トスカ 新国立劇場 2021.1.28公演

日本でもコロナ流行第3波が押し寄せ、1月4日以降、外国人の入国は不可能になると言うことで心配していました。外国勢はおそらく滑り込みセーフで来日したのでしょう。不自由な2週間の隔離を受け入れてくれた皆様方に感謝です。

 

でもまあ反対に言えば、それほどコロナ流行がひどく、欧米歌劇場での上演がほぼ壊滅状態にある状況を反映しているのかもしれません。

 

ただし観客数は減らされ満席の50%になってしまいました(五回の公演は結局全て完売となりました)。さすがに50%の観客数だと拍手が寂しいです。ブラボーも禁止ですし、ミュンヘンのように足踏みで喝采をあらわすこともないと拍手だけでは観客の気持ちが表しきれないなあ、と感じました。いや〜、ブラボーが懐かしい。例えピントが外れたブラボーでも今は懐かしいです。

 

それでも歌手陣は楽しそうにカーテンコールをしていました。ただしお互いに手をつながないコロナ仕様のカーテンコールでしたが・・・歌手達にとっても無観客よりは遥かにやりがいがあるのでしょうね。

 

iltrovatoreは「とにかくliveが最高」派ではなく、「録画もliveと同じく素晴らしくliveにはない良さがある」派ですが、さすがに劇場は懐かしい。劇場が通常の状態で再開されることを強く願います。

 

さて、久しぶりのオペラライブです。私が最後にみたオペラ舞台は新国立での「セヴィリアの理髪師」だったそうで(本人忘れていて、友人に教えてもらいました)、ほぼ1年ぶりです。

 

今回の公演で私が良かったと思うのは

1. カヴァラドッシ役のメーリ

2. 舞台   です。

 

まず舞台です。このオペラはマレンゴの戦い(1800年6月14日)におけるナポレオンの勝利、場所(聖アンドレア・デッラ・ヴァレ教会、ファルネーゼ宮殿、サンタンジェロ城)、など歴史的な背景・実在する建物が極めてはっきり描かれており、突飛な演出でこの設定を壊すとひどく間が抜けたオペラになってしまいます(参考:アンドレア・シェニエとトスカ歴史編。新国立の舞台は上記の事柄に忠実な上、さらにとても美しく作られていました。「アイーダ」と並ぶ新国立の人気舞台というのもうなずけます。

 

更に1幕や3幕で横や上下に舞台を動かして変化をつけるのも楽しかったし、1幕のテ・デウムで出てくる人々の衣装なども豪華でした。舞台上の人々の数が少なかったように感じられたが、これはコロナ仕様かもしれません。

 

カヴァラドッシ役のメーリを過去に二回ほど舞台で聴いたことがあります。艶のある声の持ち主で、歌唱も演技も安定感のある実力派。実力の割には地味な性格のように思えます。世界のトップクラス歌劇場でアンナ・ネトレプコと何回も共演しています。

 

今回も、輝かしい響きを伴った彼の声が私に向かって放たれ突き刺さるイメージ、私の席は舞台からかなり遠いところにあったのですけれどね。滑らか、クリアー、しかも心地よい響き。一流歌手でしか聞けないこの声の響きはたまりませんね。生オペラの醍醐味です。

 

「妙なる調和」「星は光る」などの有名アリアは美しく、カヴァラドッシ役にとって重要な叫び、「Vittoria! Vittoria!」(高音A♯)も雄々しく素晴らしいと感じられました。(彼はハイA#/B♭までの音ならほぼ確実に素晴らしい音を出すと思っています)

 

ところで第3幕、トスカが彼に通行証を見せてもそれを信用せず、トスカのために喜ぶふりをする、と見える演技をしていました。この演技(演出)は私好みです。

 

スカルピア役はダリオ・ソラーリ。美声で端正な歌い方をします。十分レベルに達した良いバリトンでしたが、あまり悪者には見えない。私的にはスカルピア役は威圧的でドスの効いた、しかも第1幕のトスカに対しては嘘くさい猫撫で声を出せる歌手が好みなのです。もっと他の役で聞きたい歌手さんかなあ、と思いました。

 

トスカ役のキアーラ・イゾットン。前に突き抜ける鋭い声というよりはモヤッと感じられる声です。大声を出す時は迫力で耳に響いてくるのですが、少々重たい感があります。小声の時は聞こえにくかったかなあ。トスカ役には精神不安定で堪え性のない性格をあらわす歌い方と声を期待する私なので、この人の声とは相性が悪いようです。

 

脇役の日本人歌手さんたちは、みなさん芝居も上手かったし、声の響きがよく付きとても良かったです。特に堂守(志村さん)の演技が楽しかった。

 

指揮に関して。出だしの3小節はたっぷりと演奏されましたが、他の部分はゆったりしたところと性急なところのメリハリがついていました。

 

ついで:英語の字幕が舞台両袖に地味に出ていました。いつから英語字幕が出るようになったのでしょう?今まで気が付きませんでした。外国からのお客さんのためにも英語字幕は必須でしょう。なかなか良いです。(2021.1.28 wrote)鑑賞記に戻る