サン・カルロ歌劇場 「カヴァレリア・スルティカーナ」2020.12.5ストリーミング

 

ど迫力の「カヴァレリア・ルスティカーナ」。この公演はサン・カルロ歌劇場のシーズンプレミエとしてストリーミングされました。

 

 

今回の「カヴァレリア」は、ヨナス・カウフマン、エリーナ・ガランチャという2大スター、そしてローラ役にマリア・アグレスタ、アルフィオ役はクラウディオ・スグーラと、なかなか豪華な配役でした。

 

演奏会方式とはいえ、ストリーミングの間に劇中の四人の緊張した人間関係をわかりやすくイメージさせるシーンがいくつか挟まれています。これは良いアイデア!

 

サン・カルロ歌劇場は現役の劇場としてはヨーロッパ最古のものだそうです。とても美しいこの歌劇場内部や、そこで撮影された上記のシーンは、「いつかこの劇場を訪れてみたい」という気持ちを引き出すCMにもなっているように思われます。リスナー氏の抜け目ない才覚は称賛に値します。

 

で、オペラ公演です。オーケストラが美しい前奏を目一杯エモーショナルに奏でます。(この前奏を聞いただけで私はいつもこのオペラに引き込まれてしまう)。 またこのオペラでは初めから終わりまで合唱が大活躍なのですがなかなか良かったです。

 

前奏が終わるとカウフマンが舞台袖でシチリアーナを歌います。(画面には女性二人の対立関係を暗示するシーンとオペラ座内部が映し出されていました)

 

いくつかのインタビューで、カウフマンは「彼は火遊びをしている」「僕が思うに、トゥリッドには初めからなにがしかの悲しみが付きまとっている、まるで人生が嫌になっているようで、それは音楽からも感じ取れる。」と言っていますが、それを読んだせいでしょうか、彼の歌は何か悲しげに聞こえます。

 

次に恋人を寝取られ嫉妬に苦しむサントゥツアが出てきます。このサントゥツア役、ガランチャが絶好調でした。彼女の声は以前より深みが増したように思えます。高音低音自由自在。低音もさらに豊かになっています。

 

サントゥッツアがトゥリッドの母、ルチアに訴える「お母さんもご存知の通り」“Voi lo sapete, o mamma” は愛を失った悲しみ、嫉妬の苦しみ、どうしようもない絶望感が溢れ出てくるようでした。

 

そしてカウフマンとガランチャがガチンコ勝負するのが、言い争の二重唱「ここにいたのか、サントゥッツア?」"Tu qui, Santuzza? "。

 

ローラに溺れているトゥリッドはサントゥツアが疎ましく、付き纏われないようにぶっきらぼうなもの言い、彼女を馬鹿にし、脅かして追い出そうとする。そのトゥリッドをカウフマンは声と演技で、憎々しげに表現します。

 

絶望的に彼にすがるサントゥツアは嘆願するものの、怒りが激昂に変わっていきます。感情が昂って怒鳴り合いをする二人。これぞヴェリズモの醍醐味。演奏会方式ながら呆気に取られるくらいの大迫力シーン。最後サントゥツアがトゥリッドに投げつける憎しみに満ちた呪いの声は凄まじかった。

 

こんな「ど迫力」シーンは本番オペラでも滅多にはみられません。すごかった。

 

しかしトゥリッドは心の中で後悔しています。不倫はローラの夫に知られ、自分が殺されなければ事がおさまらないのは彼自身よくわかっているのです。だから彼は殺されるために決闘するのです。殺されることがわかっているから母にそれとなく別れを告げ、サントゥツアの今後を頼むのです。

 

「母さん、あの酒は強いね」 ”Mamma, quell vino e generoso” でのカウフマンの母への呼びかけ「母さん、母さん、・・・」 "Mamma, Mamma" は優しく切なく、アリアはエモーションに満ち溢れていました。

 

ローラ役のマリア・アグレスタは不倫をへとも思っておらず、サントゥツアを小馬鹿にしている様子がよくわかる歌いぶりでした。この人もうまいです。

 

アルフィオ役のクラウディオ・スグーラはとても声の美しい人で、端正な歌い方をします。iltrovatore的には、アルフィオはマフィアの親分のような風体で、声も美しいというよりはドスの効いている方を好むのですが、これはあくまで個人的な嗜好です。

 

最後にお母さんルチア役のElena Zilio。歌手の絶頂期は遥か昔に過ぎ去ったように思えるお顔と声をしていらっしゃいます。(え!1941年生まれですって!79歳!本当?)。しかし彼女の年老いた声も味わい深く、むしろ若い歌い手さんが歌うよりいいです。ルチアにぴったりだと思いました。

 

ご参考までに、カヴァレリア・ルスティカーナのオペラ解説(アリアの対訳含む)はこちらをどうぞ。

(2020.12.07 wrote) 鑑賞記に戻る