カルメン MET 2010 DVD

 

ヨナス・カウフマンとご縁のあるオペラ歌手が出演するオペラ鑑賞記;ロベルト・アラーニャと エリーナ・ガランチャ

 

ロベルト・アラーニャはテノールです。カウフマンとアラーニャの様なトップテノール二人が舞台で共演するということはまずありません。でもアラーニャはカウフマンと深い絆があるのです。

 

まずはカウフマンが世界的に注目されるようになったMETでの「椿姫」。この上演でヴィオレッタを演じたアンジェラ・ゲオルギューの夫(現在は離婚している)がアラーニャです。

 

カウフマンは、「つばめ」「椿姫」「蝶々夫人」「トスカ」など様々なオペラでゲオルギューと共演していますから夫のアラーニャとはずっとおつきあいがあったわけです。現在でもカウフマンとアラーニャは仲が良さそうな感じですね。

 

2016年METでの「マノン・レスコー」全公演をカウフマンがキャンセルした時代役としてデ・グリューを歌ったのがアラーニャです。わずか2週間ほどの練習期間で今まで舞台で歌ったことのないデ・グリューを演じきりました。METビューイングにもなったその公演は高い評価を受け、大スターの実力とはこれほどすごいものなのか、と驚かされました。

 

アラーニャが得意とする役どころは「情けない男」。女にいいように振りまわされ、しかしその女をあきらめきれず、涙を流して「俺を捨てないでくれ〜」と女にすがって懇願するのがものすごく「はまる」人です。MET2010の「カルメン」はMETビューイング10周年記念の人気投票でトップに輝いた作品。彼の得意技はこの舞台で遺憾なく発揮されています。

 

第1幕。ドン・ホセ/アラーニャは南欧系の明るく健やかな顔立ち。体つきもカウフマンと比べてふくよか。とても神経質には見えません。はっきりとした輪郭を持つ明るい歌声で、ミカエラとの会話(二重唱)では気の良いマザコン青年風。素直に明るく幸せそうに歌います。

 

しかしカルメンに出会ったのが運の尽き。気性が激しく、何者にも飼い慣らされない、自分に正直な、男っぽく、しかし色っぽい超美人のカルメン/ガランチャが何とも魅力的。なめらかで深みのある美声で歌われる「ハバネラ」と「セギィディリャ」でドン・ホセがぞっこん参るのも当然か。アラーニャは抗うすべもなくカルメンに惚れてしまう男をうま〜く演じていました。

 

第2幕「花の歌」。彼はカルメンをずっと軽く抱きながら,寄り添いながら歌うのです。彼女に自分の心を打ち明けカルメンに「俺を愛してくれよ」と懇願しているのです。最後はカルメンの膝に顔を埋めて。なんとも感動的な場面でした。

第4幕 ファイナルシーン


終幕でも彼は一生懸命カルメンに嘆願します。「一緒に遠いところに行こう」「おまえの望む様になんだってやる」。最後は「俺を捨てないでくれ」とカルメンにすがりつきます。これも迫力満点。しかしカルメンの心は変わらず、とうとうぶち切れたドン・ホセはカルメンを刺し殺してしまいます。

 

アラーニャが創り出すドン・ホセは本当に情けない男ですが、自分の一生を投げ捨てカルメンへの愛にのめり込むその姿に感動すら覚えます。ガランチャという存在感のある素晴らしいカルメンを得て、対するアラーニャ/ドン・ホセの歌と演技が光る舞台でした。

 

カウフマンとアラーニャのそれぞれの特性をみてみますと、カウフマンは精神的に追い詰められ絶望感にあふれる役を演じるのが得意で、一方アラーニャは抗いきれない盲目的な愛におぼれ破滅へと向かう男を演じるのがうまいです。実際色々なオペラを観ても彼らは自分達の長所を活かした役作りをしていると思います。

 

2006年ROHのカルメンでカウフマンは新たなドン・ホセ像を創り出しました(こちら)。私は彼の独創性を高く評価し彼の歌と演技にぞっこん惚れ込んでいます。しかしアラーニャが創り出すドン・ホセもまたとても魅力的で、この二人が演ずる「カルメン」のDVDは両方とも私のお宝となっています。

 

尚、エリーナ・ガランチャはカルメン役でカウフマンとミュンヘンで共演したことがあります。またBaden-Badenコンサートなどでの共演もあります。

 

追記;「カルメン MET2010」はDVDが販売されています。ロベルト・アラーニャさんには日本のファンサイトがあります(こちら)。(2016.11.)