アイーダ CD 2015

2017年夏ザルツブルグ音楽祭の目玉の一つ「アイーダ」をYoutubeで観ました。(NHKも収録していましたのでいずれBSプレミアムかなにかで放送されると思います)。ロールデビューのネトレブコがすばらしいです。

 

で思い出しました。2015年に出たカウフマン版「アイーダ」CDの鑑賞記を以前書いておいたことを。で、遅まきながら載せます。鑑賞記の終わりにザルツブルグ「アイーダ」の感想も少々載せました。

 

久しぶりに充実したアイーダを聴きました。 アントニオ・パッパーノの指揮の下、聞こえないくらいの弱音で前奏が始まるとそこは古代エジプトの世界。CDだと想像力が働きやすく、私の頭の中は当然ながらMETの豪華な舞台。

 

カウフマンの 「清きアイーダ」(下にある動画) はこのオペラの冒頭に歌われる有名なアリアです。若いラダメスの人にはいえない胸一杯の恋の想いをゆったりとレガートで歌い上げます。最後の ”Ergerti un trono vicino al sol!, un trono vicino al soll!" (あなたの王座を太陽,sollまでもってゆくのだ)が重要です。とくに3回繰り返される “un trono vicino al soll!” はヴェルディの指定通りppppからppへ、最後はmorendo、ゆっくりと溶けて消えるように長〜く引っ張って歌われ,ラダメスの深い密やかな想いが伝わってきます。(ちなみにこの方の息の長さはすごい。ホヴォロストフスキーといい勝負)

 

この歌い方は超高難度。一流プロでもなかなか出来ない感動的な歌い方です。Iltrovatore的には、ああ、とうとうやってくれた!!という想いがあります。昔からこのアリアは何度も聴いてきましたが、極めて納得の行く歌い方です。(ご興味がありましたらiltrovatoreの「清きアイーダ考」もご覧下さい。)

 

追記:最後のmorendo、実はさらにメッサ・ディ・ヴォーチェしています。メッサ・ディ・ヴォーチェというのは音を伸ばして歌いつつ弱音から声を強め再び弱くしてゆく歌い方。声に表情がでて美しい。(元の動画が削除されたので別のコンサート動画をいれました)

 

次に出てくるのはアイーダの「勝ちて帰れ」。 ハルテロスは緩急強弱自由自在な歌いぶりで、父への想いとラダメスへの恋に葛藤する心を描き出します。第3幕の「我が祖国」 (下のYoutube) も想いのこもった素晴らしい歌唱。カウフマンもそうですが彼女も本当に弱音の扱いが上手(鑑賞記で何度も同じ事を言ってますが)。アリア全体に陰影が付いて深みのある歌いぶりが印象に残りました。

第3幕「わが祖国」


シュロット、テジエとセメンチェクもうまい。この3人はドン・ジョバンニ、カルメン、ドン・カルロ、運命の力等等で実力のほどを存じておりましたので意外感なく素晴らしい。

 

全体としてパッパーノの指揮は安心して聴けます。はっきりしていてとてもわかりやすい。オペラ舞台が楽に想像でき臨場感があふれていました。

 

終幕の墓場の場面も印象的。ドラマティックな前幕までと打って変わって今度は死を覚悟した二人の二重唱。(この歌い方に関するカウフマンのコメントが「インタビュー」にあります)。二人が穏やかに歌う場面のうしろでは巫女達の祈りとアムネリスの祈りが重なり荘厳な舞台がバイオリンのすすり泣きのような響きと共に静かに幕を閉じます。

 

これはヴェルディのオペラの作り方がとてもうまい、ということなのだけれど何度聞いても感動させられる幕切れです。

終幕、最後の二重唱途中まで 


下の動画にはアイーダ収録の様子が写っています。初めに出てくるのが指揮者のパッパーノ、次にアイーダ役のハルテロス、カウフマンの次にランフィス役のシュロット。アムネリス役のセメンチェクとカウフマンの二重唱が続きます。最後にでてくるのがアモナズロ役のテジエ。あらやっぱり歌い手にイタリア人がいない。


追記:

ザルツブルグ音楽祭2017「アイーダ」のラダメス役はフランチェスコ・メーリでした。彼の声は滑らかで緻密で品格があり美しい。「清きアイーダ」の最後の部分をピアノ・モレンドで(いわゆるファルセットではありませんよ)歌っていました。

 

まだ「完璧」とはいえない歌い方ですがそれでも歴代の有名テノールができない、又はやらない、という難しい歌い方を果敢にトライしてくれてとても嬉しいです。彼はまだ30代の若さですが既にネトレプコの相手役として充分な実力を見せています。貴重なヴェルディ歌いです。

 

指揮者はリッカルド・ムーティです。原典に忠実で楽譜に書かれていない音、例えばテノールの曲芸、イル・トロバトーレ、マンリーコのアリア 「見よ、恐ろしい火を」 で慣習的に歌われるハイC、を嫌います。ムーティならば 「清きアイーダ」 の最後も作曲者の指定通りに歌うのは歓迎でしょう。もしかしたらムーティが楽譜のとおりに歌えと言ったのかも、、、。

 

2015年のCDでもセメンチェクは良かったのですが、2017年は更に良くなっている感じ。私この方も大好きです。ネトレプコが上手いのは申し上げるまでもありません。今回もど迫力の豊かな声、ピアノからフォルテにいたるドラマティックな表現は他のソプラノの追従を許さぬ真に世界トップソプラノの貫禄ですね。(2017.8.29.wrote)