「愛の妙薬」 ウイーン 、ウイーン国立歌劇場 2023.10.26公演

ドニゼッッティ作曲の「愛の妙薬」は田舎の若い男女の恋愛によくわからん軍曹と怪しげな薬売りが絡む喜劇です。オットー・シェンクによる昔っからの演出は特筆するようなすごい場面はないけれど、ほのぼのとしていて安心して見ていられる良さがあります。

 

今回の主役はアディーナ役が Kristina Mkhitaryan、ネモリーノ役がBogdan Volkovという私が全く知らない若手でした。どうせ大したことはないだろう、と気軽に見にゆきましたが、これが良かったのです。

 

 Kristina MkhitaryanとBogdan Volkovは両者とも明るくリリックな声質でしたが素晴らしくよく響き、技術的にも高度でしかも安定していて、聴いていて気持ちがよかったです。特にBogdan Volkovが歌った「人知れぬ涙」は絶品で、恋する思いをレガートで大きな弧を描きながら叙情豊かに歌っていました。間(休符)の取り方が絶妙で非常にうまかった!そういえばBogdan Volkovは「三部作」の「ジャンニ・スキッキ」のリヌッチョも歌っていました。

 

しかしなんと言っても存在感があったのはドゥルカマーラを演じるブリン・ターフェル。この役はもう手慣れたもので、自由自在に歌い演じていました。最後の場面では胡散臭い安ワインをプロンプターにも売りつけて笑いを取っていました。

 

観客も舞台に引き込まれていて、アディーナがついにネモリーノにキスをする場面では大きな拍手で彼らを祝福し、喜びを共に分かち合っていたのが印象的でした。

 

蛇足ながら、10月26日はオーストリアの建国記念日でした。王宮の広場には市民達や兵隊さんがワンサカ。様々な種類の戦車や装甲車等(レオパルト2も出てました)が所狭しと並べられ、子供達が珍しげに戦車の中を出たり入ったりしています。その脇で軍楽隊がラデツキー行進曲を演奏してましたが、さすがウイーンの軍楽隊!とても上手だったです。

 

(2023.11.3 wrote) 鑑賞記に戻る


 「オテロ」 ウイーン、ウイーン国立歌劇場 2023.10.25公演

以前バイエルン歌劇場で聴いた「オテロ」(カウフマン・ハルテロス・フィンリー)の演出はヴェルディの意図を全く無視し演出者の価値観を押し出していたため、音楽と演出が乖離し違和感満載で私は欲求不満になっていました。

 

今回は台本の時代設定とは異なるけれど音楽と乖離しない演出で、ごく普通に観ることができました。今回はカウフマンとテジエの組み合わせなのも嬉しい。

 

出だしの嵐の場面は前日の「影の無い女」と十二分に張り合えるほどの迫力のオーケストラ演奏でした。舞台に船の姿はなかったけれど中央に張り巡らされた帆(?)が大きく揺れるように見え光が交錯して緊張感のある良い演出でした。

 

で、現れたオテロは白い衣装に赤いサッシュを巻いており、周りの暗い色調の民衆の中で非常に目立ちます。オテロの第一声 “Esultate!” は良かったです。ほっとしました。

 

カウフマンは昨年の終わりくらいからずっと調子を崩していましたが、7月の頃だったかこの不調の原因が多剤耐性菌の感染だということがわかり治療しました。しかし今度はこの治療の副作用で再び歌えなくなりキャンセルが続きました。そのような状態からやっと抜け出て3ヶ月くらいたった今回の公演です。

 

私見ですが、カウフマンの息の長さは復活し、声の不安定さも無くなりました。ただ彼が絶好調な時に感じられる耳にピリピリくるような輝かしい共鳴はあまり聞こえなかったかな。ただ今回の状態ならば復調したと言って良いと思いました。

 

特に楽しみにしていたテジエとの「復讐の二重唱」。重量感のある二人の声が競い合い、溶け合い、迫力満点でこれは聴けてラッキーだったと思いました。カウフマンとテジエの声質は似ているので特に綺麗な二重唱になりますね。この公演の中で最高の場面であったと思います。当然ブラボーがかかりました。

 

リュドヴィク・テジエは今回絶好調。群衆のコーラスの中にあってさえ彼の声がはっきりと聞こえます。オテロにまとわりつき、嘘を吹き込み、オテロを精神的に追い詰めてゆくいやらしさ満点で、演技も絶好調。特に彼の「クレド」は素晴らしく、歌い終わった途端に満場の大喝采でした。

 

レイチェル・ウィリス=ソーレンセンも響きの付いたよく通る声でオテロと張り合っていました。良かったと感じたのは終幕での「柳の歌」と「アヴェマリア」です。来るべき悲劇を感じさせる「柳の歌」とデズデモナの無心の祈り「アヴェマリア」は印象的で美しかったです。

 

ただ一言言わずにはいられないのがソーレンセンの体格です。カウフマンやテジエより背が高く、頭と体の体積はそれぞれカウフマンの1.2倍はあろうかと思われます。しかも彼女は非常にガッチリとした体格で、ちっとやそっとでは倒れそうに無い。

 

彼女を張り倒す場面や締め殺す場面もオテロの方が分が悪そうに見えてしかたがなかった。芝居上手なカウフマンなのですがこれらの場面ではイマイチ迫力がなかったです。

 

あと代役として登場したカッシオ役のBekhzod Davronovは響きの付いた美しい声で、将来楽しみなテノールだと思いました。

 

余計なことながら、前方のボックス席にアンナ・ネトレプコ御夫妻が座って公演の前半を鑑賞しておられました。御夫妻は現在「マノン・レスコー」に出演中です。 (2023.11.2 wrote) 鑑賞記に戻る


「影の無い女」 ウイーン 、ウイーン国立歌劇場 2023.10.24公演

Andreas Schager, Elza van den Heever, Tanja Ariane Baumgartner, Tomasz Konieczny (Michael Volleの代役), Elena Pankratova、、、素晴らしく豪華なキャスト達です!・・・・が、歌劇場が暗くなり指揮者のChristian Thielemannが入ってくるなりすごい拍手喝采。ううむ、これはオペラより指揮者目当ての観客が多いかもしれない。聞いてはいたがThielemann人気は強烈です。

 

まずは皇帝役Andreas Schagerの巨声に驚かされました。大きいだけではなく非常に強い響きが付いていて歌劇場の中に響き渡ります。ただ音楽の作り方は大雑把のように思えました。皇后役のElza van den Heeverは表情豊か、高音も輝かしく、強く劇的に歌うことができるソプラノだと思いました。私的には今回のキャストの中で一番良かったかな。

 

一方乳母役のTanja Ariane Baumgartnerは高音張り上げ系のメゾ、しかも割れて聞こえる高音なので私があまり好かないタイプです。バラクの妻役Elena Pankratovaは時々高音が割れることはあるけれど全体的には美しく歌っていたと思います。バラク役はTomasz Konieczny。この方は代役でしたが芝居も上手だし、上手く歌っていました。

 

今回歌った上記の歌手達はすべて巨声系でウイーン歌劇場が狭いと思われるほどに声がガンガン響き渡っていました。対するオーケストラも思いっきりフォルテで演奏し、声とオーケストラが協調するというよりも、むしろお互いを凌駕しようと競い合っている感じでした。言ってみればpp〜ffで演奏するのではなくff〜ffff、すなわち慢性フォルテで演奏しているようなものです。

 

最後のカーテンコールはものすごい拍手喝采で観客が興奮し熱狂していたのが見て取れました。この公演はまさにThielemannのためにあったようなものだ・・・・

 

で、私はどうかというと、この公演は全く面白くなかったです。まるでロックミュージックを最大ボリュームで3時間半(休憩除く)強制的に聞かされているようなもので、感想は一言。うるさい! 

 

もちろんこのオペラの中には大音響で演奏することが必要な場面がいくつもありますが、のべつまくなしのff〜ffffは疲れます。大音量の音の洪水に陶酔できる観客にとっては素晴らしい公演だったでしょうが、私は最初の1幕でこの音の洪水(または歌手とオーケストラの戦い)にゲンナリ状態。

 

このようなffff世界で最後まで歌い切る歌手達はすごいし、実際素晴らしかったと思います。またオーケストラも上手かったとは思いますが、うるささに辟易して私は歌手も音楽も全く楽しめませんでした。やれやれ、私にとって最初の生Thielemannでしたが、この公演ですっかりThielemann嫌いになりそうです。Thielemann嫌いなオペラ愛好家なんて少数でしょうが。

(2023.11.01 wrote) 鑑賞記に戻る


「三部作」ウイーン、ウイーン国立歌劇場 2023.10.23公演

外套: Leonardo Neiva (Michael Volleの代役), Anja Kampe, Joshua Guerrero 

修道女アンジェリカ: Elenora Buratto, Michaelea Schuster

ジャンニ・スキッキ: Ambrogio Maestri、Michaelea Schuster, Bogdan Volkov

 

「外套」

この「三部作」はつい先月ウイーン歌劇場からストリーミングされています。ですので演出とほとんどのキャストは同じ。私が最も気になっていた歌手はザルツブルク音楽祭の「外套」でもルイージを歌っていたJoshua Guerrero(ゲレロって覚えやすい名前です)。

 

当節希少品種のリリコ・スピント系テノールで、Freddie De TommasoやBrian Jagdeと並んで人気上昇中。テノールにしては上背があるし、芝居もそこそこ上手く強く滑らかな声で高音も難なく出していました。

 

今回の演出では舞台上に大道具がほぼなく、歌手の力量でオペラを作ってゆく感じでした。ジョルジェッタ役のAnja Kampeはまあまあ(私は彼女の高音張り上げ系の発声を好まないのです)。ミケーレ役はVolleの代役Leonardo Neiva。美声のバリトンでしたが、ミケーレのアリア "Nulla!...Silenzio!" はドスが効いておらず迫力なし。

 

「修道女アンジェリカ」

主役のElenora Burattoが歌も芝居も上手だったです。決して潰れない柔らかい声で、高音も滑らかに美しく、聞いていて気持ちの良い声でした。アンジェリカの子供に会いたいと願う思い、子供が死んだと聞いた時の絶望感などがひしひしと伝わってきました。

 

特筆すべきは彼女の叔母の侯爵夫人を演じたMichaela Schuster。高貴な家系の名誉を守るという価値観にガッチリと縛られてはいるが、心の奥ではアンジェリカを哀れに思っている、というキャラクターを見事なまでに演じていました。上手い!

 

ふと思い出したのはつい最近見た新国立での「修道女アンジェリカ」。今回の公演と比べると、演技のレベルが大人(プロ)と子供(学芸会)の差だなあ、と思います。日本人歌手の圧倒的な芝居下手は残念としか言いようがないです。

 

「ジャンニ・スキッキ」

今回の演出ではカーニバルの日の出来事と設定されています。ですから出てくる人々が皆んなけったいな扮装をしているわけです。字幕の説明ではファシズムの時代となっていますがファシズムの時代とは全く関係ない舞台で、しかもその時代にはありえない小道具が出てきます。ちょっと目には面白いですが、割といい加減な演出です。

 

主役のAmbrogio Maestriは体も巨大だが声もガンガン響きます。彼が圧倒的な存在感で舞台を支配していました。ブオーゾの遺産を狙う親族の欲望を利用してブオーゾの財産の本体を奪ってしまうジャンニ・スキッキ。彼の狡猾だが憎めない人物を実に上手い演技と様々な声色(こわいろ)で描き出し、観客を「もう笑うっきゃ無い」という心境にさせてしまいます。

 

このオペラでも「修道女アンジェリカ」で出演していたMichaela Schusterが光ってました。こちらでは強欲な婆さんに変身しています。その強欲さ振りが面白い。また「外套」で出演していた脇役も異なるキャラクターを演じていてそのキャラクターの変容振りが楽しかったです。(2023.10.31 wrote) 鑑賞記に戻る


「椿姫」ローマ歌劇場来日公演 東京文化会館 2023.9.16公演

今回の公演で一番聴きたいと思っていたのはバリトンのアマルトブシン・エンクバートでした。彼はオペラ界でも超レアなモンゴル人。1986年生まれの37歳。2012年オペラリア、 2015年 のBBCカーディフのコンペティションに入賞。ROHやウイーン歌劇場などで歌っています。最近めきめきと人気上昇中。

 

まだ若いのでジェルモンパパを歌うのはちょっと難しいかなあ?と、聴き始めたのですが、これがびっくり。滑らかで、厚みがあって深々とした声、素晴らしい響きです。「プロヴァンスの海と陸」をこれほど情感深く歌い上げられるのを聴いたのは久しぶりでした。

 

彼はまた大きな声の持ち主で、彼の詠唱が文化会館の客席全体に朗々と響き渡っていました。彼が「真のヴェルディバリトン」と絶賛されているのも宜なるかな。彼の声質は故ディミトリ・ホヴォロストフスキーと似ている様に思えます。カーテンコールで彼が前に進み出ると、会場からどっと大きな歓声がわき上がりました。

 

リゼット・オロペーサは予想通り素晴らしかったです。様々に変化するヴィオレッタの心情を的確に表現していて、例えば、、、

 

第1幕では初めて愛を知った不安と心のときめきを華やかで難しいコロラトゥーラで歌いあげます。第2幕でのジェルモンパパとのやりとりは緊迫感に満ち、事情を知らないアルフレードへの別れの言葉として"Amami Alfredo, amami quant’io t’amo!” 「アルフレード私を愛して、私があなたを愛するほどに」とドラマティックに絶唱。第3幕では一人淋しく死んで行く「道を踏み外した女(ラ・トラヴィアータ)」の孤独感と絶望感が感じられました。

 

彼女の声質はベッリーニやドニゼッティのオペラにぴったり。密度が濃く、張りがある声で、むらのないアジリタも自然に流れます。

 

既に何回も公演を聴いているフランチェスコ・メーリ。彼は声の安定した上手いテノールですが、今回は絶好調という感じではなかったです。

 

全体的に言うと第1幕はやや平板に聞こえましたが、第2幕はドラマチックな緊張感が盛り上がり、第3幕は引きこまれました。よい公演だったと思います。

 

ちなみにジェルモンパパが「プロバンスの海と陸」を歌った後幕切れまでのジェルモン父子の会話に私が聞き慣れないフレーズが含まれていたような気がします。普段は省略されることが多い部分を今回省略無しで歌ったのでしょうか?ご存じの方がおられましたら教えていただけるとありがたいです。

 

補足:このサイトの「番外地」にリゼット・オロペーザフランチェスコ・メーリの紹介があります。(2023.9.17 wrote) 鑑賞記に戻る


フランチェスコ・メーリ コンサート 東京オペラシティコンサートホール 2023.6.28公演

いや、満足です。メーリの肉声は数回聞いていますが、いつも安定感があり気持ち良い気分にさせてくれます。比較的安席で舞台から遠い場所に座っていた私にも彼の声の響きが十分に伝わってきました。

 

ちなみに、このコンサートホールは声を聴くには良いホールだと思います。むしろ、世界的に有名なサントリーホールより良いかも。サントリーホールはオーケストラにとっては良いかもしれない。しかし声の場合、特に大声を張り上げることの無い微妙な表現が中心のリート等は、音が拡散して場所によっては(特に後方) 声が聞きづらくなります。

 

今回のコンサート、前半はフランス、後半はヴェルディを中心としたイタリアオペラでした。途中で挟まれるオーケストラ曲も「タイス」の瞑想曲、「カルメン」第3幕の前奏曲、「運命の力」序曲等 割りとよく知られた曲で雰囲気を盛り上げるのに役立っていました。

 

前半で皆様に受けていたのは「ル・シッド」の英雄的な「おお、裁きの主」や「カルメン」の「花の歌」でしたが、私はラロ「イスの王様」の「愛しい人よ」が好きです。短い軽やかな愛の歌ですが、一オクターブ跳躍して高音B♭に柔らかく飛ぶ難しい箇所もきれいなピアニシモで歌い、愛する青年の暖かで優しい気持ちを表しているようでした。

 

後半は「運命の力」が良かったです。彼がスピントテノールの役アルヴァロを歌うのを初めて聴きましたがなかなかに充実した声で無理なく歌っていました。

 

次に「フェドーラ」から「愛さずにはいられない」を歌いました。わずか19小節の短いアリアですがとてもエモーショナルに美しく歌いあげました。

 

最後は「オテロ」から「神よ、あなたは私にあらゆる不幸を与えた」。このアリアを彼が歌うようになったのですね。うまく歌えていましたが、彼にしてはまだ早いかなあ。中低音の充実が今ひとつかな、と感じられました。

 

アンコールは「愛の妙薬、人しれぬ涙」「トスカ、星は光りぬ」「朝の歌(レオンカヴァッロ)」と、これも皆がよく知っている演目で聴衆も大いに盛り上がりました。 

 

最後に一言。コンサートドアーズの席の売り方が酷い。ネットでチェックすると「売れちゃってあまり選択の余地が無いな」という感じなのに、実際私の周りの席はガラガラ。  (2023.6.29 wrote) 鑑賞記に戻る


「リゴレット」 新国立劇場 2023.5.25公演

新制作の「リゴレット」。オペラの内容に逆らわない素直な演出で衣装も凝っていて、iltrovatore的には好印象。

 

ジルダを演じたハスミック・トロシャンが非常に良かったです。非常に美しい声で、コロラトゥーラは上行及び下降フレーズとも自由自在でなめらか。高度な歌唱技術を持っている方です。密度の濃い素晴らしいピアニッシモをうまく使ってエモーショナルな表現が素晴らしい。

 

マントヴァ公爵を演じたイヴァン・アヨン・リヴァスは明るくリリックな声をした美声テノール。今回は彼の能力の限度いっぱい頑張りましたというように聞こえました。反対に言うと一生懸命過ぎて歌が単調になったのか、「歌が大きな弧を描く」という感じがしませんでした。しかし可能性のある若手テノールだと感じられました。

 

主役リゴレットを歌ったロベルト・フロンターリ。私は2018年にウイーン歌劇場の「アンドレア・シェニエ」でジェラードを歌っている彼を聴いています。彼に対する印象はその時と今回でほぼ同じ。とても良い声で理知的に朗々と歌い上げ、文句のつけようがありません。しかしドラマティックというか、エモーショナルというか、感情の爆発、等という劇的な感情の変化はあまり感じられないです。

 

総じて見ると今回は歌手のレベルも高く舞台・演出も好印象なのですがドラマティックな盛り上がりに欠け、なんとなくオペラの進行が平板だった気がします。ただし、この印象は私の個人的な好みによるものかもしれません。

 

脇役の日本人ソロ歌手たち。全体に良い声で歌っていましたが、主役に混じって歌うと声が通りません。特に重唱だと日本人歌手の声が凹んで聞こえます。「どうして日本人歌手はこんなに声が通らない (響かない) のだろう?」といつも思います。もっとも日本人だけで歌うオペラ公演ならばこのような欠点は見えて来ないでしょうが。

 

最後に一言。「(オリジナルの楽譜に指定されている)音が出せないのかな?」などと穿った考えを聴衆に抱かせる1オクターブ上げはあまり格好良くありません。

 

(2023.5.26 wrote) 鑑賞記に戻る


「トスカ」演奏会方式 東京文化会館 2023.4.13公演


今回はオーケストラが素晴らしかったです。スカルピアを表す前奏からして迫力がありましたし、オペラ全体をエモーショナルに、しかしエモーショナルに流されること無く、表情豊かにスケール感のある演奏をしていました。読売日本交響楽団と指揮のフレデリック・シャスランに感謝!

 

主役のクラッシミラ・ストヤノヴァは凛とした気品漂う「薔薇の騎士」のマーシャリンがぴったりの方です。彼女の声は大声というわけではないのですが、響きが実に、実に、美しい。歳を感じさせない充実した歌唱でした。

 

今回の演奏会の本命はなんと言ってもブリン・ターフェルでしょう。スカルピア男爵が初めて登場する場面でオーケストラは思いっきり威圧的に演奏してこの男爵の圧倒的な恐ろしさを伝えます。この音楽に乗って登場したターフェルは他の歌手達を圧する大きさで存在感抜群。テ・デウムも迫力充分でした。

 

ストヤノヴァとターフェルはごく一部を除き楽譜なしで歌っていました。なので歌も演技も自然でこなれておりセミステージ風。第2幕、スカルピアとトスカが対峙する緊迫した場面はまるでオペラ舞台を見ているようでした。

 

カヴァラドッシ役のイヴァン・マグリは代役でした。そのためか楽譜ガン見で、演技する余裕は無いような印象をうけました。(余裕のストヤノヴァが彼に代わって彼の楽譜をめくる一場面あり)。歌い始めの「妙なる調和」は不安定で一体どうなっちゃうかと不安でしたがあとは持ち直しました。ベテランのストヤノヴァとターフェルを相手に歌うのは大変だったでしょうが、なんとか大過なく歌い終えたという感じでした。

 

脇役の日本人男性歌手達は歌も演技も頑張ってました。と書いて今更に気がついたのですが、このオペラは主役のトスカ以外のソロ歌手達は全部男性なのですね。

 

お客さんは6−7割入っているくらいだったか、非常にレベルの高い良い公演だったのにもったいない。

 

(2023.4.14 wrote)(鑑賞記に戻る)


「ブリン・ターフェル」Opera Night 東京文化会館 2023.4.5公演

 

サー・ブリン・ターフェルはバス・バリトン歌手。今回前半はワーグナーやヴェルディなどのバリトン及びバスの有名アリア、後半は主に彼が得意とするミュージカルの演目を歌いました。

 

まずはワーグナーのオペラで、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より「ザックスのモノログ」、「タンホイザー」より「夕星の歌」、「ワルキューレ」より「ヴォータンの告別から終幕まで」を歌いました。

 

特に「ワルキューレ」、ヴォータンが娘に対する愛情や己の無力さに対する苦い想いを込めて独白する場面は素晴らしくオーケストラの演奏も重厚。舞台背後もローゲの炎を連想させる赤い色に染まり、まるでオペラ舞台を見ているようで大いに満足しました。

 

後半の始めはヴェルディ「オテロ」イヤーゴの「クレド」、ヴァイル「三文オペラ」の「メッキー・メッサーのモリタート」、ボイート「メフィストフェレ」より「私は悪魔の精」(口笛のカンツォーネ)、といわゆるbad guy (悪者)のアリアが歌われました。最後の「私は悪魔の精」が上手かったかなあ。指笛も強く響いて印象的でした。

 

最後はお得意のミュージカル、「キャンディード」、「南太平洋」、と続きました。とはいえ、ターフェルの十八番「屋根の上のバイオリン弾き」「もしも金持ちだったなら」はやっぱり良いです。Iltrovatoreの希望としては彼に「Sweeny Todd」を演奏会方式 (+少々の演技付き)で歌ってもらいたい。彼のトッドは迫力満点の怖さです。

 

尚、本サイトの「番外地」にSir Brin Terfelに関する情報を記載してありますので興味のある方は御覧ください。

 

(2023.4.6 wrote) 鑑賞記に戻る


「トゥーランドット」(CD) 2023.3 


サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団の音楽監督を務めるサー・アントニオ・パッパーノはカウフマンと共に「アイーダ」(2015)と「オテロ」(2020)の全曲盤CDを出しています。今回のCD版「トゥーランドット」でもカウフマンがカラフを歌っています。

 

プッチーニはリューが死んだ後の場面を作曲しないまま亡くなり、残りの部分をフランコ・アルファーノが補筆しました。現在このオペラの上演には主として、補筆部分の3分の1位を削除した版とリューが死んだところで終わる版が使われています

 

しかし今回の録音では、ほとんど演奏されることのないアルファーノのオリジナル完全版が使用されています。「これは非常に豪華な104小節の音楽です。そしてトゥーランドットの心理をより良く説明しています」(1) とパッパーノは語っています。

ちなみに当サイトのオペラ解説「トゥーランドット」に補筆が大きく削除された経緯などを含めた解説が載っていますので興味のある方はご参照ください。

 

ラドヴァノフスキーは高難度のベルカントオペラからプッチーニまで歌いこなす高い技術力と強い喉を持ち、歌唱・演技力は万全のソプラノです。今回もスケールの大きな歌いぶりでトゥーランドットの心中に去来する様々な思いを歌で綴ってゆくように思えました。

 

彼女が歌う有名な第2幕の "In questa Reggia" (この宮殿の中で)(DISC1 ㉗ 「この宮殿に」)。ビリギット・ニルソンの鋭いナイフで切り裂くような歌い方が私の印象に残っています。一方ラドヴァノフスキーはドラマティックな歌い方ではあるもののニルソンよりきつさが少ないです。

 

もう一つ彼女の歌で素晴らしいと思ったのが、アルファーノの補筆部分第3幕2場、父親である皇帝に ”Il suo nome é Amor!” (彼の名は、愛!)と宣言する場面 (DISC2 ⑳ 「神聖なる父上よ」))。

 

父親に語りかける歌い始めは格段に優しく柔らかい。しかし “Il suo nome é Amor!” の ”Amor! “のハイbフラットを一旦ピアニシモに落とし、そこからググッとクレッシェンドしてフォルテシモで高らかに歌い上げます。その強い高音には新たに芽生えた強い愛への確信が感じ取れます。技術と歌唱力を駆使した歌いぶりには脱帽です。

 

カウフマンは第1幕で「泣くなリューよ」をなめらかに優しく歌います。第3幕の“誰も寝てはならぬ”も雄々しくて素晴らしかったけれど、彼の歌うこのアリアはリサイタル等で何度も聴いている (聴きすぎている) ので新たな感動なし。うん、まあこんなもんだろう。。(すいません)

 

二人の二重唱

 

一方第2幕でのソプラノとテノールが声を競い合う場面 (DISC1 ㉘ 「おう、王子よ!」)は緊張感があります。

 

トゥーランドットのアリア「この宮殿の中で」 に続くこの場面は彼女が ”Gli enigmi sono tre, la morte una!” (謎は三つ、死は一つ!) とカラフを脅し、カラフは “No, no! Gli enigmi sono tre, una è la vita!” (否、否、謎は三つ、生は一つ!) と対抗します。

 

更に二人はユニゾンでそれぞれの言葉を繰り返すのですが、最後の高音はフォルテシモでのハイC!テノールの最難関!ラドヴァノフスキーの声もすごかったけれど、それに対抗するカウフマンのハイCも素直に素晴らしかったです。

 

ラドヴァノフスキーは巨声なので一緒に二重唱を歌うテノールは大変だなあ、といつも思うのですが今回のアルファーノ補筆部分は更に大変!第3幕最後の部分(DISC2 ⑳ 「神聖なる父上よ」)にも恐ろしく大変そうなユニゾンでの2重唱がありました。

 

”Il suo nome é Amor!” (彼の名は、愛!) と宣言するトゥーランドットとカラフの二人は最後大合唱をバックに ユニゾンで ”Amore!” ”Eternità!” ”Amore!” ”Amore!”と 情熱を込めフォルテシモで歌うのですが、最高音がそれぞれハイA、ハイC、ハイBフラット、ハイBなのです。これがまた輝かしく堂々としていて感動的でした。

 

でもどんな歌手でも疲れてくるオペラの最終場面、しかもこのオペラは大音量で歌うところが多くてもともと大変なのにこのような難かしいフレーズを最後に歌わねばならぬテノールは可愛そう。半音下げもできないし。

 

ヤホとスパイアーズ

ヤホはいつもながらの得意な弱音を駆使して薄幸の(多分)美女リューを歌っています。リューはなんて可愛そうなんでしょう、と思わず共感、同情してしまう、引き込まれるような歌唱でした。

 

皇帝役のマイケル・スパイアーズ。彼は張りのある強く明るく若々しい声を持っていて、ベルカントの難曲からフィデリオやトリスタンまで歌える珍しいバリテノールです。録音時、パッパーノから「もう少し年老いた声で、マイケル!」という指示があったそうですが(1)、結果は私が聞く限り違和感を感じさせない皇帝でした。

 

全体的に聴いて満足なCDでした。アルファーノの補筆(完全版)は輝かしくてとても良かったと思います。これからもしばしば演奏して欲しいです。

 

なお当サイト「番外地」にサンドラ・ラドヴァノフスキーマイケル・スパイアーズの人物紹介があります。

 

(1) “Puccini’s Turandot: the inside story a major new studio recording”, Gramophone 2023 3.10

 

(2023.3.25 wrote) 鑑賞記に戻る


  ロッシーニ「オテロ」 テアトロ・ジーリオ・ショウワ 2023.1.22公演


ヴェルディの「オテロ」の場合重要人物はオテロとイアーゴでロデリーゴは脇役に過ぎません。しかしロッシーニの「オテロ」だとオテロ(テノール)とロドリーゴ(テノール)は対等に渡り合います。イアーゴもテノールですがこの2人より存在感が薄いです。

 

ロッシーニは下記の説明のようにオテロとロドリーゴの声質を使い分けています。

 

ロッシーニはBaritenor (特徴として下のオクターブが暗くて重く、上のオクターブが鳴り響くとともにコロラトゥーラを歌うのに十分な敏捷性がある) を高貴な、そしてたいていは年配の、主役を演じるのに使っていて、若くて衝動的な恋人たちを演じるテノーレ・ディ・グラツィアやテノーレ・コントラルティーノの高くて軽い声と対比させることが多い。 例えば、オテロ役はバリテノール、ロドリーゴ役はテノーレ・ディ・グラツィア用に書かれている。 (鑑賞記「Baritenor CD」より再掲)

 

今回の公演は上記の通りで、オテロ役ジョン・オズボーンの張りのある輝かしくも英雄的な声、ロドリーゴ役ミケーレ・アンジェリーニの柔らかくレガートな歌いぶりの対比が鮮やかでした。

 

とはいえイアーゴ役のアントニオ・マンドゥリッロも素晴らしいロッシーニテノールで、オズボーンとの二重唱ではどちらがどちらを歌っているのかわからないほどに力強い歌い方でした。

 

このオペラ全曲を聴くのは初めての私ですが、3人の上手さに脱帽です。文句なく素晴らしい。これらテノール歌手のうち一人でも下手だと著しく目立つし観客が白けてしまう危険が感じられ、「こりゃテノール泣かせのオペラだわい」とも思いました。

 

ちなみに、今回の公演に出演したテノール3人の技術力、歌唱力はいずれ劣らず最高級で、このようなハイクラスのテノールを3人も集めるのは世界的に見てもなかなか難しいのではなかろうか。

 

デズデモナ役のレオノール・ボニッジャは細い声でしたがよく響く美声の上に難しいアジリタや高音を難なくこなす技術力をもった魅力的なソプラノでした。

 

エミリアは日本人歌手に散見される「声が一旦後ろに引っ込んでから押しだされて出てくる」ような発声が時々あり、とても良い声を持っていらっしゃるのに残念という印象です。

 

舞台は超シンプルで歌手たちの衣装も派手さはなく抑えめのトーンでした。しかしロッシーニのオペラは超絶技巧を用いた声の競演と音楽を楽しむのが第一と考えますので、音楽を邪魔しないこのような地味な舞台は歓迎です。

 

一緒に行った友人が、「ロッシーニのオペラでテノールの競演というと『湖上の美人』がある」とつぶやいてました。そういえば何年か前のMET『湖上の美人』ではフローレスとオズボーンが華やかに競演していて、その録画を見て私はオズボーンという歌手を知ったのでありました。METではないがこちらの『湖上の美人』も彼らの競演として聴き応えがあります。

 

追記:当サイトの番外地でジョン・オズボーンミケーレ・アンジェリーニを紹介しています。 (2023.1.23 wrote) 鑑賞記に戻る


Jonas Kaufmann and Ludovic Tézier Festspielhaus Baden-Baden 2023.1.8公演


今回は鑑賞記というよりコンサート覚書です。幸運なことにAete Concertでストリーミング及びオンデマンドにしてくれたのでこの公演を観ることができました。一応Arte Concert で4月8日まで観られる予定です。

 

今回は人気のヨナス・カウフマン(K) とリュドヴィック・テジエ (T) の組み合わせでヴェルディ作品の2重唱とアリアを中心に歌いました。指揮はおなじみのJochen Rieder、オーケストラはDeutsche Radio Philharmonie Saarbrucken/Kaiseslauternです。

 

まずの印象として、テジエと並ぶとカウフマンが痩せて見える!次に二人の声はとても似ていることでしょうか。

 

プログラム

前半は「運命の力」でまとめられています。

 

序曲 (オーケストラ)

 

第3幕:Solenne in quest’ora (二重唱) 

瀕死のアルヴァロ(K)が小箱の鍵をカルロ(T)に渡し「小箱を守って(中を見ずに)焼いて欲しい」と頼むところ。

 

第3幕:Morir! Tremenda cosa (T)

上記の場から続く場面。カルロは訝しく思う。結局誓いを破り小箱を開けてアルヴァロが自らの復讐相手であることを悟り復讐に燃える。”Urna fatale del mio destino” (我が運命を決める箱)からテジエは朗々とうたっています。

 

第3幕:La vita è inferno all‘infelice (K)

幕が上がってすぐ。アルヴァロが自分の不運な身の上を嘆き、レオノーラを愛する想いを独白する。

 

レオノーラを追憶する場面、“O tu che seno agli angeli”(おお、天使たちの胸に抱かれた君よ)の柔らかいピアノで歌われるフレーズが美しい。

 

第4幕:Invano Alvaro ti celasti al mondo (二重唱)

カルロは修道院に身を隠すアルヴァロを探し出し、決闘を申し出る。アルヴァロは必死に許しを請うが聞き入れられずとうとう戦いを決意する。

 

我慢に我慢を重ねて許しを請うていたアルヴァロだが、誇りとする血統をムラート(混血)と罵られ頭にきて凶暴になるところまでの心の変化の表現が上手い。ふたりとも演技付きで歌ってくれるのでオペラを観ている気分になります。

 

歌われる二重唱やアリアのいくつかの対訳は、本サイトオペラ解説「運命の力」の中にあります。

 

後半

 

シシリアの晩鐘 序曲 (オーケストラ)

 

「ジョコンダ」より

 

第1幕:Enzo Grimaldi, Principe di Santafior (二重唱)

バルナバ(T)はエンツォ(K)が追放中の公爵であること、そしてエンツォが昔の恋人ラウラを愛していることを見抜く。狡猾な彼はエンツォを陰謀の罠にかける。

 

第3幕:時の踊り (オーケストラ)

あまり有名でないこのオペラで唯一非常に有名な音楽。きっと皆様もお聞きになったことがあるでしょう。

 

第2幕:Cielo e mar (K)

エンツォがラウラを想って歌うアリアで、テノールのコンサートなどでよく歌われる。

 

「オテロ」より

 

第2幕:Credo in un Dio crudel (T)

オテロを罠にかけ陥れようとするイアーゴは人間を嘲笑し己の醜い欲望を正当化する。バリトンの有名なアリア。テジエ絶好調!

 

第2幕:Tu? Indietro! (二重唱)

イアーゴ(T)はオテロ(K)にデズデモナの不貞を吹き込み始め、更にカッシオの夢という嘘話をオテロに話して彼を苦しめ煽る。イアーゴの話をすっかり信じ込んだオテロは怒りに任せデズデモナを殺そうと決意する。そしてオテロとイアーゴは復讐の二重唱を歌って2幕が終わる。

 

これは迫力満点。二人の演技も真に迫り、第2幕の終わりを劇的に歌い上げました。歌が終わった途端に観客の大歓声が上がりました。いやあ、感動的で良かったです。

 

イアーゴの「クレド」や復讐の二重唱の対訳の一部は本サイトのオペラ解説「オテロ」に出ています。

 

これで公演は終わり。あとはアンコールの二重唱2つ

 

「ボエーム」第4幕から:O Mimi, tu piu non

ロドルフォ(K)とマルチェロ(T)が去ってしまった恋人を想い感傷に浸っている場面。

 

「ドン・カルロ」第2幕より:Dio che nell‘alma infondere

いわゆる「友情の二重唱」。許されざる愛に苦しむドン・カルロ(K)をロドリーゴ(T)が励まし互いの友情を確かめ合う。このコンサートの最後には最適な二重唱で、歌い終わると観客のワーっという歓声で終了。この二重唱の対訳もオペラ解説「ドン・カルロ」にあります。

 

(2023.1.9 wrote) 鑑賞記に戻る


ベルリン・フィル ジルベスターコンサート Digital Concert Hall  2022.12.31公演


指揮:キリル・ペトレンコ、ソリスト:ヨナス・カウフマン

 

12月31日のコンサートがストリーミング配信され、日本の我々も見ることができました。しかも日本時間1月1日16:00からの再ストリーミング。年寄りにはありがたや。

 

ストリーミングの30分ほど前から時間つぶしのクイズやヨナス・カウフマンへのインタビューがあり、インタビューでカウフマンはペトレンコを大褒めしてました。iltrovatore的に言えばペトレンコがバイエルン歌劇場を去ってしまったのはなんとしても無念。。。。

 

さて肝心のコンサート、今回はイタリアオペラ、それもヴェリズモ的なオペラの序曲やアリアが多かったです。

 

最初はヴェルディ作曲「運命の力」序曲。ペトレンコが指揮するオーケストラを聴いていつもすごいと思うのは間の取り方や休符の扱いの上手さ。絶妙に設定された、微妙に長く感じるサイレントな瞬間が観客の意識を音楽に集中させ観客を音楽に引き込むのです。

 

そしてカウフマン登場。「運命の力」よりアルヴァーロのアリア「生きるということは不幸な者にとって地獄だ〜君は天使の胸に抱かれ」。いつもの太く暗めの高音が輝かしく、調子は良いと思いました。

 

次はザンドナーイの「ジュリエッタとロミオ」より「ジュリエッタ、私はロメオ」を歌いましたがこれは観客の反応イマイチだったかな。ほとんど上演されないオペラですから。

 

「ジュリエッタとロミオ」のからみで次はプロコフィエフのバレエ音楽「ロミオとジュリエット」より「ティボルトの死」。たしかに劇的ですがわたしゃ「騎士たちのダンス」を入れて欲しかった。

 

その後の「アンドレア・シェニエ」の「ある日、深く澄み渡った青い空に」と「カヴァレリア・ルスティカーナ」の「母さん、あの酒は強いね」はとても好評で大喝采。すでにもう何度も聴いている曲ですけど、やっぱりエモーショナルです。「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲も美しかったです。

 

次はオーケストラの演奏でニーノ・ロータ作曲の組曲「道」、チャイコフスキーの「イタリア奇想曲(イタリアンカプリッチョ)」、と続いて、カウフマンの最後はニーノ・ロータの有名な ”Parla piu piano” (映画ゴッドファーザーより)。カウフマンはオーケストラ後方のP席に向かって歌っていました。なかなかの配慮です。

 

最後にオーケストラのアンコールはショスタコーヴィッチの”Gadfly” 。

 

今回は鑑賞記というよりストリーミングのご報告と言ったところですね。(2023.1.2 wrote) 鑑賞記に戻る