オペラ解説:「道化師」”I Pagliacci” ルッジェロ・レオンカヴァッロ作曲

ルッジェロ・レオンカヴァッロ

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レオンカヴァッロは「道化師」をコンクールの応募作として作曲しました。しかし「道化師」は二幕物で、「一幕物」というコンクールの基準を満たさなかったので落選。しかし内容が良かったため、トスカニーニの指揮で初演され大成功を治めました。カヴァレリア・ルスティカーナ(iltrovatoreのオペラ紹介)とともにヴェリズモ・オペラの代表作。

 

レオンカヴァッロは「道化師」以外にもいくつかのオペラを書きましたが人気が出ず、現在では「ザザ」と「ボエーム」がわずかに上演される程度です。(レオンカヴァッロの「ボエーム」より ”Testa Adorata”:歌ヨナス・カウフマン)

 

ちなみにレオンカヴァッロは自ら「ボエーム」の台本を書き、一緒にオペラを作曲しようとプッチーニに持ちかけましたが、プッチーニに断られたため自分でオペラを作曲しました。ところがプッチーニは別人の台本で「ボエーム」を作曲し、レオンカヴァッロの「ボエーム」より先に上演してしまいました。勿論レオンカヴァッロは大いに怒ったそうです。

 

レオンカヴァッロは歌曲も沢山作りました。「朝の歌」“Mattinata”はリサイタル等で良く歌われます。

 

***** ***** *****

 

オペラ「道化師」の舞台は南イタリア、カラブリア地方。「カヴァレリア・ルスティカーナ」の舞台シチリアの直ぐ近くですので、人々の気質も似ているのでしょう。やはり不倫と復讐の物語です。

 

「道化師」のイタリア語原題は “I Pagliacchi” 、直訳すれば「道化師達」と複数形です。作曲者は主人公カニオばかりではなく、登場人物全てを含めての人間模様を「道化師達」のオペラとして描きたかったのだと思います。

 

そのように見ると、主人公3人は単純にいい、悪いとは決めつけられない複雑な側面を持っています。

 

カニオはしがない旅芸人一座の座長。すでに中年過ぎ。乱暴で無学で身勝手なおやじではあるが、孤児のネッダを拾い上げ、彼なりに慈しみ育てるという優しさはありました。(彼の場合、外見はさえない方がよい。バーコード頭髪も可)

 

孤児のネッダはカニオに望まれたら妻になるより仕方がありません。ネッダにはこの一座以外の世界で生きてゆく力がありません。愛してもいない男との結婚生活の中でやっと見つけた密かな幸せが村人シルヴィオとの愛なのです。

 

トニオは顔も性格もねじくれたせむし男。人々は彼を馬鹿にし、相手にしません。それを彼もよく知っています。しかし彼も人間です。心の中は絶えない怒りに溢れています。しかしそんな男が人並みに恋をします。ところが彼が恋するネッダも彼を男とは思っていません。ネッダに拒絶され、屈折した彼の心は憎悪と復讐にふくれあがります。

 

このオペラは高い演劇性を必要とし、歌手は歌と演技両方に優れていなければなりません。主役のテノールは特に大変。観客には役に没頭している様に見えなければなりませんが、特にカヴァレリア・ルスティカーナのトゥリッドと2役を一夜で歌う場合、自分の能力・パワーを冷静に計算し続けないと途中で声を失う可能性のある危険なオペラです。


プロローグ

 

短い前奏曲に続いて、道化の衣装を付けたトニオが舞台の前に進み出、劇場の観客に向かって前口上を申し述べる。バリトンの非常に有名なアリア。

 

「仮面を被って演技する芸人も血の通った人間であり、彼らの人間模様を赤裸々に描き出すことによって人間の真実を描き出すのだ・・・」とレオンカヴァッロ自身の言葉とも取れる口上を美しい旋律に乗せて朗々と歌い上げる。

映画より

TONIO 

Si può?... Si può?... 

はい、ごめんくださいませ。

 

Signore! Signori!

淑女方“!紳士方!

 

Scusatemi se da sol me presento.  

私奴一人が舞台に上がりますことをお許しくださりませ。

 

Io sono il Prologo:

私奴は前口上役にございます。

 

Poiché in iscena ancor 

何となれば作者は

 

le antiche maschere mette l'autore, 

昔ながらの面を着けた芝居の

 

in parte ei vuol riprendere le vecchie usanze,

一部を再び始めたく、

 

e a voi di nuovo inviami.

私奴をここに送り出したので御座います。

 

Ma non per dirvi come pria: 

しかしながら、昔の如く皆様に次の様に申し上げたい訳では御座いません:

 

«Le lacrime che noi versiam son false! 

「我らの涙は偽り!

 

Degli spasimi e de' nostri martir non allarmatevi!» 

我らが痛み、苦しみをご心配下さるな」と、

 

No! No: 

否、否:

 

L'autore ha cercato 

作者は描き出そうとしたので御座います

 

invece pingervi uno squarcio di vita. 

人生の一面を。

 

Egli ha per massima sol 

作者の信条は

 

che l'artista è un uom 

役者も人間だ

 

e che per gli uomini scrivere ei deve. 

そしてその人間のために書かねばならぬ、ということで御座います。

 

Ed al vero ispiravasi.

彼は実話から霊感を受けたので御座います。

 

Un nido di memorie in fondo a l'anima 

心の奥底にある記憶の一つが

 

cantava un giorno, 

ある日作者に歌いかけてきました、

 

ed ei con vere lacrime scrisse, 

そして彼は本当に涙を流しながら、

 

e i singhiozzi il tempo gli battevano!

すすり泣きながら書いたので御座います。

 

Dunque, vedrete amar 

ですから、皆様は愛をご覧になるでしょう

 

sì come s'amano gli esseri umani; 

人間としての現実の愛で御座います;

 

vedrete de l'odio i tristi frutti. 

そして、憎しみの果ての結末をご覧下さい。

 

Del dolor gli spasimi, 

苦痛のうめき、

 

urli di rabbia, udrete, 

憤怒の叫びをお聞きになるでしょう、

 

e risa ciniche!

そして皮肉な笑いも!

 

E voi, piuttosto 

そして

 

che le nostre povere gabbane d'istrioni, 

私どもの貧弱な舞台衣装よりも、

 

le nostr'anime considerate, 

私どもの心をお考え下さい、

 

poiché siam uomini di carne e d'ossa, 

と申しますのも、私どもも肉と血を持つ人間で御座います。

 

e che di quest'orfano mondo 

この頼るすべのない世で

 

al pari di voi spiriamo l'aere!

皆様と同様 息する人間なのです!

  

Il concetto vi dissi... 

これで構想をお話いたしました・・・

 

Or ascoltate com'egli è svolto. 

さてどの様になるかお聞き下さい。

 

Andiam. Incominciate!

さあ、始めますぞ!

 


第1幕

 

8月の聖母被昇天祭日、カニオが座長の芝居一座が村にやってくる。カニオは村人に妻ネッダの事をからかわれ、むきになって怒る。一方村人シルヴィオと不倫しているネッダはカニオの言葉に不安を感じる。

 

村人と酒を飲みに行くカニオをよそに小屋に残ったネッダは、空を飛ぶ鳥を眺め、自由への憧れを込めて「鳥の歌を歌う。

 

そこにひねくれたせむしの道化、トニオが現れ彼女に言い寄る。しかし彼女は彼を馬鹿にして鞭で彼を追い払う。トニオの心は深く傷付き、彼は復讐を誓う。

 

その後すぐ彼女の恋人シルヴィオが現れ、二人は熱い心を込め2重唱を歌う。シルヴィオは「芝居一座から逃げ一緒になろう」と彼女を誘うが、その現場を(復讐に燃えるトニオが連れてきた)カニオに目撃される。

 

シルヴィオは逃げ出すが、逃げる直前、ネッダがシルヴィオに放った「今夜からあたしは永遠にあんたのもの」"A stanotte e per sempre tua sarò!" という言葉がカニオの心に焼き付く。

 

カニオの心の中では怒りの嵐が荒れ狂っている。しかし芝居開始の時間が近づく。彼は芝居の支度をしながらその苦しい心の内を歌う。それが超有名なアリア「衣装をつけろ」。怒り、絶望、嘆き、自虐が渦巻く彼の心を歌と演技で如何に表現するか、テノールの力の見せ所。

ルチアーノ・パヴァロッティ

CANIO

 

Recitar! Mentre presso dal delirio 

芝居か!頭の中がめちゃくちゃになっているというのに

 

non so più quel che dico e quel che faccio! 

俺が何を言うか何をやるか分からんぞ!

 

Eppur è d'uopo... sforzati! 

だけどやらなくちゃ・・・・努力して!

 

Bah! sei tu forse un uom? 

ああ!俺は男か? 

 

Tu se' Pagliaccio!

お前はパリアッチョさ!

 

Vesti la giubba e la faccia infarina. 

衣装を着けろ、白粉を塗れ。

 

La gente paga e rider vuole qua. 

客は金を払って笑いに来る。

 

E se Arlecchin t'invola Colombina, 

アレッキーノが俺からコロンビーナを盗んだら、

 

ridi, Pagliaccio... e ognun applaudirà! 

笑え、パリアッチョ・・・客は拍手喝采だ!

 

Tramuta in lazzi lo spasmo ed il pianto; 

お前の苦しみと悲しみを冗談の種にしろ;

 

in una smorfia il singhiozzo e'l dolor... 

お前の嗚咽と嘆きをゆがんだ顔に貼り付けろ・・・

 

Ridi, Pagliaccio, sul tuo amore in franto! 

笑え、パリアッチョ、砕かれたお前の愛を!

 

Ridi del duol che t'avvelena il cor!

笑え、お前の心を苛むこの痛みを!

 


 

間奏曲 人々の興奮と緊張をなだめるような、非常に美しい間奏曲。

 

第2幕

 

芝居小屋で芝居が始まる。パリアッチョ(カニオ)、パリアッチョの妻コロンビーナ(ネッダ)、コロンビーナの愛人アレッキーノ(ペッペ)、召使いタッデーオ(トニオ)による劇中劇。

 

劇の内容は皮肉にもカニオ、ネッダ、シルヴィオの三角関係そのままの内容になっている。芝居の途中でコロンビーナは愛人アレッキーノに「今夜、あたしは永遠にあんたのもの」"A stanotte... E per sempre io sarò tua!" という台詞を言うが、それは先ほどネッダがシルヴィオに投げた言葉と同じ。その言葉はカニオの荒れ狂う心に火を付ける。

 

カニオは心を殺して芝居を続けようとするが、怒りのあまり劇と現実の違いの見境が付かなくなってくる。カニオの状態を察したネッダは緊張しながらも必死に芝居を続けようとする。一方状況が分からない観衆は、舞台上での出来事を迫真の演技と勘違いして感動している。

 

しかしとうとうカニオの心は憤怒に支配され、「もうパリアッチョじゃない!」「男の名前を言え、名前を!」とネッダに迫る。しかしネッダも芝居をかなぐり捨て「絶対言うものか!」「あたしの愛は強いんだ!」と叫ぶ。

 

激高したカニオはネッダを捕まえ刺し殺す。そしてネッダを助けようとして近づいたシルヴィオも殺す。観衆は唖然、混乱。その中にあって、カニオは呆然としてナイフを取り落とし、「喜劇は終わった!」とつぶやく。

 

劇中劇の途中から最後まで(もうパリアッチじゃない) 

2015年ザルツブルクカウフマン、アグレスタ、プラタニアス

COLOMBINA

A stanotte... E per sempre io sarò tua!

今夜・・・あたしは永遠にあんたのもの!

 

CANIO 

Nome di Dio! quelle stesse parole! 

神かけて、同じ言葉だ!

 

Coraggio! 

勇気を出せ!

 

Un uomo era con te!

男と一緒だったな!

 

NEDDA 

Che folle! Sei briaco?

馬鹿馬鹿しい!酔っぱらってるの?

 

CANIO 

Briaco! sì... da un'ora!!

酔っ払ってる!ああ・・・この一時間ほど。

 

NEDDA 

Tornasti presto.

早かったわね。

 

CANIO 

Ma in tempo! T'accora? T'accora! dolce sposina!! 

だが丁度良かったぜ!がっかりしたかい?かわいい嫁さんよ!!

 

Ah! sola io ti credea 

ああ!お前は一人だと思ってたぜ。

 

mostrando la tavola e due posti son là!

だがテーブルの席は2つあるな!

 

NEDDA 

Con me sedea Taddeo, che là si chiuse per paura! 

タデオが一緒に座ってたのよ、怖がってあそこで固まってるわ!

 

Orsù... parla!

来て・・・話してよ!

 

TADDEO 

Credetela! Credetela! Essa è pura!! 

信じてやって下さいよ!この人は純なお人だ!!

 

E abborre dal mentir quel labbro pio!!

信心深いお人の口は嘘を蔑みますんで!!

 

LA FOLLA  (観衆)

Ah! ah! ah! ah!  あははは!

 

CANIO 

Per la morte!   Smettiamo! 

死んじまえ! 止めろ!

 

Ho dritto anch'io d'agir come ogn'altr'uomo. Il nome suo...

俺にも他の男みたいにする権利はあるぜ。奴の名前だ...

 

NEDDA 

Di chi?

誰の名前よ?

 

CANIO 

Vo' il nome de l'amante tuo, 

お前の男の名前さ、

 

del drudo infame a cui ti desti in braccio, o turpe donna!

お前がその腕に身を任せた糞野郎の、  性悪女め!

 

NEDDA 

Pagliaccio! Pagliaccio!

パリアッチョよ! パリアッチョよ!

 

CANIO 

No! Pagliaccio non son; 

俺はもうパリアッチョじゃない;

 

se il viso è pallido, è di vergogna, e smania di vendetta! 

俺の顔が白いのは、恥辱と復讐に燃えているせいだ!

 

L'uom riprende i suoi dritti, 

俺の権利だ、

 

e'l cor che sanguina vuol sangue  a lavar l'onta, o maledetta! 

血が流れ出る俺の心臓は俺の辱めを洗い流すための(お前の男の)血を求めてる、畜生!

 

No, Pagliaccio non son! 

俺はもうパリアッチョじゃない!

 

Son quei che stolido 

俺は阿呆だ

 

ti raccolse orfanella in su la via quasi morta di fame, 

飢えで死にかけてた孤児のお前を拾い

 

e un nome offriati, ed un amor ch'era febbre e follia!

名前を付けて、愛してやった、なんて馬鹿だったんだ!

 

CONTADINE (女達)

Comare, mi fa piangere! Par vera questa scena!

泣けてくるわ!真に迫ってるわ!

 

CONTADINI  (男達)

Zitte laggiù! Che diamine!

静かに!すごいなあ!

 

SILVIO 

Io mi ritengo appena!

我慢出来ないぞ!

 

CANIO 

Sperai, tanto il delirio accecato m'aveva, 

俺は望みすぎた余りめくらになっちまった。

 

se non amor, pietà... mercé! 

愛とはいわん、だけど哀れみを、情けを、と!

 

Ed ogni sacrifizio al cor lieto, imponeva, 

喜んで何でも犠牲にした、

 

e fidente credeva più che in Dio stesso, in te! 

神よりも何よりもお前を信じたんだ!

 

Ma il vizio alberga sol ne l'alma tua negletta; 

だけど自堕落なお前の心には悪意しかない;

 

tu viscere non hai... sol legge e'l senso a te! 

お前には優しい心ってものがない...情欲だけで動いている!

 

Va, non merti il mio duol, o meretrice abbietta, 

行っちまえ、お前は俺の悲しみに見合わない、見下げ果てた売女だ、

 

vo' ne lo sprezzo mio schiacciarti sotto i piè!!

俺の足でお前を踏みつぶしてやりたい!!

 

LA FOLLA (観衆)

Bravo! ブラボー!

 

NEDDA 

Ebben! Se mi giudichi di te indegna, 

そうかい! あたしが見合わないって言うなら、

 

mi scaccia in questo istante.

今すぐ追い出したらいいわ。

 

CANIO 

Ah! ah!  はっ!はっ!

 

Di meglio chiedere non dèi che correr tosto al caro amante. 

そのままお前の男のところに行かせるものか。

 

Se' furba! No! per Dio! 

わる賢いな!だめだ!神にかけて!

 

Tu resterai... e il nome del tuo ganzo mi dirai!!

ここに残って... 奴の名前を言え!

 

NEDDA 

Suvvia, così terribile davver non ti credeo! 

あらあら、あんたがそんなに怖いとは思わなかったわ!

 

Qui nulla v'ha di tragico. 

ここには悲劇なんてものはないわ!

 

Vieni a dirgli o Taddeo, 

こっちに来て言ってやってよ、タデオ、

 

che l'uom seduto or dianzi, or dianzi a me vicino 

私の前に座っていたのは、

 

era... il pauroso ed innocuo Arlecchino!

それは... 恐がりで無害なアレッキーノよ!

 

CANIO 

Ah! tu mi sfidi! 

ああ!おれに楯突く気か!

 

E ancor non l'hai capita ch'io non ti cedo?... 

お前を行かせない、というのをまだ分かってないな?

 

Il nome, o la tua vita! Il nome! 

名前だ、そうじゃなきゃお前の命だ!名前だ!

 

NEDDA 

Ah! No, per mia madre! 

ああ!イヤだね、あたしの母さんにかけて!

 

Indegna esser poss'io... 

あたしはお前さんにゃふさわしくないかもしれないね... 

 

quello che vuoi, ma vil non son, per Dio!

だけど,あたしは神に誓って 卑劣じゃない!

 

CONTADINI e CONTADINE (村人達)

Fanno davvero? Fanno davvero? Seria è la cosa? 

ほんとの事なのかい?真剣なのかい?

 

Zitti laggiù! Seria è la cosa e scura!

静かに!真剣で険悪になってきてるぞ!

 

SILVIO 

Io non resisto più! Oh la strana commedia!

もう我慢出来ない!この変な芝居には!

 

PEPPE 

Bisogna uscire, Tonio. Ho paura!...

出て行かなくちゃ、トニオ。怖いよ!...

 

TONIO 

Taci sciocco!

黙れ、馬鹿!

 

NEDDA 

Di quel tuo sdegno è l'amor mio più forte! 

あんたの憎しみよりあたしの愛の方が強いんだ!

 

Non parlerò! No! No! (A costo)  de la morte!

言わないよ!イヤよ!死んだってイヤよ!

 

CANIO 

Il nome! il nome! 奴の名前だ、名前だ!

 

NEDDA 

No! イヤだ!

 

SILVIO 

Santo diavolo! Fa davvero...

あいつは本気だ...

 

LA FOLLA e PEPPE (群衆とペッペ)

Che fai! Ferma! Aita!

何するんだ!止めろ!助けて!

 

CANIO 

A te! A te!  これをお前にくれてやる!

 

Di morte negli spasimi lo dirai!

死の苦しみの中であいつの名前を言え!

 

NEDDA 

Soccorso! Silvio! 助けて!シルヴィオ!

 

SILVIO 

Nedda! ネッダ!

 

CANIO 

Ah!... sei tu? Ben venga! あ!お前か? 望むところだ!

 

LA FOLLA  (観衆)

Arresta! Gesummaria!

止めろ!イエス様 マリア様!

 

CANIO 

La commedia è finita!

喜劇は終わった!

 



 

おまけ:「衣装をつけろ」歌い比べ

 

このアリアには、悲しみ、絶望、怒り、自嘲など様々な感情が込められています。歌と芝居に優れた世界のトップテノール達がこの超有名なアリアをどの様に表現しているかを比べてみました。彼らは舞台毎に表現を変えているでしょうが、下に挙げた動画で、iltrovatoreが特に感じ取った点を書いてみました。全くの独断・主観です。アリアの最後の2行に注目。

 

1  Ridi, Pagliaccio, sul tuo amore in franto! 

    笑え、パリアッチョ、砕かれたお前の愛を!

2  Ridi del duol che t'avvelena il cor!

    笑え、お前の心を苛むこの痛みを!

 

プラチド・ドミンゴ 映画

アリアのほとんどを一般的な速度で歌うたっているが、最後の2行だけを非常にゆっくりと歌いこの2行を強調している。

芝居からもカニオの深い嘆きと絶望感が感じとれる


 

ヨナス・カウフマン  2015 ザルツブルク

アリア全体をゆっくりと歌っている。ライン1の”amore”と”in franto” の間をブレス無しでレガートに一気に歌ってこの一行を印象付け、最後の言葉につなげている。

彼のアリア全体の歌い方と芝居からは、カニオの怒りが感じとれる。


 

ロベルト・アラーニャ   2018 METリハーサル

アラーニャは ライン1のフレーズの”amore”と”in franto” の間にブレスをいれ、”in franto” (砕かれた)という言葉を長く伸ばし、強調している。

彼の歌と芝居からは砕かれた愛に対する深い悲哀・苦しみが感じとれる。


 

ではパヴァロッティの「衣装をつけろ」は、と聴かれればその答えは、「パヴァロッティはいつ何を演じてもパヴァロッティ」。 

 

(2019.12.20 wrote)  オペラ解説に戻る