MET鑑賞記:バラの騎士2017.5.1.& 5.5.

共演者:ルネ・フレミング (S): バラの騎士、その他コンサート等で共演。エリーナ・ガランチャ(Ms): カルメン、カバレリア・ルスティカーナなどで共演。ギュンター・グロイスベック (B): カウフマンとはチューリッヒのアンサンブルで何年か一緒だった。ティトの慈悲、リゴレット、フィエラブラスなどで共演。

 

今回はMETの女王ルネ・フレミング(58)が彼女の多くの持ち役から引退すると宣言し、「バラの騎士」マーシャリン(元帥夫人)を演じる最後の舞台。そしてガランチャがオクタビアン役から卒業、と話題が多く当然ながら人気沸騰の舞台でした。

 

私iltrovatoreは「バラの騎士」を結局2回観ました。日本でかなり以前に購入したチケット(5月5日分)は持っていたのですが、5月1日ニューヨークに到着し寝不足のままMETのチケット売り場へ直行。

 

「今晩のチケットありますか?」

「ないよ、完売。」

「ええ!!一枚もないの?」

「払い戻しチケットがある。3枚。一番値段の高い平土間席、立ち見(22.5ドル)、立ち見席の次に安い席(ただし劇場の最上階奥)。どうする?」

 

迷った末に立ち見席と一番安い座席を購入 (友人と2人でニューヨークにいったのです)。

しかしここであきらめてはいけない。2時間後再びチケット売り場へ。

 

「あなた達、又来たね」

「覚えていてくれたの。ところで新しく払い戻しチケット出た?」

「今のところ1枚だけある」

 

今度はそこそこ高い席(平土間の一番端っこの席)が出ていたので立ち見席を戻して新たなチケットをゲット。なにせ休憩を含め合計4時間半のオペラです。年寄りに立ち見はきつい。

 

友人と幕間に席を交換し、平土間端っこ席、歌劇場最高階の奥の奥ほぼ立ち見と同じ位置の席、そして4日後のドレスサークル席と3箇所で観劇いたしました。

 

その結果。METは劇場の奥の奥でもきっちりときれいに歌手の声が聞こえる。ただしオペラグラスで一杯に拡大しても歌手は豆粒にしか見えない。平土間の端っこでも音楽の聞こえ方は最上階奥の奥と極端な差はない。しかし生声や歌手の息使いは聞こえるし歌手の表情演技がよく見える。

 

値段を考えに入れるとバルコニーやドレスサークルあたりの中央部席(とりわけ最前列) が一番コストパーフォーマンスがよいかなあ、と思いました。

 

しかし4000座席を擁するMETと、ほぼ同じくらいの席数を持つNHKホールを比べると音響の差はあまりにも歴然。以前からわかってはいたことではあるけれど、やはりNHKホールは紅白歌合戦のためのホールということを改めてしみじみと実感しました。

 

さて肝心のオペラです。客席のシャンデリアが段々暗くなりながら天井へと昇っていくのを見るだけでムードが出ます。今回は新演出です(ただしROHが去年から今年にかけて上演した演出と同じだったと思いますけど)。

 

全く歌わないながらしゃなりしゃなりと出てくる女性達の衣装がセンスあり。毛並みのよい高級そうなわんちゃん達も出てきました。さすがお金持ちMET。舞台に雰囲気がでますね。とはいえ現在METは人の入りが悪く赤字らしいです。

 

第1幕。まずはガランチャに注目。オクタビアンは17才の少年です。ガランチャは若い頃のデカプリオの映画をみて若い男の子の動きを勉強した、とどこかのインタビューで述べていました (情報元のインタビューがどこにあったかわからなくなったのでデカプリオだったか他の男優だったか確かめられませんでした。すいません)。たしかに行儀をわきまえずエネルギーをもてあまし本能のままに動き回る思春期の少年の雰囲気が良く出ています。しかし貴族の少年なのでちゃんと上品さも持ち合わせており、さすがガランチャ。役作りが上手い。

 

それに対して元帥夫人フレミングは立ち振る舞いが知的で優雅。強烈な存在感があり、全身からオーラを放っているように思えます。若い燕をはべらせて一時の火遊びをしてはいるが自分の若さが次第に失われて行く寂寥感と諦念したような想いを、彼女のクリーミーというか少少こってり感のある声で情緒深く感動的に歌います。とても引退を宣言した歌手とは想えぬ素晴らしい歌唱でした。

 

次に登場するオックス男爵役グロイスベック (Gunther Groissböck)!この方の素晴らしさを以前鑑賞記で褒めそやしたのですが、今回の彼は更に進化しているように思えます。今回も はげを鬘でかくしていることになってはいますが、エネルギーにあふれる元気な男爵として登場。

 

粗野、乱暴、女好き、態度はでかいが剣は使えず少少の傷も大げさに痛がる根性の無さ、けちで金目当ての結婚を罪悪感もなくしゃあしゃあとしようとし、結婚相手の女性の事などまるで考えもしない、、、と、どうしようもないけれど強烈な個性にあふれる男爵を歌と演技で余すところなく表現しています。

 

歌もよい。第2幕の終わり、彼はマリアンデル、実は女装したオクタビアン、をものにした気分で、かの有名なワルツの旋律にのりシャドウ (二人で踊っているつもりになって一人で踊る) します。酔っ払って自己陶酔的に踊り、最後に極低いホの音を、楽譜に書かれている音符の長さのたっぷり2倍は伸ばしたか、と感じられるくらい長〜く美しく堂堂と響かせました。

 

舞台が暗転し幕が下りたとたんに大きな拍手とブラボーが出ましたがこれは当然。私と友人は感激のあまり「かっこいい〜〜!」と抱き合ってしまったくらいでした。

 

第3幕の女声3重唱はきれいでしたよ。最後若い2人を残し元帥夫人はその場を去って行くのですが、高貴で知的な女性が自らの想いを自らの意志で封印し気品を保ちつつ美しく去って行く、その後ろ姿は現在のフレミングの引退と重なり私に何とも言えない感慨を残しました。

 

この「バラの騎士」は日本でもMETライブビューイングで2017年6月10日から見ることができます。「バラの騎士」としては現在世界最高といって差し支え無い豪華な主役3人が全員調子よく歌っています。是非ご覧下さい。

 

 

最後に。Operawireに掲載された「16-17年度METでベストパーフォーマンスをした男性歌手10人」にグロイスベックが入っていました。(注;もちろん評論家の個人的な趣味で選んでいます) 。派手なテノール,かっこいいバリトンの影に隠れて目立たないバス歌手ですが評論家は彼の才能を高くかっており非常に嬉しいです。この10人というのには女性編もあり、ガランチャは当然ながらその10人の中に入っていました。(2017.05.18. wrote)