ワルキューレ ウィーン国立歌劇場2016年日本公演

 

ヨナス・カウフマンと過去に共演なさった方々が出演するオペラ鑑賞記

共演者;ニーナ・シュテンメとトマス・コニエチュニー

 

まずはオーケストラがよかったです。前奏曲の最初の和音が演奏されたときその深い響きに「ああ、これだ、これがワーグナーの響きだ」と初めから充実感あり。

 

一幕目、ジークムント、ジークリンデ、フンディングとも調子よく文化会館のずっと上の階の端で聞いている私にも彼らの声の響きが耳にはっきりと伝わってきました。しかし舞台から遠すぎて歌手の顔が殆ど識別出来なかったのは残念。

 

ジークムントの歌う「冬の嵐はすぎさり」も美しかったです。ウィーン歌劇場では、このように高いレベルのオペラを毎日上演しているのでしょう。うらやましい。

 

ジークリンデ役ペトラ・ラングは半年ほど前新国立劇場で上演された「ローエングリン」にオルトルート役で出ていらっしゃいました。この時は舞台の上で皆をねめつけながらふてぶてしく歩き回っていた記憶があるのですが、今回は運命に翻弄されるか弱い女性をなかなか上手に演じていました。歌い方もオルトルートの時より柔らかく、高音も綺麗に出ていたのではないかと思います。

 

さて、ニーナ・シュテンメですが、現在最高のドラマチックソプラノ。強い声が美しい。2016年METのシーズンオープニングでは「トリスタンとイゾルデ」の主役イゾルデをやっています。

 

ついでながらこのMET HDは絶品でした。必見です。今回の彼女のパーフォーマンスですが私的にはいつもと同じくらいのできかな、という感じでした。でも彼女の場合、いつもと同じ、というのがとてもハイレベルなのです。

 

予想に反して素晴らしかったのが(すいません)ヴォータン役のコニエチュニーです。声はヴォータンにしては少少明るめでしたが、昔の己の所行に対する後悔の念、娘ブリュンヒルデに対する愛情と哀惜の念が豊かに表現された歌唱で聞き惚れました。3幕目の最後は彼の一人舞台、良かったです。ちなみにフンディングに対して投げつける「ゲー(行け!)」という言葉も印象深かったです。

 

3幕最後の場面は眠るブリュンヒルデをヴォータンの炎が取り囲む場面。今回は舞台上に設置された何体かのウマ(天馬ですか)からちょろちょろと炎が出始め、段々と舞台一面に猛火が縦横に広がるという演出でした。これは迫力があり満足。

 

シュテンメとコニエチュニーはカウフマンとプッチーニの「西部の娘」(ウィーン歌劇場 2013)で共演しています。

 

シュテンメは主役のミニー。コニエチュニーはミニーを愛する保安官ジャック・ランス。カウフマン演じるディック・ジョンソン(実は盗賊のラメレス)の恋敵です。2幕目で重体のジョンソンを賭けてポーカーをする場面、シュテンメとコニエチュニーの迫真の歌と演技がなかなか良かったように記憶しています。

 

コニエチュニーは2016年ザルツブルグ音楽祭の「ダナエの愛」でもユピテルを好演しています。彼は「西部の娘」以外にもカウフマンとの共演があります。コニエチュニーはポーランド人。元々俳優さんだったのですね。記録ではフリッカ役のミカエラ・シュスターもカウフマンと共演したことがある様です。

 

追記:ミカエラ・シュスターさん、どっかで観たことがある顔だけど、と思っていましたが、そう、カウフマン主演バイエルン歌劇場での「ローエングリン」でオルトルートをやってましたね。ファンの方申し訳ありません。(2016.11. wrote)