1981年ブルガリア生まれのソプラノ。子供の頃から音楽業界で働いていました(1)。2010年オペラリアで優勝し、以降MET、ROH、パリオペラ座、ウイーン歌劇場、スカラ座、バイエルン歌劇場など世界トップクラスの歌劇場の常連です。
ベネズエラ生まれの指揮者 Domingo Hindoyan氏と結婚しており2人のお子さんがいらっしゃいます。スイスに在住。
彼女のレパートリーは:ヴェルディの「椿姫」「リゴレット」「ドン・カルロス」、プッチーニの「ボエーム」「トスカ」、ベルカントオペラでは「ランメルモールのルチア」や「ノルマ」。またフランスオペラもよく歌っていて、「ファウスト」「ホフマン物語」「カルメン(ミカエラ)」など。それからロシアオペアの「オネーギン」「イオランタ」などもあります。
彼女の特徴というとIl pirato (海賊:ベッリーニ作曲)やMédée (メデア:ケルビーニ作曲)など、上演される機会の少ないベルカントやバロックを歌っていることです。
結果的に叙情的からドラマチックまで多様なキャラクターを歌っていますが、彼女としてはあらゆるタイプの役柄を取り混ぜながら歌うことにしているようです。その理由は「自分の声のカラーや(歌うための)筋肉が固定されてしまわないようにするためで、声を可能な限り柔軟にしておくのが重要である」(2)、と考えているからです。そういえばカウフマンやシュロットなども似たようなことを言っています。
彼女の役選びの基準として最も重要なのは「キャラクターに入り込めるか」「自分とつながるものがあるか」など心理学的なものだそうで(3)、特に強い女性を好んでいるそうです(2)。が、さらに、
「アイーダを歌えと何回も誘われているが断り続けています。今後も断ります。歌うこと自体は可能だと思いますがアイーダのキャラクターが好きでないのです。面白くありません。もし歌うならば、ですが、アムネリスを歌いたいです。エボリはエリザベッタよりずっと面白いです。カルメンやミカエラも同じこと。」(2)
つまり清純とか一途など、ある意味単純なキャラクターよりも複雑な内面を抱える女性に興味があるということでしょう。そういえば、どこぞのインタビューで某超人気ソプラノもアイーダのことを「少々退屈なキャラクター」とかなんとか言っていた記憶があります。
トップ歌手達は複雑な内面を持つキャラクターを自分なりに掘り下げて表現することにやりがいを見出すのかもしれません。彼女のアムネリスやエボリ、カルメンを舞台で観てみたいものです。
しかし、当面彼女にとって魅力的なのはワーグナーらしいです(2)。
METのゲルブ氏によれば、「彼女は恐れを知らない勇敢なソプラノで、ほとんどのソプラノはどこかで役を歌って(経験を積んでから) METの大舞台で歌うが、彼女は少なくとも4, 5回はMETでロールデビューしている」そうです(3)。 大きなリスクをとって役に挑む大胆さがある方ですが、自分の能力を開発する熱意と努力のたまものでしょう。
iltrovatoreは昔彼女がROHで歌った「ノルマ」を録画で聴いています。その時、なぜか声の中に少々スが入っているように聞こえ、このキャラクターを歌うに彼女はまだ若いのではないか、と感じました。2017年パリオペラ座で「ドン・カルロス」のエリザベートを生で聞いたときもやはり同様な感想を持ちました。
しかし私のセンサーが変わったのか彼女の声が変わったのか、最近そんなことは全く感じなくなりました。密度が濃く充実した素晴らしい歌唱を聞かせてくれる、演技も上手な世界のトップソプラノと考えています。
(1) "Sonya Yoncheva" From Wikipedia, the free encyclopedia This page was last edited on 3 November 2021, at 17:04 (UTC).
(2) ”Q & A: Sonya Yoncheva On Singing ‘Il Pirata’ & Her Upcoming Wagner Role, Operawire 2019.12.20 https://operawire.com/q-a-sonya-yoncheva-on-singing-il-pirata-her-upcoming-wagner-role/
(3) "The Met Stars Live in Concert Series" ゲルブ氏との会話より https://youtu.be/k4_CUpXbCWc
(2022.06.17 wrote) 番外地に戻る