iltrovatoreが見る欧米オペラ事情 3-1. オペラ歌手への道

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日本の音楽大学の数は世界最多?

ジュリアード音楽院 

"File:Juilliard School - Alice Tully Hall.jpg" by Paul Masck 


オペラ歌手を志望する若者は殆どが音楽大学・音楽院を目指すでしょう。 ヨーロッパ各国にそれぞれいくつ音楽学校又は音楽院があるかご存じでしょうか?

 

で、いろいろ調べた所、 (参考:「音楽大学」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 2019年5月11日 (土) 19:20‎ )

イタリア 20、

ドイツ 21 (最近は24)、

フランス 10、

アメリカ32

 

ちなみに日本には音楽大学、音楽学部、音楽学科含めてなんと42あります(教育学部除く)!世界最多?

 

それはさておき、

 

このような音楽大学・音楽院は歌手としての基礎を作ってくれますが、ただ卒業しただけではオペラ歌手としてまず使い物にならないといいます。

 

ドイツだったら歌劇場アンサンブルに所属して稼ぎながら勉強する手はありますが、このシステムはドイツ語圏にしかないし・・・・。

 

しかしオペラ歌手としての経験を積む為に格好の場所があります。 歌劇場に付属したオペラ研修所です。

 

若手歌手の為のオペラ研修所

有名なオペラ研修所をいくつか挙げると、

ドイツ、バイエルン州立歌劇場付属のオペラスタジオ、

イギリス、ロイヤルオペラハウス付属のJette Parker Young Artists Program

イタリア、ミラノ・スカラ座付属の若手プログラム、 等です。

 

待遇はプログラム毎に多少異なりますが、これらの研修所のオーディションに合格すると、1—2年の無料研修を受けられます。 (スカラ座は授業料を取る。 但し低額。 文化芸術vol.7,2016 p5)

 

その間にあまり高くはないですが奨学金(給料)が出る場合もあります。 オペラ歌手に必要な勉強を沢山させてもらえますし、有名歌手などによるレッスンも受けられます。

 

所属する歌劇場で主役のカバーとして勉強出来る所もあります。またオペラの端役や時として大きな役を歌わせて貰えるチャンスもあります

 

カバーというのはリハーサル等で主役の代わりをする人です。 一流人気歌手は忙しくリハーサルの全ての日程に参加するわけではないし体調が悪い時もあるのでカバーが必要なのです。

 

カバーは単に舞台経験を積めるばかりではありません。指揮者、演出家、その他劇場関係者に自分の歌を聴いてもらえるまたとないチャンスです。運が良ければ主役がドタキャンした時、代役で歌わせてくれるかもしれません(最近は余りない)。

 

ただし研修所に入れて貰うためのオーディションは倍率が高く難しい。また応募には年齢制限(30才くらい)が付く所もあるので、のんびりしてはいられません。

 

歌劇場で歌うにはエージェンシーが必要

 

オペラ歌手の卵が次に考えねばならないのはエージェンシー、音楽事務所、を探すことです。エージェンシーは歌手のマネージメントをするのが仕事です。

 

歌手の求人はほぼ全てエージェンシー経由ですから、フリーの「自称オペラ歌手」が自分で歌う場所を捜すなど至難の業です。恒常的に仕事を得たいと思ったらどこかのエージェンシーに所属しなくてはいけません。(蛇足:一人の歌手が複数のエージェンシーに所属することもある。)

 

有力なエージェンシー、例えばカウフマン、オポライス、ラチヴェリシュヴィリ等が所属する Zemsky/GreenArtists Management  やネトレプコ、ベチャワ、ハンプソンなどが所属する Centre Stage Artist Management、 ガランチャ、ディドナート、ダルカンジェロ達が所属する Askonas Holt のサイトには所属する輝かしいスター歌手達の写真が並んでいます。

 

無名の若手がこんなエージェンシーに申し込んでもまず無視されるだけでしょうが・・・。

 

しかし良いエージェントを捜すのも大変らしいです。とはいえ、欧米でプロ歌手として生きて行くためによいエージェンシーを捜すのはものすごく大切なことのようです。

 

ところで、若手がエージェンシーに所属する為のオーディションにも実質的な年齢制限があるらしい (ヨーロッパにおける若手オペラ歌手の各種年齢制限

 

日本の大学院を卒業してから欧米に留学し、その後に職を探す日本人の若手歌手にとってこの年齢制限は厳しい。

 

オーディション

プロ歌手の第一歩としてエージェンシーに所属し歌劇場での役を紹介された駆け出しの歌手にとって、次に重要なのは歌劇場のオーディションです。

 

勿論声、歌唱力がダントツならば非常に有利です。しかしオーディションに合格する為のディテイル、例えば履歴書の書き方から始まり、オーディションの際の選曲、選考者との対応、着てゆく衣装、化粧などノウハウが重要です。

 

これらの指導は韓国・中国が優れている様で、それは様々なオペラ関連ブログや記事から推測できます。

 

ヨーロッパの場合、オペラ歌手の教育と雇用システムは別になっていて、歌手を養成する指導者は歌劇場の歌手選定に関与出来ないのが原則です。すなわち歌劇場で歌う歌手を決めるのは歌劇場です。

 

何ともストレスフルなオーディションですが、基本実力勝負で歌手にとってある程度公平なシステムのように思えます。(日本と比べてですが)

 

オペラ歌手のグローバル化

 

昔は少々の例外を除きドイツオペラ(ワーグナー、リヒャルト・シュトラウス)を歌うのはドイツ人歌手、イタリアオペラ(ヴェルディ、プッチーニ)を歌うのはイタリア人歌手と決まっていました。

 

その区別は時代が進むとともに段々曖昧になってきます。ソ連邦崩壊の後ロシアを始めとして多くの東欧歌手達が職を求め西ヨーロッパに進出していきました。

 

ゲオルギュー、ネトレプコ、ガランチャ、ベチャワ、ホヴォロストフスキーなどのロシア・東欧歌手ばかりではありません。

 

ペルーやウルグアイ等、南米各国からもフローレスやシュロットなど、素晴らしい声、高い歌唱力と演技力、美しい容姿を持つオペラ歌手が輩出しています。

 

最近は韓国・中国人の台頭が著しいです。彼らは言語の壁、体格差、アジア人の顔(差別しているわけではないが、オペラの中でアジア人の顔はやはり違和感があります)という種々のハンディキャップを乗り越え欧米トップの歌劇場に進出しています。

 

新たに進出してきたこれらの歌手達は、ドイツ・イタリアオペラの間の見えざる壁をぶちこわし、イタリア・ドイツオペラにこだわらず様々な演目にチャレンジしています。

 

また、ドイツ人のカウフマンやダムラウもドイツ物ばかりでなくイタリア・フランスオペラを積極的に歌い、その高度な歌唱力でイタリア・フランス人にさえ高く評価されています。

 

「イタリアオペラはイタリア人、ドイツオペラはドイツ人が最高」という思い込みはもう通用しなくなっていて、ミラノスカラ座でさえ、シーズンプレミエにネトレプコやアブドラザコフ等の外国人を目玉に据えています、というか据えざるをえない状況になっています。

 

しかし反対に言えば、声、歌唱力、演技力、容姿を兼ね備えた実力のある強力な歌手達がどんどん現れてきて、競争が激しくなっているのでしょう。(2019.8.29.wrote) 

 

iltrovatoreの見る欧米オペラ事情3-2,日本に世界一流のオペラ歌手を育む環境はあるか?を読む。

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