ヨナス・カウフマン オペラコンサート オペラシティ、 東京 2018.1.10. 追記

 

1月6日に続いてのコンサート。 コンサートの内容は前回と全く同じ。 今回も前回もさして変わらぬコンディションだと思いました。 ただ高音弱音の伸びと響き方から考えるに前回の方が若干良かったように思います。(但しカウフマン基準で言えば、の話。絶対的な基準でいえば素晴らしかった)。 

 

前回は会場の最後尾に近いところで聴いたが今回は前から3列目。 オペラグラスがなくてもカウフマンの表情がよくわかる席。 しかし後方できいても前方で聴いても声が同じようによく届くのですね。 声を会場中に響かせる技術に長けた方なのでしょう。

 

今回一番良かったと思えたのが前半部最後に歌った  「カヴァレリア・ルスティカーナ」 から 「母さん、あの酒は強いね」。 母に別れを告げ、サントゥッツアのことを頼む切々とした情にあふれたドラマティックな歌い方、しかも酔っ払った風に足下がふらつく感じ、そして顔や体からあふれ出る表情(演技)がまるでオペラを見ている様でした。 素晴らしかったです。

 

後半は現在のカウフマンの重めの声にフィットするアリアが続きましたので、あの輝かしい張りのあるドラマティックな高音を堪能いたしました。

 

アンコールはオペレッタから始まったので、あれまあ、やはり少々お疲れ気味かなあ、と思ったのですが、3曲目に 「星は光りぬ」 を歌ってくれました。 大変でしたでしょう。  結局4曲歌って終了しました。 観衆もコンサートの初めから興奮気味でした。 カウフマンさん来日してくれてありがとうございます。 最後まで楽しく充実したコンサートでした。 (2018.1.11.wrote)

 

ヨナス・カウフマン オペラコンサート サントリーホール、 東京 2018.1.6.公演

 

今回は2度のキャンセルの後、3度目の正直公演です。 いい加減待ちくたびれたと思われた方々、本当に来日するのだろうか? と疑っていた方も多かったでしょう。 昨年12月半ば過ぎのローマGALA、モスクワの大晦日のコンサートをキャンセルしたと聞いて冷や冷やしていましたが、元気で来日して下さって本当に嬉しい。 

 

大阪でのコンサートを聴いた方によれば4日のコンサートより調子がよいようです。 体も時差ぼけから解消されたのでしょうか。 10日のコンサートも期待できます。

 

カウフマンが歌ったアリアとその歌詞、日本語訳はここに載せてあります。

「妙なる調和」

プログラムの最初は「トスカ」より「妙なる調和」でした。 出だしの “Re-con-di-ta ar-mo-ni-a~” の声の伸びがよく、突端からこれは調子よいかも、という期待感大。 皆さんの期待に添う歌いぶりで、少々抑え気味かなあ、とも思いましたがまずまず無難な滑り出しでした。

 

「清きアイーダ」

この歌はテノールにとって実に難しいアリアで、全体を滑らかで壮大なレガートで歌うのも難儀な上に、最後の一節の歌い終わりの高音はピアノでしかも段々と弱くして消えるように歌わねばならないからです(少なくともヴェルディの指定によれば)。

 

現実的に殆どのテノールがフォルテで終わるのは、その方が難易度が低いためでも有り、また観客受けするからでもあります。 念のために付け加えます。 観客受けを考えるのは歌手にとって重要なことでもあるが、作曲者の意図を汲み感動的に歌えるのは更に素晴らしいとiltrovatoreは考えております。

 

で、今回カウフマンがどうだったかというと、全体は伸びやかなレガートでゆったりと歌われました。 最後の高音はピアニッシモからモレンド(消えてゆくように)になり最後はメッサ・ディ・ヴォーチェ(段々強くして段々弱く)していました。 何とも素晴らしかったです。 メッサ・ディ・ヴォーチェは楽譜に指定されてはいませんが、最後にこれをやられるとものすごく感動的になります。

 

ただし、今回のメッサ・ディ・ヴォーチェは途中ぎくしゃくした部分が一箇所ありカウフマンが絶好調で歌うときより少しグレードダウンかなあ、と思われます。 昨年6月のコンサートの方が完璧でした。 ただしこれはカウフマン基準で考えた場合の感想で、普通に考えたらそりゃものすごく素晴らしい歌唱でした。

 

「花の歌」

この歌もカウフマンお得意のアリア。 さすがにこなれていて表情豊か。 何度聞いても上手いです。この歌も最後の高音B♭を柔らかく印象的にピアニシモで歌いました。 NPRによれば

 

 “ビゼー「花の歌」の最後のB♭を彼のように漂うが如く柔らかいピアニッシモで歌える歌手は、残念ながら現在殆どいない。彼を劇場で観る必要はない。ドラマの全ては彼の声の中にある。” 

 

と評論されていましたが、まさにその通り。 但し声が重くなっているため、昔の様な柔らかい感じは少々失せているかも知れません。

 

「お母さんあの酒は強いね」

カウフマンの歌い出しからオペラグラスでじっと観察しているとわかるのですが、彼は観客に挨拶したあとアリアを歌い出す直前に顔つきと目つきが変わります。「くっ」と役に入り込むのです。 死を予感したトゥリッドが母にさりげなく別れを告げ残されたサントゥツァの世話を願うアリアですが、張り裂けそうな心を歌に乗せ、台詞をドラマティックにしゃべるが如く歌うカウフマンでありました。

 

「ああ!全ては終わった〜おお裁きの主、父なる神よ」

ゆったりと大きなスケールで歌われました。 あまり知られていないフランスオペラ「ル・シッド」からのアリアなので拍手も少なめでしたが、とても上手かったと思います。

 

「ある日、青空を眺めて」

昨年彼は「アンドレア・シェニエ」を舞台で演じています。この歌は自然を賛美する輝かしい歌唱から始まりますが、途中から庶民の苦しみをかえりみない貴族階級への批判となります。聴いていた方は歌詞がわからなくても歌に込められた感情の変化を充分に感じ取ることができたのではないでしょうか。 歌で芝居をすることが何とも上手い人です。

 

「誰も寝てはならぬ」

誰もが知っている有名なアリア。 今回もカウフマン基準で考えれば普通グレードで歌いきったかな、と思います。当然ながら観客からの熱狂的な拍手とブラボーあり。

 

アンコール

「星は光りぬ」

このアリアが今回の公演の中で最も感動的だったと思います。 出だしの“Oh! dolci baci, o languide carezze,”は聞こえないくらいのピアニシモ。 次のフレーズ “le belle forme disciogliea dai veli!” も柔らかいピアニシモが続き、 最高音のAもたっぷりとピアニシモ。 と、ピアニシモの連続攻め。 

 

しかし最後は輝かしくフォルテで。 お隣に座っていらしたご婦人が「私は歌のことはわからないけれど、あそこ(弱音部分)はものすごく素晴らしかった。」とおっしゃっておられました。 全くその通りでした。

 

「カタリ・カタリ」とオペレッタ「歌う夢」より「君は僕の心のすべて」

カウフマンの甘い歌いぶりが目立ちました。 その後、もう無理かなと思いながら拍手を続けていたら、最後に一曲やってくれました。 オペレッタ「微笑みの国」より「君は我が心のすべて」。 もう言うことはありませんね。 お客様達はとても満足されて帰途につかれたと思います。 

 

最後に、ヨッヘン・リーダーの指揮がよかったです。カウフマンの歌を活かすべく伴奏に徹したオーケストラ采配でした。

 

そして最後に一言言いたい。

 

私が聴いた席は1F最後部から5列目! 主催者が選んだ席で私が選んだ席ではないです。この席で38000円ははっきりと高い。 昨年11月に開催されたダムラウの同じ会場でのコンサートは最高席が18000円でしたけれど。 この値段の故でしょうかステージの反対側にあるP席がえらく混んでいて驚きました。

 

しかしP席 (ステージの後ろ側、歌手の背中しかみえない最安席)にして12000円でしたっけ?この様な値段設定ではお金持ちのオペラ好きか熱狂的なカウフマンファンでなければ聴けないですよ!(2018.1.7.wrote)