パリオペラ座、「コジ・ファン・トゥッテ」 と 「メリーウイドウ」

 「メリーウイドウ」の鑑賞記はこちらから

 

10月14日と15日で上記の2つのオペラを鑑賞しました。まずは「コジ・ファン・トゥッテ」から。麗しいガルニエ宮での観劇でこの宮を見るだけでも価値があります。

ガルニエ宮外観


 

「コジ・ファン・トゥッテ」 鑑賞記2017.10.14.

 

このオペラはドラマチックなところがあまり無く、その割に長く(下手な歌手が歌うと退屈きわまりない)、しかし美しいアリア、美しい重唱がいくつもあるのです。6人の主演者達はさほど有名な方々ではなかったのですがモーツアルトの作品によくマッチした透明感の有る美しい歌唱が印象に残りました。指揮者Marium Stieghorstは音楽を綺麗にまとめていたな、という感じでした。

 

但し、、、問題は演出です。今回場面転換は一回も無し。舞台装置といえば後方にある舞台裏風壁があるのみ。出演するのは歌手及びそれぞれの歌手の分身(背後霊か?)。3時間あまりの上演中ずっと、歌わない分身及び歌手がやった演技といえば、体と手をくねらせる(しかもくねらせ方のバリエーションが少ない)、転がる、舞台を走り回る、寝る。

 

翌日隣に居合わせたバレエ通とおぼしき方に伺ったところ、これはコンテンポラリーダンスだと言うことでした。一般的にコンテンポラリーダンスとは「非古典的かつ前縁的で時代の先端を体現している」ダンスらしいです。

 

しかし数少ない動作の組み合わせ、繰り返しだけが全てだったので、主人公達のそれぞれの立場での愛に対する思い、時代そのものに対する批判などモーツアルトがこのオペラに込めた内容に沿った表現をしているとは全く(みじんも)思えませんでした。ただ音楽に合わせて動いているだけでオペラとは関係ない動作の連続と思えました。私の対抗策といえば、目をつぶって歌手の歌を聴く、でした。

 

最後のカーテンコールは拍手する気にもならず早々に退散しました。もし演出家がこの手のダンスをモーツアルトで表現したいならば、オペラとしてはやらず自分達のダンス公演としてやってくれ、というのが私の思いです。

 

そもそも今回の公演はオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」では無くダンス「コジ・ファン・トゥッテ」でしたね。コンテンポラリーダンスが好きな人なら面白かったかも知れません。オペラ座も今回のオペラを「オペラ」でなく「オペラ&バレー」のような分類にしておいてくれればこちらの見方も違ったと思います。

 

ガルニエ内部には当時有名だった作曲者、演奏家、演出家などの胸像がいくつもかざってあります。例えばベルリオーズ。いまでこそ有名ですが、彼の存命中散々な評判だった一回以外、彼のオペラがオペラ座で上演されることはなかったそうです。彼は「ファウストの劫罰」など現代に残る有名な作品を残していますが、それは「劇的物語」であり「オペラ」ではなかったのです。

 

オペラの黎明期を代表する4人の偉大な作曲家達、ヘンデル、グルック、リュリー、ラモーの像は入り口あたりにドーンとあります。


 

「メリーウイドウ」 鑑賞記 2017.10.15.

 

メリーウイドウはオペラバスチーユで鑑賞しました。前日とは打って変わり、新し物好きなら「つまらない」かと思われるごく普通の演出。ダニロにトーマス・ハンプソン、カミーユにステファン・コステロ。

 

さらに前日の「コジ・ファン・トゥッテ」とこの日の「メリーウイドウ」でご一緒させて頂いたロンドンの椿姫様もお薦めのハンナ役ヴェロニク・ジャンス、ヴァランシエンヌ役ヴァレンティナ・ナフォルニータと有名な歌手が出演。

 

 

皆さん歌上手、芝居上手。とにかく楽しくこちらも浮き浮きするオペレッタでした。しかしハンプソンが年とった。いまだダンディーで歌も演技もうまいことは確かですが、高音が少しきつくなってきたか、という印象はありました。

 

第三幕のフレンチカンカンが圧巻の素晴らしさ。最後に頭に角が生え全身チョコレート色の悪魔の彫像に似せた数人が両手にたいまつを持って舞台上方からつり下げられた状態でゆっくり途中まで降りてきました。下で踊っているダンサーの白いスカート(ペチコート)とよいコントラストで舞台映像的にも美しかったです。(下のYoutubeには映っていませんが)

 

お約束のフレンチカンカンの場面


 

そして最後に印象に残ったのは、大使館の書記官ニェーグシュです。演じていたのは実にジークフリート・イエルサレムだったのです。とてもお元気で立ち振る舞いも立派、現在77才とは思えない。ワーグナーオペラを支え続けた往年の名ヘルデン・テノールです。

 

昔はカミーユやダニロも歌っていたそうですが、歌のない演技者としていまだ舞台に立ち続けるその姿は、私の心に何とも言えない様々なそして複雑な感情(思い)を呼び起こしました。(2017.10.19.wrote)