ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステ オペラアリアコンサート 東京, サントリーホール 2017.11.10.

 

ディアナ・ダムラウの「夜の女王のアリア」を聞いて以来iltrovatoreは彼女のファンです。超絶コロラトゥーラ技術も音楽性も素晴らしい!の一言。今年7月のミュンヘンオペラフェスティバルではご主人のテステと共に「ホフマン物語」のオランピアを除く3役を歌い(歌ったのは正確には2役だが)、豊かさを増した歌声と演技力にiltrovatoreは再び惚れ直しました。

 

彼女は来年2月から一ヶ月間、カウフマンと一緒にヨーロッパ中で「ヴォルフイタリア歌曲集」を歌って回ります。

 

今回のコンサートはご主人とのアジアツアー。シンガポール、上海、東京、台北、広州、ソウル、北京の順に回っていきます。あれあれカウフマンの中国ツアーと所々ニアミスですわ。そういえば、つい先頃来日したネトレブコもアジアツアーの一環として歌ったのでした。オペラ歌手ものびしろのある東南アジアを開拓しなくてはということでしょうか。

 

ネトレプコのコンサートは、絶好調、ど迫力で歌ってくれたのにもかかわらず会場は6-7割の入りでスカスカ状態。宣伝期間が短かったせいか残念な状態でしたが、今回の場合は完売。ただし当日会場で随所に見られた空席。

 

日本ではチケットの再販ができないからでしょうが、このコンサートに行きたくてもチケットを購入できなかった方の為に、ヨーロッパ諸国の様なきっちりとした再販制度を作ってくれるとありがたいです。

 

 

今回は彼女がお得意とするアリア満載です。前半で歌われた「ロミオとジュリエット」から「ああ、私は夢に生きたい」 “Ah! Je veux vivre”、は夢見る少女の想いを朗らかに軽やかに、「カプレーティとモンテッキ」より「ああ幾たびか」“Oh! Quante volte”は恋の苦しみをしっとりと豊かに歌い上げます。

 

上手い、上手い。超絶技巧を要するコロラトゥーラを楽々と情緒たっぷりに、コロコロ、コロコロと歌い回します。ポンと軽く置かれた高音が印象的。弱音高音も余裕綽々で自由自在に声を操ります。その弱音が響くこと響くこと。会場全体に彼女の声の響きが共鳴してなんとも素晴らしいとしか言いようがない。劇場でしか聞くことのできない声の響きを堪能いたしました。

 

彼女のコロラトゥーラの素晴らしさがよくわかるYoutubeを置いておきますので、興味のあるかたはどうぞご覧下さい。彼女が出したCD “COLORaturaS” 作成時の撮影です。この動画の中で彼女は「オペラで私は役に入り込む。コンサートでも 『ディアナ・ダムラウが歌うわよ』 というスタンスではなく役になりきって歌うのです。」と言っています。

 

テステで印象に残ったのは「ドン・カルロス」から「彼女は私を愛していない〜一人寂しく眠ろう」 “Elle ne m’maime pas”。しっかりした低音の響きが耳に心地よい。「彼女は私を愛していない・・・・人の心を読めるようになるのなら・・・」と心の葛藤を朗々と歌い上げます。

 

ミュンヘンの「ホフマン物語」悪者4役は他の方々が素晴らしかったため彼の声が強く印象に残ることはなかったのですが今回は素晴らしい歌唱でした。

 

後半のダムラウ。「ディノーラ」より「影の歌」 “Onbre legere”、「椿姫」より「ああ、そはかの人か~花から花へ」 “E strano ~~  ah, fors’e lui che lanima ~~  sempre libera” は両方とも超難物の長〜いアリアですが、さすが上手かったです。これだけ楽々と(本人にとっては楽々ではないかもしれないが)歌えるのはすごいですねぇ、と感嘆しきり。

 

しかし私には彼女が絶好調とは思えませんでした。超高音はつぶれたように聞こえて、いつものように輝かしく響く声では無かったし、「花から花へ」の最後の” pensier” もソプラノの曲芸高音Esを出さず、楽譜通りに終わりました。

 

でも無理しなくていいのだと思います。このコンサート全体がものすごくハイレベルで、めったには聴けない程の素晴らしいアリアの連続でしたから。彼女は自分のコンディションを計算し最後を美しく終わろうとしたのでしょう。

 

ソプラノやテノールさんはどんな安定感のある人でも好不調が有ります。無理をせず冷静にコンサート全体を盛り上げてくれるプロフェッショナルさに乾杯。あなたは真のDivaです!

 

アンコールで「はーるよこい、はーやくこい・・・」という童謡を歌ってくれました。びっくりして会場が軽くどよめきました。そして驚いたことに日本語の発音が完璧だったのです。すごいですねえ。カウフマンも来日時のコンサートで日本の歌を歌ってくれと頼まれているようですが、カウフマン、がんばれ。

 

最後に辛口コメントを一言。オーケストラです。ロッシーニは初めから音がそろわず、ずれが目出ちましたし、他のオーケストラ演奏でも出だしのタイミング間違え等いくつかの軽いミスが散見されました。私には練習不足に感じられ、その分不満足感が残りました。歌手が素晴らしかっただけに残念です。(2017.11.11.wrote)