「Der wendende Punkt」バイエルン歌劇場ストリーミング 2021.8.3〜9

 

今回はバイエルン歌劇場を去るNikolaus Bachlerのサヨナラコンサートでした。Bachlerが見出し・重用し・有名になったペトレンコ・カウフマン等をはじめとして、豪華絢爛の歌手や指揮者陣が勢揃いしました。

 

今回の鑑賞記はそれぞれの歌手の歌を聴きながらiltrovatoreが感じたこと、思い出したことなど徒然なるままに書いています。何事か記憶に残った歌手のみ。参考のために所々バイエルンでの過去の公演のYoutubeを入れてあります。

 

まずはさすが、と思ったのはChristian Gerhaherが歌ったモンテヴェルディの「オルフェオ」のアリアです。オペラ史上最初のオペラと言われているやつですね。ゲルハーハの歌もすごく古風な歌い廻しで語るが如く歌うが如くという感じ。私は知りませんでしたが、2014年Prinzregententheaterでの「オルフェオ」公演で彼がこのオルフェオを歌ったらしいです。その時の指揮も今回と同じIvor Bolton。興味深く聴きました。

モンテヴェルディ作曲「オルフェオ」 "Possente spirto"、2014 Prinzregententheater, ミュンヘン


 

Ermonela Jahoは顔も体も痩せていて病人役がピッタリでビオレッタの第3幕のモノログなどを歌うと鬼気迫り恐ろしいまでの迫力がある方です。修道女アンジェリカもハマっています。歌う背景も彼女の衣装もバイエルン歌劇場で以前歌った時使った物でしょう。子供を失った悲しみをこれでもかと歌っている感じ。最後、ピアニシモでの高音を長〜く美しく伸ばして印象的でした。最後は目に涙が溢れているように見えました。

 

Jonas Kaufmannの「アンドレア・シェニエ」"Un di all'azzurro spazio"を自分は一体何回聞いてるでしょう。彼は舞台でもコンサートでもこのアリアを数多く歌っていて余裕たっぷりですね。シェニエ風衣装で歌いました(これバイエルン歌劇場のシェニエで使いましたっけ?私には記憶がないです)。彼が前半最後でした。

「アンドレア・シェニエ」2017 バイエルン歌劇場


 

Elina Garancaは「ラ・ファヴォリータ」から"O mio Fernand!"を歌いました。何年か前彼女がバイエルン歌劇場でこの歌を歌ったときはフランス語版を使っています。歌うアリアの名前がフランス語で書いてあったこともありフランス語で歌うのかと思いましたが今回はイタリア語で歌っていました。このアリアはイタリア語で歌う方が好きなので私はOKです。彼女の歌はさすがの迫力。いつ聞いても素晴らしい!人気があるのもわかりますね。

 

ブリン・ターフェルの代役で出演したSimon Keenlysideは「タンホイザー」のヴォルフラムのアリア「夕星の歌」を歌いました。うまいですけど、美男の彼も年取ってきました。。。

 

Nina Stemmeは「トリスタンとイゾルデ」より「愛の死」を歌いました。これは何日か前にバイエルン歌劇場のストリーミングでハルテロスが歌っていたのを聞いています。Stemmeの高声は体の下の方からぐうっと押し上げて出しているように聞こえます。物凄い筋力が必要ではないかなあ、と思いますがその声は強くて輝かしいです。日本人じゃこういう風には歌えないんじゃないかなあ。

 

「愛の死」は4時間(休息を入れたら5時間)にわたる「トリスタンとイゾルデ」の最後に歌われます。この歌の最後で、不安定なトリスタン和音がついに安定した調和のある和音に変わり、彼らの愛が死をもって成就したことを示唆します。最後の一瞬のこの和音がたまらない。

 

次はWolfgang Kochの「マイスタージンガー」ザックス親方の歌でした。後にあるバンは確かバイエルン歌劇場での「マイスタージンガー」で使ったやつではないかなあ。カウフマンとコッホが出演してペトレンコが振った記憶があります。

 

そしてコッホがバンを叩くと、もぞもぞと出てきたのはMarilis Petersen。コッホから渡されたのがコッホ(というか、ヨカナーン)の首。そうそう2年前バイエルン歌劇場、PetersenとKochが「サロメ」で共演していました!この時もペトレンコが指揮していました。首で聴衆の笑いを取った後でコッホはブリキ (?)の箱(やはり「サロメ」の小道具) を彼女に渡して去り、Marilis Petersenの歌うサロメが始まります。

 

iltrovatoreは「サロメ」が好きです。不協和音だらけで気味が悪いオペラなのですが不思議な魅力があり引き付けられます。Marilis Petersenの声というか歌い方も特徴的です。細い声のコロラトゥーラソプラノなはずなのにドラマチックです。よくまあ喉が壊れないなあ、といつも感心しています。彼女はブリキの箱から血だらけの衣服を出し抱きしめながら歌っていました。

「サロメ」2019バイエルン歌劇場


 

彼女の歌が終わるとJonas Kaufmannが出てきます。彼女がカウフマンに渡すのは先ほどの箱。カウフマンがその箱から取り出したのは多分死んだ奥さんの写真です。彼は「死の都」の最後の場面、死んだ妻に別れを告げる歌  „O Freund, ich werde sie nicht wiedersehn“ を歌いながら写真を燃やします。(写真を燃やす入れ物も実際の公演に使われた小道具でした)。カウフマンとペーターセンは2019年バイエルン歌劇場「死の都」で共演し、この時もペトレンコ指揮でした。

 

この「死の都」公演は忘れられない。私はこの公演を見ていたのですが最後の最後に平土間に病人が出て客席のライトがバチッとついてしまい、しみじみとした彼の感傷的なアリアの感動がどこかにぶっ飛んでいってしまったのです。う〜ん、実に悔しかったですね。

「死の都」2019 バイエルン歌劇場


 

次はAdrianne Pieczonkaによる「薔薇の騎士」元帥夫人の「時」のモノログ。彼女が着ているのは以前バイエルン歌劇場で使っていたオットー・シェンク演出の元帥夫人の衣装では!そう、今年の新演出の元帥夫人はMarilis Petersenだったのだから違いを出すためにも古い演出の衣装を使うのは正解。ただしし後ろの時計は新演出で使われていた物ですね。

 

彼女の歌もうまいです。気品がありしっとりとしています。元帥夫人の雰囲気によくあっていました。

 

今回最後はChristian Gerhahaerによるシューベルト作曲「別れ」。静かに歌いました。

 

最後の3人、カウフマン、ピエチョンカ、ゲルハーハの歌はそれぞれ過去との惜別、過ぎ去ってゆく時、「別れ」と全て別れに関係していてサヨナラ公演にマッチしていたと思いました。(2021.8.7 wrote) 鑑賞記に戻る