オペラ解説:「セヴィリアの理髪師」”Il Barbiere di Siviglia ”G. ロッシーニ 作曲

Abbado指揮の「セヴィリアの理髪師」全曲、Hermann Prey, Teresa Berganzaその他。


フランスの劇作家ボーマルシェが書いたフィガロ三部作の一つ「セヴィリアの理髪師あるいは無用の用心」をもとにロッシーニが作曲しました。実は当時有名な作曲家Paisielloも「セヴィリアの理髪師」を作曲していてとても人気があったのですがロッシーニの人気には勝てず、すっかり忘れ去られてしまいました(1)。

 

「セヴィリアの理髪師」はロッシーニの軽快な音楽に乗せてドリフターズ並みのバカバカしい大騒ぎがこれでもかと続くコミックオペラです。歌と演技の上手い歌手がおもいっきり弾けるとこのオペラは輝きます。

 

「セヴィリアの理髪師」は3週間にも満たない超短期間で作曲されたと言われています。こんな短期間でオペラを作曲するなんてなんたる天才!なのですが、実に彼は「セヴィリアの理髪師」序曲用に自作「パルミラのアウレリアーノ」序曲をそのままそっくり転用しているのです。更にこの序曲を”イングランドの女王、エリザベッタ"というオペラにも使い廻しています。まあ時間と手間の倹約でしょうか、、、

 

ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティの作曲したオペラは一括りにベルカントオペラと呼ばれています。しかしJ.D.フローレスはインタビューで、

 

「ロッシーニの作品は他の2人とは違ったスタイル、すなわちカストラートがコロラトゥーラや高音やトリルなどの超絶技術を競ったバロック時代のテクニック、言ってみれば彼以前の時代の歌唱テクニック、を用いて書かれていて、ベッリーニ、ドニゼッティのオペラと異なるユニークな一つのチャプターとなっている。もちろん彼は新しいやり方も取り入れたのですけれどね。(2)」と答えています。

 

ベッリーニ、ドニゼッティ以降、オペラは声の技術よりもドラマ性が重要視されるようになり、人気を誇ったロッシーニの作品もその多くは忘れ去られます。アルマヴィーヴァ伯爵が最後に歌う大アリアも「難しすぎるおまけ・・・」として歌われなくなってしまいました。しかしロッシーニルネッサンス(ロッシーニ再発見)の機運が高まり、フローレス・バルトリなど超絶技術を駆使しながらも高い音楽性を表現できる歌手たちが現れて状況が変わります(参考、おたく記事「テノールはつらいよ」)。

 

フローレスも「昔スカラで歌った頃は劇場から『最後のアリアを歌う必要はないよ』と言われていた。けれども現在では歌わねばならぬアリアとなってしまって歌劇場の方が歌うことを要求する。契約書にも『このアリアを歌います。』と書いている」そうです (2)。

 

ところで、「セルヴィアの理髪師」初演の際アルマヴィーヴァ伯爵を歌ったのは当時もっとも有名なテノール、マヌエル・ガルシアでした。ガルシアは「バリテノール」(バリテノールの解説:鑑賞記:バリテノールCD)でした。ロッシーニのオテロ(テノール役)、モーツアルトのドン・ジョヴァンニやアルマヴィーヴァ伯爵(バリトン役)などテノールとバリトンの役を輝かしく歌った人らしい(3)。

 

ロッシーニは彼を想定してこの役を書いたということなので、「セルヴィアの理髪師」のアルマヴィーヴァ伯爵はもともと強い声を持ったテノールの役なのかもしれません。ただし、ガルシアを含め当時のテノール歌手は高音をファルセットで出しており、現在のテノール歌手とはだいぶん違った音色で歌っていたのではないかと思います。

 

参考文献など

(1) 「セビリアの理髪師」: Wiki最終更新 2021年11月29日 (月) 06:11 

(2) 「セヴィリアの理髪師」入門マチネでのフローレスのトーク

(3) "Manuel García (tenor)": Wikipedia This page was last edited on 19 December 2021, at 02:45 (UTC). 


序曲  非常に有名で人気があり、単独で演奏されることもしばしば


第一幕

アルマヴィーヴァ伯爵はプラドで出会った娘ロジーナに一目惚れ。セヴィリアまで彼女を追いかけてきた。今日も朝早く楽団を引き連れ彼女の後見人である医者バルトロの家のバルコニーの下で彼女へのカヴァティーナ(Ecco, ridente in cielo)を歌う。

 

そこへフィガロが登場。「私は町の何でも屋」を歌う。(下の動画)バルトロの家に出入りしているフィガロはバルトロが彼女の遺産欲しさに彼女と結婚を企んでいることを伯爵に告げ、伯爵は彼女を解放しようと考える。フィガロは伯爵に「酔っ払いの兵隊」に化けてバルトロの家に入り込むよう入れ知恵する。

第一幕、MET 2006 Peter Mattei

 

La La la la le ra la la la la…

 

Largo al factotum della città, largo

町の何でも屋に道をあけておくれ。

 

la la la…

 

Presto a bottega che l'alba è già, presto。

もうすぐ夜明けだ、店に急げ、

 

la la la…

 

Ah, che bel vivere, che bel piacere, che bel piacere

ああ、なんて楽しい人生なんだ、なんという喜び

 

per un barbiere di qualità! di qualità!

上手な床屋さ!

 

Ah, bravo Figaro! Bravo, bravissimo! bravo.

ああ、ブラボーフィガロ!、最高さ!

 

la la la…

 

Fortunatissimo per verità! bravo. la la la…

fortunatissimo per verità!  fortunatissimo per verità!

本当に幸運な男さ!

 

la la la…

 

Pronto a far tutto, la notte e il giorno

何事にも準備万端、朝でも夜でも

 

sempre d'intorno in giro sta.

いつでもにぎやかいつも動いてる。

 

Miglior cuccagna per un barbiere,

床屋にとっちゃ最高に幸運さ

 

vita più nobile, no, non si da.

もっと上品な人生、いやいや、ありえない。

 

la la la…

 

Rasori e pettini lancette e forbici,

剃刀とクシ 針とハサミ

 

al mio comando tutto qui sta.

俺の意のままに全て用意ができている。

 

lancette e petini, lancette e forbici,

針とクシ、針とハサミ

 

al mio comando tutto qui sta.

俺の意のままに全て用意ができている。

 

V'è la risorsa, poi, del mestiere

それから他にもあるのさ

 

colla donnetta, col cavaliere, colla donnetta

la la la…     col cavaliere 

女性、騎士の皆様方に 女性の皆様に 騎士の皆様方に

 

la la la…

 

Ah che bel vivere che bel piacere! che bel piacere!

ああ、なんて楽しい人生なんだ!なんと言う喜び!

 

per un barbiere di qualità! di qualità!

上手な床屋さ!

 

Tutti mi chiedono, tutti mi vogliono,

みんなが俺を呼びたてる、みんな俺に来てほしいのさ、

 

donne, ragazzi, vecchi, fanciulle:

奥様方や子供達、年寄りやお嬢ちゃんたちも:

 

Qua la parrucca. Presto la barba.

カツラがほしい ヒゲをそってくれ

 

Qua la sanguigna. Presto il biglietto.

血をとって この手紙を急いで持っていって

 

Tutti mi chiedono, tutti mi vogliono.

Tutti mi chiedono, tutti mi vogliono, 

みんなが俺を呼びたてる、みんな俺に来てほしいのさ、

 

Qua la parrucca. Presto la barba. Presto il biglietto.

カツラがほしい ヒゲをそってくれ, この手紙を急いで持っていって

 

Figaro! Figaro! Figaro!…

フィガロ!フィガロ!フィガロ…

 

Ahimè! Ahimè! Che furia! Ahimè! che folla!

ああ、なんて大騒ぎ!なんて人混みなんだ!

 

Uno alla volta, per carità. per carità. per carità.

Uno alla volta, Uno alla volta, Uno alla volta per carità.

お願いだから、一人ずつにしてくれ

 

Figaro; son qua! Ehi Figaro; son qua!

フィガロ;ここにおりますよ!

 

Figaro qua, Figaro là, Figaro qua, Figaro là,

フィガロこっちだ、フィガロあっちだ、

 

Figaro su, Figaro giù. Figaro su, Figaro giù.

フィガロ上だ、フィガロ下だ

 

Pronto, prontissimo son come il fulmine,

速く、速く、俺は稲妻みたいだ、

 

sono il factotum della città. della città. della città. della città. della città.

俺は町の何でも屋。

 

Ah, bravo, Figaro, bravo, bravissimo, Ah, bravo, Figaro, bravo, bravissimo,

ああ、すごいぞフィガロ、物凄いぞフィガロ、

 

A te la fortuna, A te la fortuna, A te la fortuna non mancherà.     la la la…

A te la fortuna, A te la fortuna ,A te la fortuna, non mancherà.

俺が運に見放されることはないさ。

 

Sono il factotum della città. Sono il factotum della città. della città. della città.

俺は町の何でも屋。


一方、バルトロにより屋内に閉じ込められたロジーナはあらゆる手を使ってリンドロ(アルマヴィーヴァ伯爵の偽名)と一緒になろうと決意し歌うのが「今の歌声」(Una voce poco fa)。

第一幕、Schwetzinger Festspeile, 1988 Cecilia Bartoli

Una voce poco fa

今聞いた声が

 

qui nel cor mi risuonò;

私の心を震わせる

 

il mio cor ferito è già,

私の心はすでに傷ついているわ、

 

e Lindor fu che il piagò.

リンドロが傷つけたのよ。

 

Sì, Lindoro mio sarà;

そうよ、リンドロは私のものになる;

 

lo giurai, la vincerò.

誓うわ、勝つわよ。

 

Sì, Lindoro mio sarà;

そうよ、リンドロは私のものになる;

 

lo giurai, la vincerò.

そう誓うわ、勝つわよ。

 

Il tutor ricuserà,

私の後見人は拒否するだろうけど、

 

io l'ingegno aguzzerò,

私の知恵を巡らせて、

 

alla fin s'accheterà

最後彼をなだめるの

 

e contenta io resterò.

そうなれば私は満足よ。

 

Sì, Lindoro mio sarà;

そうよ、リンドロは私のものになる;

 

lo giurai, la vincerò.

誓うわ、勝つわよ。

 

Sì, Lindoro mio sarà;

そうよ、リンドロは私のものになる;

 

lo giurai, la vincerò.

そう誓うわ、勝つわよ。

 

Io sono docile,

私はおとなしい、

 

son rispettosa,

私は丁寧よ、

 

sono obbidiente,

私は従順、

 

dolce, amorosa,

優しくて愛情があるわ、

 

mi lascio reggere, mi lascio reggere,

私は従順で、

 

mi fo guidar. mi fo guidar.

教えられたようにやるわ、

 

Ma se mi toccano dov'è il mio debole,

だけど、もし私の弱点(愛)に触れたら

 

sarò una vipera, sarò,

私は毒蛇になる、

 

e cento trappole

そして百の罠を仕掛ける

 

prima di cedere

彼らの思い通りになる前に

 

farò giocar. farò giocar.

仕掛けるわよ。

e cento trappole

そして百の罠を仕掛ける

 

prima di cedere

彼らの思い通りになる前に

 

farò giocar. farò giocar.

仕掛けるわよ。

 

e cento trappole

そして百の罠を仕掛ける

 

prima di cedere

彼らの思い通りになる前に

 

e cento trappole

そして百の罠を仕掛ける

 

farò farò giocar.

仕掛けるわよ。

 

Io sono docile,

私はおとなしい、

 

sono obbidiente,

私は従順、

 

mi lascio reggere,

私は従順で、

 

mi fo guidar.

教えられたようにやるわ、

 

Ma se mi toccano dov'è il mio debole,

だけど、もし私の弱点(愛)に触れたら

 

sarò una vipera, sarò,

私は毒蛇になる、

 

e cento trappole

そして百の罠を仕掛ける

 

prima di cedere

彼らの思い通りになる前に

 

farò giocar. farò giocar.

仕掛けるわよ。

 

e cento trappole

そして百の罠を仕掛ける

 

prima di cedere

彼らの思い通りになる前に

 

farò giocar. farò giocar.

仕掛けるわよ。

 

e cento trappole

そして百の罠を仕掛ける

 

prima di cedere

彼らの思い通りになる前に

 

e cento trappole

そして百の罠を仕掛ける

 

farò farò giocar.

仕掛けるわよ。

 

e cento trappole

そして百の罠を仕掛ける

 

farò giocar.

仕掛けるわよ。

 

e cento trappole

そして百の罠を仕掛ける

 

farò giocar. farò giocar. Ah, si. (farò giocar.)

仕掛けるわよ。

 


バルトロは明日中に彼女と結婚しようと音楽教師のバジリオと相談している。バジリオはロジーナの秘密の恋人アルマヴィーヴァ伯爵がやって来たことをバルトロに伝え、「伯爵の悪い噂をでっちあげ伯爵を追い出そう」と提案するのが下の動画「悪口はそよ風のように」( La calunnia è un venticello)。

第一幕 2005 Ruggero Raimondi 原調で歌っている

La calunnia è un venticello,

悪口はそよ風のよう、

 

un'auretta assai gentile

とても優しいのです

 

che insensibile, sottile,

感じ取れないくらい、微かなのです

 

leggermente, dolcemente,

少しづつ、柔らかに、

 

incomincia incomincia a sussurrar.

ささやき声のようにはじまるのです。

 

Piano piano, terra terra,

優しく、低いレベルで、

 

sottovoce, sibilando,

抑えた声でシューシューしゃべる、

 

va scorrendo, va scorrendo,

va ronzando; va ronzando;

だんだん広がり、ざわめいてくる、

 

nelle orecchie della gente

人々の耳に、

 

s'introduce s'introduce destramente,

狡猾に忍び込んでくるのです、

 

e le teste ed i cervelli

e le teste ed i cervelli

そして心と脳味噌を

 

fa stordire, fa stordire, fa stordire, e fa gonfiar.

唖然とさせ、膨れ上がらせるのです

 

Dalla bocca fuori uscendo

口から出れば

 

lo schiamazzo va crescendo,

ざわつきが大きくなって、

 

prende forza a poco a poco,

少しづつ強さを増し、

 

vola già di loco in loco;

いろいろな場所へ飛んでゆく;

 

sembra il tuono, la tempesta che nel sen della foresta

まるで森の中での雷や嵐のように

 

va fischiando, brontolando

ピューピュー、ゴロゴロ

 

e ti fa d'orror gelar.

恐ろしさのあまり凍りつく。

 

Alla fin trabocca e scoppia,

最後には溢れかえり、破裂する、

 

si propaga, si raddoppia

どんどん広がっていって、2倍にもなり

 

e produce un'esplosione

爆発を起こします

 

come un colpo di cannone,

come un colpo di cannone,

まるで大砲の爆撃のよう、

 

un tremuoto, un temporale,

un tremuoto, un temporale, un tremuoto, generale, 

まるで地震か、大嵐が起きたよう

 

che fa l'aria rimbombar.

空気がゴロゴロ鳴り響くよう。

 

un tremuoto, un temporale,

un tremuoto, un temporale, un tremuoto, generale, 

まるで地震か、大嵐が起きたよう

 

che fa l'aria rimbombar.

空気がゴロゴロ鳴り響くよう。

 

E il meschino calunniato,

そして悪口を言われた惨めな奴は

 

avvilito, calpestato,

踏みにじられ、面目を失い、

 

sotto il pubblico flagello

世間の顰蹙をかって

 

per gran sorte va a crepar.

死んでゆくのです。

 

E il meschino calunniato,

そして悪口を言われた惨めな奴は

 

avvilito, calpestato,

踏みにじられ、面目を失い、

 

sotto il pubblico flagello

世間の顰蹙をかって

 

per gran sorte va a crepar.

死んでゆくのです。

 

E il meschino calunniato,

そして悪口を言われた惨めな奴は

 

avvilito, calpestato,

踏みにじられ、面目を失い、

 

sotto il pubblico flagello

世間の顰蹙をかって

 

per gran sorte va a crepar.

死んでゆくのです。

 

E il meschino calunniato,

そして悪口を言われた惨めな奴は

 

avvilito, calpestato,

踏みにじられ、面目を失い、

 

sotto il pubblico flagello

世間の顰蹙をかって

 

per gran sorte va a crepar.

死んでゆくのです。

 

sotto il pubblico flagello

世間の顰蹙をかって

 

per gran sorte va a crepar.

死んでゆくのです。

 

sotto il pubblico flagello

世間の顰蹙をかって

 

per gran sorte va a crepar.

死んでゆくのです。

 

si, va a crepar. si, va a crepar. si, va a crepar.

死んでゆく。

 


 

フィガロはバルトロの家でロジーナと接触、彼女からリンドロへのラブレターを受け取り(伯爵に渡す)。

 

そこへ酔っ払いの騎兵に化けた伯爵がバルトロの家に乱入し大暴れ、その隙に彼女へ手紙を渡す。士官と兵士たちがやってきて伯爵を追い出そうとするが、酔っ払いの騎兵が伯爵とわかって唖然として動けない。

 

士官と兵士、ロジーナ、バルトロ、バジリオ、バルトロの使用人たち全員が「凍りついて動けない。まるでもの凄い鍛冶屋の中のよう。脳味噌も呆然として混乱、狂気と化す」(Fredda ed immobile come una statua)と合唱して一幕が終わる. (下の動画)

Ernst Wild/Jean-Pierre Ponnelle演出、Hermann Prey Teresa Berganza


 

第二幕

バルトロが一人部屋にいると、今度は音楽教師に変装した伯爵が来て「自分はバジリオの弟子アロンソで病気のバジリオの代わりに来たのだ」と答える。そしてロジーナが彼宛に書いた手紙をバルトロに渡し、「伯爵の別の恋人が私にこの手紙を渡したのだと言えばロジーナは伯爵に弄ばれたとわかるだろう」「私が彼女に話しますよ」、と手紙にかこつけてロジーナと会おうと画策する。

2021 ウイーン歌劇場「セヴィリアの理髪師」第二幕。Paolo Bordogna とJuan Diego Florez

バジリオの弟子に変装した伯爵は、"Pace e gioia sia con voi. Gioia e pace per mill'anni"「平和と喜びがあなたと共にありますように。千年間続く喜びと平和を」とバルトロにまとわりつく。

 

バルトロは怪しい奴だと思いながらも彼がだれか思い出せない。「今日は散々な1日でひどい運命だ」と思っている。

 

一方伯爵は自分の正体がバルトロにバレていないのに気づき、「これはラッキー!彼女と自由に話すことができるぞ」と喜んでいる。

 


 

喜んだバルトロはロジーナを呼びつけ、「無用な用心」の歌を練習させる。練習の間に伯爵とロジーナはお互いの愛を確かめ合う。

 

一方フィガロは鎧戸の鍵を手にいれるが、その場に病気のはずのバジリオが現れる。焦る伯爵とフィガロは薬と称して彼に金をわたし追い出す。

 

伯爵はロジーナに「真夜中にあなたを連れ出しにいく。」と告げて去るが、いぶかるバルトロはバジリオを再び呼び寄せ、公証人を連れて来て今晩ロジーナと結婚しようと作戦を練る。更にバルトロはロジーナに彼女が書いた手紙を見せ、伯爵が彼女を慰み者にしていると説得する。驚き怒ったロジーナは今夜リンドロ(伯爵)が自分を連れ出しにくるとバルトロに喋ってしまう。

 

そして嵐が来る。

嵐の音楽 

 

ポツンポツンと落ちてくる雨がだんだんひどくなってついに嵐となる。しかし、その雨も次第におさまる様子が描写されている

 


夜。伯爵とフィガロはロジーナの部屋にたどり着くが、ロジーナは怒り心頭。しかし伯爵は彼女の誤解を解き一緒に逃げ出そうとする。そこにバジリオと公証人が現れ、結婚する相手のはずのバルトロを探すが、フィガロが機転を働かせバジリオを脅かして公証人立ち合いのもとアルマヴィーヴァ伯爵とロジーナを結婚させてしまう。

 

そこにバルトロと兵士達を連れた士官が到着。バルトロは伯爵らを捕まえさせようとするが、伯爵は自分の身分を明らかにしてバルトロに「逆らっても無駄だ」と告げ、「二人の愛が結びついた。この幸せが続きますように」と歌うのが下の有名な「逆らっても無駄だ」(Cessa di più resistere)の大アリア。

 

アリアは三つの部分に分かれており、最初はバルトロに対しての怒り、次はロジーナに対する優しい愛情、最後は自らの天にも昇る喜びを歌いあげる。下の動画で、フローレスはその三つの想いを軽やかに輝かしく歌い分けている。

フィナーレ、MET2007フローレス

CONTE 

Cessa di più resistere, di più resistere,

もう逆らうのはやめなさい、

 

non cimentar mio sdegno.

私を怒らせようとするな、

 

Spezzato è il gioco indegno di tanta crudeltà.

そんな残酷な試みは無駄に終わったのだ

 

Della beltà dolente,

苦しむ美人の

 

d'un innocente amore

無垢の愛に

 

l'avaro tuo furore

お前の哀れな怒りは

 

più non trionferà.

もはや勝ち目はない

 

l'avaro tuo furore

お前の哀れな怒りは

 

no più non trionferà.

もはや勝ち目はない

 

Della beltà dolente,

苦しむ美人の

 

d'un innocente amore

無垢の愛に

 

l'avaro tuo furore

お前の哀れな怒りは

 

no più non trionferà. Aa----- non trionferà.

no non trionferà. no non trionferà. trionferà. trionferà.

no più non trionferà.

もはや勝ち目はない

 

 

 

E tu, infelice vittima

不幸な犠牲者のあなたは

 

d'un reo poter tiranno,

暴君の

 

sottratta al giogo barbaro,

蛮族のくびきから解放される、

 

cangia in piacer l'affanno

苦悩を喜びに変え

 

e in sen d'un fido sposo

誠実な夫の懐に抱かれて

 

gioisci in libertà, 

自由を喜ぶのです

 

in sen d'un fido sposo

誠実な夫の懐に抱かれて

 

Ah, si, gioisci in libertà, 

自由を喜ぶのです

 

 

 

Cari amici 親愛なる友人たちよ

 

合唱 

Non temete. Non temete.

恐れることはありません

 

CONTE 

Questo nodo... この絆は

 

合唱 

Non si scioglie, Non si scioglie,

解けることはありません、

 

sempre a lei vi stringerà. 

sempre a lei vi stringerà.

sempre a lei 

sempre a lei 

vi stringerà. 

vi stringerà.

sempre a lei vi stringerà.

いつもあなたのそばにいます。

 

CONTE 

Ah, il più lieto, il più felice

ああ、最高のしあわせ、最高に嬉しい

 

è il mio cor de' cori amanti;

私の心は愛に満ちている;

 

non fuggite, o lieti istanti 

逃げないでおくれ、この幸福なひと時

 

della mia felicità.

私の喜びよ、

 

合唱 (合唱はこの歌詞を歌い続ける。後の合唱対訳は省略)

Annodar due cori amanti

愛する二人のこころを結びつける

 

è piacer che egual non ha.

それは大いなる喜び。

 

CONTE 

non fuggite,  non fuggite,

逃げないでおくれ

 

Ah, il più lieto, il più felice

ああ、最高のしあわせ、最高に嬉しい

 

è il mio cor de' cori amanti;

私の心は愛に満ちている;

 

non fuggite, o lieti istanti 

逃げないでおくれ、この幸福なひと時

 

della mia felicità.

私の喜びよ、

 

non fuggite,  non fuggite,

逃げないでおくれ、

 

Ah, il più lieto, il più felice

ああ、最高のしあわせ、最高に嬉しい

 

è il mio cor de' cori amanti;

私の心は愛に満ちている;

 

non fuggite, o lieti istanti 

逃げないでおくれ、この幸福なひと時

 

della mia felicità.

私の喜びよ、

 

non fuggite, o lieti istanti 

逃げないでおくれ、この幸福なひと時

 

della mia felicità.

私の喜びよ、

 

non fuggite, o lieti istanti della mia felicità.

逃げないでおくれ、この幸福なひと時、私の喜びよ、

 

non fuggite, o lieti istanti della mia felicità.

non fuggite, o lieti istanti della mia felicità.

Aa----- della mia felicità.  

逃げないでおくれ、この幸福なひと時、私の喜びよ、

 

felicità. 

della mia felicità. 

della mia felicità. 

della mia felicità. 

felicità.   felicità.

私の喜びよ

 


「伯爵のポケットの中(金のこと)には逆らえなかった」とバジリオに釈明されて怒るバルトロだが、伯爵に「ロジーナの遺産はあなたに差し上げる」と告げられすっかり上機嫌になる。伯爵とロジーナの愛を成就させるために引き起こされた事件は若い二人の「情熱」と「金」で解決され、結果オーライ、ハッピーエンドの合唱で幕がおりる。


おまけ1

★フローレスがパッパーノとロッシーニクレッシェンドを練習している風景。

歌うに連れて歌はどんどん華やかに速くなってゆき、パッパーノはフローレスをどんどん追い込んでゆく。これがロッシーニクレッシェンド。フローレスは”you took me very fast!” (あなたはものすごく速く追い込むんだもん!)と言って最後は機関銃をババババッ、とやるような素振りをしています。


おまけ2

★「チェネレントラ」のフィナーレに転用された伯爵のアリア 3:24あたりから


2022.08.13 wrote) オペラ解説に戻る