イル・トロバトーレ MET オペラビューイング 2015−16

ヨナス・カウフマンと過去に共演なさった方々が出演するオペラ鑑賞記

共演者;ドミトリ・ホヴォロストフスキーとアンナ・ネトレプコ(ROHの椿姫、様々なコンサートで共演)

 

追記:ドミトリ・ホヴォロストフスキー氏は脳腫瘍と戦っておられましたが、2017年11月22日に亡くなられました。

 

本鑑賞記では、特にホヴォロストフスキー (私にとって書くのに難しすぎの名前なので彼の愛称、ディーマと書かせていただきます) に焦点を当てたいと思います。理由は彼に賞賛を送りたいから。というのも、彼は脳腫瘍の治療をしながら舞台を務めているのです。体力的にもきついと思うのですが、歌いたい、という想いにあふれた歌唱で感動しました。

 

かれは29歳でBBCカーディフ国際声楽コンクールに優勝し、それ以降四半世紀にわたって世界各地の一流オペラ劇場に出演しています。ネトレプコ、カウフマン,ディーマはROHの椿姫で共演。またカウフマンとはコンサートなどでも共演しています。低音の響きが豊かで長いノンブレスレガートが売り。

 

ま、確かにブレスの音がすごいけれど声の響きの美しさではバリトンでもピカイチと思っています。若い頃からの銀髪で、あの難しい名前は覚えられなくてもロシアの銀髪バリトンで同定ができてしまう。美形で舞台姿が美しくオペラでの2大マダムキラーはカウフマンとディーマだそうです。

 

ステージでの存在感は圧倒的。第一幕で彼が演じるルーナ伯爵が舞台に出てきたところで割れるような拍手。治療のための長い休演後初めての舞台復帰に歌劇場が沸きます。彼はMETの観衆に愛されているのですね。これぞスター。普通はないことですが軽く観衆に会釈しました。彼も観客もお互い感動です。

 

第二幕での「君のほほえみ、Il balen」 はバリトンならば1度は歌ってみたい美しい曲です(こちら)(2011年のMET ビューイングからのクリップ)。 恋するレオノーラを想う気持ちをレガートに美しく歌っていました。病気の影響はほとんど感じられませんでした。またも長い拍手。こたえる彼の目に涙。聞いているこっちまで感無量。

 

しかし、ストーリー的にいえばレオノーラはルーナではなくジプシーの息子マンリーコを愛しています。ルーナ伯爵は嫉妬に燃え、なんとしてもレオノーラを我がものにしようとがんばるのですがうまくゆかない、という役どころ。彼はこの役は何回も経験済み。全体としてさほど大げさではなくしかしこなれた演技をしていました。

 

4幕では死を覚悟したレオノーラとの二重唱が続きます。ネトレプコの高音でもつぶれない充実した豊かな声とうまく競演し全体を盛り上げていました)。最後は己が殺したマンリーコが実はルーナの実の弟だったと告げられ呆然としたところで幕が下ります。

カーテンコール。ディーマに対してオーケストラピットから白ばらが一斉に投げられ、彼の復帰を感動的に祝いました。

 

ディーマはMETによく出演しています。彼の十八番はロシア物。「エフゲニー・オネーギン」(ルネ・フレミングとの共演、2006−07年度MET ライブビューイング, DVDが販売されている) のオネーギンは素晴らしいです。ヴェルディ「仮面舞踏会」でのアンカーストレムも印象的で、MET ライブビューイング2012-13年度の作品です。

 

今回のイル・トロバトーレは、WOWOWでもまだ何回か再放送されるでしょうし、映画館の再上演もされるのではないかと思っています。

 

また、「スペードの女王」のエレツキー公爵のアリアは彼が歌うと特に美しい。オペラ以外でもムソルグスキー作曲の 歌曲 「死の歌と踊り」 は私の心に深い感動を残しています。

 

追記;ドミトリ・ホヴォロストフスキーさんには日本のファンサイトがあります(こちら)。

(2016.11. wrote)