第1幕 ドン・ジョヴァンニとツェルリーナの二重唱 「手をとりあって」


ドン・ジョヴァンニ MET オペラビューイング 2016-17

 

 

まず誰に注目したかというとタイトルロールを歌うサイモン・キーンリサイドです。彼が復活して本当にほっとしました。この有名なバリトン歌手は喉の故障で殆ど2年間近く一流歌劇場から遠ざかっていたのです。

 

事の始まりはウイーン国立歌劇場「リゴレット」。喉の調子が悪いのを無理に歌って喉を壊し、オペラ上演の途中で役から降りなければならなかったのです(こちら)。その後来日公演でマクベスをやりましたがすぐにまた手術そして長い休業。一流歌劇場での本格的な復帰公演がこのMETのドン・ジョヴァンニだったのです(こちら)。

 

人気歌手のオペラ公演はとにかく見たい聴きたいものです。海外までわざわざ遠征したのにキャンセルされるとがっかりし逆恨みもしたくなるものです。「ちょっと喉の調子が悪いくらいでキャンセルしないでよ!」と。しかし、一回の喉の故障が歌手人生を永遠にだめにしてしまう可能性もあるのです。

 

さてドン・ジョヴァンニです。タイトルロールの割にさほどのアリアがないので、ジョヴァンニをやる歌手には歌手自身の存在感と演技力が必要と考えています。キーンリサイドはもともと存在感があるし芝居のうまいひとです。

 

今回も第1幕の決闘シーン、第2幕で酒を飲みながらテーブルの上に飛び乗り横たわるドンナ・エルヴィーラを踏みつけながら歌うなどなかなかのアクションでした。女たらし人生はドン・ジョヴァンニが自身の意志で選んだもの、と解釈するキーンリサイドが熱演するドン・ジョヴァンニでした。

 

幕間でサイモンのしゃべることしゃべること。彼がケンブリッジ大学で動物学を専攻していたとわかれば彼のおしゃべりにも得心のいく部分があります。

METの今回のドン・ジョヴァンニは正統的な演出でした。最近のよく考えても意味わからん演出やチープ又は子供じみた演出が多い中、この様に安心できる演出だと歌に集中できるので私的には歓迎です。毎度毎度正統的に、とはいいませんが近年のオペラハウスの演出は???が多くてね(個人的な感想です。レジーが好きな方には申し訳ない)。

 

特に良かったと思ったのはドン・オッターヴィオ役のポール・アップルビー。本人が幕間で語っていたとおりドン・オッターヴィオをドンナ・アンナに引きずられる優柔不断な男でなく、もっと強い男として歌い演じていたのが印象的でした。途中で微妙に崩れそうになった所はありましたが、声も歌も素晴らしかったと思います。(2016.12. wrote)