フランチェスコ・メーリ (Francesco Meli)


1980年にイタリアのジェノヴァで生まれています。現在41歳でまだ若いですが、すでにキャリア充分の国際派一流テノールです。

 

23歳でスカラ座デビュー。以前はペーザロで歌っていたこともあり、「セルヴィアの理髪師」などのロッシーニもの、デセイとの共演でベルリーニ「夢遊病の女」、アンナ・ネトレプコやエリーナ・ガランチャ、イルデブランド・ダルカンジェとの共演でドニゼッティの「アンナ・ボレーナ」など主にベルカントオペラを歌っていました。

 

しかし次第にヘビーな役に移行して現在では主にヴェルディ作品を歌うようになりました。ヴェルディ歌いテノールとして有名で、ちょっと思い出すだけでもネトレプコと共演したザルツブルグでの「イル・トロバトーレ」や「アイーダ」、そして「仮面舞踏会」、さらにドミンゴとの共演「二人のフォスカリ」などがあります。

 

あまり目立ちませんけれど、「カルメン」などのフランスオペラも歌っているようです。

 

歌い方は端正でノーブル。大仰な歌い方や「目立とうテノールの、高音をやたら無駄に引っ張る」ようなことはしません。カウフマン、ドミンゴやベチャワ等と同様、"no-brainer" テノールとは違うな、と思えます。そのためか地味に見えることもありますが、私は彼を実力派でイタリア随一のテノールだと思っております。

 

彼はザルツブルクフェスティバルなどで「アイーダ」のラダメスを歌っています。

 

このオペラの「清きアイーダ」の歌い方について、私は以前おたく記事

 

「このアリアは最後の部分を英雄的にフォルテシモで歌うことが慣例になっているが、ヴェルディはその部分をピアニシモ、モレンド(「だんだんと弱くしていく)で歌うように指示している。」と書きましたが…

 

何年か前の彼へのインタビュー「『清きアイーダ』をどう歌うか」(英語で話しています)で、彼は「ラダメスはいつもフォルテ・フォルティッシモで英雄的に歌うのが伝統になっている。だけれどヴェルディのスコアに忠実に歌うのだ。ラダメスの歌にはpppやppppがありしかもdolce (甘く), dolcissimo(極めて甘く、柔和に)と書かれている。『清きアイーダ 』はラダメスの夢だからパワフルには歌わない」、とも言っておられ、iltrovatoreと致しましては嬉しい限りです。ただしこのアリアの最後をピアノ、モレンドで歌うのは最高級に難しく、世界でも極々わずかのテノールしかうまく歌えません。

 

彼はコロナ禍の中、来日して新国立劇場で「トスカ」を歌い、リサイタルも開いてくれました。私はこのリサイタルを聴きに行きましたが(鑑賞記)、なんと十回のアンコール。観客もメーリ自身もとても満足した(と彼のFBに書いてある)素晴らしいリサイタルでした。

 

余計なことを書くと、奥様のSerena Gamberoniもオペラ歌手でソプラノ。

 

彼は生まれ故郷GenoaにあるTeatro Carlo Feliceの"Academy of Advanced Professional Training for opera singers"で音楽監督兼チューターも務めています。彼は「自分を含めてチューターたちがキャリアーの中で学んだものを次代へ受け渡さねばならぬ」と深く考えている様です(Operawire)。 (2021.4.28 wrote) 番外地に戻る。