アニタ・ラチヴェリシュヴィリ(Anita Rachvelishvili)

「アイーダ」第4幕第1場:ラダメスが裁かれている間のアムネリスの絶望、葛藤、司祭への嘆願、最後の呪いまでが迫力で歌われる。アムネリス最高の見せ場。

 

バレンボイムに見いだされた彼女は若干25才にして2009年スカラ座シーズンプレミエ「カルメン」の主役カルメンに抜擢されドン・ホセ役のカウフマンと共演し、その強く美しい声でたちまち世界中から注目されました。

 

彼女に対するiltrovatoreの印象は「いまいち」でした。素晴らしく美しい張りのある強い声(しかも大声)を持っているのはわかりますが、彼女のカルメン(2009年スカラ座、2014年METのビデオ) を観る限りやや月並みな歌いぶり、そして特に演技力の不足を感じていたからです。

 

ところが、今年の5月にウイーンで観たアムネリスには仰天しました。5月の鑑賞記から少し引用しますと、

 

「ところが第2幕の始め、エジプトの戦勝祝いの直前。 侍女達に囲まれアムネリスがラダメスへの想いを歌う(心でつぶやく)場面が驚嘆でした。

 

Ah! Vieni, vieni amor mio, m'inebria, Fammi beato il cor!

おお!おいで下さい、おいで下さい、愛しい方、私を驚かせ、私の心を祝福してください!

 

ここは高音(多分G) で始まるパッセージなのですが、まるで初めて恋をした少女のように柔らかくデリケートな弱音(p ~ mp)で歌ったのです。 「そう来たか〜!!」と心の中で叫びましたよ。 このフレーズは普通フォルテで始めるのです。しかしアムネリスの心の表現としては実に納得のゆく歌い方でした。」

 

彼女は文句なく素晴らしい。高度な発声技術を持ち弱音強音を自由自在に操ってアムネリスの揺れ動く心の変化を圧倒的な表現力で歌います。まったくほれぼれします。

 

彼女のこの歌い方はOperawireも激賛していて、

 

「第2幕の出だし、(メゾにしては高音のハイGで)どんな歌手にとっても難しい場所 "Ah! Vieni, vieni amor mio," (おお!おいで下さい、おいで下さい、愛しい方、)を彼女はデリケートに柔らかく歌った。

 

更に(第3幕始めの) "Sì! Io pregherò che Radamès mi doni tutto il suo cor,” (はい、ラダメスが私を愛してくれるようお祈りしましょう)は今夜最高の美しさ。・・・・・私達はアムネリスが傲慢で甘やかされた王女様でなく一人の若い夢見る少女だったことを初めて知ったのだ。」

 

と書いています。

 

まだ若い彼女はこれからも多くの役に挑戦してゆくでしょう。楽しみな方です。

(2018.10.31. wrote, 2021.3.12改訂) 番外地へ戻る