「チェネレントラ」新国立歌劇場2021.10.9公演

この演目4回目の公演で会場は8〜9割の入り。よく入っていて嬉しい。有名なお伽話を元にしたロッシーニの喜劇です。

 

ロッシーニのオペラは軽快でキレが良くメリハリが効いてシャンパンの泡がポンポン跳ねるような演奏が好きなのです。しかし今回の演奏はいくらか平板気味で、ロッシーニ・クレッシェンドもはっきりとは感じ取れなかったです。そうなるとiltrovatoreは飽きてしまい、舞台を見ながらボーと取り止めのないことを考えるのが常・・・なのですが、今回はそうなりませんでした。

 

理由は二つ。まず第1は意外性のある読み替え演出です。ラミロ王子は映画王の息子で父の遺産を分けてもらうためにはとにかく結婚せにゃならぬ状況に陥っています。王子の教育係アリドーロはラミロが結婚できるよう娘(チェネレントラの主役)を探す映画監督で、舞台は「チェネレントラ」を制作中の映画制作会社のスタジオとなっている様です。

 

何せ映画スタジオの中で話が進んでゆくので舞台が華やかです。きらびやかな踊り子さん、なぜか西部劇のインディアンやローマ時代の兵士と美女たち等が背後を彩り、意味もないけど見ているだけで楽しかったです。派手派手しい舞台でしたが、音楽を邪魔するというよりも観客が飽きるのを防いでいると感じました。ただ演出に合わせて台詞の字幕翻訳を何箇所も変えていたのがちょっと気になりましたけれど。

 

理由その2。歌がよかったのです。チェネレントラ役の脇園さんを前回聞いたのは確か新国立での「セヴィリアの理髪師」でした。その時は日本人離れした響きのある良い声だったと思いましたが、その反面声がモワッと拡散した感じに聞こえたのが気になっていました。(先週のサントリーホールガラの鑑賞記にもちょっと書きましたが)。

 

しかし今回は素晴らしかったです。密度が濃く、張りのある、よく響く声が体から無理なく放たれ聴衆に向かって飛んでくる感じです。ロッシーニの難しいフレーズを高音から低音までムラなく歌い、レガートなのに完璧なアジリタ、と前回聞いたよりも遥かに上手くなっていてびっくりしました。

 

いやもう欧米の一流歌劇場で十分に通用する声でしょう!体格にも恵まれていてズボン役も十分にこなせるのではないでしょうか。彼女はまだ30代前半で将来が極めて楽しみです。今回彼女の歌を聞くことができ本当に良かった。

 

ラミロ役のルネ・バルベラさんも好調でした。体格も声もまさに典型的なテノール。よく通る明るい声でアジリタも悠々、高音ハイCも難なく出していました。さらにアリア "Si ritrovarla, io giuro"では鋭く強いハイDを出してました。まさにロッシーニ超絶技巧アリアの醍醐味です。いや〜楽しかった。彼はここでbisしました。

 

アリドーロ役のガブリエーレ・サゴーナは姿形も良く、よく響く声も美しかったです。

 

アレッサンドロ・コルベッリはこの役で世界的に有名な方です。前回彼の生声を聞いたのはROHでの「運命の力」で、フラ・メリトーネ役をコミカルに演じていらっしゃいました。その時よりも声が老けたかなあ、という気がしないでもないです。でもいいんです。私は彼が好き。

 

以上のメンツを並べて考えるに、今回の公演は相当ハイレベルで見ていて充実感がありました。楽しかったです。

 

最後に日本人歌手たち。

 

ダンディーニ役の上江さんは良い喉を持っておられるバリトンだと思いましたが、低い音を歌う時、言葉も聞こえず声もほとんど響いてきませんでした。

 

クロリンダとティーズベを演じた高橋さんと斎藤さん。両者とも声が不安定で音質が一定しない感じです。声を飛ばすというよりはヨイショと体から声を押し出す様に聞こえました。おどけた演技も一生懸命やっているとは感じ取れましたが、うまいとは思えない。

 

総じて脇園さんを含めた来日歌手と日本に在住している歌手の力量の差を感じた公演でした。ただし合唱のレベルは高くとても良かったです。力強く舞台を引き締めている感がありました。

 

(2021.10.10 wrote) 鑑賞記に戻る