストラの比重がとても大きいのだ、と改めて感じます。もちろんピアニストはとても上手なのですが、まあ仕方ないです。

 

次はワーグナー作曲「ヴェーゼンドンク歌集」。元々女声用に作曲された歌曲集ですが、今回は男女四人で歌います。"Im Treibhaus"と "Träume"では「トリスタンとイゾルデ」の旋律を聴くことができます。濃厚な歌曲です。

 

Der Engel 天使 Michael Volle

Stehe still! とまれ Andreas Schager

Im Treibhaus 温室にて Elza van den Heever

Schmerzen 悩み Christine Goerke

Träume 夢 Elza van den Heever

 

次は

“Wirst du des Vaters Wahl nicht schelten?” 「さまよえるオランダ人」より。第2幕。ゼンタ(Elza van den Heever)とオランダ人(Michael Volle)の二重唱。オランダ人はゼンタに彼のために犠牲になってくれるかを訪ね、ゼンタは彼を助けることを誓う。Elza van den Heeverが輝かしいです。以前Michael Volleの歌うオランダ人をMETで聞いたことがあります。次にMETで歌声を聴けるのはいつのことになるでしょう。

 

“Winterstürme wichen dem Wonnemond … Du bist der Lenz” 「ワレキューレ」より。第1幕、有名な「冬の嵐は過ぎ去り〜あなたこそ春」をジークムント(Andreas Schager)とジークリンデ(Christine Goerke)の歌で。Christine Goerkeはジークリンデにしては声質が少々年増風に思えました。Andreas Schagerのジークムントは若々しいです。

 

“Abendlich strahlt der Sonne Auge” 「ラインの黄金」より。第4場、ワルハラへの虹の橋がかかった最後の場面。ヴォータン(Michael Volle)が様々な思いを持ちながらも「ワルハラに住むぞ」と決然として歌うところ。

 

“Nur eine Waffe taugt” 「パルジファル」より。第3幕最後の場面。パルジファル(Andreas Schager)が聖槍でアムフォルタスを癒し、聖杯を取り出すよう命令する。Andreas Schagerは見えない聖槍を持って歌います。

 

“Euch Lüften … Entweihte Götter!” 「ローエングリン」より。第2幕、オルトルート(Christine Goerke)はバルコニーにいるエルザ(Elza van den Heever)に呼びかけエルザの同情を買おうとするが、実は復讐を企んでいる。一人になったオルトルートはヴォータン、フライアの神々に復讐の助力を願う。Christine Goerkeのオルトルートが迫力満点。本来はメゾが歌う役ですが、彼女は素晴らしい。もし劇場で歌っていたら観客の大喝采間違いなし。

 

Christine Goerkeが代表で視聴者に対するメッセージ:

「私も同僚も歌えて嬉しい。トンネルを出る日は近い。再び皆さんを前に歌うMETのステージが待ちきれない。この場(NYでも)にいる多くの方々やピアニストにも感謝します。」

 

と、とても嬉しそうに語っていました。裏方をきちんとたたえるところも良いです。皆さんの嬉しい思いが溢れていたメッセージでした。

 

最後に、

“Nun will ich jubeln” 「影の無い女」、R.シュトラウス作曲。オペラ最後の場面。バラクと妻が再会し、皇帝と皇后合わせて四人の重唱。ヴェルディですと4重唱といえば「リゴレット」の「美しい愛らしい娘よ」が定番ですが、ドイツオペラだとこれになるのか。 

 

このコンサートは5月21日まで視聴可能です。こちら。20ドル。(2021.5.11 wrote) 鑑賞記に戻る