ミュンヘンオペラフェスティバル2017鑑賞記 「ホフマン物語」と「ラ・ファボリート」

 

ミュンヘンオペラフェスティバル2017鑑賞記 「ホフマン物語」 2017.7.28.

 

共演者:ディアナ・ダムラウはカウフマンとコンサートでよく一緒に歌っています。来年の2月にはヨーロッパ各地をまわりながら二人でヴォルフイタリア歌曲集を歌う予定になっています。

 

この公演のキャストは変更に次ぐ変更でした。まずは4役をやるはずのダムラウがかなり早くに降板し、代わりにクルザックが入りました。そのまま行くかと思われたところでアブドラザコフが公演の2週間くらい前に降板しニコラ・テステ(ダムラウの夫)に変わりました。

 

更にその後公演のちょっと前にクルザックが急に降板して、結局ダムラウがオランピアを除く3役を、そして人形のオランピアをオルガ・ポドヴァさんというロシア人が歌うことになりました。

 

ダムラウが歌う極上の人形の歌(オランピアの歌、下の動画を参照)を聴きたかったのですが、残念無念。新たなオランピアはさて如何?と不安でしたが、これが素晴らしかった!!!

 

細くもなくキンキンもしない豊かであふれるような美声、しかも技術がすごい。あの難しいオランピアのコロラトゥーラアリア(最高音: 高音のミ♭・・・最近はE♭6とか書くのだろうか)を余裕綽々自由自在に歌いこなし観客の長い長い称賛の拍手を貰っていました。いやあこんなにレベルの高いオランピアは滅多に聴けません。非常に満足。この歌さえよければ私的にはホフマン物語は成功したも同然。

 

そしてダムラウです。私には彼女がいつも健康優良児、元気印に見えてしまって・・・。そのダムラウがホフマンの恋人ステラ、病身のアントニア、高級娼婦で悪女のジュリエッタを歌い演じ分けるのですが、それがまあなんと上手かったこと。アントニアを可憐にしっとりと、悪女ジュリエッタをこれも悪女らしく、ステラは気取った歌手、と歌で演技で演じ分け、(歌が素晴らしいことは既によく知っているので)特にその演技のうまさにもびっくりしました。

 

それからズボン役ニクラウス/ミューズ役のメゾ、アンゲラ・ブロワーも柔らかいトーンの美しい声で印象に残りました。初めから最後まで男役でズボンをはきっぱなし、最後にミューズとして麗しい姿にしてあげたかったのですがねえ。

 

テステも低音がよく効きなかなかの腕前。今年11月に夫婦で来日コンサートがあるので楽しみ、、、と書いて最後に来るのが主役のマイケル・スパイアースです。アメリカ人のテノールですがフランスオペラをよく歌っており日本でも演奏会方式の「ファウストの劫罰」などを歌っています。

 

しっかりしたくせのない声の持ち主で歌はとても上手いです。残念なことに容姿・立ち振る舞いが地味で、もっと華があれば(華がなくても)ずっと人気が出ておかしくない歌手と思いました。アメリカ人なのにMETはどうして彼を使わないのでしょう。彼のホフマンいいわよ〜。

 

このオペラの演出は全くお金をかけているように見えません。まるで学校の学芸会の様なシンプルな演出なのですが妙に心が浮き立つ舞台で歌手のレベルの高さと相まって観客が大いに楽しめる上演になっていました。(2017.8.9.wrote)

 


ミュンヘンオペラフェスティバル2017鑑賞記 ラ・ファボリート  2017.7.29.

共演者:エリーナ・ガランチャ。このオペラの主役エリーナ・ガランチャは以前カウフマンとカルメンを共演しています。その他コンサートなどでもよく共演しています。

 

今回と同じ演出・歌手での公演はBSプレミアムか何かで今年の初め既に放送されていますので内容をご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

毎度思うのはガランチャの声のよさ。幅のある深いメゾの声。しかも低音からソプラノが出す高音までつややかに滑らかにシームレスに美しく発せられる声には全く参ります。それに彼女の歌、立ち振る舞いはなんとも品があるのです。高貴な生まれの王の愛人というシチュエーションにぴったりです。

ガランチャの歌う “O mon Fernand” 「私のフェルナンド」。このオペラのなかで最も有名なアリア。イタリア語で慣れていたので少々違和感はありましたがいいですねえ。


さてこのお話は題名のとおり国王の「愛人」の話です。ガランチャ扮するレオノーラが密かに愛しているのは修道士フェルナンドです。フェルナンドも彼女を愛しますが彼女が王アルフォンソ2世の愛人とは知りません。彼女と結婚すべく彼は武功をたて王に会い褒美として彼女を望みます。

 

王はレオノーラを愛し結婚しようとしたのですが既に正妻がおりその正妻の父修道院長のバルダッサーレ(フェルナンドの父でもある)に反対されています。

 

王はレオノーラがフェルナンドを愛していることを知り嫉妬からわざとレオノーラと彼を結婚させますが、フェルナンドはレオノーラが王の愛人だったことを知り屈辱感と怒りに燃えその場を去り修道院に戻ります。

 

最後の幕は修道院。王の下を離れ瀕死のレオノーラは修道院にたどり着きフェルナンドに許しを請います。初めは怒りを抑えきれないフェルナンドでしたが最後には彼女と再び暮らそうと決心します。しかし彼女は彼の腕の中で息絶えます。

 

このフェルナンドを演じたのがポレンザーニです。ポレンザーニは特に第3幕、レオノーラが王の愛人だった事を知り屈辱感に燃えた劇的な歌唱が素晴らしく、また第4幕レオノーラに対する複雑な想いを歌うところから最後に彼女と愛に生きようとするまでの心の変化を余すところなく表現していました。本人も上手くできたと思ったらしくカーテンコールではガッツポーズが出ていました。

 

アルフォンソ2世を演じたクヴィエチェン。私に取ってこの方はいつもポレンザーニとセットになっています。最近の「真珠採り」然り「ロベルト・デヴリュー」然り。リリックなバリトンです。ことし5月にMETの「ドン・ジョバンニ」を観たときは当方大いに期待していたのに一幕一場だけで降板、、、だったので今回しっかりと聴くことが出來よかったです。

 

今回の彼は演技に燃えていました。レオノーラと一緒に映画またはTVか何かを見ているという設定でしょうか。歌のない芝居だけ。大熱演。しかし演技中着ている洋服の微妙な所が破れているのが見えてしまい、衣装係しっかりせい、という気分でした。

 

大道具は美しかったです。この動画でもわかるようにセットは光のあて方によって冷たい鋼鉄の壁にも見えるし、キリスト像を中心としてろうそくのきらめく幻想的な風景にも見えるなかなか凝ったつくりでした。

しかし演出はと言うと・・・、この芝居の舞台はもともと14世紀のスペインで、王権・教会(厳格なカトリック)という二大勢力のせめぎ合いがバックグラウンドにあります。現代の衣装でやられると王も修道院長も似たような風体でその辺の対立関係がよく見えなくなります。何故王やレオノーラが修道院長の言葉を恐れるのかが視覚的に理解できないです。

 

また歌手達が歌い熱演しているとき歌を歌わない人々が無意味に歌手の手前や後ろをうっとうしくうろうろと歩き回っているのは如何なものか、という印象はありました。今回の「アンドレア・シェニエ」にも書きましたが、livestreamingやビデオはカメラが歌っている歌手(達)に焦点を当てて映しますので余計な演出に気を散らされずに聴けるという利点はありますね。

 

さて今までに書いた3つのオペラ上演ではラ・ファボリートとアンドレア・シェニエにドイツ語と英語の字幕が付き、ホフマン物語がドイツ語字幕のみでした。英語字幕があるので随分助かりました。これからは(日本語とはいわんから)全てのオペラに英語字幕を付けて欲しいです。(2017.8.9.wrote)