オペラ解説:「アンドレア・シェニエ」 “Andrea Chénier” U・ジョルダーノ作曲


「アンドレア・シェニエ」はフランス革命に翻弄される主人公達の生き様を描いた作品です。台詞の中に歴史的な事柄が沢山出てくるため安易な時代読み替えをすると、(耳で聞く)歌詞と(目でみる)舞台とがミスマッチングを起こし音楽の力が失われてしまうオペラです。「アンドレア・シェニエ」の歴史的な背景は(「アンドレア・シェニエ」と「トスカ」1. 歴史編)、また「アンドレア・シェニエとマラーの死」というおたく記事もありますので、興味のある方はご覧ください。

 

アンドレア(アンドレ)・シェニエは実在した詩人です。フランス革命のまっただ中恐怖政治の時代、彼はロベスピエールから危険分子と見なされ1794年7月25日ギロチンで処刑されます。それはロベスピエール率いるジャコバン派が一斉に逮捕・処刑されたテルミドールのクーデターが起こるわずか2日前のことでした。当時彼は31才。

 

ジョルダーノは彼の詩作や生涯を参考にし、恋人マッダレーナや敵役ジェラードなどを創作して演劇的な面白みも加えつつこのオペラを書き上げました。「道化師」「カヴァレリア・ルスティカーナ」と並ぶヴェリズモオペラです。彼の作品はこれ以外にも「フェドーラ」がありますがさほど上演されていません。

 

「アンドレア・シェニエ」は「トスカ」と良く似ています。それもそのはず。この台本を書いたのはルイージ・イッリカで、彼はプッチーニの「トスカ」の台本も書いています。初演は「トスカ」より4年ほど早い1896年3月でした。

 

この2つのオペラの主人公3人達のキャラクター比較を書いた記事がありますので、興味のある方はご覧下さい。(iltrovatoreのオペラ解説ページ、「アンドレア・シェニエ」と「トスカ」キャラクター編)

 

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このオペラはテノールが名実共に主役です。スピントテノールの強く輝かしい声が必要で、しかも1, 3, 4幕にそれぞれソロアリア、2, 4幕にはマッダレーナとの情熱的な二重唱がある大変難しい役です。歌唱力や体力が必要ですし、シェニエのイメージにあう知的で品のある演技力や容姿も要求されます。

 

また、ソプラノ、マッダレーナにも「亡くなった母が」、バリトン、ジェラードには「祖国を裏切る者」という情緒あふれる有名なアリアが与えられています。

 

マリア・カラスの歌うアリア「無くなった母が」は、アカデミー賞受賞映画「フィラデルフィア」の中で実に効果的に使われています。(参考:映画とオペラ2「フィラデルフィア」


第1幕 コワニー伯爵家の城の中 (冬)

 

1789年7月14日に勃発するバスチーユ襲撃直前の冬。フランス貴族コワニー伯爵の館ではパーティーの準備が進められている。しかし伯爵令嬢マッダレーナはパーティーがお好きでない様だ。

 

召使いのジェラードは年老いた召使いの父が邪険にされるのを、そして貴族が傲慢にのさばり、貧しい人々が虐げられていることに怒りを感じ、革命思想に共鳴している。

 

パーティーが始まると、パリから来た修道院長は伯爵夫人達に「王が(財務長官)ネッケルにそそのかされている」「第3身分 (平民階級) が台頭している」と語るが、貴族や聖職者達はその事態を軽んじている。

 

その場に招かれたアンドレア・シェニエは理想主義的な民権論者で「愛」を軽く扱うマッダレーナに傷付けられ「愛」に付いて歌い出すが、その歌は次第に貴族・聖職者など支配者階級への批判となってゆく。それが有名なアリア「ある日青空を眺めて」”Un dì all'azzurro spazio”

ROH 2015、ヨナス・カウフマン

歌詞対訳:「ある日青空を眺めて」

 

 

Un dì all'azzurro spazio guardai profondo,

ある日 私は青空をじっと眺めていました、

 

e ai prati colmi di viole, pioveva loro il sole,

野原にはスミレが咲き乱れ、太陽の光は降り注ぎ、

 

e folgorava d'oro il mondo:

世界は金色に光り輝いていました:

 

parea la terra un immane tesor,

大地は大いなる宝、

 

e a lei serviva di scrigno il firmamento.

そして天空はその宝を入れる宝箱だったのです。

 

Su dalla terra a la mia fronte

この大地から私の額に

 

veniva una carezza viva, un bacio.

愛撫が、キスがあたえられたのです。

 

Gridai vinto d'amor:

愛の勝利です:

 

T'amo tu che mi baci,

キスして下さい、

 

divinamente bella, o patria mia!

神々しくも美しい、わが祖国よ!

 

E volli pien d'amore pregar!

愛にあふれて祈りましょう!

 

Varcai d'una chiesa la soglia;

教会の敷居をまたぐと;

 

là un prete nelle nicchie

そこには司祭がいて、

 

dei santi e della Vergine, accumulava doni –

聖人達や聖母マリア像の置き場に捧げ物をため込んでいましたー

 

e al sordo orecchio

しかし彼は

 

un tremulo vegliardo

老人が震えながらパンを求めるのに

 

invan chiedeva pane

耳をかさなかったのです

 

e invano stendea la mano!

老人は空しく手を伸ばしていました!

 

Varcai degli abituri l'uscio;

家々を歩くと;

 

un uom vi calunniava bestemmiando il suolo

男が怒りに満ち大地を呪っていました

 

che l'erario a pena sazia

国によって収奪される金のことを

 

e contro a Dio scagliava

神に見放されたことを

 

e contro agli uomini

そして人間を(呪い)

 

le lagrime dei figli.

子供達は涙を浮かべているのです。

 

In cotanta miseria

このような悲惨な状況を

 

la patrizia prole che fa?

貴族達はどうなさろうというのです?

 

(a Maddalena )(マッダレーナに向かって)

Sol l'occhio vostro

あなたの目には

 

esprime umanamente qui

人間的な感情

 

un guardo di pietà,

哀れみの情が現れています、

 

ond'io guardato ho a voi

私はあなたをみていたのですよ

 

si come a un angelo.

あなたは天使のようです。

 

E dissi: Ecco la bellezza della vita!

ですから、私はここに生命の美しさがあるといったのです!

 

Ma, poi, a le vostre parole,

しかし、あなたの言葉は、

 

un novello dolor m'ha colto in pieno petto.

私の胸に新たな苦痛をもたらします。

 

O giovinetta bella,

おお美しき少女よ、

 

d'un poeta non disprezzate il detto:

詩人を見くびるような事を言わないでください:

 

Udite! Non conoscete amor,

お聞き下さい!あなたは愛を知らない、

 

amor, divino dono, non lo schernir,

愛は神聖な贈り物、あざ笑ってはなりません、

 

del mondo anima e vita è l'Amor!

魂の世界では命が愛なのです!

 

 

 


 

マッダレーナが自らの軽率な言葉を恥、素直に彼に許しを請うていると、虐げられた人々の怨嗟の声が聞こえてくる。ジェラールは召使いのお仕着せを脱ぎ捨て、父と共に館を去り革命に身を投じる。パーティー参加者は何事もなかったかのようにガボットにあわせ踊り始める。

 

第2幕 1794年6月 パリ

 

革命が始まってから5年経ち、世はロベスピエールを筆頭とするジャコバン派が政府を牛耳る恐怖政治の時代となっている。穏健派のシェニエは既に危険人物と見なされ密偵に探られている。

 

友人のルーシェは彼にパリから逃げろと進める。彼は既に過激な革命に興味が失せている。革命家というよりむしろ詩人のシェニエは「愛」に憧れ、謎の女性から受けとった恋文のゆえに、パリから逃げ出すことにあまり乗り気ではない。

 

一方革命政府の要人となったジェラードは密かに恋していたマッダレーナの行方を密偵に捜させている。

 

マッダレーナは両親を殺され家も焼かれ、元召使いで今は売春婦として暮らしているベルシに養われている。心の支えは恋するアンドレア・シェニエ。危険を冒してシェニエに会いに来る。

 

シェニエも恋文をよこした謎の女がマッダレーナであることに気がつく。二人は真の愛に目覚め、「私は死を恐れない。 死ぬまで一緒に」と、情熱的で濃厚な「愛の二重唱」“Ora Soave” を歌う。

 

その時、密偵の報告により駆けつけたジェラードはシェニエと剣を交える。しかし、シェニエの剣に傷ついた彼はシェニエに、「君は危険人物としてリストに載ったから逃げろ」「マッダレーナを守ってくれ」と言い、群衆に彼を傷つけた犯人の名前を言わずシェニエを守る。シェニエとマッダレーナは逃げ出す。

 

第3幕 革命裁判所第一法廷

 

フランス革命を敵視するオーストリア、プロイセン、イングランド諸外国は共同で対仏革命戦争を起こしている。ジェラードは「今こそ金と血が必要だ」と献金と兵士を募り、目の見えない老婆マデロンは立った一人残された孫を国に捧げる。(マデロンの歌

 

ジェラードは運良く逮捕したシェニエを死刑にすべく告訴状を書きながら、革命と言いつつ殺人者に成り下がった自嘲の念、マッダレーナへの愛に苛まれる複雑な心境を歌う。これが有名な「祖国を裏切る者」” Nemico della patria”で、バリトンの聴かせどころアリア。

ROH 2015、ジェリコ・ルチッチ

歌詞対訳:「国を裏切る者」

Nemico della Patria?

祖国を裏切る者?

 

È vecchia fiaba che beatamente 

古いおとぎ話だが

 

ancor la beve il popolo. 

大衆には好まれる。

 

Nato a Costantinopoli? Straniero! 

コンスタンティノープル生まれ?外人だ!

 

Studiò a Saint Cyr? Soldato! 

サンシールで学ぶ?兵士だな!

 

Traditore! Di Dumouriez un complice! 

裏切り者!デュムールエの共犯者だ!

 

E poeta? Sovvertitor di cuori 

詩人だと?人心と

 

e di costumi! 

風俗を堕落させる奴!

 

Un dì m'era di gioia 

あの頃は幸せだった。

 

passar fra gli odi e le vendette, 

憎悪と復讐の狭間にあっても

 

puro, innocente e forte. 

純粋で無邪気で強かった。

 

Gigante mi credea… 

自分を偉大だと信じていた・・・

 

Son sempre un servo! 

俺はいつも召使いだ!

 

Ho mutato padrone. 

ご主人様が入れ替わっただけなのだ。

 

Un servo obbediente di violenta passione! 

俺は凶暴な情熱に付き従う従順な召使いだ!

 

Ah, peggio! Uccido e tremo, 

いや、もっと悪い!人を殺し震えている、

 

e mentre uccido io piango! 

殺しながら泣いている!

 

Io della Redentrice figlio, 

俺は革命の子、

 

pel primo ho udito il grido suo 

革命の最初の叫びを聞き、

 

pel mondo ed ho al suo il mio grido unito…

俺の叫びはその叫びと一体になった・・・

 

Or smarrita ho la fede nel sognato destino? 

夢に見た宿命の中にありながら俺は信念を失った?

 

 

Com'era irradiato di gloria il mio cammino! 

俺の来た道は何と栄光に輝いていたことだろう!

 

La coscienza nei cuor ridestar delle genti, 

人々の自覚を呼び覚まし、

 

raccogliere le lagrime dei vinti e sofferenti, 

打ち負かされ傷付いた人々の涙を集めたのだ

 

fare del mondo un Pantheon, 

世をパンテオンとし

 

gli uomini in dii mutare 

人々を神へと変えるのだ、

 

e in un sol bacio, e in un sol bacio e abbraccio 

たった一回のキス、たった一回のキスと抱擁の中で

 

tutte le genti amor! 

全ての人々を愛するのだ!

 

e in un sol bacio e abbraccio 

たった一回のキスと抱擁の中で

 

tutte le genti amor!

全ての人々を愛するのだ!

 

Or io rinnego il santo grido! 

しかし、俺はいま聖なる叫びを拒否する!

 

Io d'odio ho colmo il core, 

おれは憎悪する、

 

e chi così m'ha reso,

誰が俺をこんな風に変えてしまったのか、

 

fiera ironia è l'amor! 

皮肉にもそれは愛だ!

 

Sono un voluttuoso! 

俺は肉欲に耽る男だ!

 

Ecco il novo padrone: il Senso! 

新しいご主人様、それは情念だ!

 

Bugia tutto! 

全てが嘘だ!

 

Sol vero la passione!  

真実は情欲だけなのだ!


 

そこへマッダレーナがシェニエの助命を願いにやってくる。彼女は革命以降の悲惨な身の上、シェニエだけが生きがいであること、を彼に語る。それが有名な「なくなった母が」“La mamma morta” 。自分の身に代えてもシェニエを救おうという強い意志を込めた情熱的なアリア。

バイエルン州立歌劇場 2017、ハルテロス、サルシ

歌詞対訳:「亡くなった母が」

La mamma morta m'hanno alla porta 

私の母は私の部屋のドアの前で死にました。

 

della stanza mia; moriva e mi salvava! 

私を助けてくれたのです!

 

poi a notte alta io con Bersi errava, 

夜遅くベルシとさまよい歩きました。

 

quando ad un tratto un livido bagliore 

その時、突然打ちのめされてしました。

 

guizza e rischiara innanzi a' passi miei 

私の目の前の暗い夜道がちらちらと明るくなり!

 

la cupa via! Guardo! 

見ると!

 

Bruciava il loco di mia culla! 

私の家が燃えていたのですから!

 

Così fui sola! E intorno il nulla! 

私はひとりぼっちになりました!そして全て失いました!

 

Fame e miseria! Il bisogno, il periglio! 

飢えと悲惨! 貧困と危険!

 

Caddi malata, e Bersi, buona e pura, 

私は病気になり, 気立てが良く清純なベルシは,

 

di sua bellezza ha fatto un mercato, 

春を売ったのです,

 

un contratto per me! 

私の為に!

 

Porto sventura a chi bene mi vuole! 

私は私を愛する者に不幸をもたらすのです!

 

Fu in quel dolore 

そんな苦しみの中

 

che a me venne l'amor! 

愛が私のもとに訪れました!

 

Voce piena d'armonia e dice: 

調和に満ちた声がこう言いました:

 

"Vivi ancora! Io son la vita! 

「生きなさい!私は命!

 

Ne' miei occhi è il tuo cielo! 

私にはあなたの楽園がみえるのです!

 

Tu non sei sola! 

あなたはひとりぼっちではありません!

 

Le lacrime tue io le raccolgo! 

私はあなたの涙を受けとり!

 

Io sto sul tuo cammino e ti sorreggo! 

あなたの行く道を助けましょう!

 

Sorridi e spera! Io son l'amore! 

笑って下さい!そして希望を持って下さい!私は愛!

 

Tutto intorno è sangue e fango? 

あたりは血と泥にまみれているのですか?

 

Io son divino! Io son l'oblio! 

私は神聖なる者!私は忘却!

 

Io sono il dio che sovra il mondo 

私はこの世の神

 

scendo da l'empireo, fa della terra un ciel! Ah! 

天より降りて、この地を楽園に変えるのです! ああ!

 

Io son l'amore, io son l'amor, l'amor" 

私は愛、私は愛、愛なのです」、と

 

 

 

 


このアリアによって、何が何でもマッダレーナを自分のものにしようとしていたジェラードの心は180度変わる。愛するマッダレーナのためにシェニエを助けようと、身の危険を顧みず法廷でシェニエをかばう。シェニエも「私は兵士だった」”Si fui soldato”と抗弁するが,死刑を宣告される

 

第4幕 聖ラザロの刑務所の中庭

 

最終幕、詩人の彼は人生最後の時、詩を作る( 「五月のある美しい日のように」"Come Un Bel Dì Di Maggio"」)。詩人らしく歌詞は韻を踏んでいる。

ファビオ・アルミリアート

歌詞対訳:「五月のある美しい日のように」 

この詩は綺麗な韻を踏んでいます。

 

Come un bel dì di maggio 

五月のある美しい日

 

che con bacio di vento 

風のキスと

 

e carezza di raggio 

太陽の光の愛撫が

 

si spegne in firmamento, 

天空に消えてゆく日のように、

 

col bacio io d'una rima, 

韻(rhyme) のキスと

 

carezza di poesia, 

詩の愛撫を受け

 

salgo l'estrema cima 

私は人生の頂に

 

dell'esistenza mia. 

上りつめる。

 

La sfera che cammina 

天球

 

per ogni umana sorte 

それぞれの人の運命を司る天球が

 

ecco già mi avvicina 

近づいてくる

 

all'ora della morte, 

死と直面する私に、

 

e forse pria che l'ultima 

恐らく私が詩の

 

mia strofe sia finita, 

最後を書き終える前に、

 

m'annuncerà il carnefice 

死刑執行人は私に

 

la fine della vita. 

命の終わりを宣告するだろう。

 

Sia! Strofe, ultima Dea! 

詩よ、女神よ!

 

ancor dona al tuo poeta 

そなたの詩人に

 

la sfolgorante idea, 

輝かしき着想を与えたまえ、

 

la fiamma consueta; 

平素の如き炎を燃え上がらせたまえ;

 

io, a te, mentre tu vivida 

そなたが活き活きと着想を

 

a me sgorghi dal cuore, 

湧き出でさせれば、

 

darò per rima il gelido 

私は詩 (rhyme)を捧げよう

 

spiro d'un uom che muore.

死にゆく者の氷の如き吐息を

 

 

 


そこへジェラードに伴われマッダレーナが刑務所へやってくる。女囚Idea Legrayの身代わりとしてシェニエと一緒に死ぬ覚悟である。彼は感動し「愛」の中で共に死ぬ喜びを二人で高々と歌い上げる (「愛の二重唱」”Amor! Amor! Infinito!”)

バイエルン州立歌劇場 2017、 カウフマンとハルテロス

歌詞対訳:最後の二重唱

 

CHÉNIER 

Vicino a te s'acqueta 

あなたの側にいると安らぎが訪れる

 

l'irrequieta anima mia; 

私の不安な心に;

 

tu sei la meta d'ogni desio, 

あなたは僕の願いの全て、

 

d'ogni sogno, d'ogni poesia! 

夢と詩の全てのゴールだ!

 

Entro al tuo sguardo 

あなたの眼の中に

 

l'iridescenza scerno 

虹がある

 

de li spazi infiniti. 

無限の大空にかかる虹が。

 

Ti guardo; in questo fiotto verde 

あなたを見る;あなたの碧色の

 

di tua larga pupilla erro coll'anima!

瞳の中で私の魂がたゆたう

 

MADDALENA 

Per non lasciarti son qui; 

あなたの側にいます;

 

non è un addio! 

お別れではありません!

 

Vengo a morire con te! 

あなたと死を分かち合うために来たのです!

 

Finì il soffrire! 

苦しみは終わります!

 

La morte nell'amarti! 

愛するあなたと共に死ぬのです!

 

Ah! Chi la parola estrema dalle labbra 

ああ!私達の唇から出る最後の言葉

 

raccoglie, è Lui, l'Amor!

それは愛です!

 

CHÉNIER 

Tu sei la meta dell'esistenza mia!

君は僕の全てだ!

 

CHÉNIER, 遅れて MADDALENA 

Il nostro è amore d'anime!

私達の心からの愛!

 

MADDALENA 

Salvo una madre.

一人の母親を救うのです。

 

Maddalena all'alba ha nome 

夜明けにはマッダレーナという名ですが

 

per la morte Idia Legray. 

イディア・レグリエーとして死にます。

 

Vedi? La luce incerta del crepuscolo 

見てご覧なさい。夜明けの淡い光が

 

giù pe' squallidi androni già lumeggia.

もうむさ苦しい広間を照らしています。

 

Abbracciami! Baciami! Amante!

抱きしめて!キスして!愛する方!

 

CHÉNIER 

Orgoglio di bellezza! 

誇り高き美よ!

 

Trionfo tu, de l'anima! 

あなたの勝利だ!魂の勝利だ!

 

Il tuo amor, sublime amante, 

あなたの愛は、崇高なる恋人よ、

 

è mare, è ciel, luce di sole e d'astri…

海、天国、太陽そして星々の様だ・・・・

 

(二人一緒に)

(C)  È il mondo! È il mondo! 

そして、世界!世界に広がる愛なのだ! 

(M)  Amante! Amante!  愛しい方!愛しい方!

 

CHÉNIER, 遅れて MADDALENA 

La nostra morte è il trionfo dell'amor!

私達の死は愛の勝利!

 

CHÉNIER 

Ah benedico, benedico la sorte!

ああ、感謝する、我が運命を祝福する!

 

MADDALENA 

Nell'ora che si muore 

死の時にあって

 

eterni diveniamo!

私達は永遠に一緒!

 

CHÉNIER 

Morte!  死!

 

MADDALENA 

Infinito!  永遠なるもの!

 

MADDALENA, CHÉNIER 

Amore! Amore!  愛!愛!

 

(護送車到来の音)

CHÉNIER, 遅れてMADDALENA

È la morte! あれは死!

 

CHÉNIER 

Ella vien col sole!

太陽と共にやってくる!

 

MADDALENA 

Ella vien col mattino!

朝と共にやってくる!

 

CHÉNIER 

Ah, viene come l'aurora!

ああ、夜明けだ!

 

MADDALENA 

Col sole che la indora!

太陽と共に!

 

CHÉNIER 

Ne viene a noi dal cielo, 

天から来るのだ、

 

entro un vel di rose e viole!

バラやスミレのヴェールに飾られて!

 

MADDALENA, CHÉNIER 

Amor! Amor! Infinito! Amor! Amor!

愛!、愛!永遠に!、愛!、愛!

 

SCHMIDT 

Andrea Chénier! アンドレア・シェニエ!

 

CHÉNIER 

Son io! 僕だ!

 

SCHMIDT 

Idia Legray!  イデア・レグリエー

 

MADDALENA 

Son io! 私です!

 

MADDALENA, CHÉNIER 

Viva la morte insiem!

万歳 共に死を!

 


オペラの最終場面、看守が囚人の名前を呼ぶ。

 

“Andrea Chenier!”   “Son io!” 

「アンドレア・シェニエ」 「わたしだ」

 

“Idia Legray!”   “Son io!”

 「イディア・レグリエー」 「わたしです」

 

と高らかに答えた二人は愛に満ちあふれギロチン台に向かう。 (2020.01.06 wrote) オペラ解説に戻る