オペラ解説:「ワルキューレ」”Die Walküre” リヒャルト・ワーグナー作曲

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Brünnhilde the Valkyrie

by Arthur Rackham


 

あまりにも有名なワーグナーの4部作 「ニーベルングの指輪」(”Der Ring des Nibelungen”) の第2部。ワーグナーはこの4部作を作曲するのに実に26年かけました。「ワルキューレ」の初演は1870年 (明治維新の2年後)、ミュンヘン宮廷歌劇場です。

 

「ニーベルングの指輪」の荒筋、及びこの作品の元となった「北欧神話」、「ニーベルンゲンの歌」、「ヴォルスンガ・サガ」の「竜殺しのシグルド」、等の簡単な説明は本サイトおたく記事の「2つの指輪世界」に出ています。

 

ただし、ワーグナーは神話伝説に出てくるキャラクターの性格や状況設定を相当作り替えています。

 

ニーベルングの指輪」4部作は

序夜「ラインの黄金」(Das Rheingold)

第1日「ワルキューレ」(Die Walküre)

第2日「ジークフリート」(Siegfried)

第3日「神々の黄昏」(Götterdämmerung)

 

ですが、この4部作の中で「ワルキューレ」は最も人気のある作品です。中でも「ワルキューレの騎行」はコッポラ監督作品「地獄の黙示録」(参照:本サイトおたく記事「映画とオペラ3」)の戦闘場面に使われオペラに関心のない人でさえ知っているという大変有名な音楽になっています。

 

ちなみにタイトルの ”Die Walküre” は定冠詞付きの単数形。すなわちブリュンヒルデのことで、彼女が主役です。

 

*** *** *** ***

 

(下の文章の緑の字で書かれている箇所をクリックすると、その人物や事項を表す「動機 (ライトモチーフ)」を聴く事ができます。物語の進行に連れ様々な動機が絡み合い舞台に奥行きを与えます。

 

 

さて、物語の発端は「ラインの黄金」で語られ次作の「ワルキューレ」へと続きます。

 

こびとのアルベリヒライン河の乙女達が守る黄金を奪い、その黄金から世界を支配することのできる指輪を鍛え上げます。

 

一方、神々の主ヴォータンは自分達のすみか「ヴァルハラ」を巨人達に作らせますが報酬として契約した女神のフライアを与えたくありません。

 

そこでヴォータンはニーベルング族の住む地下のニーベルハイムに行きアルベリヒから黄金と指輪を奪い取ります。怒ったアルベリヒは指輪に「指輪はその所有者に死をもたらす」という呪いをかけます。

 

ヴォータンは巨人との契約を守るためフライアの代わりとして彼らに渋々黄金と指輪を与えますが、巨人達は指輪を巡って殺し合い、結局巨人のファフナーが指輪を手に入れます。

 

指輪の力におののいた・・・・・ヴォータンはアルベリヒが指輪を取り戻して神々を滅亡させる運命を避けるため、ファフナーから指輪を取り戻したいと考えます。しかしヴォータンは契約を司る神なので「指輪をフライアの代わりに報酬として差し出すという」巨人と結んだ契約を破ることができず自分自身で取り戻すことはできません。

 

そこで契約とは無縁の人間を使い大蛇に変身したファフナーから指輪を取り戻そうと画策します。

 

彼は人間界に降り、ヴェルゼと名乗って人間の女との間に双子をもうけます。それがヴェルズング族のジークムントとジークリンデでした。しかし彼らの父ヴェルゼは消え失せ、双子は離ればなれになってしまい、今となってはお互いの顔も覚えていません。 


ワルキューレ」第1幕 フンディングの家

 

激しい嵐の音楽で幕が開く。稲光と雷の轟音。ジークムントは追っ手から逃れ,疲れ切って一軒の家(フンディングの家)にたどり着く(下の動画)

前奏曲 

 


 

フンディングの妻(ジークリンデ)は男(ジークムント)を見つけ介抱する。帰宅したフンディングは自分が追っていたのはこの男だと気づき、翌日決闘するよう冷酷に申し渡し、寝所に行く。

 

武器を持たないジークムントは絶望に駆られて父、ヴェルゼ (Wälse) に呼びかける。「あなたが約束した剣はどこにあるのだ?」と、叫ぶのが下の動画。テノールの腕 (声?) の見せ所。この場面の最後に「剣」の動機が現れる。

 “Wälse! Wälse!” MET 2011  Jonas Kaufmann

Zu der mich nun Sehnsucht zieht, 

僕が憧れる彼女を、

 

die mit süssem Zauber mich sehrt, 

僕を甘い魔法で愛してくれる彼女を、

 

im Zwange hält sie der Mann, 

あいつは威圧している、

 

der mich Wehrlosen höhnt! 

そのあいつが武器を持たない僕を嘲った!

 

Wälse! Wälse! Wo ist dein Schwert? 

ヴェルゼ (父よ) ! ヴェルゼ!剣はどこに?

 

Das starke Schwert, 

その強力な剣があれば、

 

das im Sturm ich schwänge, 

嵐の中でその剣を振るい

 

bricht mir hervor aus der Brust, 

僕の胸を裂いて

 

was wütend das Herz noch hegt? 

僕の心の怒りのたけを見せてやるのに?

 


 

するとフンディングを薬で眠らせたジークリンデがジークムントを助けようと出てくる。愛に浸る二人は語り合い、ジークムントは有名なアリア、「冬の嵐は過ぎ去り」” Winterstürme wichen dem Wonnemond“ そしてジークリンデは「あなたが春」 ”Du bist der Lenz”を歌う、のが下の動画。

「冬の嵐は過ぎ去り~あなたが春」バイロイト祝祭劇場 1980、Peter Hofmann, Jeannine Altmeyer

日本語字幕付き


 

ジークムントはジークリンデの助言によりトネリコの幹に刺さった剣を引き抜きノートゥングと名付ける。この剣は今まで誰も抜くことができなかった。それもそのはずヴォータンがあらかじめジークムントのために用意した無敵の剣だったからである。愛し合う二人はフンディングの家から逃げ出す。

 

第2幕 荒涼とした岩山

 

激しく追い立てられるように切迫した前奏曲。ヴォータンはブリュンヒルデにフンディングとジークムントの決闘でジークムントを勝たせるように命令する。

 

その時ヴォータンの妻フリッカがやってきて、フンディングが神聖な結婚を汚されたとして復讐を願い、彼女はそれを受け入れたと語る。フリッカは近親相姦に対しても怒り心頭。ヴォータンの女癖の悪さもなじる。

「フリッカとの口論」スカラ座 Nina Stemme, Ekaterina Gubanova, Vitalij Kowaljow 指揮: Daniel Barenboïm

WOTAN 

Nun zäume dein Ross, reisige Maid! 

さあ、お前の馬に勒を付けよ、戦いの乙女よ!

 

Bald entbrennt brünstiger Streit: 

もうすぐ戦いの火の手が上がる。

 

Brünnhilde stürme zum Kampf, 

ブリュンヒルデよ、戦いの場に急げ

 

dem Wälsung kiese sie Sieg! 

ヴェルズングに勝利をもたらせ!

 

Hunding wähle sich, wem er gehört;  

フンディングは己の属する所に行く;

 

nach Walhall taugt er mir nicht. 

ヴァルハラに彼は必要ない。

 

Drum rüstig und rasch, reite zur Wal!

さあ、急ぎ戦いの場に乗り付けよ。

 

BRÜNNHILDE 

Hojotoho! Hojotoho! Heiaha! Heiaha! Hojotoho! Heiaha!  

ホヨトホー!ハイアハー! 

 

Dir rat' ich, Vater, rüste dich selbst; 

ご自身こそ気を付けて、お父様、

 

harten Sturm sollst du bestehn. 

激しい嵐に堪えなくちゃ。

 

Fricka naht, deine Frau, 

あなたの妻のフリッカが来るわ、

 

im Wagen mit dem Widdergespann. 

雄羊に引かせた車に乗って。

 

Hei! Wie die goldne Geissel sie schwingt! 

まあ!黄金の鞭をあんなに振りまわして!

 

Die armen Tiere ächzen vor Angst; 

哀れな動物が恐ろしさのあまりうめき声を上げている;

 

wild rasseln die Räder; 

車輪ががたがた鳴ってる;

 

zornig fährt sie zum Zank! 

怒りに震えて口論しに来るんだわ!

 

In solchem Strausse streit' ich nicht gern, 

この手の戦いは好きじゃない、

 

lieb' ich auch mutiger Männer Schlacht! 

私が好きなのは勇敢な男達の戦い!

 

Drum sieh, wie den Sturm du bestehst: 

お父様がどうやってこの嵐を乗り切るか見てるわ:

 

ich Lustige lass' dich im Stich! 

お父様はがっかりね!

 

Hojotoho! Hojotoho! Heiaha! Heiaha! Heiahaha! 

ホヨトホー!ハイアハー! 

 

WOTAN 

Der alte Sturm, die alte Müh'! 

いつもの嵐、いつもの争い!

 

Doch stand muss ich hier halten!

しかしここは踏ん張らねば!

 

FRICKA 

Wo in den Bergen du dich birgst, der Gattin Blick zu entgehn, 

あなたの妻の目を避けるためにこの様な山に隠れていらっしゃるとは

 

einsam hier such' ich dich auf, 

この様に人目のないところであなたを探し出すとは、

 

dass Hilfe du mir verhiessest.

私には都合が良いけれど。

 

WOTAN 

Was Fricka kümmert, künde sie frei.

フリッカ、お前が何を怒っているのか話してくれ。

 

FRICKA 

Ich vernahm Hundings Not, 

私はフンディングの惨めな状況を聞きました、

 

um Rache rief er mich an: 

彼は私に復讐を願っています。

 

der Ehe Hüterin hörte ihn, 

結婚の守り神たる私は彼の願いを聞き、

 

verhiess streng zu strafen die Tat 

彼らの悪行を厳しく罰すると約束しました。

 

des frech frevelnden Paars, 

あの生意気な二人、

 

das kühn den Gatten gekränkt.

厚かましくも夫を傷付けたあの二人の悪行を。

 

WOTAN 

Was so Schlimmes schuf das Paar, 

あの二人がそんなに悪いことをしたか、

 

das liebend einte der Lenz? 

春が彼らを結びつけたのではないか?

 

Der Minne Zauber entzückte sie: 

魔法の呪文が彼らを喜びに浸らせたのだ:

 

wer büsst mir der Minne Macht?

誰が愛を支配する力をわたしに与えたか?(私は愛を支配できない)

 

FRICKA 

Wie töricht und taub du dich stellst, 

あなたは間抜けか聾の真似をするつもりなの、

 

als wüsstest fürwahr du nicht, 

知らない振りをして、

 

dass um der Ehe heiligen Eid, 

結婚の聖なる誓いを、

 

den hart gekränkten, ich klage!

無礼にも穢している、それを私は訴えているのよ!

 

WOTAN 

Unheilig acht' ich den Eid, der Unliebende eint; 

愛無き結婚の誓いは神聖にあらず;

 

und mir wahrlich mute nicht zu, dass mit Zwang ich halte, was dir nicht haftet: 

願わくば、お前の力でできないことを私に強引に要求しないでくれ、

 

denn wo kühn Kräfte sich regen, 

勇敢な力を持った男達が動き回るところで、

 

da rat' ich offen zum Krieg.

戦いを扇動するのが私なのだから。

 

FRICKA 

Achtest du rühmlich der Ehe Bruch, 

結婚が破綻するのを称賛なさるのなら、

 

so prahle nun weiter und preis' es heilig, 

もっとべらべらとそれを神聖だとおっしゃったら、

 

dass Blutschande entblüht 

なんて恥ずかしいことが起きているのでしょう

 

dem Bund eines Zwillingspaars! 

双子が結びつくですって!

 

Mir schaudert das Herz, es schwindelt mein Hirn: 

ぞっとするし、めまいがするわ:

 

bräutlich umfing die Schwester der Bruder! 

花婿が妻として妹を抱くなんて!

 

Wann ward es erlebt, 

そんな事を見聞きしたことがあるかしら、

 

dass leiblich Geschwister sich liebten?

兄と妹が愛し合うなんて?

 

WOTAN 

Heut' hast du's erlebt! 

今日見ただろう!

 

Erfahre so, was von selbst sich fügt, 

だから起きたことをわかってくれ、

 

sei zuvor auch noch nie es geschehn. 

今までこの様な事が起きたためしはないが。

 

Dass jene sich lieben, leuchtet dir hell; 

彼らの愛はお前にも微笑みかけている;

 

drum höre redlichen Rat: 

だから、嘘偽りのない私の忠告をききいれてくれ:

 

Soll süsse Lust deinen Segen dir lohnen, 

官能の甘い喜びはお前の祝福を受ける価値がある、

 

so segne, lachend der Liebe, 

だからこの愛を祝福してくれ、

 

Siegmunds und Sieglindes Bund!

ジークムントとジークリンデの絆を!

 


 

ヴォータンは「神の保護を受けず、自由な人間が必要だ」と答えるが、フリッカは「危機を創り出したのはあなた。彼らに示唆し、彼らに剣を与えたのもあなた。彼らはあなたの奴隷だ」とヴォータンの論理の矛盾を喝破する。

 

自ら陥った罠に気がついたヴォータンはフリッカの求めに応じ指輪を巡る様々な出来事をブリュンヒルデに語った後ジークムントの死を命ずる。

 

一方ジークムントとジークリンデは逃避行を続けているがジークリンデは疲れの余り気を失う。そこへブリュンヒルデがやってきてジークムントに「お前は父ヴェルゼのいるヴァルハラに行く運命」であり、その剣はもう力を持たないと、彼の死を告知する。

 

ところがジークリンデを伴えないと知ったジークムントは「それならば二人とも死ぬ」と自らの運命を拒絶する。二人の愛に心を打たれたブリュンヒルデは父の命令に逆らい、フンディングとの決闘でジークムントを勝たせようと決心する。

「ブリュンヒルデの変心」MET 2011 Debolah Voigt, Jonas Kaufmann

BRÜNNHILDE 

Nichts sonst hieltest du hehr?

他に思う事はないのか?

 

SIEGMUND 

So jung und schön erschimmerst du mir: 

あなたは若くお美しく見えます:

 

doch wie kalt und hart erkennt dich mein Herz! 

しかし冷酷な方だ!

 

Kannst du nur höhnen, so hebe dich fort, 

私を嘲るだけならば、御勝手に、

 

du arge, fühllose Maid! 

あなたは性悪で情を解さないお方だ!

 

Doch musst du dich weiden an meinem Weh', 

もし私の苦しみを楽しむなら、

 

mein Leiden letze dich denn; 

楽しんで下さい;

 

meine Not labe dein neidvolles Herz: 

嫉妬深い心で私の苦しみをご覧下さい:

 

nur von Walhalls spröden Wonnen 

ヴァルハラの当てにならない幸福など

 

sprich du wahrlich mir nicht!

決して言ってくださるな!

 

BRÜNNHILDE 

Ich sehe die Not, die das Herz dir zernagt, 

私はあなたの心の苦痛を理解している、

 

ich fühle des Helden heiligen Harm - 

英雄の貴い苦痛を感じる。

 

Siegmund, befiehl mir dein Weib: 

ジークムント、あなたの妻を私に任せなさい:

 

mein Schutz umfange sie fest!

私が彼女を守る!

 

SIEGMUND 

Kein andrer als ich soll die Reine lebend berühren:

私以外の何者も彼女に触れさせない:

 

verfiel ich dem Tod, die Betäubte töt' ich zuvor!

私が死ぬ定めなら、その前に私が彼女を殺す!

 

BRÜNNHILDE 

Wälsung! Rasender! Hör' meinen Rat: 

ヴェルズング!怒れる者よ!お聴きなさい:

 

befiehl mir dein Weib um des Pfandes willen, 

私にあなたの妻を任せなさい

 

das wonnig von dir es empfing!

彼女があなたから授かった恩恵の故に!

 

SIEGMUND 

Dies Schwert, das dem Treuen ein Trugvoller schuf; 

この剣は不正直な者が正直者のために鍛えた剣;

 

dies Schwert, das feig vor dem Feind mich verrät: 

敵を前にして卑怯にも私を裏切る剣:

 

frommt es nicht gegen den Feind, 

敵に情けをかけない剣、

 

so fromm' es denn wider den Freund! - 

ならば友にも情けをかけないだろう!-

 

Zwei Leben lachen dir hier: 

二つの命がお前の前にある:

 

nimm sie, Notung, neidischer Stahl! 

彼らの命を奪え、ノートゥング、だれもがうらやむ剣よ!

 

Nimm sie mit einem Streich!

一突で奪え!

 

BRÜNNHILDE 

Halt' ein Wälsung! Höre mein Wort! 

ヴェルズング、止めなさい!私の言うことを聞きなさい!

 

Sieglinde lebe - und Siegmund lebe mit ihr! 

ジーグリンデは生き続け、そしてジークムントも彼女と共に生き続ける!

 

Beschlossen ist's; das Schlachtlos wend' ich: 

私は決めた;運命を変えましょう:

 

dir, Siegmund, schaff' ich Segen und Sieg! 

ジーグムント、あなたに祝福と勝利を与えましょう!

 

Hörst du den Ruf? Nun rüste dich, Held! 

あの音が聞こえますか?準備しなさい、勇者!

 

Traue dem Schwert und schwing' es getrost: 

剣を信じ自信をもって使いなさい:

 

treu hält dir die Wehr, 

剣は忠実にあなたを守ります、

 

wie die Walküre treu dich schützt! 

私ワレキューレもあなたを忠実に守ります

 

Leb' wohl, Siegmund, seligster Held! 

さらば、ジークムント、最も祝福された勇者!

 

Auf der Walstatt seh' ich dich wieder!

戦いの場で再び会いましょう!

 


 

しかし決闘の最中にヴォータンが現れ彼の槍でジークムントの剣を砕きジークムントはフンディングによって刺し殺される。運命の動機が流れる中ヴォータンは事切れたジークムントを苦渋に満ちて見つめフンディングに“Geh’!”「行け!」 の一言を投げつけて彼を打ち倒す。その間にブリュンヒルデは砕かれた剣を持ちジークリンデを抱えて逃げ出す。下の動画はジークムントとフンディングの戦いから二幕最後まで。

「ジークムントの死」MET1990 James Morris, Hildegard Behrens, Gary Lakes, Jessy Norman, Kurt Moll

HUNDINGS の声

Wehwalt! Wehwalt! 

ヴェーヴァルト!ヴェーヴァルト!

 

Steh' mir zum Streit, sollen dich Hunde nicht halten!

戦え、犬たちがお前を捕まえる!

 

SIEGMUNDS の声 

Wo birgst du dich, dass ich vorbei dir schoss? 

どこに隠れている? 

 

Steh', dass ich dich stelle!

姿を見せろ、見つけてやる!

 

SIEGLINDE 

Hunding! Siegmund! 

フンディング!ジークムント!

 

Könnt' ich sie sehen!

姿が見えないわ!

 

HUNDING 

Hieher, du frevelnder Freier! 

ここへ来い、不埒な間男!

 

Fricka fälle dich hier!

フリッカがお前を倒す!

 

SIEGMUND 

Noch wähnst du mich waffenlos, feiger Wicht? 

私が武器を持っていないと思っているのか、卑劣な奴よ?

 

Drohst du mit Frauen, so ficht nun selber, 

女の名で私を脅すなら自分で戦え、

 

sonst lässt dich Fricka im Stich! 

そうでなければフリッカがお前に失望するだろうよ!

 

Denn sieh: deines Hauses heimischem Stamm 

見ろ:お前の家の木の幹から

 

entzog ich zaglos das Schwert; 

私は臆せずこの剣を引き抜いたのだ;

 

seine Schneide schmecke jetzt du!

今こそ、この剣の切れ味を味わえ!

 

SIEGLINDE 

Haltet ein, ihr Männer! 

止めて!

 

Mordet erst mich!

先に私を殺して!

 

BRÜNNHILDE 

Triff ihn, Siegmund! 

打ち倒せ、ジークムント!

 

traue dem Schwert!

剣を信じて!

 

WOTAN 

Zurück vor dem Speer! 

この槍の前より退け!

 

In Stücken das Schwert!

剣よ、砕けろ!

 

BRÜNNHILDE 

Zu Ross, dass ich dich rette!

馬の背へ!あなたを助けるわ!

 

 

WOTAN 

Geh' hin, Knecht! Kniee vor Fricka: 

ここより去れ、奴隷め! フリッカの前にひざまずけ。

 

meld' ihr, dass Wotans Speer 

あいつにいってやれ、ヴォータンの槍は

 

gerächt, was Spott ihr schuf. 

お前を笑い者にした輩に復讐したと。

 

Geh'! - Geh'!

行け!- 行け!

 

WOTAN 

Doch Brünnhilde! Weh' der Verbrecherin! 

しかし、ブリュンヒルデ! 罪ある者に災いあれ!

 

Furchtbar sei die Freche gestraft, 

あの生意気な者に対する罰は重いぞ、

 

erreicht mein Ross ihre Flucht!

あいつらが逃げようと私の馬は追いつくぞ!

 


 

第3幕 岩山の頂上

 

有名なワルキューレの騎行で前奏曲が始まる。ワルキューレ達が集まって勇壮な「ホヨトホー!」を歌う。

ワレキューレの騎行」MET2011


 

そこへジークリンデを伴ったブリュンヒルデが現れ,ワルキューレ達に助力を願い彼女らは戸惑う。

 

一方ジークリンデは死を願うが、既に体内にジークムントの子 (ジークフリート) を宿していると聞かされる。ブリュンヒルデは砕けた剣を彼女に渡しファフナーが棲む東方の森へ逃げろと言う。ジークリンデは彼女の愛に深く感動し、"O hehrstes Wunder! Herrlichste Maid!" 「おお、何という崇高な奇跡!至高の乙女よ」(愛の救済の動機) と感謝しながら逃げ去る。

おお、何という崇高な奇跡!至高の乙女よ!」ザルツブルク祝祭劇場 2017 Anja Harteros, Anja Kampe, 指揮: C. Thielemann

Sieglinde

Nicht sehre dich Sorge um mich:

私に構わないで:

 

einzig taugt mir der Tod.

私は死にたいの。

 

Wer hieß dich Maid, dem Harst mich entführen?

誰があなたに私を連れ去れと言いました?

 

Im Sturm dort hätt' ich den Streich empfah'n

嵐の中であの一突を受けていればよかったのに

 

von derselben Waffe, der Siegmund fiel:

ジークムントが倒されたのと同じ武器で:

 

das Ende fand ich vereint mit ihm!

そうすれば私は彼と一緒に死ねたのに!

 

Fern von Siegmund. Siegmund, von dir!

ジークムントから遠く離れてしまった。ジークムント、あなたから!

 

O deckte mich Tod, daß ich's denke!

私は死んだも同然、

 

Soll um die Flucht dir Maid ich nicht fluchen,

私を連れて逃げた事を恨みはしません。

 

so erhöre heilig mein Flehen:

ですからお願いです私の願いをお聞き入れ下さい:

 

stoße dein Schwert mir in's Herz!

あなたの剣を私の心臓に突き刺して!

 

Brünnhilde

Lebe, o Weib,

生きて下さい、

 

um der Liebe willen!

愛の故に!

 

Rette das Pfand das von ihm du empfing'st:

彼から授かったものの故に:

 

ein Wälsung wächst dir im Schooß!

あなたの体内にヴェルズングの命が宿っている!

 

Sieglinde

Rette mich, Kühne! Rette mein Kind!

助けて下さい、勇敢なお方!私の子供を助けて!

 

Schirmt mich, ihr Mädchen,

私を守って下さい、乙女達よ、

 

mit mächtigstem Schutz!

あなた方の持つ力を尽くして!

 

Waltraute

Der Sturm kommt heran!

嵐が来る!

 

Ortlinde

Flieh', wer ihn fürchtet!

彼を恐れる者は逃げて!

 

6人のワレキューレ達

Fort mit dem Weibe, droht ihm Gefahr:

彼女を逃がして、危険が迫っている:

 

der Walküren keine wag' ihren Schutz!

ワレキューレの力では彼女を守れない!

 

Sieglinde

Rette mich, Maid! rette die Mutter!

助けて下さい、乙女よ!母を助けて!

 

Brünnhilde

So fliehe denn eilig, und fliehe allein!

では、急いでお逃げなさい、一人だけで!

 

ich bleibe zurück, biete mich Wotans Rache:

私は残り、ヴォータンの報復を引き受けましょう:

 

an mir zög'r ich den Zürnenden hier,

私が彼の怒りを受け止めている間に、

 

während du seinem Rasen entrinnst.

あなたは彼の報復からお逃げなさい。

 

Sieglinde

Wohin soll ich mich wenden?

どこに逃げれば良いのでしょう?

 

Brünnhilde

Wer von euch Schwestern

姉妹達よ、あなた方の中で

 

schweifte nach Osten?

東へ行った人はいる?

 

Siegrune

Nach Osten weithin dehnt sich ein Wald:

森は東の奥深くまで広がっている:

 

der Niblungen Hort

ニーベルングの巣窟があるわ

 

entführte Fafner dorthin.

ファフナーがそこで奪った宝を守っている。

 

Schwertleite

Wurmes-Gestalt schuf sich der Wilde:

恐ろしい竜が棲みついている所、

 

in einer Höhle hütet er Alberichs Reif!

洞窟でアルベリヒの指輪を守っている!

 

Grimgerde

Nicht geheu'r ist's dort für ein hülflos Weib.

あそこは無力な女が住むところではない。

 

Brünnhilde

Und doch vor Wotans Wuth

だけれど、ヴォータンの怒りから

 

schützt sie sicher der Wald:

安全に身を守れるのは森だわ:

 

ihn scheut' der Mächt'ge, und meidet den Ort.

強力な力を持つ神でさえ近づかず、避ける所よ。

 

Waltraute

Furchtbar fährt dort Wotan zum Fels!

怒り狂ったヴォータンがこの岩山にやってくる!

 

6人のワレキューレ達

Brünnhilde, hör' seines Nahens Gebraus!

ブリュンヒルデ、ヴォータンが嵐の様に近づいているのが聞こえる!

 

Brünnhilde

Fort denn eile, nach Osten gewandt!

急いで逃げなさい、東に急いで!

 

Muthigen Trotzes ertrag' alle Müh'n,

勇気をだしてあらゆる労苦に耐えるのよ、

 

Hunger und Durst, Dorn und Gestein;

飢えと渇き、荊のとげとごつごつした岩;

 

lache, ob Noth, ob Leiden dich nagt!

笑うのよ!どんな苦難があろうと、苦痛に苛まれても

 

Denn Eines wiss' und wahr' es immer:

なぜなら、本当のことを知っているから:

 

den hehrsten Helden der Welt hegst du,

あなたは世界で最も栄誉ある英雄を

 

o Weib, im schirmenden Schooß!

おお、あなたは、身ごもっています!

 

Verwahr' ihm die starken Schwertes Stücken;

この砕けた剣を彼の為に取っておきなさい:

 

seines Vaters Walstatt

彼の父が屠られた地より

 

entführt ich sie glücklich:

私が彼のために拾い集めたのです:

 

der neugefügt das Schwert einst schwingt,

再び鍛え上げられたこの剣を振るう者、

 

den Namen nehm' er von mir—

私はその者をこう名付けようー

 

Siegfried erfreu' sich des Siegs!

ジークフリート、勝利に輝く者!

 

Sieglinde

O hehrstes Wunder! Herrlichste Maid!

ああ何という崇高な奇跡!至高の乙女よ!

 

Dir Treuen dank' ich heiligen Trost!

あなたの誠実さ、聖なる安らぎに感謝いたします!

 

Für ihn, den wir liebten, rett' ich das Liebste:

私達が愛したあの人のために,私は愛する者を守ります:

 

meines Dankes Lohn lache dir einst!

私の感謝の念によってあなたが報われますように!

 

Lebe wohl! dich segnet Sieglindes Weh'!

さようなら!ジークリンデの苦しみがあなたを祝福しますように!

 


 

一方、現れたヴォータンはブリュンヒルデに「神性を剥奪しこの山で無防備のまま眠りにつき通りかかった男の妻となる。」と告げる。ヴォータンの怒りの激しさに他のワレキューレ達は逃げ出す。

 

ヴォータンと二人きりになり、ブリュンヒルデは「父の本当の願いに従った」と反論するがヴォータンは許さない。彼女は「せめて恐れを知らない自由な英雄が自分を見つけるよう私の廻りを炎で囲んで欲しい」と懇願する。

 

ヴォータンは感動しその願いを聞き入れ、彼女への愛を語り彼女にキスして神性を奪い魔法の眠りに就かせる。

「ヴォータンの告別」MET James Morris, Hildegard Behrens

Denn Einer nur freie die Braut,

なぜならばこの花嫁を解き放てるのは、

 

der freier als ich, der Gott!

神たる私よりも自由な者のみ!

 

Der Augen leuchtendes Paar,

お前の輝かしい目を、

 

das oft ich lächelnd gekos't,

私はいつも微笑みつつ愛撫した、

 

wenn Kampfeslust ein Kuß dir lohnte,

お前の戦功がキスにふさわしい時に、

 

wenn kindisch lallend der Helden Lob

子供の時片言で英雄達を褒め讃える言葉が

 

von holden Lippen dir floß:

お前の愛らしい唇からあふれ出る時に、

 

dieser Augen strahlendes Paar,

このきらきら光る目は、

 

das oft im Sturm mir geglänzt,

嵐の中で幾度も私に輝きかけた、

 

wenn Hoffnungssehnen das Herz mir sengte, nach Weltenwonne mein Wunsch verlangte aus wild webendem Bangen:

荒波のように押し寄せる不安を越え我が欲する喜ばしい世界が来ると思えた後に、我が切なる願いが無に帰した時にも:

 

zum letzten Mal letz' es mich heut'

最後に今一度、今日

 

mit des Lebewohles letztem Kuß!

別れの最後のキスを!

 

Dem glücklichen Manne glänze sein Stern:

(お前を手に入れた) 幸せな男には幸せの星が瞬くだろうが:

 

dem unseligen Ew'gen

不運な不死の私に

 

muß es scheidend sich schließen.

幸せが来ることは永遠にない。

 

Denn so kehrt der Gott sich dir ab,

さあ、神はお前から奪う、

 

so küßt er die Gottheit von dir!

私のキスでお前から神性を(奪うのだ)!

 


 

ヴォータンはローゲを呼び出し彼の炎で彼女を囲ませる。ブリュンヒルデの眠りの動機がオーケストラによって演奏される中でヴォータンは来たるべき英雄ジークフリートの動機の旋律に載せて「我が槍の穂先を恐るる者、この炎を通り抜けることかなわず!」と定め、静かに去ってゆく。

「魔法の炎の音楽」バイロイト祝祭劇場 1976 Donald McIntyre, Gwyneth Jones 指揮:Pierre Boulez

Loge, hör'! Lausche hieher! 

ローゲ、聞け!ここにて聞け!

 

Wie zuerst ich dich fand, als feurige Glut, 

昔お前を見つけたとき、お前は燃える炎だった、

 

wie dann einst du mir schwandest, 

お前が私の前から消え去った時、

 

als schweifende Lohe; 

お前はさまよう炎だった;

 

wie ich dich band, bann ich dich heut'! 

以前私はお前を捕らえたが、今日再びお前を使おう!

 

Herauf, wabernde Lohe, 

現れよ、燃え立つ炎、

 

umlodre mir feurig den Fels! 

岩の廻りを激しい炎で囲め!

 

Loge! Loge! Hieher! 

ローゲ!ローゲ!現れよ!

  

Wer meines Speeres Spitze fürchtet, 

我が槍の穂先を恐るる者、

 

durchschreite das Feuer nie!

この炎を通り抜けることかなわず!

 


 

御参考までに:おたく記事

ワーグナーとトールキンが描く「二つの指輪世界」、R.ワーグナー作曲「ニーベルングの指輪」とJ.R.R.トールキン作「指輪物語」

(2020.03.20 wrote)  オペラ解説に戻る