J.D. フローレス曰く、
「一口にベルカントオペラといいますが、ロッシーニの作品はベッリーニやドニゼッティとは違ったスタイルを用いて書かれています。ロッシーニは彼以前の時代の歌唱テクニック、すなわちカストラートがコロラトゥーラや高音やトリルなどの超絶技術を競ったバロック時代のテクニック、を用いており彼の作品はベッリーニ、ドニゼッティのオペラと異なるユニークな一つのチャプターとなっています。」(1)
ロッシーニが生きていた当時、彼の作品は非常に人気がありました。しかしヴェルディやワーグナー等の作品が主流になるにつれてロッシーニは忘れ去られてゆきます。彼の作品も「セヴィリアの理髪師」が演奏される程度になり、アルマヴィーヴァ伯爵の最後の大アリアも「難しすぎるおまけ」として歌われなくなってしまいました。
そのような状況が変わったのはロッシーニ再評価の機運が高まり(ロッシーニルネッサンス)、フローレスやバルトリなどの天才歌手たちが出現してロッシーニ作品の素晴らしさを私達に再認識させてくれたからでしょう。
現在ではフローレス(「番外地 「J.D.フローレス」」)を始めカマレナ、オズボーン(番外地「ジョン・オズボーン」)、スパイアーズ(「番外地「マイケル・スパイアーズ」)など素晴らしい歌手たちが完璧な技術とハイレベルな歌唱でロッシーニを楽しませてくれています。
とはいえ、ロッシーニ作品を歌うのに必須なコロラトゥーラや高音やトリルなどの超絶技術は誰もが使いこなせるものではありません。特にテノールにとってロッシーニは難関です。しかし最近はこのようなロッシーニを歌いこなせる次世代テノールがどんどん出現してくるようになりました。
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ミケーレ・アンジェリーニ (Michele Angelini)
イタリア系アメリカ人。ニューヨークロングアイランド生まれでおそらく40歳前後くらい。映画「アマデウス」を見てオペラが好きになったそうで、若い頃はヴィオレッタ、アイーダ、ブリュンヒルデ、夜の女王などを(多分ソプラノの録音と) 一緒に! 歌っていたそうです(2)。
一方14歳過ぎからセミプロとしてファゴットを演奏しています。大学やジュリアードプレカレッジで歌とファゴットの両方を学び、歌とファゴット両方の学位を持っています。しかし、最終的に歌を選びました(2)。
彼はMETで7年間「連帯の娘」「アルミーダ」「湖上の美人」「セヴィリアの理髪師」などのカバーをしていたそうです。もちろんフローレスのカバーもしています。それにも関わらず舞台リハーサルを含めMETの舞台で歌う機会はなく、2016年にやっとMETデビューしたそうです(3)。
彼は「ベルカントは単なる作曲スタイルではなく哲学であり、今日誰もが考えているように速い音符を歌うだけではなくレガートを歌うことである」と語っています(2)。
今年2023年1月の終わり (もうすぐです) に彼は「ベルカント オペラフェスティバル イン ジャパン2022」の公演、ロッシーニ作曲「オテロ」にロドリーゴ役で来日します。 私はまだ実声を聴いたことがないのでどんな声でどのような歌を聞かせてくれるのかちょっと楽しみ。ちなみにこの公演の主役オテロ役はジョン・オズボーンでこちらはもうステータスが確立している方 (参考:番外地「ジョン・オズボーン」)。
追記:聴きました。素晴らしいロッシーニ歌手です。技術・歌唱とも文句なし。背もあるしスタイルもいい。
Xabier Anduaga ( シャビエル・アンデュアガ)
Angelini より名が知られているテノールかもしれません。
1995年スペイン生まれ、現在27−8歳です。若い!お父さんが音楽家で小さな時から児童合唱団で歌っていましたが次第に合唱団や教会でソロを歌うようになりました(4)。2016年(21歳くらい)にはロッシーニオペラフェスティバル、アカデミア・ロッシニアーナの一員に抜擢され、ペーザロで「チェネレントラ」のラミロを歌っています(5)。
そして2019年、24歳でオペラリア優勝。これで一気に有名になりました。
彼はモーツアルトにも興味があり「コジ・ファン・トゥッテ」や「魔笛」などの準備を進めているそうです(4)
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両人とも軽く柔らかい声をもつテノールで技術は十分。そりゃ歌の上手さではフロレス、オズボーン、スパイアーズなどの先輩達が一枚ウワテですが、次世代の彼らのこれからが楽しみです。
ちなみにロッシーニを歌う上手い若手テノールは彼ら以外にもいますがとりあえず今回は2人だけ。
(1)「セヴィリアの理髪師」入門マチネでのフローレスのトーク
(2) Opera Warhorses 2021.5.22 “Bel Canto in Troubled Times: A Conversation with lyric tenor Michele Angelini, Part One”
(3) Operawire 2017.2.1 “Insatiable Curiosity – How Opera Turned Into A Life-Long Obsession For Tenor Michele Angelini [Exclusive]”
(4) Codalario.com 2018.12.3 “XABIER ANDUAGA, TENOR: «CUANDO ESTUDIO UN PAPEL, ALBERTO ZEDDA SIEMPRE ESTÁ PRESENTE»”
(5) Operawire 2019.11.18 “Artist of the Week: Xabier Anduaga”
(2023.1.13 wrote) 番外地に戻る